第三十一話 将軍上洛
近頃、京の町は落ち着きがなく市中はざわつき、浮き立った人々や柄の悪い浪人も目立つ。
その所為か関所の仕事依頼、巡察の範囲拡大などで新選組は以前にも増して忙しくなっていた。
普段屯所で土方の小姓をしている瑠璃も三日に一度は巡察に借り出される。
瑠璃「行って参ります」
土方「おう、気を付けろよ。最近、柄の悪い連中が増えたからな」
瑠璃「はい!」
土方の指示により人数の多い十番組を二手に分けて回る事となった。
瑠璃はそのうちの一つを、組長代理で引き連れていた。
町人「慶喜様が上がられるらしい」
町人「なにが起こるのかねえ。もう戦はごめんだよ」
(慶喜って、徳川慶喜?なにしに来るんだろう・・・なんだっけ。えっと、・・・・忘れ、た)
最近の忙しさに、何故将軍が上洛するのか思い出せずにいた。
隊士「佐伯殿、将軍が上洛すると町中その話でもちきりです」
瑠璃「そのようですね、なんだか落ち着きませんね」
隊士「はい、また長州や薩摩の動きも警戒しなければなりませんね」
瑠璃「そう、ですね・・・」
途中、原田が率いる隊と合流し屯所へ戻った。
見回りの範囲が増えたせいもあり帰隊する頃には薄暗くなっていた。
本日の夜警当番は一番組と八番組だ。軽く引継ぎをする。
そして、巡察の報告をしに土方の部屋を訪れる。
これが組長の日課である。
原田「土方さん、いいか」
土方「おう、入れ」
瑠璃「失礼します」
将軍上洛の話、市中のざわつき、反幕府派の動きなどを報告した。
土方「山崎の話によると、将軍は天皇に主権を還すそうだ ・・・」
原田「そんな事になっちまってるのか」
瑠璃「あっ、大政奉還!!」
土方「知っているのか」
瑠璃「はい、土佐藩の山内豊範の勧めでこういった流れになったと学びました。因みに大政奉還を山内に勧めたのが後藤象二郎、後藤にその論を説いたのが坂本龍馬だと言われています。しかし、朝廷には政権を運営する能力がないので、引き続き幕府が権力を握るというわけです。
話すと長くなるので省略しますが、この後が大変ですよ!大政奉還の意味を問い、反発する藩が出てきます」
土方「薩摩や長州だろ」
瑠璃「はい」
原田「だろうな・・・」
瑠璃「でそもそも大政奉還自体が画作なのでは?と反発する藩も現れます。」
土方「会津、桑名、紀州あたりか」
瑠璃「そして、戦が勃発。先に新政府軍と名載る長州や薩摩が軍を上げるんですよ」
土方「…なるほどな」
やはり基本的な歴史は変わってなかったようだ。
土方は瑠璃の話を聞くと、再び机に向かった。
相変わらず、忙しい人だ。
「一さん、戻りました」
「……」
「あれ?居ない。どこに行ったんだろう」
「瑠璃さん、お帰りなさい」
「百合ちゃん、ただいま!」
可愛い妹のような存在をぎゅうっと抱きしめた。
「瑠璃さん、どうしたんですか?」
「ん?…ずっと一緒にいられたらいいのになって」
「…瑠璃さん」
百合ちゃんは少し悲しそうに俯いた。
「でもね、例えいつか離れる時が来たとしても、百合ちゃんは私の大切な妹だから。私は百合ちゃんが決めたことを、応援する」
「はい…、離れても瑠璃さんは私のお姉さんです」
「うん」
(百合ちゃん聞える?私の声…)
(はい!聞こえます!私にも瑠璃さんの声が)
(声に出さなくても、手が届かなくてもこうして心は繋がっている…だから何も怖くない)
瑠璃は予感していた、百合が神田と共にここを離れるだろうと。
(瑠璃さん、ありがとうございます…)
あと少ししかない時間を共に。
(ん?瑠璃と真田か、何をしているんだ)
「あっ、一さん見つけた!!」
「!?、な、なんだ」
「ただいまって言おうと来たのに、いらっしゃらないから…百合ちゃんに労ってもらっていたんです」
「そ、そうか…」
「お仕事ですか?」
「ああ、副長に頼まれた書物が少し残っている」
「そう、ですか…では、また」
「瑠璃っ」
「はい?」
「そのような顔をするな」
「へっ?」
「茶を、頼めるか?二人分…(俺と瑠璃の)」
「はいっ!」
二人を見て百合は思った。
斎藤は驚くほど瑠璃に甘い、あれが本当に三番組組長なのかと。
人は容易に人に影響され、知らず知らずに変わっていく。
そして自分も此処でその影響を充分に受けいる、と。




