第二十九話 破滅と破壊の神【サキュバ】
ある日の夜、夜勤組が出かけ皆が寝静まった頃、静かに障子が開く音がする。
”ススー”
百合の後ろ姿が見えた。
(厠かな・・・)
四半刻程が過ぎても戻る気配がない。
さすがに遅いと思い、様子を見に出た。
中庭へ続く廊下を通り、裏手へ回ろうとした時、
「百合、何故を浮かない顔をしておる。話してみよ」
(あぁぁぁぁ!神田ぁぁぁぁ。)
総司の言葉を思いだし、出て行きそうにるのを押さえた。
「あの、神田さんは羅刹天としてこれからどう生きていきたいですか?」
「ふん、くだらん。極力、人間どもとは接することなく我が郷にて静かに暮らす、それだけだ」
「そう、ですか」
「なぜ、そのようなことを聞く」
「夢魔と言う化物を知っていますか?人間の血と特殊な能力を持った者の血で生まれた…」
「ほう、もう知っていたか」
「彼らは何をしようとしているのでしょうか」
「お前が知ってどうする!我らとは関係のない事だ」
「しかし、もし世に反することであれば止めたいんです!」
「お前には止めることは出来ん。あの化物を作ったのは、サキュバと言う破滅と破壊の神だぞ。アレを使ってこの世を征服しようとしている。
それは人間どもの運命だ、我らとは違う世の話だ。サキュバは使い物にならなくなったものは平気で捨てる。そして新たな夢魔を作る。人の世の均等はあやつの所為で壊れようとしているのだ」
「そ、そんな・・・」
「お前の父と母は…薩摩の人間に売られたのだぞ。恐らくその血が使われているのであろう。だが、相手がサキュバと知れば我らではどうにも出来ぬ。それでも、お前は人の世を救いたいのか」
「うっ、私はそれでも人の世を救いたいんです。私は…人の世に育まれてここまで来たのです。憎むべき相手はサキュバです」
「…ふん、お前は人間に当てられたか。だが、それも悪くない。所詮、運命は変えられぬのだ。救世主がこの世に現れたならば、我らは下僕となり疾走するまで。百合一緒に来るのだ」
「神田さん…」
「今、決めずともよい。いづれまた来る」
(サキュバって?破滅と破壊の神…百合ちゃんの両親は薩摩に売られたの!?どういう事?)
そして、神田は煙のように消えた。
瑠璃は百合に気づかれぬ様に部屋に戻った。
翌朝、
昨夜のことが頭から離れず悶々と考え込んでいた。
だからあまり前が見えていなかったのです。
ゴッ!
「痛っ、つー。え?きゃぁ!」
バタンッ!
曲がり角で柱に激突、よろけて障子を突き破ってしまう。
瑠璃「痛ったぁぁ。アタタタタ」
あまりもの痛さでうずくまる。
永倉「うぉっ!瑠璃ちゃんじゃねえか。何やってんだ!」
瑠璃「新八さん(涙目)、痛いぃ」
藤堂「お、新八っあん、瑠璃!何やってんだよ。ってか瑠璃泣いてんじゃん!」
原田「おいおい、お前ら朝から煩せえよ・・・」
藤堂「左之さん、新八っぁんが瑠璃泣かしてんだぜ」
原田「なんだと?あっ、てめえ障子壊れて・・・押し倒したのか!!」
永倉「おいおい待てって、なんでそうなるんだよ!俺が来たときはもうこうなってたんだよ」
藤堂「俺、一くん呼んでくる!」
瑠璃「ちょ、平助!待ってよ。痛ったぁ…左之さん、平助止めて。誤解、誤解だからっ」
原田「そうなのか、おい!へえすけぇ」
そこへ総司が通りかかる。
沖田「瑠璃ちゃん考え事しながら歩いちゃだめじゃない。おでこ大丈夫?見せて、ほら」
瑠璃「見てたの?」
沖田「ん?見えたの。あぁ、ちょっと膨らんでるよココ(つんつん)」
瑠璃「痛いよ、触らないでよ」
永倉「本当に腫れてんな。冷やした方がいいぜ」
瑠璃「はい、そうします。新八さん何かすみません」
瑠璃は目尻から涙を零しながら、永倉に詫びる。
永倉「っ///(赤面)。ああ、き、気にすんな」
そこへ、彼らが戻ってきた。
あれっ、一さん刀持ってるけど?
誤解、誤解溶けてないの!? 左之さんを見る。
原田「悪い、時すでに遅しだ」
瑠璃「え、平助?」
藤堂「ごめん。訂正したんだけど、さ。信じてもらえなかったっつうか・・・ははっ」
もう、どうするのよ!
ああ、私が悪いのか、原因は私か!
土下座だ土下座、何度でもしてやるよ!
ザ・土下座。
「ごめんなさい!!新八さんは何も悪くありませんっ。以上!」
斎藤「なっ・・・・・(硬直)」
私は額を押さえながらその場を去った。
だって、ややこしいよ。
山崎くんいないかな、湿布みたいなもの持ってないかなぁ。
土方「おい、お前らここで何してんだ。斎藤はなんで朝から刀抜いてんだよ!私闘はご法度だろうがっ」
沖田「誰かさんに振り回されたんですよ。あぁ面白かった」
土方「瑠璃か?…はぁったく大の大人が揃いに揃って」
原田「新八。悪かったな」
永倉「あ、ああ。大したことじゃ、ねえ、よ?」
藤堂「・・・っ、あはは。はは」
斎藤「す、すまん」




