第十二話 人間じゃなくてもいいんです
夕餉が終わり、皆に時間を貰った。
局長始め、信頼あるいつもの幹部が揃った。
私は今日の午後の出来事を話し、百合ちゃんに自分の体質の話をしてもらった。
土「で、奴らは仲間である百合を連れに来たって訳か?」
瑠「でも彼らは連れに来たと言うより今日のところは百合ちゃんの居場所を確認したような感じでした。近いうちに来るとも言っていましたけど。」
近「しかし、真田くんが人間ではないとは信じがたいな」
平「俺も近藤さんと同意見!だって百合は戦えねえし、傷の治りが早いだけだろ?」
百「でも、本当に早いんです」
山「早いと言われましても、どの程度早いのか?またそれが異常なのかも私たちには分かりませんが。」
原「瑠璃は見たのか?百合の」
瑠「・・・うん。」
百「あの、皆さん見ていただけますか?」
沖「見るって?ここで?今?」
百「はい」
真田は自分の刀を少し抜くと、躊躇うことなく刀をすっと横に引く。
皆「おいっ!」
手の甲から血が流れ出すも畳に落ちる前にその傷は跡形もなく消えた。
皆「・・・」
百「まるで化物でしょう」
真田が微かに声を震わせてそう呟くと瑠璃が突如、真田を横から抱きしめた。
瑠「百合ちゃん!大丈夫だから」
新「百合ちゃん、気にするこたぁねえ。」
沖「ま、ここには化物より怖い鬼がいますしね?」
土「総司!てめぇは何が言いたい」
原「まあまあ、とにかくだ。百合自体は大した事じゃねえ」
斎「ああ、あの者達だな。かなりの強敵だ」
平「くそっ、次は絶対に斬る!」
沖「僕も借りがあるからね」
土「百合、お前はどうしたい?俺達と居るか、奴らの元に行くのか。お前の気持ちを聞きたい。」
部屋が静まり返り、皆が真田の言葉を待っていた。
その沈黙がとても長く重く感じていた。
百「私は、皆さんにこれ以上迷惑をかけたくありません。皆さんを危険な目に合わすわけには。だから、」
瑠「百合ちゃん!」
土「百合、それはお前の本心か?俺達はお前の本心が聞きたいだけだ」
百「私は・・・皆さんと、此処にいたいです。」
近「そうか、そうか。だったら問題ないじゃないか。此処に居ればいい。彼らのことは皆で何とかしようじゃないか!なあ、トシ」
土「新選組預りの者に手出しはさせねえ!相手が誰であろうと、俺達がお前を守る!」
百「ありがとうございます」
新選組が今に至る前は、浪士組という只の田舎侍の集団だった。
武士に憧れ、武士として生きたい、誰かの顔色を伺いながら動かねばならなくなった今でも本当に守るべきこと、貫きたい信念は心の奥に持っているのだ。
山「では追々、作戦会議ですね。ところで佐伯くん、あなたが何故そんなに泣いているのでしょう。」
平「えっ、わっ!顔ぐしょぐしょじゃねえか!?」
原「瑠璃が泣いてどうするんだよ」
瑠「だって、感動するじゃないですか」
沖「あ〜あ、可愛い顔が台無しじゃない。ほら、今度こそ僕の肩貸してあげるからさ、おいで。」
沖田は両手を広げ、来いと言う。
斎「総司の肩など要らん!」
新「なんで、斎藤が断るんだ」
隣で近藤までもらい泣きしている。
近「瑠璃くん、よく分かるぞぉ。」
土「はぁ・・・」
思っていた通り、真田を軽蔑する者は居なかった。
瑠璃が言うように、免疫がついていたのかもしれない。
「瑠璃」
「あっ、一さん。まだお休みになってなかったんですか」
「目が腫れているな」
「少し泣きすぎましたね」
「冷やした方がいいだろう。これを」
一さんが濡れた手拭いを差し出してきた。
「ありがとうございます。冷たくて気持ちいいです。」
「そうか、目に当てたまま寝るといい。せっかく綺麗な顔立ちをしているのだからな」
「綺麗ですか?今まで言われた事なかったんですよ」
「そう、か?少しくらい自惚れていい。あんたは綺麗だ。」
斎藤は真剣な面持ちで言う。
流石に瑠璃も顔が熱くなり、思わず目を逸らす。
いつもは途中で言葉を切るのに今夜に限っては流暢だった。
「一さん、そう言うのを反則と言います」
瑠璃は聞こえないように呟いた。




