第三十六話 何となく分かる
大まかな歴史の流れを知っている私にとってここでの出来事はとても感慨深い。
山崎くんから聞いた高杉晋作の死去。
幕末を烈火の如く駆け抜けたのはまさに彼だ。
もし、彼が結核に冒されていなければ私がいた未来の日本は違っていたのだろうか。
いや、ちょっと待って、私がここに来てからはもはや皆が知っている幕末ではないのでは?
「瑠璃ちゃん、何やってるの?さっきから百面相見たいに眉間に皺寄せたり、目剥いたりさ。気持ち悪いんだけど」
「総司!入るときに声かけてよっ。」
「で、一人で何してたの」
「うん、なんて言ったらいいのかな…この時代に思いを馳せていた、かな」
「長州の誰かさんが死んだ事とか?」
「何で分かったの?もしかして、また心の声だだ漏れだった?」
「ううん、何でかな?心の声読まなくても分かっちゃうんだよね。迷惑なくらいに」
「なにそれ」
沖田は不思議と瑠璃の心の変化に気づいてしまうのだ。
前も行き詰まった瑠璃に最初に気づき、いつでも僕の肩貸してあげると声を掛けたのは彼だ。
しかし結局、土方の背中を借りて泣いたのだが。
「ねえ、もし瑠璃ちゃんが拾われた相手が一くんじゃなくて、高杉晋作だったらどうなってたのかな?」
「え?」
「君は高杉晋作の病を治してあげた?」
「う~ん、どうでしょう。治したかもしれなとしか言えないかな」
「彼の病、何か知ってる?」
「うん、総司がなったのと同じ…老咳」
「僕は君に出会えたから、生きてるんだよね」
「…」
「志半ばでこの世を去るって、耐え難いよね」
「私たちから見たら志半ばかもしれないけど、彼にしてみたら違うかもしれないよ?」
「そうかな…」
「彼はとてつもない思考の持ち主で、己の道を全速で駆け抜けたと思う。たまたま老咳だったけど、いつ死んでもおかしくない毎日だった筈。それは彼が選んだ道なの。総司が生きているのは偶然じゃないんだよ。私が選んで、一さんが選んで、そして総司が選んだ今なんだよ。うまく説明出来ないけど…」
「うん、何となく分かるかな」
「本当?でも、言葉って難しいね」
「どうして?」
「ん?なんとなく」
「ぷっ、さっきから僕たち何となくばかりじゃない」
「ふふふ、本当だね」
そう沖田なら多くを語らなくても分かってくれる。
恋人ではなく別の、家族のような見えない糸で繋っている。
そんな気がしていた。
「そろそろ部屋に戻ろうかな。一くんに斬られたくないし」
「縁起でもない事言わないでよ」
「だってさ、夕餉の時の一くん様子変だったでしょ?土方さんも斬られるかも」
「ちょっ、やだ」
「はは、冗談。でも、気をつけてね?」
ひらひら手を振って沖田は出ていった。
また何か予感でもしたのだろうか。
いつも彼が最初に何処からともなく顔を出すのである。
沖田もまた自分の変化に気づいていた。
不思議だな、なんで僕は瑠璃ちゃんの変化に気付くんだろ。
一緒にいても邪魔じゃないし、むしろ落ち着く。
側に居なくても通じ合ってるように思える。
好きだけど、恋仲の言う好きとはまた違う気がするんだよね。
まさか本当に血が繋がってるなんてないよね?
でも、同い年だからそれはないか。不思議な子だよ、本当に。




