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Time Trip to Another World 〜暁〜  作者: 蒼穹の使者
第一章 起承~京都・大阪編〜
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第三十話 体調不良

まだまだ、暑い夏は続く。

8月が終わったというのに、昼間は変わらず暑い。

打って変わって夜は涼しい。

その気温差に当てられたのか、疲労がたまったせいか体調がいまいちなこの頃。

これを俗にいう、夏バテというものだろう。


はぁ...食欲がいまいち湧かない、怠い、眠いのオンパレードです。

あの日見た化け物が夢に出てきて眠れない。

幸いなことに急務はなく、屯所の警護にあたったり百合ちゃんのお手伝いをしている。


「瑠璃さん?なんだか元気がないようですけど、大丈夫ですか?」

「うん。少し夏バテ気味だけど、大丈夫だよ」

「なつばて?」

「あれ、夏バテって言わないのかな・・・夏に溜まった疲れが出てるだけだと思う」

「そう、ですか。無理しないでくださいね」

「ありがとう、これだけ外に干してくるね」


特に熱もないし、そのうち治るだろうと思っていた。


秋とはいえまだ日が高い、瑠璃は気怠い身体に鞭を入れ中庭に出た。

竿にパサリと洗濯物を掛けると僅かな振動に脳がぐらぐらと揺れた。


「うっ、気持ち悪い」


思わずその場にしゃがみ込む。

本格的に気分が悪くなってきた。

頭を上げて立てる自信がなかった。

しばらく、こうしておこうと這って近くの木陰へ移動しへにゃりと座る。 

冷や汗が背中を伝うのが分かった。


「おい、其処に居るのは瑠璃か?何をしている」

「・・・ん。土方さん、お疲れ様です」

「おまえ顔色悪いぞ!具合悪いんじゃねえのかっ」

「ちょっと立ち眩みがして・・休憩中です」

「日がまだ強いからな、ほら部屋まで連れてってやるよ。手貸せ、立てるか?」

「すみませんっ。・・・(おえっ、頭痛い)」

「・・・・瑠璃?」

「だ、だめ。立てません。頭が痛い、立つと吐くっ」


土方はそっと瑠璃の頭を触る。

熱はねえなと呟いた後、軽々と瑠璃を抱えた。


「おまっ、軽いな。揺れるかもしれねえが少し我慢してくれ」

「・・ん」


瑠璃はそのまま気を失った。


「百合!」

「はい、えっ!瑠璃さん!?」

「山崎を呼んでくれ!」

「はい!」


ぐったりとした瑠璃を土方が抱えて戻ってきたのに驚いた。

百合が山崎を探しに走った。


「山崎さんはいらっしゃいませんか!」

「百合、どうしたそんなに慌てて。山崎なら山南さんのところに行ったぜ」

「原田さん、ありがとうございます!」

「おい、何かあったのか」

「瑠璃さんが倒れました!」

「なに!」


(斉藤)

(ん…左之か?)

(巡察まだ終わらねえのか)

(今から帰隊するところだが、何かあったのか)

(瑠璃が倒れたって百合が)

(倒れた!?それは確かか!)

(ああ、土方さんが今部屋で看てる、百合が山崎を呼びに行った)

(分かった、すぐに戻る)


山崎が様子を見るも、これといって施すことがない。

今は目が覚めるのを待つしかないと言うのだ。


「熱はない。だが、顔色が悪いな。体温が少し低いように思える」

「瑠璃さん」

「今は様子を見るしかありません。真田くん、体を冷やさないようお願いします。後で薬湯を持ってきます。眠ったままでも飲ませて下さい、水分を取らないと危険です」

「はい、分かりました。」


いつになく焦った表情で斎藤が戻った。


「斎藤」

「はっ、申し訳ございません。巡察の報告を…」

「いや、いい。特に変わったことは無かったんだろ?」

「はい」

「なら、瑠璃に付いてやれ。こいつが大人しいと調子が狂っちまう」

「副長」

「ん?」

「有難うございます」

「礼なんてされる事はしてねえよ。頼んだぞ」

「はい」


暫くすると、山崎が薬湯を持ってきた。

百合は夕餉の仕度へ向かっていない。


「斎藤組長、これを頼めますか?」

「ああ、喉元に流し込めば嚥下するのだな」

「はい、匙を置いておきます。少しづつ、ゆっくりです。時間がかかるかもしれませんが…」

「分かった」


山崎は静かに部屋を後にした。

瑠璃は飲み込んでくれるのだろうか。


「さ、これを飲むぞ」


上半身を起こし、右手に瑠璃を抱え喉を上に向かせると僅かに唇が開く。

匙で薬湯を少し掬い流し込む。

深い眠りなのか、要領が悪いのか喉が動かない。

口の横から流れ出てしまう。

何度か試したが、受け入れてはもらえない。


「瑠璃、飲まねば身体がもたん。頼む、飲んでくれ」


固く瞼を閉じた瑠璃は反応しない。


「前に薬湯が苦手だと言っていたな。俺が飲んだらあんたも飲むと言った。また俺も飲む。だから瑠璃も飲んでくれ…」


祈る様な思いで薬湯をほんの少し口に含む。

瑠璃の顎を下に引き、口を開ける。そのまま静かに、己の唇を瑠璃のそれに当てる。ゆっくりと唇を開き、瑠璃の中に流し込んだ。


押し出されないように、舌で奥を刺激してやる。


「コックっ」


喉が鳴る音が微かに聞こえた。


「飲んだか。」


俺は新たに薬湯を含み、それを繰り返す。

瑠璃はゆっくりではあったが、全てを飲んだ。

薄桃色の唇を拭ってやると、瑠璃が僅かに身じろいだ。


「んっ…うーん」

「瑠璃っ、聞こえるか?瑠璃っ」


瞼がビクビクと痙攣し、少しづつ瞳が開かれる。



「…は、じ、め、さ…ん?」

「ああ、瑠璃気がついたか。あんたは昼間倒れた」

「あ…確か土方さんに声をかけられて、そこから覚えていません。」

「ああ、副長が気づいて声を掛けたようだ。部屋に運んでくれたのも・・・副長だ」

「そうでしたか、後でお礼言わなきゃ。くっ…」

「どこか痛むのか」

「あ、頭が痛くて。」

「起きなくていい、まだ寝ていろ」


一さんは私を布団に寝かせた。

一さんの声は低く穏やかに、心に響く。心地いい。


「すみません、心配かけて。あっ、お仕事は」

「大丈夫だ、・・・本当に、心配した」


一さんの手が頬を撫で髪を梳く。

彼の深い蒼い瞳がゆらゆら揺れて、潤んで見えた。

私は少し震える手を一さんの頬に伸ばした。


「泣いて、る…」

「っ、泣いてなどいない」

「泣かないで…私は何処にも行かない、から」

「瑠璃」


斎藤は瑠璃を抱きしめた、強く強く。

瑠璃は突然この時代にやってきたのだ。

またいつ、突然いなくなるかもしれない。

そんな不安を掻き消すように、強く。


そして、夕餉が整ったと百合ちゃんが呼びに来た。

一さんは躊躇ったけど、百合ちゃんが代わりに付いてくれると言うので静かに部屋を出た。


「瑠璃さん、目が覚めてよかったです。みなさん、心配していました。私がもっと早くに気づいていれば」

「百合ちゃんの所為じゃないよ。私の体調管理不足なんだから。ね?」

「瑠璃さん、お腹空かないですか?お粥作ってあるんです。」

「嬉しい、少しなら食べれるかも。百合ちゃんもまだでしょ?一緒にここで食べよ?」

「はい、そうします。ふふ」


こうして百合ちゃんとお粥を食べた。

半分しか、食べられなかったけど少し元気が出た。

頭痛もいつの間にか止まっていた。

でもまだ怠くて眠いので、また横になりました。


翌朝、

たくさん寝たので、少し早くに目が覚めた。

お手洗いに行こうかな。

ゆっくり立つと、ふわふわした感じだけど大丈夫そう。

お手洗いを終えて、部屋に戻る途中、


「瑠璃、大丈夫なのか?」

「あっ、土方さん。はい、少しは動けるようになりました。昨日は助けて頂いて、ありがとうございます」

「ああ、礼には及ばねえよ。あれも副長の仕事だ」

「ふふ、副長って大変ですね」

「まあな」


そう言う土方さんは少し照れているのか、ガシガシと頭を掻いている。

可愛い人だ。


「まだ無理するなよ、斎藤まで死にそうな顔してたぞ」

「はい。今回は甘えます」


頭を下げ、土方さんと別れた。

突然どこかの部屋の障子がすうっと開いた。

驚いて、ふらつく私を一さんが抱き留める。


「瑠璃、何をしている。寝ていろと言っただろ」

「わっ、すみません。でも、こればかりは行かないわけには行かず…」

「…そ、そうか。すまん」

「いえ」

「…、…」

「あの」

「冷える、此処へ」


俺の部屋へ入れと言う斎藤。

いつも言葉は少ないが彼の心は瑠璃によって(ほぐ)されてしまったようだ。


「一さんの匂いがします」

「なっ、そ、そうか」 

「はい、とても安心できます」

「しかし、瑠璃は他人(ひと)の事は治せても自分の事となると全く駄目なのだな」

「えっ…ああ!!そうか、そういことか!」

「ど、どうした」

「私、忘れていました。治癒力の事!手伝ってくださいまさんか?」

「手伝う?」

「一さんの気を少し分けて欲しいんです」

「気を分ける」

「はい」


一さんと向かい合って、お互いの気を交える。

一さんの気は温かく、少しづつ身体が軽くなる。

はぁ……何で、気づかなかったんだろ。


「一さん、重ね重ねありがとうございます」


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