第五十一話 神に仕える隼族
翌朝、土方は斎藤を連れ大阪城に向かった
伏見の件と今後の動向を探る為だ
分かっているのは近いうちに江戸へ戻るという事だ
ただ、当の将軍はどこか他人事のように口を閉ざしている
待機中の原田たちのもとへ飛脚が文を届けに来た
監察の島田からだ
原田「島田からじゃねえか。ほう、やはり奴らも動いていたか」
沖田「何?面白いことなの?」
原田「夢魔も大阪に向かっているってよ。俺らみたいに淀川を下る者と山中を移動してくる者と二手に分かれてな」
永倉「奴ら大阪で何をするつもりなんだ。まさかあいつらも江戸に向かうってことは・・・」
沖田「ありえる話だよね?山崎くん」
山崎「・・・まあ」
原田「何だと!!」
原田は手紙を握り潰し、眉間に皺をよせ奥歯を鳴らす
いつもは穏やかで冷静な原田が苛立ちを抑え切れない
永倉「なんだよ、どうしたってんだ」
原田「新選組を治安回復の為に京を引揚げ、大阪に召集をかけたと書いてある」
瑠璃「え!誰の命で?」
原田「朝廷だ」
沖田「治安回復と言えば新選組は断れないからね。くそっ!」
藤堂「そんなことしたら京はもう新政府軍の思うままだ、それだけじゃねえ。新選組が夢魔に遭遇でもしたらっ」
瑠璃「駄目だよ。絶対に阻止しないと!」
山崎「副長に知らせますっ」
山崎が土方のもとへ走った
その時、瑠璃に何かの予感が走った
「はっ!!」
山崎を一人で行かせるな!
瑠璃「山崎くん待って!私も行くっ」
沖田「瑠璃っ!」
気がつくと二人の姿はもう其処にはなかった
永倉「なんだよ、あの二人の動きに最近全く付いていけねえ」
藤堂「瑠璃、なんか変じゃなかった?」
原田「俺らまでぞろぞろ出て行くわけにはいかねえからな、今は待つしかねえ」
沖田「・・・」
大阪城までは半刻の道のりも、山崎なら四半刻以下で着くだろう
あれ?山崎くんってこんなに早かったっけ?
最近彼から感じ取れる気に以前と異なるものを感じる
その時、
ダーン!ダーン!ダーン!
乾いた銃声が響く
瑠璃「誰?こんなところで銃を撃つなんて」
瑠璃は走るのを止め、木から木へと移り移動をする
音がした場所へ近づくと木の陰から銃を構えている人が見えた
その数は一桁ではない
なぜ、此処に銃撃隊が潜んでいるのか
しかも異国の軍人のようだ
(そう言えば、井上さんが大阪にかなりの異人が上がったって)
「うう、くっ・・・」
草むらに隠れるようにして、うずくまる影がひとつ
瑠璃「山崎くんっ」
声が出そうになるのを手で抑える
静かに飛び降り、急いで彼のもとへ駆け寄る
瑠璃「山崎くん」
山崎「どうして君が・・・ぐぅっ」
瑠璃「喋らないで、この周辺銃撃隊が潜んでる。何の目的か分からないけど。撃たれたの?見せて」
瑠璃は山崎の肩の傷を手当てするために、気を高める
ダーン、ダーン、ダーン
瑠璃「うわっ、っ!なんなの、何で?」
山崎「そうか、彼らは俺たちの気を読み取れるんです。気を高めると場所がバレてしまう」
瑠璃「そうなの?」
山崎「俺のことはいい、早くこの事を副長たちに知らせないと」
瑠璃「でも、傷が深いじゃない。このままには出来ない!」
山崎「いいから早くっ、俺はどこで死のうが構わない。しかし、君たちには成すべき事がある!」
山崎の瞳が青磁色に輝き
背後に隼の姿が見えた
瑠璃「山崎くん、もしかしてあなたも」
山崎「ああ、我が一族は代々神に仕えてきた隼族。俺は君たちの手足同様、使えなくなれば捨てるのが掟だ」
瑠璃「莫迦言わないで」
山崎「しかし」
瑠璃「黙って!どっちにしろ私一人では無理。どうせ気づかれるんだから、さっさと治して二手に分かれて走らなきゃ!」
言い終わらないうちに、瑠璃は気を高め一時的に結界を張った
銃弾は容赦なくこちらに向かってくるが、弾が撥ね返されている
山崎の肩に埋まる弾を出し、止血をする。そして傷口をゆっくりと塞ぎながら細胞の再生を促す
瑠璃の額からは汗が流れている
それもそのはず結界と治癒を同時に行っているからだ
彼女の瞳は黄金色に変わっていた
瑠璃「終わった。山崎くん上、飛べる?」
山崎「上?」
瑠璃「そう、まだ眠ってる力があると思うんだけど。木から木へ移りながら」
山崎「なるほど、了解した」
瑠璃「私は大阪城へ行く、山崎くんは左之さんたちの所へ」
山崎「分かった!」
瑠璃「あっ、待って。それ借りるね」
瑠璃は山崎の背に差してあった刀を抜き取る
山崎が制止しようとした時には瑠璃の姿はなかった
山崎「彼女の能力もまた、恐ろしく早く成長している。無理はしないで貰いたいのだが・・・」
瑠璃は高い木の枝の上から様子をうかがう
行く先には銃撃隊と目を異様に赤く光らせた夢魔隊が潜んでいる
これでは土方や斎藤の元へ行くには戦う以外の選択はない
しかも、ここから先は見通しが良くなっている
身を隠す大木もなくなる
瑠璃「腹を括るしかないね」
大きく息を吸った
ストン、と木から飛び降りると両の刀を構えて前を見据えた
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その頃、山崎は山中を駆けていた
一刻も早く伝えなければ、夢魔は既に大阪にも存在していたと
そして、今までの能力を越えている事も
ピューンッ!ピューンッ!
風を斬る音が響く
原田たちも胸騒ぎに駆られ、立とうとしていた
沖田「左之さん、何か来るよ」
原田「ああ」
カチャリと刀の柄に手を掛ける
山崎「遅くなりましたっ!」
沖田「君なの!?」
永倉「おいおい、今飛んでなかったか?」
藤堂「まさかお前も!」
原田「山崎、瑠璃は?何かあったのか」
山崎は先ほど起きた事を全て話した
原田「ちっ、その隠れてる部隊をぶっ潰さねえとな」
沖田「だね」
原田たちは、夢魔部隊を叩きに宿を後にした
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そして、瑠璃は
右手に山崎の刀を、左手には斎藤の刀を握っていた
山崎は右利き、斎藤は左利きであったため
それぞれの切っ先が逆を向いている
刀歴の浅い瑠璃にとって、利き腕など関係なかった
瑠璃は走った、向かう敵があれば躊躇うことなく斬った
歯向かう敵はもはや夢魔しかいない
まともな人間ならば瑠璃の姿を追うことすら難しいからだ
飛び散る血しぶき、唸る化物たち
無になってひたすら斬り、大阪城に向けて走った
斎藤「副長」
土方「ああ、何があったか知らねえが、随分とお怒りだな」
稲妻が駆けたかと思うほどに一瞬辺りが激しく光る
目の前には返り血で赤黒く染まった瑠璃が立っていた




