第三十八話 坂本龍馬に会いました
さて、再び潜入捜査です。
副長たちと話し合った結果、私が薩摩藩邸を山崎くんが長州藩邸に潜ることとなった。
早速!と言いたいところですが、この時代の街並みを覚えるのが困難な私。
未だ、どこを曲がっても同じ風景にしか見えないというかなり痛い状態です。
そこで潜入前に下見をしたいと、せめて薩摩藩邸までの道順を覚えたいと土方さんに願いでた。
「ったく、巡察順路しか覚えてねえだと?」
「だってぇ・・・」
「山崎、近辺を頭に叩き込んでやってくれ。せっかく情報掴んでも帰って来れねえんじゃ話にならねえ」
「はい」
(山崎くんの視線が痛い。そりゃお忙しいところ申し訳ないと思っていますよ?でも、私は未来人!この人は関西人!!ずるいっ。)
「瑠璃くん!君は本当にっ」
「え?何ですか」
「心の声が、漏れているっ」
「あれぇ、おかしいなぁ。聞こえちゃいました?」
「君と沖田さんは本当に似ているな」
「それ、どういう意味ですか?」
「そういう意味だ」
「もしかして、山崎くん私の事嫌い、なの?」
(落ち込むなぁ。けっこう頻繁にお仕事した仲だったのに)
「き、嫌いでは、ない!」
「へ?じゃぁ、好き?」
「なっ!男にそのようなことを聞くべきではない」
「でも、言ってくれないと分からないですよ。山崎くんは心の声読ませてくれないし」
「嫌いでは、ない。その、す、好きの部類になるはずだ」
「良かったぁ、嬉しい。ありがとう」
「///い、いや」
そんなやり取りをしながら薩摩邸の場所と長州邸の場所を教えてもらった。
全部同じに見えると言う私を気遣って、目印も教えてくれた。
さすが監察なだけある。できる人だ!
以外にも表情豊かな彼は一さんと似たタイプかもしれない。
「瑠璃くん、俺は別件だが用がある。ここで待っていてくれるか。半刻ほどで戻る」
「分かりました。大人しくしています」
茶屋でお茶とお団子を食べながら待つことにした。
半刻って何分ぐらいだろうかいまいち時間の区切りが分からない。
町行く人々をぼんやり眺めていた。
「お嬢ちゃん、こんなところに一人で何しよるがか?」
「お嬢ちゃん!?」
「すまん、あんまり顔立ちが綺麗じゃったき、お嬢ちゃんかと思ってのう」
「は、はは。そうですか」
「さっきから、ずっと座っちょるが誰か待っちょるがか?」
「はい」
「わしも座っていいかのう」
「どうぞ」
この人の喋り方どこかで聞いたことあるよね、どこだっけ。
ちりちりした髪の毛、袴にブーツねぇ・・・袴にブーツ!
もしかしてぇぇ! 坂本龍馬ぁぁ。
うわぁ、どうしよう間違いないよね。
会ってしまった、遂に会ってしまったよ幕末の志士、坂本龍馬!
「あの」
「なんじゃ」
「もしや土佐の方ですか?」
「おお、よう分かったの。ああ、この喋り方か」
「はい、独特なので」
「随分とあちこちを回ったもんじゃ。土佐にはもう長いこと帰っちょらんけんど」
「生まれた国の言葉はなかなか消えませんよ」
「おんし、ほんまに別嬪さんじゃ。男にはもったいないぜよ。生まれはどこじゃ?」
「えーっと、一年前に頭に怪我を負いましてそれ以前の記憶がないのです」
「そうじゃったか。悪いこと聞いてしもうたの」
「いえ、でもいい仲間に巡り合えてこうして生きていられます」
「それはよかったの」
本当に懐の大きい人なんだと思う、見も知らずの人間にけらけらと笑って見せられるのだから。
「ああ、こんなところに居ましたか!探しましたよ」
「中岡ぁ、意外と早かったの」
中岡!?この人が中岡慎太郎ですか、
あっ、そうか!
瑠璃「あのっ!」
坂本「なんじゃ」
瑠璃「会合はどこかの藩邸に行ってください!あなた方は狙われていますから」
坂本「・・・?」
中岡「お主、何者だ!」
男が腰の刀に手を掛ける。
坂本「やめんか。おんし、なんか知っちゅうがか?」
瑠璃「詳しいことを話すことはできませんが、貴方は坂本龍馬さんですよね?そして、お隣が中岡慎太郎さん。お二人でどこかのお店や宿でのお食事は避けてください」
これ以上はまずいと思い、その場を去ろうと立ち上がった。
坂本「おまんは何者じゃ、敵ではないんじゃろ?」
瑠璃「敵ではありません。私はあなた方が命を懸けて作り上げた先から来た者です」
瑠璃はにこりと笑い、その場を去った。
これ以上いたら余計な話をしてしまいそうだったからだ。
しまった!此処はどこだろう…
結局、山崎くんが用で向かった先の路地でため息をつかれながら、彼から回収された。
「はぁ、たまたま俺が見つけたからよいものを。なぜ勝手に離れたのですか!」
「そんなに怒らないでください。あっ!」
「な、何ですか」
「私さっき坂本龍馬に会いました」
「それは本当か!」
「はい、人の良さそうな方でした」
「何か話したのか?」
「いえ。あ、ただ店で会合しないようにとだけ伝えました。信じてくれるかは分かりませんけど」
「そうか」
あ、この人何か知ってるな。
思い当たる事があると、こうやって遠くを見るんだよね。
「同じ観察の仕事するんですから隠し事はなし!ですよ?分かっていますか?」
「君には本当に敵わないな、斎藤組長の苦労が分かる」
「うっ、酷い」
「す、すまない。その、ただ羨ましたかっただけだっ。君は多くの人を惹きつけるっ。だから、そのっ。俺は何を言っているんだ!」
山崎くんは人に媚を売ったり、馴れ馴れしくするのが苦手です。
でも、本当はとても思いやりのある人だと知っています。
こうして、私の歩く速さに合わせてくれたり人通りの少ないところを選んでくれたり。彼は無愛想なジェントルマンなんです。
「山崎くん、色いろありがとうございます」
「あ、ああ」
表情は極力表に出さない、人から疎まれるくらいがいい。そう言い聞かせこの仕事を志願した。
だか、この男もまた瑠璃に出会い心を何かに触れられているような、不思議な感情を懐き始めていた。




