第六十話 引き籠り
木戸孝允の出現、新政府軍の江戸進軍、西郷隆盛と会津
イギリスからの薬・・・二手に分けるべきか。どう分ける?
あれ以来、土方はどう動くべきか考えていた
山崎からの報告で大阪で別れた局長こと近藤も
江戸に向かっているとのことだった
土方「近藤さん・・・」
そんな土方の姿が屯所時代を思わせるのだった
原田「土方さんの顔見たか」
永倉「ああ、かなりキテるよな」
藤堂「なんかさ、屯所時代を思い出すんだけど」
沖田「また引き籠っちゃってるの?」
こうなると誰が何を言っても聞かない
食事も取らずに籠ることさえあるのだ
瑠璃「皆さん何の相談ですか?」
瑠璃と斎藤が夕餉の買い出しから戻ってきたのだ
原田「ん?ああ、土方さんの事だよ」
斎藤「土方さんがどうかしたのか」
沖田「また、一人でうんうん唸ってるんですよ」
瑠璃「唸ってる?」
原田たちから土方の事を聞いた瑠璃は何やら考えている
斎藤「何を考えている」
瑠璃「うーん、引き籠りを止める方法です」
沖田「ははっ、無理だよ。瑠璃は知らないかもしれないけど、梃子でも動かないし、怒鳴られて追い出されるのが関の山」
瑠璃「え、そんなに厄介なの?」
全員「・・・ああ」
瑠璃は自分が来る前の土方のそんな姿を知らない
知らないからこそ出来た行動なのかもしれない
瑠璃「ふうん、じゃあ当たって砕けてくるね」
原田「おいっ!」
怖気づく事もなく、土方の部屋に向かったのである
廊下から誰かが向かって来る気配がする
面倒臭え、今の土方にはその一言しか出てこない
瑠璃「土方さん?瑠璃ですけど入ってもいいですか?」
土方「悪いが後にしてくれ」
瑠璃「では失礼します」
なにっ!入って来やがった!
瑠璃「あの、どうして部屋に籠もりきりなんですか」
土方「・・・」
うわぁ、眉間!凄いことになってますけど大丈夫ですかっ!
一瞬こちらを見たかと思ったら、また机に向う
流石の土方も瑠璃には出て行けと怒鳴ることは出来なかった
代わりに、気配で訴えているのだ 出ていけ、と
瑠璃は大きなため息をついた
瑠璃「はぁ。困った兄上ですね」
土方「!?」
瑠璃は出て行くどころか、土方が座るすぐ後ろまでやって来た
そして、
ぼふっーーーーーーーーー。
(なんだと!)
瑠璃が土方の後ろから被さるように抱きついて来たのだ
予想を超えた瑠璃の行動に土方は筆を落とす
背に瑠璃の重みと温もりがある
じんわりと広がる安堵感
俺は何時だって一人で決め、一人で責任を背負って来た
近藤さんの為に、新選組の為になるのなら
俺一人が悪者に成ればいい
俺が鬼になれば、皆が笑っていられる、そう信じて此処まで来たんだ
近藤さんの新選組を継いだあの日もそう心に決めたんだ
なのに、何なんだよこれは
土方「瑠璃」
瑠璃「はい」
土方「お前は何時までそうしているつもりだ」
瑠璃「そうですねえ、一緒に散歩に出てくれるなら離れてあげてもいいですけど。江戸川から見える月が綺麗なんですって!一さんは山崎くんと用があるみたいで、総司はふざけてばかりで雰囲気出ないし、他の三人は月じゃなくてお姉さんばかり見ちゃうから」
土方「・・・」
瑠璃「一緒に行ってくれませんか?」
瑠璃が肩口から土方の顔を覗き込むようにして問う
ああ、こいつに敵うものなどこの世には居ない
まったく、とんでもない女が妹になったもんだ
土方は身体だけでなく、心までも解されていくような感覚に包まれた
土方「分かったよ、夕餉食い終わったら連れて行ってやるよ」
瑠璃「本当!嬉しい、夕餉の準備が終わったら呼びに来ますね」
土方「ああ」
瑠璃は笑顔で夕餉の準備に取り掛かった
夕餉の席に土方が現れた事に皆は驚きを隠せなかった
瑠璃はいったい、どう言って彼を説得したのか
総司ですら口をぽかんと開けている
しかも、土方が瑠璃を連れて散歩に出かけると言う
瑠璃「すみませんが、お片付けよろしくお願いします」
原田「あ、ああ任せとけ」
永倉「気をつけて、な」
そして二人が部屋から出て行った
藤堂「何が起きたんだ」
沖田「まさかの展開としか言いようがないんだけど」
山崎「土方さんも彼女には敵わなかったのでしょう」
斎藤「そのようだな」




