第四十八話 鳥羽伏見の戦い
早朝に宿場を後にし、遅い朝餉を兼ねた昼餉を取る
途中の茶屋で観察の島田からの文をを受け取る
伏見奉行所に幕府軍が駐屯し、今日にも戦争が起きるだろうと
なんと、来た道を少し戻るらしい
伏見を通り越すなんてっ!
本当に体力勝負だ、筋肉痛になる暇さえ与えられない
今夜は伏見奉行所の近くの山小屋にて夜を明かすそうです
凍死しないかが心配です
ズドーン、ドドド。ドカーン、ミシミシ、ゴゴゴゴー!!
雷が落ちたような、いやそれ以上の地響きがした。
瑠璃「地震!?」
土方「始まったか」
斎藤「大砲、か」
沖田「また派手な音だね」
瑠璃「大砲?」
原田「ああ、新政府軍の最新型の武器だ。幕府軍は旧式しか持ってねからな。まず勝てねえだろ」
山崎「奉行所が直接狙われています」
永倉「俺らはどうすんだ。見てるだけか?」
藤堂「けどさぁ、この大砲の中動くの難しいしな」
土方「せめて伏見の町民が上手く逃げられるようにしてやりたいがな…」
瑠璃「あっ!」
斎藤「どうした」
瑠璃「あれ、伏見の人たちですよね」
大砲の音に驚き、家屋こらわらわらと町民が出てきた
右往左往としている様子が分かる
瑠璃「危ないっ」
原田「どうする土方さん!」
土方「町民は逃がしてやらなきゃならねえ。山崎!彼らの足でも逃げられる場所があるか?」
山崎「あの林を抜けて山頂に行くしか。ただ、子どもや年寄りもいますから、簡単ではないと」
瑠璃「手分けして、誘導するしかないですよ。馬車とかがあればいいのに…」
山崎「馬車…か。俺はそれをあたる。それまでは走れる者から誘導をお願います!」
土方「分かった!原田と総司、お前たちが先導しろ。俺は走れる者とそうでない者を振り分ける。平助と新八は山崎を援護しながら馬車を引いて来い。斎藤、先に山頂を見てきてくれ。軍が潜んでいないか見てほしい」
瑠璃「私は?」
土方「お前は俺と来い。皆の不安を出来るだけ取ってやってくれ」
私たちは各々の、任務を果たすべく持ち場へ走った
最初は戸惑った町民たちだったが状況を何とか飲み込んでくれ
左之さんと総司に誘導されながら移動を始めた
原田「荷物は持つな!羽織だけ着たら走るんだ!」
土方「自分の足で動けない者は、こちらへ。少しでも歩ける者はゆっくりでいい、ここから離れるんだ!総司頼む!」
沖田「了解。さあ、動ける人はこっち。走らなくていいから急ぎ足でお願い!」
瑠璃「大丈夫ですよ。皆を捨てて逃げたりはしませんから。最後まで私がお伴します。さあ、手を取って。あまり広がらないで下さい。自分の隣が誰かよく確認して離れないで下さいね。」
土方「瑠璃!山崎たちが戻って来たぞ」
馬車は二台、一度に全員は厳しい。
またもや、優先順位を決めなければならない。
険しい顔で悩む土方に一人の老人がこう言った
老人「子どもと若い者を乗せてください。年寄りは最後でいい。いや、今日が寿命じゃと思っても構わんよ。もう十分に生きたからの」
年寄りたちはその話を聞いて列から退いていく
土方は手早く子どもと女性を順に乗せていく
涙を流しながら、別れを惜しむ人々を横目に馬の背を叩いた
瑠璃「土方さんお爺さんたちは?」
土方「…」
山崎「瑠璃くん、残念だがもう時間がない。火が迫っている」
瑠璃「嫌っ、最後まで諦めたくないっ!」
土方「瑠璃、何かを犠牲にしなきゃならねえ時がある。その犠牲の上で人は生きているんだ。彼らの正義を無駄にしないために、逃がした者たちを生かさなきゃならねえんだ。分かるか?瑠璃!」
分かっている、でも分かりたくない
どうしようもない感情に瑠璃の心は乱れていた
「うぅ…うわぁぁー!!!!」
身体が熱くて熱くて、込み上げてくる熱を抑えることができない。
斎藤「っ!」
沖田「くっ!」
原田「つぅ」
土方「っ…」
瑠璃の悲しみが四人の体を矢の様に突き抜けた
土方「瑠璃!」
土方は瑠璃の名を呼ぶも、声が届かない
近づこうにも瑠璃から放たれる光が結界となり寄せ付けない
火は瑠璃と残された人々のもとに迫る
土方「くそっ!瑠璃!」
切羽詰まった土方から蒼い光が矢のように飛び散った
瞳は蒼紫色に光っている
瑠璃の黄金色の光と土方の蒼の光とが交差し
天を突き上げるように登っていく
それはまるで二頭の龍が駆け上るように見えた
老人「りゅ、龍神さまじゃあ!」
皆がそれに向かって拝む
その時、
パラ、パラッ、パパパパ、ザーザーッ、ザザザー
雨が降り出した
目前まで迫っていた火の勢いが弱まり
終には、消えた
鳴り響いていた大砲も止まり、雨の音だけが聞こえる
山崎「土方さん!」
土方「山崎!今のうちに一台戻してくれ。年寄りを移動させる」
山崎「はっ」
土方は瑠璃を探した
雨と埃が舞う中、瑠璃はいた
土方「瑠璃っ」
瑠璃「土方、さん」
土方さんの顔を見たらほっとして力が抜けた
膝から崩れ落ちる、咄嗟に地面に手をついた
土方「瑠璃、大丈夫か!」
瑠璃「はぁ、はぁ…くっ、な、なんとか」
土方「馬鹿野郎!無理するんじゃねえ」
瑠璃がびくりと身を縮めた瞬間
雨から守るように土方が膝をつき抱き締める
瑠璃「土方さん?」
土方「煩え、黙っとけ」
瑠璃「ごめんなさっ」
土方「ありがとな」
瑠璃「…え?」
残りの町民も無事逃げることができた
土方「さて、俺達も行くか?おぶってやる」
瑠璃「歩けますよ。うわぁっ」
瑠璃は土方の背中に収まった
土方の背中は初めて泣いたあの時から二回目
雨に濡れているものの、兄の背は温かかった
皆と合流するまでの僅かな時間、瑠璃はゆっくり目を閉じた
不思議なことに雨は町の中だけで
山頂に来てみると満天の星空に驚いた
皆は私が土方さんに背負われている事に驚いていたけれど
原田「瑠璃、心配したぜ」
沖田「土方さんの背中なんかで休むなんて…」
土方「総司、何が言いたい」
斎藤「瑠璃、よく頑張ったな」
瑠璃「ご心配おかけしましたっ、うぅ…」
藤堂「泣くなよ、な?」
永倉「瑠璃ちゃん、すげえよ。お疲れさん」
瑠璃「皆さん、ありがとうございます」
土方「おい、俺とお前だけだぞ濡れてるのは」
瑠璃「えっ!本当だ、なんで?それに寒っ!!」
急に現実へ引き戻され、寒さのせいでガタガタ震える
斎藤「大丈夫ではなさそうだな」
沖田「温泉でもあればいいんだけど」
老人「あの…」
原田「ん?どうした爺さん。具合でも悪いのか?」
老人「いや、この先に湯が湧いてるはずじゃ。そこで体を温めるといい。」
瑠璃「お爺ちゃん本当?早く入りたい。土方さん、行きましょう!早く行かないと死んでしまいます」
瑠璃は土方の手を引き、老人が指差した方へぐんぐん進む
土方「おいっ、瑠璃。こらっ!お前は俺と入る気かっ」
瑠璃「……ぁ」
その後、総司と一さんが、木の枝を器用に繋げ
着物を掛けお互いが見えないように遮ってくれた
でも、私達だけは申し訳ないので希望者全員で入りました
夜明けを待って町民は隣の村へ身を寄せることとなった




