第二話 拾い物
何故かその場に置いてくることが出来ななった。
行く当ても、頼る相手も居ないことはこの女の表情から見て取れた。
具合でも悪いのか俺の背で眠ってしまった。
規則正しい息遣いからは問題はなさそうだが。
「さて、副長には何と報告するか。いや、その前にあの者たちに何と説明する」
そう思案していると、
「はじめくーん!」
「平助、か」
「おぉ!って、何それ?・・・女じゃん」
「不逞浪士を始末している所に居合わせた。目撃者だ」
「ふぅん、美人だね」
「っ//」
「あっ、左之さんたちだ。左之さーん!」
「おぅ!この雨の中散々だったな。で、斎藤この女は?」
「あぁ、その、参考人だ」
「へぇ、それにしても別嬪だな。生きてるのか?」
「もしかして怪我してるんじゃねえの?」
「山崎を呼んどいてやるよ」
「新八、すまんが宜しく頼む」
屯所らしき所に着いたのか、部屋で布団に寝かされた。
頭では起きなくてはと思うのに、身体が言うことをきかない。
瞼が重い。ただ、ただ眠い。
「で、その女は」
「今は寝ています。山崎が言うには特段変わった様子はなく、ただひどく疲れているようだと」
「そうか。あの女何者だ、身なりも顔だちも言う事ねぇが」
「はぁ、それがよく分からないのです」
「分からない」
「はい、不逞浪士を追っていると、突如空から降ってきたもので、まだ名も知りません」
「は?降ってきた?」
土方は眉間に皺を寄せ斉藤を睨む。
斎藤は視線を動かくすことなく、真っ直ぐ座っている。
「・・・」
「土方さん、僕が探りましょうか?」
「総司か。まあいいだろ、目が覚めたら女の様子を探ってくれ手荒な真似はするな、後で面倒が起きても困る。平隊士には伏せておけよ!」
「はいはい、うまくやりますよ」
「御意」
二人が部屋を出て行ったのを確認し、土方は一人愚痴る。
「はぁ、何だあの女。しかし珍しいな、総司や原田ならまだしも、斎藤が拾い物とはな」
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どれくらい寝ていただろう。
目が覚めたのはいいものの、辺りは暗い。
「はぁ」
ため息を漏らすしか出来ない。
何度見直しても、ここは和室で電気はなく、畳に薄っぺらい布団を敷いている状態だ。
相変わらず外は雨が降っているようだった。
ガタっと音がしてスーッと障子が開いた。
「起きたか」
あの、人を斬った男だった。
「は、はい」
男は静かに部屋に入り、灯りを点けた。
灯りと言っても蝋燭のような頼りない灯りだ。
そして男はこちらへ向き直った。
ぼんやりとしか顔がうかがえないけれど背を伸ばした姿は美しい。
「名は何と言う」
「え?あ、瑠璃と言います。佐伯瑠璃です」
「何故あの場にいた」
「なにゆえって・・・」
「なぜあのような所に女子が一人でいたのかと聞いている」
ずいぶんと自分がいた世界と口調が違う、時代劇のようだ。
「なぜと言われましても、私の意志でここへ来た訳ではないので分かりません」
「お前の意志ではない、と。ならば誰がお前を連れてきた」
「ええっと、その、その人が誰で何者なのか私にも不明です。気が付いたらこの時代劇のような世界に落ちてしまっていて、ここは何処ですか?」
「なっ、からかっているのか!」
「違います!私だって知りたいのにっ!!」
なんだか妙に腹が立って、目の前の男性を怒鳴ってしまった。
どうしよう斬られるのかな私。
「っ・・・」
目の前の男性は驚いたのか、目を見開きこちらをじっと見つめたまま動かない。
「す、すみません。大きな声を出して。でも本当に分からないんです。だから怖いんです。ここは何処で、いつの時代で、私はどうしたらよいのか」
恐怖と混乱で泣きそうになるのを堪えていた。
「す、すまない。あんたが一番困っていたのだな」
あんた?おまえよりは怖くないからいいか、などと妙に冷静な自分がいた。
「取り敢えずもう少し休め。明日の朝、もう一度皆にあんたが分かる範囲で話をしてくれ。俺は斎藤一という。では、邪魔したな」
そういって斎藤という男は部屋を出ていった。
じゃましたなって・・・本当にここは何処ですか!




