第四十七話 新たなる旅立ち(さよなら京の町)
近藤「皆、くれぐれも気を付けてくれたまえ」
沖田「近藤さん、大丈夫ですよ」
皆、胸中いろいろな思いを抱えているため
気の利いた返事が、上手い言葉が出ない
あの永倉と藤堂でさえ、黙っているのだ
まさか、泣いてはいないだろう
土方「近藤さん、後の事は頼んだ。山南さん知恵を貸してやってくれ、源さんこの人が暴走しないように見張っててくれ」
山南「私の持っている限りの力は喜んで尽くします」
井上「トシくん、大丈夫だ安心してくれ」
近藤「おいトシ・・・」
近藤はバツが悪そうに頭を掻いている
近藤「瑠璃くん、これからの道中は過酷なものとなるだろう。だが、トシをはじめ皆に頼るのだぞ。甘えることを忘れんようにな」
瑠璃「はい、有難うございます」
こうして土方始とする八名は近藤のお日様のような笑顔に見送られ
夕刻の京の町を出発した
日が落ちかける頃に出発したこともあり、かなり冷える
この時代、移動はもちろん徒歩となる
瑠璃「ねえ、山崎くん。どれくらい歩くの?」
山崎「四里ほどで、今夜泊まる場所に着くはずだ」
瑠璃「四里って、どれくらい?」
山崎「四里は四里だ」
瑠璃「例えば、どれくらいの時間歩くのかなぁって」
山崎「ああ、そうですね。早くとも一刻半はかかるだろう」
瑠璃「一刻半?(江戸時間が分からない…)」
今更ではあるが、一刻は約二時間
一里は約4キロだと言われている
よって、16キロの道のりを、三時間で歩こうと言うのだ
かなりの速度で歩かねば無理である
山崎なら難なくこなせるのだろう
瑠璃「えっと、近くはない…のかなぁ…」
斎藤「瑠璃?どうした」
瑠璃「一さん…四里とか一刻半って未だに理解できなくて」
斎藤「ああ、瑠璃のいた時代とは刻限の表し方が違うんだったな」
土方「おい、瑠璃どうした?」
瑠璃「え?いえ、どうも致しませんのでお気遣いなく」
原田「大丈夫だって、俺らがついてんだろ。楽勝だぜ」
永倉「ああ、暗くて寒いけど。そのうち暖かくなるって」
藤堂「なんだよ、もう怖気づいたのか?この先どうすんだよ」
瑠璃「そう言う事ではなくて…あは、はは」
この状況で距離や時間が分からないなどと言えば
今後、必ず話のネタにされるに違いない
瑠璃はから笑いしか出来なかった
斎藤「疲れたら無理をせずに言うのだぞ」
沖田「そのうち、分かるようになるよ。大丈夫」
瑠璃「はい」
斎藤はともかく、沖田はこういう場面では決して
莫迦にしたり、皮肉ったりしない
当人の気持ちを察する能力もあるが
本当は人一倍、優しくて、心の痛みが分かる男なのだ
しばらく、黙々と歩く
瑠璃「はぁ……」
斎藤「大丈夫か?」
瑠璃「一さん、刀って重いですね。皆さん、よく二本も差していられますね。左之さんなんて刀差して、槍まで担いでるし」
斎藤「皆、慣れている故、あまり気にした事はないのだ。しかし、言われるとそうかもしれん。貸せ、持ってやろう」
瑠璃「大丈夫です、そこまでは甘えられません。自分の命を、大切な人たちを守る物ですから、自分で持ちます」
斎藤「そうか、しかし決して無理はするな」
実のところ持ってほしいのは山々です
でも、刀は命ですから
一度手にしたら最後まで離してはいけませんよね
藤堂「腹減ったぁ」
永倉「おい、言うなよ。我慢してんのに!」
原田「出る前に食っただろ」
山崎「これからは、毎度口にできるとは限りませんので、それなりの覚悟をしておいてください」
藤堂「えっ!」
永倉「それは、しんどいなぁ…」
土方「恐らく厳しい旅になるだろな」
瑠璃「多少食べなくても死んだりしませんよ」
沖田「あの人たちには死ぬより辛いんじゃない」
原田「だな」
ようやく今夜の宿場に着いた
宿というより、藪を掻き分けた先にあった小屋の様な建物だ
夏の間は農民が使うのだろう
ひと通りのものは揃っているようだった
瑠璃「え、ここ?なんか出たりしないよね」
沖田「もしかして怖いとか?」
瑠璃「へ、ま、まさかっ。はは。全然っ大丈夫」
沖田「そう?でも、あそこ見て。何か動いてる」
瑠璃「ええ!やだぁぁ!!」
瑠璃は総司を楯にしてブルブル震えている
原田「おい、総司。それくらいにしとけよ?」
沖田「ごめん、ごめん、冗談だよ」
瑠璃「うぅぅ…」
土方「今夜はここで休む。明日も早いからな!さっさと寝ちまえよ?瑠璃は隣の部屋を使え。俺たちは此処にに居るから安心しろ」
瑠璃「私も此処で寝ます!」
沖田「ぷっ(笑)」
永倉「でも、俺らとごろ寝は嫌だろ」
瑠璃「大丈夫です!」
藤堂「新八っつぁんに潰されるぜ?」
瑠璃「問題ないです!」
原田「くくっ(笑)」
土方「瑠璃がいいっていうなら構わねえが…」
瑠璃「はい、此処で寝ます!」
斎藤「…瑠璃、やはり怖いか」
瑠璃「うっ、はじめさぁん…」
こうして私たちは幽霊屋敷のような建物で朝を待つことになった




