第五十三話 魂の浄化 天へ
土方と斎藤は目の前に立つ瑠璃の姿を見て唖然とした
両手に刀を握り締め、体中が返り血で汚れていたからだ
その異様な雰囲気にここに来るまで何があったかは想像できた
土方「瑠璃、どうした。なんでお前一人なんだ」
瑠璃は肩で息をしながら、これまでの経緯を二人に話す
斎藤「とにかく左之たちと合流しなければなるまい」
土方「そうだな、将軍の動きも大方見えたし、ここに用はねえ。瑠璃おまえ動けるのか?」
瑠璃「はぁ、はぁ、大丈夫です。ただ一人でもう一回行って来いって言われたら嫌ですけど」
土方「ばあか、今度はお前は後ろで寝てても構わねえ。案内を頼む」
斎藤「後は俺たちに任せろ」
瑠璃「はいっ」
その頃、原田たちは瑠璃が死闘を繰り返した場所へやって来た
原田「ほとんど灰になっちまってるじゃねえか・・・」
沖田「また無茶しちゃったんだね」
バーン、バーン
永倉「おっと、まだ潜んでやがるぜ。銃か、どうする左之」
原田「そうだな、さすがに銃で撃たれちゃ話にならねえ」
山崎「俺が囮になります。奴等も気を読めるので俺に目が向くかと。銃弾音が鳴りやんだら、そこを叩いてください!」
沖田「今の君なら当たらないだろうね、任せたよ!平助君、僕たちはこっち。行くよ!」
藤堂「おお、こっちは任せとけって」
原田「じゃあ俺らはあっちか。新八、暴れるぞ」
永倉「おおよ!」
山崎が走り出すと、銃声があちこちで響き渡る
その間にどこに潜んでいるのか目星をつける
そして一瞬、辺りに静寂が訪れた
沖田「さあ、行くよ!覚悟しなっ!」
沖田の声と共に一斉に銃撃部隊に斬りかかる
沖田と原田の放つ気は凄まじい
銃を構えさせることを許さなかった
沖田の剣筋は流れる水の如く、如何様にも変化する
原田の槍は的確に敵を討つ、大地をも切り裂く勢いだった
白虎と玄武が縦横無尽に駆け巡る
永倉と藤堂もまた無駄のない鋭い剣で夢魔を灰と化してゆく
彼らもまた人間離れした力を持っているのだ
伊達に組長をやっていた訳ではない
もしも皆が人間であれば彼らの右に出るものはいないだろう
誰も彼らを止めらることが出来なかった
バタバタと夢魔が倒れ、そして灰となる
気づけば山に再び静寂が訪れていた
瑠璃「あっ」
斎藤「遅かったか」
土方「派手に暴れやがったな」
瑠璃「左之さん!」
瑠璃は原田の元へ駆け寄った
原田「おう。おまえ大丈夫だったか?何だその恰好、酷でえな」
瑠璃「はい、まだ加減ができなくて」
沖田「ちょっと、勝手に突っ走っていって!」
藤堂「心配したんだぜ」
永倉「瑠璃ちゃん、急に居なくなんねえでくれよ?もう目で追えねえくらい早いから困っちまう」
瑠璃「皆さん・・・すみません」
瑠璃は皆に頭を下げた
何でもないように言うが、かなり心配かけた筈だからだ
皆、苦笑している
あらためて辺りを見渡すと
血の臭いは薄れつつあるが、草木はボロボロになり
地面はえぐれている
灰の山があちらこちらに点在し
ここ一帯が夢魔の墓場となってしまった
もとは皆、罪のない人間だったことを思うと居た堪れない気持ちになった
斎藤「瑠璃」
瑠璃「はい」
斎藤「この者たちを天に返してやらないか?」
瑠璃「天に返す?」
斎藤「ああ、瑠璃にしか出来んことだと思うが」
瑠璃「・・・」
沖田「瑠璃はもともと攻撃型じゃないでしょう。治癒と再生が本来の力だったと思うんだけど」
土方「あまり深く考えるな、お前の心があいつらを天に導くはずだ」
瑠璃「・・・、はい」
瑠璃は手にしていた刀を斎藤に預けた
先ほどまでの戦いで荒れ果ててしまった山道の中央に立ち、目を閉じる
暫くすると、ゆらゆらと焔のうような気が立ち始めた
やがてそれが火の粉のような黄金色の粒となり辺り一面に降り注ぐ
灰と化した夢魔の残骸が導かれるように宙へ舞い上がる
瑠璃が両手をゆっくりと天に掲げると
それらは吸い込まれるように昇って行く
緩い弧を描きながら、天高く彼らは返って行った
彼らが発った跡には若草色の小さな芽が芽吹き
いつの間にか元の山道の姿へ戻った
皆、天を仰ぎ一連の成りを見守っていた
いつかまた人として生まれ変わるなら
その時がどうか平和な世であるように
自分の意志で自分の生き方を選べる世であるように
そう強く願った
目を開けた瑠璃の瞳からは一筋の涙が頬を伝う。
原田が瑠璃の元へ歩み寄り、いつもしてやるように頭をポンポンと撫でる
屈託のない笑みで返すその姿は、いつもの瑠璃だった
原田「頑張ったな、お前はすげえよ。俺たちの誇りだ」
瑠璃「左之さん褒め過ぎです」
藤堂「おい!見てくれよっ。俺たちまで清められたみたに綺麗になってるんだけど!」
瑠璃「え?うそ。あっ、本当だ!汚れが落ちてる、凄い!」
土方「凄いってなんだ、自分でしておいて。相変わらず天然だな」
沖田「ちょっと天然呼ばわりしないでもらえますか」
永倉「なんで総司が怒るんだよ」
原田「双子だから、だろ?」
土方「ったく、面倒臭えなお前らはよ」
その後、皆は山崎くんが隼族という話題で持ちきりだった
当の本人は淡々としていたけれど、私には分かる。かなり照れている!
瑠璃「ねえ、照れてるでしょ」
山崎「なっ、照れてなどいない!」
沖田「瑠璃って山崎くんの表情読めるようになったんだ」
瑠璃「たぶん」
山崎「俺の事は放っておいてください」
山崎は瑠璃の鋭い指摘に動揺していた
沖田にでさえ悟られた事がないというのに、と




