第二十一話 瑠璃を探せ!家出騒動
「ちょっと!瑠璃ちゃん飛び出して行ったけど!」
「沖田さんっ、瑠璃さんはどちらへ!」
ずっと黙っていた斎藤が口を開いた。
「副長、今一度俺たちの道筋を確認させていただきたい」
「土方さん、瑠璃が言うのも無理ねえ」
「土方さん!」
「煩え!分かってるんだよそんな事は!くそっ。」
ぞろぞろと他の幹部たちが広間にやって来た。
「トシ?どうかしたのか」
「ちっ、どうもこうもねえよ!なあ近藤さん、あんたはこの新選組をどうしたい?」
「うむ?そりゃあ決まってるだろう!新選組は誠の為に命を尽くすものだと思っている」
「”誠の為” そうか……なら、今日の会合は中止だ!てめえの誠に従って、あいつを瑠璃を探せ!瑠璃は立派な新選組の隊士だからな!分かったか!」
「おう!」
それぞれが、瑠璃を探しに屯所を飛び出した。
巡察で通る場所は一通り当たった。
馴染みの店にも、それらしき姿はなかった。
原田「瑠璃のやつどこに行ったんだよ」
永倉「もうじき日が暮れるぞ」
藤堂「くそっ、何処だよ」
瑠璃の行きそうな場所を手分けして探すも何の手掛かりも得られなかった。
沖田「瑠璃ちゃん・・・」
土方「山崎!誰かあいつの姿を見た奴はいねえのか」
山崎「いえ、申し訳ございません」
土方「すまん、お前の所為じゃねのは分かってる」
百合「瑠璃さん…」
土方「百合、お前は先に帰ってろ。もしかしたら戻って来てるかもしれねえからな」
百合「分かりました!」
斎藤は独りで瑠璃を探していた。
「瑠璃、何故あんたは飛び出した」
日が西の山に落ちようとしている。
夏とはいえ、山中は日が暮れると冷え込む。
特にここはとても寒く感じた。
ん…あ、寝てた…っ、寒い
ここが何処なのか分からない。
しかも、真っ暗!街の灯りは?
この時代にそんな灯りを期待してはいけなかった。
耐えきれずに、何も考えずに飛び出したけど皆、心配してるかな。
迷惑な女だね、最低だ。
「はじ…っ、ゴホっゴホッ」
え、声が出ない!
(あ、ぁぁぁ) 出ない…どうしよう
急に恐怖が襲ってきた。
(一さん、何処?一さん、助けて)
瑠璃を探すことに夢中になっていた斎藤は街の外れまで来ていた。
ここは確か、あの雨の日不逞浪士を追いかけて来た場所ではないのか?
…さん、一さん、…け、て
ん?
(一さん、助けて…)
「瑠璃!居るのか!瑠璃、返事をしろ!」
確かに瑠璃の声だった。
一さん、助けてと聞こえた。
しかし、どれだけ呼んでも返事がない。
俺は目を閉じた。
集中しろ、瑠璃の気配を気を探れ。
(一さん…寒い)
「瑠璃っ。」
瑠璃が何かに寄りかかっているのが見えた。
暗闇に怯えている。
俺は瑠璃の気配がする方へ走った。
其処はあの不逞浪士を斬った場所だった。
何か塊のような影が僅かに動く。
「瑠璃!」
瑠璃は幹に寄りかかり、膝を曲げ肩を抱いている。
斎藤はすぐに駆け寄り、瑠璃を抱きしめた。
誰かが近づいてくる。
私を抱きしめているのは誰?
一さんの匂いがする。
目を開けると確かに斎藤だった。
我慢していた涙が堰を切って流れ始める。
無我夢中で斎藤に抱きつくとそれに応えるように強く抱きしめ返す。
(一さん、私声が出ないの…)
(瑠璃、大丈夫だ聴こえている。俺の声も届いているだろうか)
(え!?、一さん聞こえるの!)
(驚いているな、俺も驚いている。俺たちは心で会話をしているのか?瑠璃の声が聞こえる)
(一さん…凄いです)
(お互い様だ)
「体が冷えているな、帰るぞ。皆が瑠璃を探している」
(皆に悪いことしました、、)
「詫びは帰ってからだ。誰も瑠璃を責めたりせん」
こうして、私の家出騒動は幕を閉じた。
皆にどんな顔して会えばよいのか、それに声が出ない。
なんで、声が出ないの?




