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Time Trip to Another World 〜暁〜  作者: 蒼穹の使者
第三章 結〜蝦夷編〜
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第百零九話 この想いよ永久に

斎藤に刺さっているのは悪魔の杭

僅かに心臓を外した場所に刺さっているのは

刺さる瞬間、身を(かわ)すことが出来たからだろう

何故なら悪魔の杭は百発百中、心臓を貫くものだからだ


「山崎、助けられるか」


土方が静かに問う

山崎は目を閉じ瑠璃と斎藤の脈をはかる

微かに震える手を握りしめ土方を見上げた


ゆっくりと首を横に振った


「嘘だろ?まだ、息があるじゃねえか!」

「瑠璃、しっかりしてよ。僕達の気をあげるから、全部あげるからっ!再生しなよ・・・瑠璃!」

「おいっ!斎藤のこれ取れねえのかっ!」

「駄目です!それを今抜けば一気に血が噴き出します。それにその杭が外れれば心臓が止まります」


心臓が止まれば再生が叶わない

斎藤の死は瑠璃の死でもある

二人はまだ生きているのに何も出来ない


「何もしてやれねえのか、俺達は特別な能力(ちから)を貰ったと言うのに、仲間を妹を助けることが出来ないのか。人の世のために命を懸けたってのに、一番幸せにしてやりたい、たった一人を救えない!」


土方は今にも消えそうな二つの命を前にして

何も出来ない自分たちを責めている


「くっ、う…はじめ、さん」


瑠璃は身体を捩り沖田の腕から離れる

ゆっくりと斎藤に向けて這う


「はじ、め…さん」


右手で斎藤の頬を撫で顔を上向かせると

斎藤がゆっくりと目を開けた


「瑠璃か、終わったか」

「はい」

「そうか」


瑠璃はそのまま斎藤の胸に身体を寄せる

もう自分で自分を支えることが出来ない


「すまない、これを避けきれなかった」

「いいんです、これが、最善だった…んです」

「瑠璃」

「私、一さんと一緒なら、何処へでも行き、ます」

「奈落の底やもしれん、俺はっ…大勢の人を、斬った」

「構いません」

「そうか、俺は果報者だな」


斎藤は左腕で瑠璃を抱き締め頭を撫でる

ゆっくりと皆の方に顔を向けた


「土方さん、申し訳ありません。後のことを頼みます」

「・・・分かった」


原田や沖田の顔を見つめ、そして軽く頭を下げる

二人は声を出せなかった

最後に斎藤は山崎に視線を向けた


(瑠璃の事を、宜しく頼む)


声に出さずに唇だけをそう動かしたのだ


「斎藤さん?どうして」


斎藤はもう一度瑠璃を今度は両手できつく抱き締める

瑠璃の顔を自分に向けて愛おしそうに見つめると

ゆっくりと額に口付けた


「瑠璃、俺はずっと此処に居る。愛している」

「一さん、私も愛しています。永遠に」


穏やかに微笑むと、瑠璃は目を閉じた

斎藤はそれを見届けると、静かに瑠璃を手放した


「はじめくんっ!!」


何かに気づいた沖田が大声で斎藤の名を呼ぶ


斎藤は再び目を閉じる

その身体が赤松の根本に沈み込む

ゆっくり、ゆっくりと斎藤の身体が幹に吸い込まれて行く


「斎藤っ!」


土方も原田も呼ぶ


斎藤の身体が赤松の幹の中に消えた

其処に残されたのは穏やかに眠る瑠璃と

斎藤と共に戦った刀、摂州住池田鬼神丸国重(せっしゅうきじんまるくにしげ)


神田「斎藤殿はこの赤松と同化したのか」

乾 「彼はこの赤松と共に生きることを選びました」

百合「斎藤さんは瑠璃さんを生かしたかったんですね」


山崎が瑠璃の元へ行き、抱きかかえる


「瑠璃くん、君はこの現実を受け入れられるか?」


山崎は泣いていた、斎藤の最期を知らずに眠る瑠璃が

哀れでならなかった


「一くん!君はっ、君は莫迦(ばか)だよ」


原田も沖田も泣いている


「斎藤、お前の代わりは居ねえんだよ」


土方は拳を握りしめ肩を震わせながらそう言った

この男も今、初めて涙を流している


何処からとも溢れてくるこの涙を

誰も止めることが出来なかった


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