第五十五話 誠の御旗に誓って
井上さんの死は受け入れ難く
もっと早くに駆け付けていればという後悔の念が押し寄せる
でも、それは私が井上さんを知っていたから
井上さんと少なくとも苦楽を共にしたからだ
人の命の重みは同じ筈なのに、それが他人だったらどうだったのか
その人の物語を知っているか知らないかで
人は簡単に命の重みや儚さの比率が変わってしまう
私達が今、敵とし戦っている相手も同じ重みの命がある
半神人の私たちもそうだ
治癒と再生とは何に対してなのだろう…
斎藤「瑠璃、此処にいたのか」
瑠璃「一さん」
瑠璃は江戸に向かう軍艦の甲板からぼんやり海原を見ていた
斎藤「あまり長く居ると冷える」
瑠璃「はい、まだ、冬ですものね」
斎藤「何を考えていた」
瑠璃「人の…命、について少し」
斎藤「総司が心配していた、また一人で悩んでいると」
瑠璃「すみません、悲しいのは私だけじゃないのに」
斎藤「いや」
斎藤は瑠璃に問うこともなく、隣で同じ景色を眺める
自分たちは何と大きな使命を与えられたのだろうと
人でも神でもない得体の知れない力をある日、突然与えられた
瑠璃だけではない、皆が戸惑い行く先に不安を抱えているのだ
斎藤「そろそろ戻るか」
瑠璃「そうですね」
斎藤は瑠璃の手を取る
どれぐらい此処に居たのだろうか、氷のように冷え切っていた
斎藤「瑠璃、次からは俺を誘え。風に飛ばされて海にでも落ちたら敵わんからな」
瑠璃「ふふ、はい分かりました」
船を降りたら、もう悩むのはよそう
私たちにはやるべき事が沢山あるのだから
誠の為にを支えにして
まだ笑顔がぎこちないが、笑うという事は忘れていなかった
斎藤に手を引かれ大人しく戻る瑠璃の姿を仲間が見守る
原田「斎藤って、瑠璃の事よく分かってるよな」
土方「ああ、俺だったら抱えてでも連れ戻しただろうよ」
永倉「なんつうか、心で繋がってるんだよな」
藤堂「新八っさんに分かるのかよ」
永倉「おいっ!」
沖田「兄弟って時にやっかいだよね感情が先に立っちゃうから、他人の一くんに完敗」
近藤はあの後、京に残った新選組に宛て文を送った
最後の給金と一緒に新選組の解散を知らせる内容だった
山南と近藤もまたそれぞれの思う道を進みたいと別れ
どちらもこの船には乗らなった
再会を固く誓い、土方は彼らの背中を見送った
それを沖田らは遠くから見送ったのだ
それは近藤からの頼みでもあった
近藤「見送りはトシだけにしてくれないか」
沖田「どうしてですか!」
近藤「武士は泣いてはならんのだ、まあ散々涙を見せてしまっているが、最後くらいは武士らしく行かせてくれないか」
沖田「・・・」
原田「じゃあ、俺たちは先に船に乗ってるからよ。近藤さん次会う時を楽しみにしてるぜ」
永倉「元気でな」
藤堂「俺、頑張ります!」
斎藤「局長、我々はこれで失礼致します」
瑠璃「ありがう、ございました」
近藤の広く逞しい背中が遠くなる
こうして、土方率いる八名の新選組は大阪を立ったのだ
新選組は事実上解散した
しかし、近藤の誠の新選組は彼らが引き継ぐ
この誠の御旗に誓って
これで第一章、京都・大阪編を完結致します。
第二章からは江戸に移ります。
ありがうございました m(__)m




