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Time Trip to Another World 〜暁〜  作者: 蒼穹の使者
第一章 起承~京都・大阪編〜
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第二十六話 化け物出現!

京の街が静まり返った頃、巡察を装った新選組が出発した。

気づかれてはならないため、隊士も選ばれた者のみ。

山崎と瑠璃が屋敷の中枢にたどり着くまで各隊の配置場所付近を巡察することになっている。


「瑠璃くん、いいか、行くぞっ」

「了解」


音も立てず、闇に紛れる二人。

風もない七月の夜は蒸暑く、額から汗が流れる。

この時代の屋根は瓦で庭には砂利が引いてある。


「山崎くんはいつもどうやって侵入してるの。音出ないの?」

「まあ、慣れだな。体の体重をどこにかけるかで音は出ない」

「へえ、さすが忍び」

「俺は忍びではないっ」


ここでは授かった能力を発揮しないと命取りとなる。

瑠璃はふと目の前の塀を見上げこれなら行けると確信する。


「私が内から開けるので待っていてください」

「まさか、この塀を越えるつもりなのか!」


瑠璃は軽く跳躍するとふわりと舞い上がった。

塀を越え音もなく着地する、まるで綿毛のように。

そして、門の小口戸が静かに開けらた。


「き、君こそ忍びだな。いや、それ以上だ」 


山崎はいつもより大きく目を見開いて驚く。

山崎の的確な誘導のもと、それらしい部屋に着いた。

そこには十数名の藩士たちが集まっていた。


「なるほど、副長に報告を」

「えっ?なにがなるほどなの」

「ああ、すみません。正門の隣にある大きな建物に武器を持ち込んでいるようです」

「へぇ・・って、まさか読唇術(どくしんじゅつ)!?」

「そういうことだ。君は心で会話できるだろ、早く報告を」


(土方副長!)

(瑠璃か!どうした)

(正門の隣に大きな建物があるはずです。そこが武器庫のようです。)

(分かった。聞こえたかっ!原田っ)

(ああ、ちょうどここから見えるぜ)

(手薄になったところを叩け!お前に任せる、機は逃すなよ)

(了解)

(瑠璃、そこには何人いる)

(えっと、十二人。皆、刀を差しています。もしかしたら銃も持っているかもしれません)

(思ったより多いな)

(斎藤!総司!派手にやらなくていい、突入しろ。後で落ち合う)

(はい)(了解)


まだ、彼らには気づかれていない。

そこへ全身黒づくめで、マントを着た男が現れる。

その男は懐から怪しげな小瓶を出した。何か言っている。

山崎の顔を伺ったが、首を横に振るだけ。

口元が見えない為、読めないのだ。


その男は隣にいた男に小瓶を差しだす。

男は嫌がっているようだ。

数名に取り押さえられ、無理やり中身を口の中に流し込まれた。


「うあっ、ぐはっ。ああああ!!!」


突然、叫びもがく男。

あっという間に男は白髪となり、見開いた目が赤い。

口を開けたその中から牙が見え、肌は老人の様に皺が入っていた。


「!?」


とても嫌な予感がした。

気配を消していたはずなのに、その化け物がこちらを振り返る。

目が合った!!


(まずいっ)


化け物は唸り声を上げながら刀を振り上げ、こちらを睨んでいる。


「気づかれたかっ」

「うん、()るしかないかな」


化け物の隣で黒マントの男もこちらを見つめにやりと笑う。


「ほう、鼠が潜り込んでいましたか。さあ、お前の力を見せてやりなさい!」


皆が来るまで、何とか持ちこたえなければっ!


山崎は素早い身のこなしで、周りの者たちをかき回す。

しかし、彼らだって一端の武士ではないのだ二人でこの人数を相手にするのは厳しい。

まともにやりあっては体力が持たない。

瑠璃は考えた、せめて動きを止められればと。


あっ!?そうか! いつかの教本に書いてあった・・・

 ”弾指神通だんししんつう” 

指先に気を集中させ、空を弾くように放つ 。

気の固まりで人のツボを突いたり、暗器を飛ばしたりできる技だ。

中国のいつの時代か知らないけれどこんな秘技があったなんてすごい。

一人、また一人と動きを封じる。


「ほう・・・あなたは」


黒マントの男は不適な笑みを見せ、消えた。


化け物は奇声をあげ暴れだす、制御不能だ。

山崎は懐から暗器を投げる。


ズサ、 ズサッ、命中した!

が、刺さったはずの暗器が化け物の身体に吸い込まれていく。

瑠璃は動きを封じようと試みるが、すぐに術が解けてしまう。

異様な雰囲気を醸し出している。恐ろしい。


「はあ、はあ・・・大丈夫か」

「はい、何か弱点とかないんですかね?」


化け物の動きも早くすぐに間合いを詰められる。

瑠璃は腰に差した刀に手を掛けた。

まだ一度も斬った事はない。 

しかし躊躇ためらっている場合ではなかった。

刀を抜き力を込めるとめりめりと剣先に気が集まるのが分かる。

ああ、私もこの化け物とさほど変わらない悲壮感が込み上げてくる。


その時、斎藤率いる三番隊が到着した。


「瑠璃っ!」


瑠璃が刀を抜いている!

瞳が黄金色に光り異常なまでの気を放っている。

ただ事ではない状況だと見て取れる。

目前に迫る相手は、恐ろしい風体の化け物だった。

瑠璃が斬ろうと間合いを詰めた!


シュンッ!キーン!ズサッ・・・・、、ドサッ。


化け物は心臓を貫かれ崩れ落ちる。そして、灰となった。

斬ったのは斎藤だった。


「一さん!」

「瑠璃、大事はないか?」

「はい、大丈夫です。でも、さっきの」

「ああ」


私は灰になったそれをじっと見つめていた。

それはさっきまで人だったはずの物。


「山崎!」

「副長、沖田さんに原田さん」

「大丈夫か」

「はい、ただ説明しきれない事態が起きまして」


土方は辺りを巡視する。

山崎の言わんとする事を確かめるためだった。


土方「帰隊後、話を聞く。で、そこで固まっちまった奴らはなんだ」

瑠璃「あっ、すみません。もう少ししたら動き出すと思います」

沖田「もしかして、それ瑠璃ちゃんの仕業なの?」

瑠璃「そう、なりますね」

原田「どこでこんな技身に着けたんだよ」

瑠璃「はは・・・それより、早く縛らないと解けちゃいますよ」


こうして、松平藩士を陥れようとした者たちは新選組によって会津藩へ引き渡された。

抑えた武器の半分は新選組への報酬となった。

半分とはいえ、西洋式で優れた代物である。

大した怪我人もなく任務は完了。


東の空が白み始めた頃、ようやく屯所に戻ったのだった。

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