第五十九話 情報過多
二日後、土方らは坂本龍馬と木戸孝允(桂小五郎)の待つ寺に赴いた
人目を避ける為、早朝の密会だ
土方、原田、永倉、斎藤、沖田、藤堂、瑠璃そして山崎の八名
相手は坂本、木戸の二名である
坂本「あの時はえろう助かりました!」
土方「いや」
坂本「話は今から桂さんがしてくれるき、よう聞いて下さい」
皆は姿勢を正し、桂こと木戸に顔を向けた
木戸「まさかあなた方がかの有名な新選組になろうとは、時の流れは分からないものですね」
土方「まったくですな。が、それはお互い様でしょう」
木戸「ええ。では単刀直入にお話いたします。薩摩率いる新政府軍は二月半ばに江戸に入ります。勝海舟もそれに合わせて陸に上がると思います。このまま放っておけば、この江戸で戦争が起こるでしょう」
江戸で戦争など起こせば多大な被害が予想される
関係の無い者たちが巻き込まれるのは避けられない
木戸「私は薩摩の者と勝海舟と会合を持とうと思っています。江戸での戦争はどうしても避けなければならない。今や此処はこの国の中枢と言ってもいい。勝海舟もそれを望んているはずです。ただ、薩摩の考えが見えませんのでどうなるか」
土方「薩摩の人間は誰が来るんだ、西郷隆盛は居ないんだろ」
木戸「ええ、恐らく大久保利通かと」
土方「して、本来ならその場に居るはずの西郷隆盛は未だ不明のままという事ですか」
木戸「・・・」
木戸は振り返り、坂本の顔を見た
坂本「その事なんじゃが、あなた方に頼みたいことが有り申す」
土方「と、言いますと」
坂本「西郷さんは会津に身を置いとるんじゃなかろうかと思っちょる」
全員「会津!?」
土方「なぜ、そうお思いですか」
坂本「文の足跡をだどっちょたら送り元が若松城になっちょったがよ。飛脚に聞いたき、間違いはないと思うが。会津は幕府への忠義が強うて、わし等は入ることが出来ん。あなた方なら伝手があるんじゃなかろうかと思うての」
土方「会津か」
木戸「西郷さんは薩摩藩内部の機密を知っています。あの化物の事も。彼はあれの使用は激しく反対していましたから」
土方「大体は分かりました。が、こちらも裏付け無しでは動けませんので直ぐにという訳には」
木戸「はい、それは理解致します」
今後も密に連絡を取り合うことで、この場は終わった
西郷隆盛は何故、会津に。サキュバは絡んでいるのだろうか
原田「土方さん、どうする」
土方「此方の方も気になるしな」
永倉「分かれるか、江戸組と会津組に」
斎藤「・・・」
土方「少し時間をくれ」
沖田「遅くとも新政府軍到着までには決めないと」
藤堂「夢魔とかいう化物も絡んでるんだもんな」
土方「ああ」
瑠璃は考えていた、史実としてはこれこらどうなるのだったかと
恐らく勝海舟との話し合いで、江戸無血開城がなされるはず
一部の軍が上野で戦争を起こしたような?
それでも抵抗する旧幕府軍が徐々に北上していったんだった
山崎「関係するかまだ分かりませんが、イギリスから妙な薬が持ち込まれたと、商人の間で話題です」
瑠璃「薬?」
山崎「それは飲むものではなく嗅ぐものだとか」
瑠璃「それって!阿片じゃ」
斎藤「知っているのか」
瑠璃「はい、歴史上有名な話で清国はその薬の所為で国を奪われかけました」
土方「なんで薬で国が奪われるまでなるんだ」
瑠璃「阿片は人間を駄目にするんです。それを使うと幻想に包まれ快楽へ誘われます。薬が切れるとその作用で苦しみ、また欲する。次第に身体はボロボロになり廃人になります」
藤堂「なんだよそれ!」
原田「やっかいだな」
永倉「そんなもんが流行ったら異国の思うがままじゃねえか!」
沖田「まさかこれにサキュバが絡んだりしないよね」
土方「山崎、引き続きそいつを調べてくれ」
山崎「はい」
江戸に来て一度に色んな事が起き始めている
異国人まで関わってくるとなると、非常に厄介だ
土方「ちっ、振り回される訳にはいかねえ!」
土方の眉間の皺が一気に濃くなる
一つでも方向を間違えば、サキュバに辿り着けないだけでなく
この国が滅んてしまう可能性だってある
土方の背を冷たい汗が一筋流れた




