第十六話 素敵な代償
ここから会話形式で物語が進んて行きます。
複数で会話をする場合は、誰の発言か記する事にいたします。
山崎が瑠璃の脈を慎重に取る。
「山崎さん、瑠璃さんは?」
「うむ、少し脈が弱い。熱はあまり高くはないようですが。何があったのです?」
「瑠璃は総司の治療をしたのだ」
「そうでしたか、命に別状は無いと思いますが念のため誰かが交代で看ていた方がよいでしょう。かなり体力を消耗していますから」
「瑠璃さん」
「真田、今夜は頼む。明日は俺も時間が許す限り付き添う」
翌日、目を覚ました沖田が斎藤の元へやって来た。
「一くん!」
「総司、もういいのか?」
「うん、完治したみたい。瑠璃ちゃんは?」
「まだ目が覚めん。」
「僕、後で行ってもいいかな?」
「ああ、目覚めるまで誰かが交代で付くことになった」
「そんなに悪いの!僕の所為、だね」
「いや、念の為だ」
私は随分と深い眠りの中にいた。
すると、あの声の主(忘れていたけれど、私をこの時代に飛ばした犯人)が現れこんなこと言ったんです!
「瑠璃、こちらの世界には慣れたか?」
「あっ、あなた!今度は何ですか!」
「ひとつ助言をしておきたくてな。お前の力だか今のような使い方では寿命が縮む」
「えっ・・・」
「お前がまさかここまで無鉄砲な性格とは思わなくてな」
「まあ、ある程度の代償はあるかなと思っていたので、別に構いません」
「ほう。己の命が削られても、救いたいものがあったか。であれば、そろそろ目覚める頃あいだろうな。瑠璃よ、何か感じぬか」
「何か?どう言う意味ですか」
「お前は戦うことも出来るが、もっとも得意とするのは癒しなのだ。この乱れた恐ろしい世を救うべくして生まれたのだ。戦いは他の兄弟たちに任せておけばよい。手違いで違う時代に送ってしまったのは詫びよう」
「詫びられる意味も分かりませんし、何が恐ろしいのかも分かりません!」
「まだ見ておらぬのか、サキュバの子どもたちを」
「は?サキュバ?」
意味不明な事ばかり言い放ち、また頃合いを見て来ると言い、あの声の主は消えた。
いったい!何なのっ!
「くっ…な、なの。うっ、」
「瑠璃ちゃん!」
「瑠璃!」
目を開けると、総司と一さんがこちらを見ていた。
あれ?ああ、夢だったのか。
「瑠璃、聞こえるか?分かるか?」
「はい」
「良かった目が覚めて」
あれ?総司が泣きそうな顔をしている。
一さんも目元が少し紅い気がする、心配かけすぎたみたいです。
「瑠璃さん!良かった!目が覚めたんですね」
「百合ちゃん、泣かないでよ。死んだりしないから」
私は一日半も眠っていたらしい。
百合ちゃんは安心したのか、夕餉の準備へと戻っていった。
「じゃあ僕は罪滅ぼしに、夕餉の手伝いをしてくるよ」
珍しく大人しい総司と入れ替わりで、山崎くんが来た。
「山崎です、入ってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
山崎が手にしていたのは薬湯だった。
以前、薬草を取りに行った時にこの手の薬は不味いと聞いていた。
「食事の前に飲んでくれ、栄養の吸収がよくなる。では俺はこれで」
「あ、ありがとう」
相変わらず忙しい彼は忍者の如く去って行った。
静かになった部屋、気づけば一さんと二人きり。
「飲まないのか」
「えっ、あ、はい・・・」
ついその薬湯をじいっと見つめてしまう。
見つめても、味が変わることはないのだけど。
「まさかとは思うが、薬が飲めぬのか?」
「うっ、分かりました?」
「な、何故」
「何故って、知ってますか?これ死ぬほど苦いんですよ?飲んで見て下さいよ。」
「俺が飲んだら飲むのだな?」
「えっ、ええ。た、たぶん…」
「ならば」
えぇ!飲むの?本当に?
一さんは薬湯を口に含んだ。そして…、ゴクリ。
チラリと私の方を見る。そしてまた、薬湯を口に含む。
一さんは私の目を捉えたまま、ぐいっと近づいてきた。
私の顎を掴み、逃げないように後頭部には反対の手が添えられ、唇をゆっくり開かせて。
「えっ!な、なあああ!!」
口移しで薬を飲まされたっ。
「ふっ、ん」
それを湯のみの中の薬が底を突くまでの数回。
私は驚きすぎて、抗うことを忘れていた。
全くの予測不能なこの事態 されるがままの数分。
「瑠璃?」
「ふえぇ、は、はい」
「苦かったか」
「い、いえ。それほどは」
「そうか」
一さんは口元を拭うと、反対の手の甲で私の口も拭う。
なんだかとても息苦しい。
「あ、あのぅ・・・」
「なんだ」
「今のは、その、こちらの時代では普通の事なのでしょうか。口で・・・」
「ん?っ!あ、あれは、ふ、普通ではない!」
斎藤は思い出したのか、耳まで赤く染めた。
「えっ、ど、どういうことでしょうか」
「あんたは俺にとって特別な故、故にその、すまん!」
土下座でもするのかという勢いで頭を下げる斎藤だった。
「そんなに謝らないで下さい!おかげでお薬飲めましたし、それに・・・嫌、ではなかったですから」
「そっ、そうか」
「私にとっても一さんは、特別のようです」
「!?」
斎藤は衝動的に瑠璃を引き寄せ、抱きしめた。
これまで、脳で考え、指令を出し、行動に移す、それが基本だった。
冷静沈着なこの男にはあり得ない行動だった。
少しというか、かなり驚いたけれど、一さんの気持ちがとても嬉しかった。
無口でそっけない言葉が多い人だけに破壊力が半端ない。
まだ口には出せないけれど、大好きですよっ。




