第四十三話 節操のない父親と新たな決意
二番組(永倉)と八番組(藤堂)が夜の巡察に出て
妙に静かに夕餉が進むある晩の事だった
外が稲光で激しく光った刹那
瑠璃「うわっ!」
かなり久し振りで、いやすっかり忘れてたのだが
瑠璃をこの時代に送り込んできた例の主が堂々と姿を現したのである
主 「元気にしていたか」
瑠璃「何ですかっ急に、しかも今日はいつもと違う現れ方ですね」
土方「お前は・・・」
原田「どっかで聞いたことある声だな」
沖田「あっ!お前は」
斎藤「・・・」
瑠璃「皆、知っているんですか?」
主 「ふははははっ、久しぶりだな我が子どもたちよ」
瑠璃「子どもたちって、どういう事ですか!」
主 「斎藤一。残念ながらお前だけは私の血を引いていない」
土方「で、何の用だ」
主 「相変わらず歳三は冷たいな、まあよい。うすうす気づいていると思うが、お前たちは普通の人間ではない。神と人間の間にできた半神人とも言う。お前たち五人は選ばれしこの世の戦士だ。サキュバを葬り去るのが使命となる。私も長くは此処に居られないのでな、悪いが早々に召喚の儀を執り行う」
そう言うや否や瞬く間に辺りが眩い光に包まれた
そして五つの光の球が浮き上がる
黄金色、蒼色、濃紺色、朱色、白色がそれぞれの主人の元へ降りて行く
佐伯(沖田)瑠璃、光と再生の神が宿る太陽神
土方歳三、統率と炎の神が宿る青竜
原田左之助、悟りと大地の神が宿る玄武
斎藤一、信念と風の神が宿る朱雀
沖田総司、緩和と水の神が宿る白虎
主 「五方(護法)にて悪魔を退散すべく力よ目覚めよ!」
それぞれが光の球に包まれた 味わったことのない感覚
蛹から成虫へと変わるように 体がメリメリと音を立ているようだった
各々のもつ刀が誘われるかのように鞘から抜き出
柄には今まで無かった守護神の模様が刻まれている
それらは手を合わせるように刀先が交わり
やがて静かに元の鞘に収まった 同時に光も消えた
土方「おい!何しやがった!」
主 「あとの事は頼んだ。身勝手と承知の上だ、だが我々にはサキュバを倒す術をもっておらんのだ。本来ならば我が子を危険な戦地へはやりたくない。これは大明神様が決めた事、半神人のお前たちに我ら純粋な神には無い力が宿っていたのだ。神の世と人の世を繋ぐお前たちに全てを託すことを、許せ」
主は深々と頭を下げているが、理解しがたい事なので今一度確認
まず何故、私たちが半神人になったかを説明しよう
時は遡る、
土方歳三、土方家の末子長男として生まれるも、母は歳三を生んで間もなく死去
瞳の美しい女性だったらしい
気性の荒い歳三は後に武士を目指し、近藤勇の道場へ入門
原田左之助、伊予の国で生まれる、母は穏やかで優しい女性だった
しかし、左之助の幼少期は短気で度々喧嘩をしていた
郷を追われ江戸へ 左之助も近藤の道場に入門
斎藤一、生まれ育ちは不明だが、母親は色白で賢明な女性だったときいている。正義感が強すぎた一は、とあることから旗本を斬ってしまい郷を追われる。左之助より先に近藤の道場に入門していたが、追ってから離れるため京に先に上がる
沖田総司・瑠璃 江戸に生まれる 母親は笑顔の絶えない、容姿端麗な女性であった。双子の出産に耐える事が出来ずに産み落として直ぐに息絶えた。貧しさから養子に出すが男の総司しか貰い手が付かず離れ離れとなる 瑠璃は時空の神の手により時を越えた
言うまでもないが斎藤以外の父親は全て目前の主である
若かりし頃は、神界では女神たちからもてはやされ
子が欲しいと追い回される程だった それに嫌気が差し
人間界でこの様な事に至ったのだ
父親は神、母親は人間という異色の子どもたちが生まれた
源氏物語の光源氏のような人物と言えば分かり易いだろう
沖田「節操なさすぎじゃない!この人が父親だなんて」
主 「それに関しては申し訳ないと思っている…」
土方「何で神には出来なくて、俺達には出来るんだ」
主 「神の掟で、人間界での諍いには一切手出しがてきないのだ。助けたくとも強い結界により踏み込むことが出来ないのだ。しかし、お前達は半神人だ神の掟にも人間界の掟にも属さない。中立なのだ」
原田「けどよ、サキュバって奴も悪魔だが神の部類だろ。神が冒した罪は神が裁くべきだろう!」
主 「サキュバはこの国の神ではない」
斎藤「掟で異国の神には手出しができぬ、と?」
主 「遠い昔に結んだ規律で、我らは例え攻められても反撃する事は許されない事になっている。それを破れば、天から地へ堕ちる。我々の祖先は元々は愚神だった。随分と酷いことをしてきたらしい。その罰なのだ」
瑠璃「なにそれ」
主 「サキュバは薩摩の強引な倒幕に乗っかり、この世を悪魔の支配下にしようと企んでいる。最終的には夢魔を使っての世界征服だ」
土方「サキュバってやつは、あの黒服男か?」
主 「ああ」
大それた話になったものだ
人間界の悪魔で支配しようとするなどとは
夢にも見ない話である
主 「斎藤一よ、お前は私と違い優秀な神との間に出来た子だ。残念ながらその神は自己を犠牲にし印度という国を救った。仏陀の教えの元穏やかに眠っている事だろう。そんなお前は朱雀である。光と風は融合するととてつもない力が生まれる。お前に瑠璃を託す。よいか」
斎藤「…はい」
主 「そうか、すまん。光が影に覆われるとき風は闇を吹き飛ばす、風が止まれば光は闇に消える。斎藤一、お前が死ぬときは瑠璃も死ぬ。瑠璃が死ねばお前も、死ぬ。これは運命であり、変えることは出来ぬ」
瑠璃「えっ!」
瑠璃は斎藤を不安げな顔で見る
斎藤はゆっくり頷き
斎藤「案ずるな、瑠璃の命は俺が必ず守る」
瑠璃「一さんの事は信じています、でも私はまだ自分に自信が」
沖田「瑠璃?大丈夫だって一くんが言ってるじゃない、一くんの父親はこんな節操のない神じゃなくて、凄く立派な方だったんだから」
瑠璃「…う、うん」
原田「俺らの父親は酷え言われようだな」
土方「忘れるな、俺達は五人で戦うんだ。誰か一人に荷を負わせたりしねえ。皆で切り抜けるんだ!」
全員「はい!」
皆が振り向くと主の姿は無かった
サキュバ、夢魔、恐ろしい者が相手となった




