第三話 自己紹介
結局あまり眠れずに朝を迎えた。
はぁとため息をひとつ、すると誰かがこちらの部屋へ近づいてくる。
なんだかとても気配に敏感になった気がする。
ガタッ、スーっと障子が開く。
「起きてるかな、開けるよ」
(言い終わる前に開けてるんですけど)
「はい、起きていますって、え?」
「はは、誰って顔してるね。はじめまして僕、沖田総司と言います。よろしくね」
「おきたそうじ。あ、私は佐伯「瑠璃ちゃん!」えっ!」
「知ってるよ君の名前。はじめくんから聞いたから。さ、みんな待ってるから行くよ」
「斎藤さんか。みんなって、どこに行くんですか」
「今から朝餉。ついでに君のこと尋問するんだよ。嫌とは言わせないけど」
沖田と言う男はにこにこしているが今ひとつ考えが読めない。
こちらを試しているのか、からかっているのか。
「嫌とは言わないですけど」
そう言い返すと、その男はぐっと近づいてきて私の顔を覗きこむ。
思った以上に背が高く、瞳は深緑がかって鼻筋が通り整った顔立ちをしている。俗に言う、イケメンだ!
「君、僕の事怖くないの?」
「は?」
「まぁいいや。皆を待たせてあるし、行くよ」
私は沖田さんの後を着いて行った。
広間には既ににメンバーらしい人たちが揃っており、こちらを一斉に振り返る。
全員男!ここに女性はいないのか!
それから、今更ではあるけれど全員着物だった。
待って!そんな私も着物を着ている!
少し焦りながらも、言われた場所に静かに座った。
「ははっ、そんなに緊張せんでもいいぞ。まずは各々の名を名乗ろうではないか」
豪快で笑顔が素敵なおじさんが順に紹介を始めた。
おじさんの名は近藤勇で局長をしているらしい。
以下が、
・山南敬介 総長
・土方歳三 副長
・沖田総司 一番組組長
・永倉新八 二番組組長
・斎藤一 三番組組長
・井上源三郎 六番組組長
・藤堂平助 八番組組長
・原田左之助 十番組組長
・山崎烝 監察
・島田魁 監察
・真田百合 給仕係
何番かが抜けているようだけれど、聞かない方がよいのだろう。
給仕係?女の人いた!綺麗な人ですね。
いやいや、それよりもこれはかの有名な『新選組!』
ぽかんと開いた口が塞がらない。
かなり驚いています。
「と言う訳で我らはこのような感じだ。はは」
「近藤さんが自己紹介してどうするんだ、まったく」
「あの、もしかして皆さんは新選組だったりしますか」
「知ってるのか!俺らのこと」
「私がいた世界でも有名でしたよ、みなさん」
「へぇ、すげえじゃん。どんな風に有名だったんだ」
「後世、皆さんの活躍はいいように美化され映画とかアニメとかにまでなっています」
「えいが?あにめ?」
「と、とにかく、有名でしたっ」
「君、本当に未来から来たの?」
「恐らく・・・」
「信じられねえな、まさかお前どこかの間者じゃねえだろな」
「かんじゃ?かんじゃ、とは?」
「密偵ではないのかと聞いている」
「密偵って、だったらあんな場所で倒れたりしないし、みなさん何かまずいことしてるんですか?えっ、私は密偵なの?」
だめだ、混乱してきた。
うまく説明できない上に自分を見失いかけている。
「皆さん少し落ち着いてください。彼女は混乱しています。本当に分からないのかもしれません」
山南さんと言う方が助け舟を出してくれたけど、私にはまずこの時代の情報が必要だと思う。
時は文久が終わって元治元年だと言われた。
西暦では何年?
未だここは映画村なんじゃないかと疑いつつ。
「とにかく正体不明のお前を放りだすわけにはいかねぇ、お前の身柄は新選組が預かる。妙な真似はするな!その時は女だろうが関係なくお前を斬る!分かったか」
「!?」
「おいトシ、それは脅しではないか。女子相手にやめんか」
「これぐらい言っておかねえと、ふらふら出てって変な輩に捕まっちまうだろが」
「いやだが、その言い方はいかんぞ」
この人たちは怖い人たちなのか、優しい人たちなのかまだ私は掴めていない。
あんなに凄みを効かせた副長さんを尻目に皆さん普通に朝ごはんを食べています。
よく喉を通りますねと言いたい。
「佐伯って言ったか?下の名は?」
「瑠璃です」
「良い名だな。瑠璃も飯食えよ。ほら」
隣に座るこの人は、十番組の原田さん。
優しそうな人だ。
あぁ、それから今気づきました。
彼ら全員が恐ろしいくらいに”イケメン”です。
夜ここへ来たので気付きませんでしたが、本当に容姿端麗とはこのことで皆さん本当に昔の人なの?
ウィキペディアと違うんですけど!
取り敢えず軟禁状態の私は部屋へ戻るために廊下に出た。
出たはいいけれど、全部同じ風景にしか見えない!
どちらから来たのだろうか。
すると後ろから控えめな声で、
「あの、もしかして迷いましたか?」
「えっ、あっ。はい、迷ってしまったみたいです」
「私も初めて来たときは迷いました。ご案内しますね」
「お願いします」
この人が唯一の女性で真田さんと言った。
でも、男所帯だから男装しているらしい。
私もこの後、同じく袴を履くことになっている。
着物より袴の方が動きやすいからいいけれど、たったこれだけでバレないのだろうか。
「あの佐伯さんは私と同じ部屋を使うように言われています。よろしいでしょうか」
「えっ、はい。大丈夫です。その方が心強いです。私ここの生活がよく分からなくて」
「よかった、あっ、ここです。」
案内された部屋はきれいに整理されていた。
広くも狭くもないが二間に分かれている。
奥で寝るという作りのようだ。
来る途中に厠の場所を聞いたし、お風呂もあるらしい。
でも、もう何処が何処だか忘れてしまった。
それくらい作りが同じで曲がっても曲がっても同じ景色。
真田さんはとても優しい人で、何も分からない私に丁寧に教えてくれた。着物の着方、結い紐の結び方、この時代の言葉、習慣。
そして彼女がどうしてここで働いているのか。
こんな怪しい私の話をを疑うこともなく、真剣に聞いてくれた。
彼女のお陰で少し元気が出てきた気がする。
その頃、二人の話を聞いていた観察の山崎が土方に報告をしていた。
「なるほどな。しかし本当に違う世から来たっていうのか」
「私にもそのような事が起こりうるのか分りかねますが、彼女に他意はないようです。」
「しばらくは様子見るしかねえな。引き続き頼んだぞ」
「御意」
この時代の時間の流れはとても遅い。
まだ昼にもなってないないだろう。
時計がない、どれくらい時間が経ったのか分からない。
(一刻、江戸時代では約2時間を表す)
少し頭を整理してみた。
新選組がいるなら、この時代は乱世だ。
幕府が倒れるのだから。
私の記憶が正しければ、池田屋事件が起きて、慶喜が上洛して、逃げて、後は江戸に戻り分散し、江戸城無血開城、北上して蝦夷で終結か。
なんか嫌だな私は新選組贔屓だもん、友達は長州好きだったな。
高杉晋作LOVEなだけか。沖田さん本当に結核になるのかな。
有名だよね悲劇の剣士、ここ本当にあの幕末なの?
あれこれ考えていたらお昼になったようで、真田さんが呼びに来た。
また、あのイケメン達と顔を合わせるのだ。
イケメンは好きだけど、あそこまで揃うと引く。




