第二十五話 阻止せよ!禁門の変
暑さが増し始めた頃、長州軍は再び京へ向けて進軍を開始した。
7月中旬を迎えようとしたある日の事。
山崎「長州軍は15日夕刻には、京に入ると思われます」
土方「いよいよか。あっちの藩内はどんな具合だ」
山崎「これが敷地の見取り図です」
土方「なるほどな、結構複雑だな。人数は」
山崎「はい、人数はざっと見積もってもこちらの倍。門を突破するだけでも至難かと・・・」
土方「うむ、悪いが幹部連中を集めてくれ」
山崎「御意!」
土方が召集をかけ、幹部が広間に集まる。
土方「揃ったな!瑠璃お前はこっちに来い」
瑠璃「はい」
土方「山崎からの報告では明後日、長州軍が京に入る。人数はこっちの倍、これが長州藩の敷地図だ」
斎藤「広いうえに、複雑ですね」
原田「なんだこれ、門からけっこうあるじゃねえか」
永倉「守衛も多いだろうからな短時間でって言われると厳しいな」
藤堂「これ裏口とかないのかよ?」
沖田「これじゃない?でも、濠を越えないと近づけないね。なにこれ!忍者屋敷?」
土方「まあ、簡単には中枢に近づけねえ造りだ」
瑠璃「こんなお屋敷があったんですね。ここを屯所にしたかったですね」
全員「・・・・(確かに)」
山南「しかし、どう切り込みますか。夜襲は夜目が利かなければなりません。灯りを灯すわけにはいきませんしからね」
沖田「夜目ね、山崎くんくらいしか思いつかないんだけど?」
山崎「・・・・」
近藤「しかしあれだな、こうまで複雑とは」
想像以上に複雑な造りに皆が驚く。
いつ誰がこのように複雑な屋敷を造り上げたのか。
沖田が言うように忍者屋敷と言っても過言ではなかった。
瑠璃「でも、明後日到着する長州軍はまだ屋敷に精通してないと思うのですが」
近藤「瑠璃くんが言うようにあちらも来てすぐで把握はできんだろ。ましてや平隊士たちまでは」
瑠璃「あちらの藩士級の人を捉えれば、下級の者たちは動けないはずですよね」
斎藤「なにか、案があるのか?」
瑠璃「山崎くんと私が先に中枢部に忍び込むんです」
斎藤「無茶だろう!」
瑠璃「でも、誰にも気づかれずに忍び込めて、夜目が利くとなると他に誰がいますか?それに皆さんには、武器関係を抑えてもらわなくてはなりませんし」
土方「なるほどな・・・でも、お前」
瑠璃「大丈夫です、身軽な私たちに任せてください。それに何かあっても伝達は心で出来ますから」
原田「瑠璃が言うと、すげえ簡単に聞こえちまうんだけどよ」
沖田「いいんじゃない?何かあったら僕らが気を引けばいいんだから」
瑠璃「では、決まりですね」
斎藤「瑠璃、あんたは・・・」
山崎「大丈夫でしょうか、副長」
土方「まあ、やるしかねえだろ」
近藤「では、みな準備は抜かりなく!君たちは退路を必ず確保するんだ、いいな」
瑠璃「はい!お任せください」
山崎「はっ」
敵陣の中枢へ忍び込み藩士、ないし幹部を抑えれば一般隊士は身動きが取れない。
そうして外枠から囲い込み逃げられない様にするという作戦だ。
瑠璃「山崎くん」
山崎「なんだ」
瑠璃「私そういう地図読むの苦手なんですよ。だから宜しくお願いします」
山崎「なっ、瑠璃くん。君は無鉄砲すぎるぞ」
斎藤「どうした山崎、瑠璃がどうかしたか」
山崎「斎藤組長!彼女の楽観的な思考はどうにかなりませんかっ!」
斎藤「っ、そ、それは俺とて悩んでおる。瑠璃、ん?どこへ行った」
二人は少し似ているところがある。
真面目で融通が利きづらいところとか。
だからこそ信頼できるのだけれど。
それはそうと、いい加減こちらの文字を学ばなければせっかく機密書類を見つけても読めないじゃあ話にならない。
山南さんに教わろうか?
取りあえず、平仮名だけでも読めるようにならなくては。
そして、作戦決行の日の朝を迎えた。
隊士たちは久しぶりに捕物だと高揚している。
それに反して瑠璃は緊張を隠せなかった。
山崎くんどこに行ったんだろう?
彼は忙しいからきっと出動する直前にしか現れないんだろう。
相棒の忙しさに 少し心もとなさを覚える。
「瑠璃くん」
「山崎くん!どうしたんですか」
「今夜ですよ。流石に俺も直前になっての君との合流では不安です。せめて刻限まで君と行動を共にした方がよいかと思ったので」
「え・・・優しいですね。山崎くん」
「い、いや。その、君の行動を把握する必要があるからだ」
「ふふ、よろしくお願いいたします」
和やかに見えるが命懸けになるのは間違いないのだ。
相手は長州だ、刀だけでなく銃も持っているだろう。
準備が整い局長の出動命令を待つばかりとなった。
百合は皆の分の握り飯を準備していた、夜明けまで戻れないからだ。
「瑠璃、これを」
「これは?」
「俺の刀だ。これなら普通の刀より長くない故、瑠璃にも扱えるだろう」
「これ一さんのでしょう。いいんですか?」
「構わん、もともと予備に置いてあったものだ。手入れはしてある、大丈夫だ」
「では、お借りします」
瑠璃は斎藤に習って刀を右に差した。
斎藤は驚いたが、これまで刀など持ったことがなかった瑠璃にとって
左右どちらに差そうとも支障はない。
ただ、斎藤と揃いにしたかったのだ。
斎藤の刀を差すと、守られているようで心強かった。
近藤「これより長州軍の横暴を止めるため、我ら新選組は出動する!被害は最小限に抑え、短時間で帰還するように」
全員「はい!」
土方「今から言う通りに隊は別れろ」
土方「一番隊、沖田他十名、西門にて待機。三番隊、斎藤他十二名、南門にて待機。七番、十番隊、原田他三十名、北門にて待機。近藤さんは源さんと原田隊と共に待機する。二番隊、永倉組は八番組藤堂他二十名で濠出口を固めろ。俺は残り八名と東門にて待機。合図は瑠璃と山崎が辿り着いた直後だ!瑠璃いいな」
瑠璃「はい、状況は随時連絡します。突入時は皆さんお気をつけて」
土方「機はお前と山崎にかかっている。だが、無理はするな。例えお前らがしくじっても力でなんとかしてやるさ」
沖田「うん、僕たちを信じて」
瑠璃「はい!」
皆の士気が最高潮に達しようとしていた。
瑠璃「では、ご用改めの前に私からひとつ出撃前の儀式です。皆が無事で戻るように。さっ、こちらへ」
全員「なんだ?」
瑠璃が目を閉じ大きく円を描くように腕を回すと黄金色の光が広がり、やがてそれが光の粒となり降り注ぐ。
それぞれの差す刀へ溶け込むように、(どうか怪我などしませんように、隊士全員が揃って帰隊できますように)
そして土方、原田、斎藤、沖田はそれに反応するかのように、銀色の光を放つ。
土方「なんだ」
沖田「どういうこと」
原田「体が熱い」
斎藤「力が漲るようだ」
瑠璃「はい、お仕舞い」
瑠璃は気づいていないが彼ら四人の能力を引き出していたのだ。
彼女にすればただ祈っただけなのかもしれないが・・・
こうして、長州軍のもとへ出撃命令が下された。




