第五十八話 見つけました!龍馬さん
江戸に来てから七日が過ぎた
慶喜は鳥羽での戦の敗退を理由に水戸で謹慎している
彼はこの戦争には関わりたくないのだろう
逃げている駄目将軍に思われても仕方がないのだが
彼としては早く徳川の時代を終いにしたいのかもしれない
武士が偉そうに振舞う時代は終わった
士農工商という規律はもう継続できない
正式に開国してから異国の文化と技術に圧巻された
国の事を思へば幕府は終わらせるべきだと思ったに違いない
土方「新政府軍の動きが鈍いな」
斎藤「まだ、こちらに来て夢魔の噂もありません」
原田「今のところこっちも手詰まりだ」
永倉「だが、会津は幕府軍として戦う準備を進めているらしい。どっちにしろ、また戦争が始まるのは間違いねえ」
藤堂「当分様子見るしかないよな」
山崎「新政府軍の中心は薩摩藩と聞いています。それから…長州の木戸、桂小五郎を見かけた者がいました」
土方「桂小五郎か、そういや坂本龍馬はどうした」
山崎「恐らく江戸に入っているとは思うのですが、一度狙われた身ですから、簡単には姿は現さないかと」
全員「・・・」
その頃、沖田と瑠璃は町民に扮して町を散策していた
瑠璃「相変わらず人が多いよね」
沖田「まあね、一応ここがこの国の中心だからね」
瑠璃の着物さばきも随分慣れたものだ
今では一人で帯も締めるようになったのだ
理由は斎藤だ いくら兄弟とは言え他の男に着せてもらうなど
いい気はしないと落ち込んでいたからだ
沖田「今日も収穫なし、か。日も暮れるし戻ろうか」
瑠璃「そうだね、夜は冷えるし帰ろう」
二人が大通から人通りの少ない脇道に入った時だった
瑠璃「あれ?あそこの角を曲がった人って・・・」
沖田「ん?何、あそこがどうかしたの」
瑠璃「あのね、何処かで見たような後ろ姿だったんだけど」
沖田「・・・確かめるしかないでしょ」
瑠璃「うん」
瑠璃が見たという角までやってきた
其処は、左にしか道がない 更にその道を進む
石畳の階段があった 町の中にある為か細く急な階段だ
瑠璃と沖田は顔を見合わる 沖田が前を行く
登りつめたその先に合ったものは・・・寺だった
瑠璃「こんな所にお寺があったなんて」
沖田「なんか臭うよね」
こんな人の多い町中に寺がある
なのにあの脇道からここに来るまで、人一人ともすれ違うことなく辿り着いたのだから
瑠璃「やだ、何?」
沖田「・・・」
静かすぎる、風も音もない
写真の中に放り込まれたら、こんな感じなのかもしれない
瑠璃「なんか、変」
沖田「何も聞こえないのに、剣先がチラチラ見えるよね」
その時!
ザッッザー!
砂利を滑るような音と共に何かが襲ってきた
沖田と瑠璃は無駄のない動きでそれを避ける
一瞬、音が止まり聞こえてきたのは
男 「君たちは何者ですか?」
太くも細くもない、滑らかな声帯の持ち主はそう言った
沖田「それは此方の台詞ですよ」
男 「何故、此処が分かりました」
瑠璃「知った背中を見た気がしたので、その」
男は、はぁと溜息をついた
男 「北信一刀流ともあろう者が着けられてどうするんですか」
バツが悪そうに影から現れた男、それは
瑠璃「龍馬さん!!」
龍馬「おお!おんしら、瑠璃くんやったかの!久し振りじゃのう。江戸に来ちゅうがか!」
沖田「まさか坂本さんだったなんて、何してるんですか?」
龍馬はこの隠れ寺に潜み桂小五郎改め木戸孝允と新政府軍の動きを探っていたのだそうだ
瑠璃「そう言えば、先程の剣豪者が木戸さんですか!」
龍馬「桂さんに刀を握らせたら、大抵の者は勝てんき。しかし、さすが新選組じゃ!軽く躱すとはの」
木戸「なるほど、そうでしたか。君たちがあの新選組・・・」
沖田「それはそうと、西郷隆盛はどうなったんです。まだ、足取りは掴めないのですか?今の薩摩は例の件で暴走気味ですよ」
龍馬「なあ桂さん、彼らには話してもいいじゃろ?もう、わし等だけの力じゃあ到底敵わんき」
木戸「そうですね・・・」
二人の雰囲気からして不味い事が
起きようとしている事は間違いないだろう
西郷さん見つかったのかな?
それに、到底敵わんってどういうことだろう
木戸さんは長州藩でもかなり上の立場なはず
私たちは後日、改めて二人と会う事を約束した
そして帰り道
瑠璃「それにしても木戸さん強いよね?」
沖田「うん、あの桂小五郎だもんね」
瑠璃「知ってるの?」
沖田「知ってるも何も近藤さんが道場を開いていた時に、一度だけ彼に道場破りの相手を倒してもらったからね」
瑠璃「ええ!な、なんで!総司もそうだけど土方さんとか皆いたのに、何でわざわざ他所の人に頼むの!」
沖田「面倒臭いじゃない」
瑠璃「それだけ!?」
沖田「僕たち天然理心流は実践向きなんだよね、試合となると全くやる気が出ないって言うか、身体が動かないんだよね」
瑠璃「そんなものなの?」
よく分からないけれど、そうらしい
という事は、試合にも強くて実践にも強い桂小五郎って凄い!
あれ?逃げの小五郎って言われてなかったっけ
何にしろ史実は殆どが仮説?見たいなものだしね
「一さん、今帰りました」
「ああ、ご苦労だった」
未だに少し照れ気味な一さんが可愛らしい
言ったらきっと拗ねるので言いません
「瑠璃、その・・・今日も愛らしいな」
「なっ!!」
嘘でしょ、今、言いますか!
瑠璃は斎藤の不意打ち爆弾に当たり
口をあんぐり開けてその場から暫く動けなかった




