第十五話 労咳退散!
全員の隊服が洋装に一新された。
そう言えば以前、会議で鉢巻きがどうのと言っていたのを思い出した。
「土方さんっ!」
「おう、何だそんな大声出して」
「鉢巻き、まだ作ってないですよね?」
「そう言えば、すっかり忘れちまってたな」
「よかったあ、鉢巻きは止めましょう」
「は?なんでだよ」
「洋装にあの鉢巻きは似合いません!」
「そうか?似合う似合わないなんざ分からんが、金もかかるし止めるか」
そんなやり取りをしている所へ沖田が巡察から帰ってきた。
「あれ、瑠璃ちゃん。土方さんと仲良しだね」
「仲良しって・・・総司には負けるけど」
「はっ!僕は仲良くしてるつもりないけど」
「ふうん。あっ!そうだ忙しくて忘れてた。明日は非番ですよね」
「そうだけど」
「じゃあ今夜、時間下さい。例の治療しないと」
「僕、全然大丈夫だけど。しないと駄目なの?」
「駄目です!残ってる菌は全て消さないと再発します。いざという時に再発したら、近藤さんの役には立てませんよ!」
「そ、そう。分かった、君には敵わないよ」
「はい!」
夕餉が終り皆が部屋に戻った頃、瑠璃は沖田の部屋に行く事を百合に話す。
「今夜、総司の治療終わらせるから先に寝ていて。多分、時間がかかるから」
「例の治療ですね、分かりました。でも、その治療の後の瑠璃さんって」
「そうか、体力消耗して動けなくなるんだっけ?そのまま寝てしまうかもしれない。ではお隣の一さんに頼んでおきます。倒れてたら運んでねって」
「絶対に倒れると思いますけど・・・」
百合の心配をありがたく受け取り、沖田の部屋へ向かう。
途中、斎藤の部屋へ立ち寄る。
「一さん。起きていますか?」
すっと障子が開く。
「総司の治療をこれからします。もし力尽きていたらお部屋まで運んでいただけませんか」
「そうか、今夜するのか。分かった、一刻ほど経ったら様子を見に行く。しかし本当に瑠璃の身体は大丈夫なのか?俺は・・・」
「大丈夫ですよ!では、お願い致します」
「そうか」
そして、瑠璃は沖田の部屋に入っていった。
「始めます、上だけ脱いでください」
「うん、よろしく」
私は総司の背後に回り治療を開始した。
前回の治療後からやはり少し菌が増えている。
気を高めるも、なかなかしぶとい。
更に気を高める、私もきついけれど彼も苦しそうだった。
正面に回り残りの菌を散らす。
じわじわと体力が消耗して行くのが分かる。
でも、あと少し、もう少し、
もう一度背後に回り、背中から影を一気に押し上げた。
同時に総司が口から、どろりと黒い血を吐いた。
「う、ぐはっ」
「はあはあ、大丈夫?それ、悪い血だから心配しないで。もう終わったよ?もう、苦しまなくて、いい、から、ね---。」
瑠璃は限界だった、一人で座っていられないほどに。
言い終わると、そのままパタリと倒れた。
「ありがとう。はあ、はあ、くっ」
「総司」
「一くん?いいところに来た。ごめん、瑠璃ちゃんを、お願い」
「終わったのか!承知した。総司あんたもゆっくり休め」
斎藤は瑠璃を抱き上げ、沖田の部屋を後にした。
以前より痩せたのか、とても軽く感じた。
口には出さないものの彼女の全力でやり過ぎるところをいつも心配していた。
もう少し、自分を厭うべきではないのかと。
そして、真田の待つ部屋へ着いた。
「瑠璃さん!やはり無理したんですね」
「少し、熱があるように思える」
「えっ。私、山崎さんを探してきます」
「すまんが、頼む。」
斎藤さんが瑠璃さんを大切そうに抱えて戻って来た。
あの人はそういう雰囲気を出す人だっただろうか。
百合は斎藤の僅かな変化に気付いていた。
心のどこかで早く思いが通じ合えばいいのにと思っていた。




