第三十九話 坂本龍馬を回収しました
各藩邸への潜入を始めて二日ほどが経った
忍者のように屋根裏に潜んでいる
昼夜問わず、会合が行われそうな時は潜んだ
闇に紛れるよう、忍服を着ている
山崎は真黒、瑠璃は濃紺色である
驚いた事に寸法に全く違和感がなかったことだ
瑠璃「聞こうと思っていたんですが、私のこの忍者服、採寸しました?どうして丁度いいのかな?」
山崎「ああ、それは・・・だ」
瑠璃「はい?聞こえないんですけど?」
山崎「斎藤組長に、聞いた」
瑠璃「は?なんで一さんが知っているの」
山崎「そ、それは俺も知らんっ」
瑠璃「いや顔を赤らめる意味が分からないんですけど、と言うか私に聞けばいいのに」
山崎「・・・」
瑠璃「もういいです」
それ以上聞いてくれるなと、目が訴えていた
山崎「その後、そちらはどうだ」
瑠璃「うーん、暇で死にそうです」
山崎「まさか、寝てるなんてないだろうな!」
瑠璃「さすがにそれは、ない!」
山崎くんは疑わしい目で私を見ている、失礼な!
今日は夕刻からの為、部屋で休憩することにした
「瑠璃、いるか?」
「はい」
「俺だ、今巡察から戻った」
「一さん?どうぞ」
静かに斎藤が部屋に入ってくる
動作はいつ見ても流れるようになされ
その姿は美しいとさえ思える
「今日は夜からだろ。体調は変わりないか」
「はい、多少は疲れとかありますけど、範囲内ですよ」
「そうか」
「あ、それより私の忍者服って、一さんの見立てだったんですね」
「ああ、山崎が瑠璃に聞けずに悩んでいたからな」
「なんで聞けないんだろ?変なの。でも、一さんよく分かりましたね。丁度良いです」
「そうか、ならば良かった。狂いがあると瑠璃の身が危ないからな」
「で、なんで私の寸法が分かったんですか?」
「それは、その・・・」
「その?」
「その、俺は瑠璃の事は何でも知っている故、故に・・・その」
「分かりました。もう言わなくて結構ですよ?ゆでだこ見たいですけど大丈夫ですか?」
総司「そりゃぁ、瑠璃ちゃんの身体は目を瞑っても型どれるくらい、いつも触れ合っているからじゃない?」
斎藤「っ!///」
瑠璃「あぁ、そういう事か。って総司、何急に」
斎藤は固まっている
沖田が言った事と瑠璃のサラリと返した返事の所為だろう
瑠璃「では、夜の部があるので行ってきます」
斎藤「あ、ああ」
総司「うん、行ってらっしゃい」
瑠璃は何もなかったように、仕事へ向かった
総司「一くん、あの娘の恥じらいのツボって何処にあるのかな」
斎藤「あんたが言うな!」
--------再び潜入開始---------
あれ?今日は人が多い気がする
あっ!坂本龍馬だ!
と、いう事は何かが起こるかもしれない
坂本「おまんら、人が人でなくなるようなもんを何で作るがしゃ!」
男A「このままでは長州に出し抜かれる。我が藩はこれから手を引く事はない」
坂本「なしてじゃ、同盟組んだじゃなかがか!高杉さんもこんな事は望んでないき」
男A「もう居らん者の事など気にすることもなかろう」
坂本「くっ…」
なに!? 喧嘩してるのかな
人でなくなるものって夢魔の事よね
「あなたが理解に乏しいとは思いませんでした」
ああ!黒マントの男だ!
坂本「わしの命を掛けても、許さんぜよ」
黒服「ふははは、なら命を掛けていただきましょうか?お前たち、楽しんでおいで」
黒服の男がそう言うと、三体の夢魔が入って来た
龍馬を取り囲み、じりじりと迫る
瑠璃はどうすべきか思考を巡らせる
いくら北辰一刀流の免許皆伝者でも、三体は無理に等しい
瑠璃は必死に土方に呼び掛ける
(土方さん!土方さん!聞こえますか?土方さんっ!)
(おっ、何だ!声が大きいんだよっ)
(緊急事態発生なのですみません!詳しくはまた後で)
(おい!こら!何があった!)
(坂本龍馬が夢魔と…あっ!ちょっ、危ないっ)
(瑠璃っ!瑠璃っ!)
龍馬が袈裟斬りを仕掛けるも、瞬く間に傷が塞がる
それに、驚き龍馬の動きが止まった
瑠璃は咄嗟に天井を蹴破って飛び降りた
「龍馬さん!助太刀します!」
瑠璃は龍馬と、背中合わせに立ち刀を拔いた
あの日見た夢魔とは比べ物にならない程の力を感じていた
「おまんは!?」
「話は終わってからです。彼らは心臓を貫かない限り、延々と襲ってきますよ!」
「じゃけんども、もともとは人じゃき」
「もう、人ではありません!」
瑠璃は目の前の夢魔の太刀を払いながら、隙を伺っていた
脚を払っても直ぐに立ち上がる
例の特殊な能力も、足を止める程度にしかならない
今更ながら刀の稽古はすべきだったと悔やまれる
「くそぉぉ!」
龍馬さんが夢魔の一人を斬った
私は刀を握り直し相手の動きを見た
大丈夫、ほら、一さんの剣筋を思い出して
これは、一さんの刀
お願い、教えて!
夢魔が高々と刀を振り被った!
刹那、畳を強く蹴り相手の懐へ飛び込む
グ、ザッ…
「ぐあぁぁ!」
獣のような叫び声とともに、それは崩れ落ちた
瑠璃が一思いに心臓を貫いたのだ
素早く刀を引き抜き振り返ると
龍馬が夢魔と押し合っていた
あともう一体を探す
瑠璃は己の湧き上がる力を止められないでいた
気づくと、握った刀が光っていた
剣先からの強い力が全身に伝わる
また私の知らない私が目を覚ますようだった
「くぅ、だぁ!」
龍馬が一体、倒した
しかし、息が上がりこれ以上の対戦は無理に見える
私が、殺る!
「はあぁぁ!」
自分でも驚くほど身体が軽く
手に取るように相手の動きが見える
それは時がゆっくりと流れているようだった
キーン、キーン、ズザッ!! シャーッ
激しく夢魔の血が飛び散った
「はぁ、はぁ」
「大丈夫か!」
すでに、其処には薩摩の人間と黒服は居なかった
「はぁ、龍馬さんこそ大丈夫ですか?腕がっ」
血が滲んでいた
瑠璃は反射的に彼の腕を取り手をかざす
跡形も無く傷は塞がった
「こ、これは!」
「とにかく、ふぅ、疲れましたね」
息苦しさから、口元を覆っていた布を外す
「おまん、あん時の団子屋の!」
「あっ、バレちゃいましたね。とにかく、ここ出ませんか?見ていると気分が悪なりそうです」
二人はふらふらになりながら、外に出た
土方「瑠璃!!」
瑠璃「うわっ」
土方「てめえ、途中で話を切るんじゃねえ!」
瑠璃「土方さんっ、ごめんなさい!」
沖田「血塗れじゃない!」
斎藤「瑠璃!」
瑠璃「大丈夫です!これは私の血ではありません」
斎藤が瑠璃を引き寄せ、怪我はないか、痛む所はないかと
心底心配したと言わんばかりに問い詰める
それを見た龍馬は
坂本「おまん、やっぱり女じやったか!!」
瑠璃「えっ!な、ぜ?」
坂本「おとめ姉より、強い女がおったがかぁ」
斎藤「お前は何者だ」
坂本「すまん、すまん。わしは坂本龍馬と申す」
土方「坂本龍馬!?」
沖田「何か悪い相談でもしてたのかな」
瑠璃「総司!」
斎藤「此処では目立ち過ぎる、場所を変えたほうがよいかと」
土方「悪いが屯所まで来てもらう」
瑠璃「龍馬さん!大丈夫ですから。私たち悪い集団ではありません」
坂本「おまんには助けられたき、大人しゅう着いて行くぜよ」
という流れで坂本龍馬が屯所へやって来た




