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Time Trip to Another World 〜暁〜  作者: 蒼穹の使者
第一章 起承~京都・大阪編〜
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第五話 覚醒

今日、突然外出が許された!

百合ちゃんと切れたお味噌の買い出しに行くんです。

土方さんから許可を頂いたので堂々と町を歩ける。

保護されたのは夜、しかも雨だったから初夏の町はきっと清々しいだろう。


屯所を出る時に巡察の準備をしている十番組がいた。


「おう、瑠璃と百合じゃねーか。二人でどこに行くんだ」

「左之さん!聞いてください、お味噌を買いに行くんです」

「瑠璃さん外出が許されたんです」

「そいつは良かったな。人が多いからな気を付けて歩くんだぞ」

「子供じゃないんですから大丈夫ですよ」

「瑠璃は外に出るの、こっちに来て初めてだろ?」

「そうなんですよ。少し緊張しています」

「瑠璃さんっ、大丈夫ですよ。すぐそこですから」


外の空気が吸えればいい、とてもウキウキしていた。

が、言われた通りで行きかう人の数がすごい!

あちらこちらで、威勢の良い声がする。

けっこう柄が悪い人もいる。

それに・・・埃っぽい。

お味噌屋さんは本当に近くて、一人でも来れそうなくらいだ。

味噌を手に入れ、先ほど来た道を引き返す。


すると突然、目の前が開けた。

気づけば人々は道の端に避けている。

そして私たちの目の前には、いかにも悪人ですと言わんばかりの浪人が三、四人立ちはだかる。


「百合ちゃん・・・」

「瑠璃さん、あちらを通りましょう」

「うん」

「おい!待て!そこの小僧二人」


驚いて思わず立ち止まる。

彼らは私たちのことを言っているようだ。


「おい、聞こえねーのか?そのお前が腰に差してるそれよこせ!だたのお飾りなんだろ」

「申し訳ございませんが、それは出来ません」


即答する百合ちゃんには驚いた。

おっとりとした娘だと思っていたけど。

どうしよう、私たちは絡まれている。

以前、その刀は真田家に伝わる家宝だと聞いた。

当然渡せるわけがない。

かといって私には代わりにと差出せる物がない。


「なら、力ずくで頂くだけだな!」


男は百合の腕を捻りあげる。

痛みに歪む百合の表情を見た瑠璃は咄嗟に男の腕を捻りあげ地面に押さえ込んでいた。


「痛え!何しやがるてめぇ!ぐぅ」

「先に手を出したのはそちらです!」

「瑠璃さん?す、すごい」


脇にいた男の仲間が向かってくる。

瑠璃は再び立ち上がり、足を払う、腕を取り地に叩つける。

後ろからくる男には肘で腹を突いた。

最後に残った男がついに刀を抜いた。


「瑠璃さん!」

「百合ちゃん、巡察の隊士がいないか探して!」

「はい!」

「卑怯者、丸腰相手に刀を抜くなんて」

「煩え、こざかしい奴は斬ってしまえばいいんだ!」


刀を振り上げた男は今にも振り下ろそうとしていた。

迷う前に体が先に動いた。男の下に素早く潜り込み、片手で体を支え両足で男の顎を蹴り上げたのだ。


「うっ」


男は泡を吹いて大の字で倒れ、野次馬が取り巻いてこちらを見ている。


「はっ!私がやったの?嘘、でしょ」


嘘ではない証拠に袴は埃にまみれ腕や脚の血管が妙にうなっている。

自分の拳に彼らの血液がついていた。


「おい、大丈夫か!」

「瑠璃さん、大丈夫ですか?」

「百合ちゃん、私…」


十番組と三番組がちょうど交代でこの当たりを通りかかっていたらしい。


「こいつら全員伸びてるぞ、誰がやったんだ」

「刀は使っていないようだな、体術に優れた者の仕業だろう」

「瑠璃、そいつは何処へ行った、おまえ見てたんだろ?」

「えっ、っと・・・」

「瑠璃さん・・・」

「百合、知ってるのか?」

「え、あの」


百合ちゃんが困った顔をして私を見ている。

彼女を困らせるわけにはいかない。


「私です」

「何がだ」

「ですから、私がやりました!」

「なに?」

「はっ?」

「そこの男の人たちを伸ばしたのは私なんです!」

「まさか!?」

「本当なんです。瑠璃さんが助けてくれました」


周りの野次馬たちの証言もあり、私が倒したという事が証明された。

自分でも驚いているのに、なんで、どうしてと聞かれて困っています。


「瑠璃、おまえ体術が備わってんのか?なんで隠してんだ水臭えじゃねぇか」

「いえその、私も先ほど知ったので」


一さんに至っては終始無言だ。 

とんでもない女を拾ったなんて思ったかな。

あの浪士たちは手当たり次第に文句をつけては町人を困らせていたらしい。

新撰組は人斬り集団でなないという評判も広がり、大した問題にもならずに済んだ。


あれ以来、覚醒したかのように私の体は軽く、益々気配に鋭くなるし、どうも落ち着かない。

そして以前より外出の機会が増えた。

書状を届けたり、宿に出入りする人の情報を伺ったりとまるで観察の山崎君のように。

単独で行動することはないにしろ、この環境の変化にはとても驚いた。


山南さんに刀を学んだらどうかと、勧められたけど人を斬ることに抵抗がある私は丁寧に断った 。

それに真剣は重い女の私にはとうてい扱えない。

それでも丸腰は危ないと言われ、しぶしぶ短刀を持つことにした。 


「瑠璃を隊士にする気はさらされねぇんだが」

「そうだ、瑠璃は女だ。女は男が守るもんだろ」

「しかし、事と次第によっては顔が知られていない彼女が必要になる時が来ると思うのですが」


山南さんの妙に説得力のある言葉に皆、黙ってしまった。


「あの、私の力が必要な時は声を掛けてください。出来ないことは断りますし、出来ることは力になりたいと思っています。あまり重く考えないでください」


一旦、その場では私の扱いは保留ということになった。


夕餉が終わり、みんなが自室へ戻った後片づけを終わらせ廊下に出ると、中庭を大きな丸い月が照らしていた。


「わぁ、大きくて綺麗」


私の居た時代の月と同じ、でもこんなに美しいと思った事はなかった。

中庭に降りてその月を見上げると元の時代の風景が見えた気がした。

懐かしい。でも未来が懐かしいなんて変、考えたら泣けてきた。

結局、私は何をしているんだろう。

私は何者なんだろう。

私が抜けた未来はどうなっているんだろうか。

捜索願いとか出ているのかな。


そんなことを考えていた。


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