第三十二話 改良型夢魔出現
徳川慶喜が上洛し、町のざわつきは前より増していた。
珍しく、副長自ら町を見回ると言う。
土方隊は臨時発足な為、直前に召集される。
七番組井上他二名、十番組原田他三名、山崎そして瑠璃。
土方「以上が俺と回る」
沖田「なんか土方さんが動くと、ろくな事が起きない気がするんですけど大丈夫ですか?瑠璃ちゃん気を付けてね」
土方「なんだと!」
沖田「よく見て下さいよ。土方さんと左之さんが一緒なんですよ?それに瑠璃ちゃんも。相当目立つよね?女の子たちが煩いと思うんですよ。仕事になるのかなぁ・・・」
瑠璃「た、確かに・・・」
原田「おい、そんな目で見るなって」
土方「お前もなんか文句あるのか」
瑠璃「文句と言いますか…、町の女子たちはお二人が通ると凄いんですよ?知りませんか?歩く時に、色気を出すのは禁止の方向でお願いします」
土方「俺は別に色気なんざ出した覚えはねえぞ!」
原田「こればっかりはな・・・」
藤堂「無意識に出ちまってるもんな、すげえよ」
永倉「羨ましいよ、なあ斎藤」
斎藤「・・・・」
そんなこんなで、出発です。
案の定、痛いほどの女子の視線を感じながら歩いております。
左之さんは無駄に胸、腕出し過ぎなんだと思う。
そこから色香がだだ漏れです。
土方さんはいつも以上に難しい顔で歩いている。
でも、町の女子はその渋さが堪らないと言っていましたよ?
しかも私たち洋装ですから尚更です。
すると、遠くで怒声のような悲鳴が!
「ぎやぁぉぁ!!」
人集りをかき分け中に割って入ると、
「うっ」
思わず手で口元を覆った。
血の海とはこの事だろうか、数名の男らしき(性別不明)者があり得ない様で殺されている。
引き裂かれたのか腱がだらりと剥き出しになり、骨が砕けたのか埃に塗れて周囲に散らばっていた。
どれが誰の腕なのか所謂、バラバラ死体だった。
原田「瑠璃、大丈夫か」
原田は咄嗟に瑠璃を背に隠した。
周囲を見渡すも競り合った形跡が見当たらない。
井上「これは酷い」
土方「人間がすることじゃねえよ。刀でここまで滅茶苦茶にはできねえがな」
皆、事態の酷さにうまく頭が回らないでいた。
しかもまだ日が高いうちからの出来事だ、誰か目撃者はいないのだろうか。
山崎「副長」
土方「山崎、何か分かったか」
山崎「はい、黒い塊がとてつもない速さでこの者たちを切り刻んだと」
土方「黒い塊?はっきりは見えなかった、ということか?」
山崎「・・・はい」
原田「見えないほど速いってどういうことだ」
井上「とにかく死体の始末と周辺を当る必要があるね」
瑠璃「黒い塊?」
瑠璃は恐る恐る、横たわっている人の瞳に手をかざす。
何か感じ取れるかもしれないと思ったのだ。
原田「おいっ!」
瑠璃「少しだけ待ってください。彼らが最後に見たものが、見えるかもしれません」
伝わってきたものは、とてつもない恐怖、痛み、苦しみそして黒い人の形をしたものだ。
赤く光る瞳、口から見える牙!手には長い爪、刀を振り回し、手当たり次第切り刻む、とてつもない力で跳ねるように近づく、速いっ!
瑠璃「くっ!」
瑠璃はその衝撃に耐えかねて手を離した。
土方「大丈夫か!」
倒れそうになった瑠璃を土方が支える。
嫌な汗がこめかみを伝う。
瑠璃「はぁ、はぁ、はぁ・・・こ、これっ」
原田「何か見えたのか」
瑠璃は二人を見上げながらただ頷くので精いっぱいだった。
山崎「副長、他に巡察中の組からも同様な報告が」
土方「これの(奉行所に)引き渡しが終わったら、一旦帰隊する」
山崎「御意」
私たちは屯所へ戻った。
一さんや総司も悲惨な現場を見たらしい。
平助も新八さんも、いたるところで惨劇が残されていたと。
まだ、昼間なのに・・・
土方「瑠璃、話せるか?」
瑠璃「はい、亡くなった人が残した残像は…」
近藤「それは、なんだ」
瑠璃「真っ黒な人の形をし、赤く光る瞳、牙、手には長い爪、刀を持ち、恐ろしい速さと力で切り刻んでいました」
僅かに手が震える。
瑠璃「それは、それはあの日、長州の藩邸で見た”夢魔”だと思います」
全員「なに!」
瑠璃「あの時のものより、今回のは何十倍にも強くなった夢魔です」
私たちの知らないところで昼夜問わずにに活動し恐ろしく強くなった夢魔が動き出していた。生身の人間では勝てないと思う。
そんな中、百合はある決心を固めていた。
この夢魔を生み出したサキュバを倒さなければならないと。
瑠璃がそれを知るのは、夜も更けた頃だった。




