第二十八話 夢魔
禁門の変を阻止した新選組は独立した。
幕府にも、会津藩にも、そして反幕府軍にも属さない。
こうして、私が知る歴史の一部が変わった。
禁門の変という言葉も歴史から消えた事になる。
長州では高杉晋作と言う男が奇兵隊という軍を作り下関沖で訓練しているらしい。
最近では異国の船に大砲を打ち込んだとか。
そして、彼は先日の事件には関係していないようだった。
さて、独立した新選組は謂わば中立の立場を取る。
人道に反することはどこの派閥であろうと許さない。
己の誠に恥じぬように、との局長のお言葉を胸に。
資金繰りは相変わらず厳しかったけれど町民たちの新選組の見る目は変わった。
時々、差し入れといって作物や反物などをくださる。
そして、あの恐ろしい新選組の法律でもある”局中法度” これに反するものは切腹!
誰がこんな恐ろしい規律を考えたのか、それは泣く子も黙る鬼の副長さんだったんです。
しかし、切腹を撤廃し代わりに離隊または謹慎と改定。
よかった…
あれから山崎くんが黒マントの事、謎の小瓶薬の事を調べそれを飲んだ人間の事を話してくれた。
あの液体を飲むと、体内の細胞が極限まで進化する。
液体の中身は人間の血と特殊な能力を持った者の血を混ぜた物であるということだった。
特殊な能力を持った者の血…
それが誰を何を指しているのかはまだ分からない。
人間が人間でなくなるとても恐ろしい薬だ。
彼らはそれを”夢魔”と呼んでいるらしい。
それを長州と薩摩の一部の人間が使い始めたのだとか。
瑠璃「長州や薩摩はそんな恐ろしい物を使って、倒幕を計ろうとしているなんて、信じられない」
山南「とても大きな野望をお持ちかもしれませんね」
永倉「まさか、それで国を支配しようってことはねえよな」
全員「・・・」
沖田「あの神田って言う鬼たちは最近静かだけど、彼らはも関係しているのかな?」
百合「ち、違います!」
瑠璃「え!?」
まさかここで、百合が発言するとは誰も思わなかった。
百合「彼らは、私もそうですけど生きている世界が違います。どちらかと言えば悪い方に入りますけど、人間を傷つけたり、利用することはあり得ません!だから、手を組むなんてことは考えられないと思います」
土方「それはお前の見解か」
百合「うっ、あ、はい…」
瑠璃「・・・?」
原田「ま、百合の言う通りかもしれねえし、違うかもしれねえ。実際の所はまだ何も分からねえ」
沖田「・・・」
斎藤「我々はその夢魔に遭遇した時、どのように対処したらよろしいのでしょうか」
土方「そうだな、奴らは狂っちまってる。すでに町でも何人かやられている。俺たちはそいつらを消すしかねえ」
近藤「現状はそうするしか仕方あるまい。同時に黒服の男を探し、なんとか止めされなければならんな」
山南「これが軍を持つ藩が次々に手に入れれば、世も末、ですね」
藤堂「山南さん怖えぇよ・・・」
そして、当面の間は夜の巡察に人手を増やし薩長の動向も探る。
そして神田に会ったら知ってること全部吐かせる(←だ、誰が?)
夢魔、無理やりそうさせられた人ばかりだ。
人としての感情や身体を奪われた者たち、ただ心臓を貫きこの世から消し去るだけで良いのだろうか。
「ねえ、瑠璃ちゃん」
「総司、どうしたの?」
「さっき、百合ちゃん変だなぁって思わなかった」
「え、どうしてそれを」
「あの子、何か隠してるよね・・・」
(さすが総司だよね、すぐ気づくんだもの)
「まあね、ちょっと気を付けて見ておいてよ」
「うん、って、ちょと!人の心読むの止めてよ」
「読んでないよ。読まなくったって君の考えてることは丸見えだからね」
「丸見・・・え?」
けらけら笑いながら去って行った。
「はじめさぁぁん」
「なんだその声は、隊士が聞いたらどうする」
「あの、私って丸見えですか?」
「・・・。ど、どういう意味だ」
「はぁあああ」
瑠璃は深いため息をついて、肩を落としている。
「おっ、お前ら何やってんだ」
「左之さん!私って丸見えですか?」
「あ?そうだなぁ、ちと気を付けた方がいいかもな」
「そうですかぁ・・・」
「左之、何が丸見えなのだっ」
「お?はは、瑠璃のココのことだろ」
原田は頭を指差して見せる。
「・・・ああ、ソコか」
「おーい、瑠璃。団子貰ったんだけど一緒に食わねえか」
「平助!食べる!食べる!百合ちゃんも呼んでくるね」
「おお待ってるぞ」
原田・斎藤「・・・」
原田と斎藤はそのやり取りを見て唖然とした。
「なあ、斎藤」
「あ、ああ」
「あいつって、よ」
「ああ」
「落ち込んでた、よな?」
「そうだった気がするが」
「どうやったら、あんなに早く切り替われるんだ」
「・・・」
「おい!お前ら、なに固まってんだ」
「おお、土方さんか。いや瑠璃の頭ん中どうなってんのかってよ」
「頭?・・・分からねえ方がいいんじゃねえか。」
「ど、どういう意味でしょうか」
「分かったって、俺らの手には負えねえよ。なんかあったら、そん時は斎藤がなんとかしてくれるだろ。なあ?」
「さ、最善を尽くします」
土方と原田は思った
斎藤のような男にしか瑠璃の手綱は操れないと




