第二十二話 ただいま
斎藤が瑠璃を見つけたのは二人が初めて出逢ったあの場所だった。
「瑠璃、あんた裸足で出たのか!」
(え?あっ、本当だ)
「はぁ…。怪我でもしたらどうする」
(うわっ)
斎藤が瑠璃を背負う。
あの時も瑠璃を屯所まで背負って帰ったのだ。
(あの時も背負ってくれましたよね?)
「ああ、またこの場所に来ようとはな」
(見つけてくれて、ありがとうございます)
「もう、勝手に飛び出したりするな」
(はい)
原田「ん?見つかったみたいだな」
永倉「なんで分かるんだよ」
沖田「だね、今回は一くんのお手柄」
藤堂「総司までなんだよ、なんで分かるんだよ」
原・沖「なんとなく、な?」
屯所に戻ると近藤以外は揃っていた。
腕組みをし、いつも以上に眉間に皺を寄せた土方が広間の上手に座っていた。
「副長、ただ今戻りました」
「ああ、ご苦労だったな」
瑠璃は土方の顔をまともに見ることが出来なかった。
声も出ない為、正座で手をつき深々と頭を下げる。
(皆様には多大なご心配とご迷惑をおかけしまた。勝手に飛び出してしまい、誠に申し訳ございません)
「固苦しい詫びなんざいらねえ、こっちこそ悪かったな」
(えっ!何故分かったんですか?声出てました?)
「安心して、心の声は出てないから」
(総司?もしかして、聞こえているの?)
「うん」
「ちなみに俺にも聴こえてる」
(左之さんも!?)
藤堂と永倉は皆のやり取りが腑に落ちないようだ。
藤堂「なんなんだよお前ら、気色悪いな」
土方「お前らって俺も含めて言ってんの分かってんだろうな」
藤堂「げっ…やべっ」
土方は新選組が目指すものは局長である近藤が目指すもの。
それは誠のために命を尽くすという話だった。
だが、現状は会津藩預りの立場上身動きが取り辛かったのだと。
(誠の為に…)
そこへ、近藤が戻る。
「瑠璃くん、無事だったか!」
近藤は我が子を宥めるように、正面から抱き寄せよかった、よかったと何度も言い瑠璃の背中を擦る。
それても足りないと、後ろ頭を撫でまるで父親だ。
土方は呆れながらも見守っていた。
斎藤は驚いて硬直している。
沖田だけは嬉しそうに笑っていた。
放っておけばいつまでも離さないような光景に耐えかねた土方が、ひとつ咳払いをしる。
「近藤さん、もういいだろ。そろそろ離してくれねえか。皆が羨ましそうにしているんでな」
「おっ。すまん、すまん、余りにも嬉しくてな。娘が戻ってきたようでな。ハハ!」
「あんた、そんな歳じゃねえだろ」
「近藤さん、狡いですよ?」
気づいたら、総司が私に抱きついてきた。
背の高い総司に私はすっぽりと包まれる。
「おいっ、総司」
素早く一さんが総司を引き離すけれど「俺を心配させた詫びに。な?」と、今度は左之さんにぎゅうっと抱きしめられる。
「左之!あんたまでっ」
一さんが睨みつけると「悪い」と悪びれた風もなく離れていった。
その隙をついて、新八さんから腕を取られそれを見た平助が騒ぎたし割り込んできた。
両手をぎゅっと握られる。
百合は顔を真っ赤にしていた。
「あんたたちは、瑠璃が抵抗しないのをいい事に次から次へと…」
カチャリ、と刀の柄に手をかけた。
「冗談だって、何そんなに怒ってんだよ」
「瑠璃、あんたもあんただ!安々と皆に触れられて。全く無防備にも程がある」
(えっ、ちょとそれは無いですよ)
「副長、瑠璃は少し疲れておりますので今日のところは部屋に戻したいと思いますが」
「あ、ああ…そうだな。今夜はゆっくり休め、続きは改めてだ」
「では、失礼いたします」
私は半ば引きずられるように、その場から連れ出された。
無言で長い廊下を歩く。
(あれっ、お部屋過ぎたんですけど)
「瑠璃、俺を妬かせた罰は受けてもらう。よいな」
(はあ?今何と仰いました?)
「今夜は俺の部屋で休め」
(それは構いませんけど、一さん…怒っていますか?)
「先ほども言ったが、あんたは無防備過ぎる。近藤局長はまだしも、他のものに簡単に触れさるなど」
怒っているような、拗ねているような小さな子どもが母親に見せるそれに似ていた。
これがあの冷酷非情と言われた三番組組長なのだ。
「瑠璃、本当に心配したのだ」
「ご、めっ…ふっゴホッ、ゴホッ」
「無理して喋るな、無事に戻ってくれただけで俺は救われる。俺は何度でも瑠璃を見つける。たとえ瑠璃が逃れたくてもだ」
(一さん、ごめんなさい。私、本当は怖かった。一さんが居ないと気づいたら怖くて、不安で)
「もういい、分かった」
斎藤は静かに瑠璃の身体を抱え、布団に下ろす。
そのまま二人は寄り添ったまま眠った。
お互いの体温を確認し合うように深い眠りについたのだった。
藤堂「一くんって、あんなに嫉妬深かったのか」
永倉「独占欲凄そうだよな」
沖田「瑠璃ちゃん、厄介な人に捕まったちゃったね」
原田「斎藤のやつ、随分と喜怒哀楽を表に出すようになったよな」
近藤「斎藤くんと、瑠璃くんは恋仲なのか?」
土方「近藤さん…今更だよ」
近藤「なに!そうなのか!」
こうして、皆さんのもとに戻ることができました。
まだ、声は出ません。




