第百零八話 悪魔の最期
インキュバスが投げた何かは目に見えない速度で
瑠璃と斎藤に向かって飛んでくる
沖田「瑠璃っ!」
ドンと何かに押され瑠璃はよろめく
同時に異常な音がした グググッ、ズザッ!
瑠璃「一さんっ!!」
瑠璃は自分に来るだろう衝撃がなかったことに不安を覚え
斎藤の方を振り向こうとした
斎藤「大丈夫だ、振り向くなっ!敵は前にいるんだぞ!」
そう言うと、再び朱雀の起こす風が瑠璃を包み込む
聖なる龍は大きく翼を羽ばたかせる
斎藤「まだ終わっていない」
瑠璃「はい!」
瑠璃は朱雀の風を背に受け、再び目の前の悪魔を睨む
聖なる龍から放たれる眩い光で瑠璃と斎藤の姿は良く見えない
しかし先程よりも一層強い気を蓄えていた
他の幻獣はそれに煽られるように気を高めた
四つの光が火柱のように突き上がる
すると瑠璃の腰に差してあった刀が突然紅く光りだす
すーうっと鞘から抜け出し 宙に舞う
四つの光がその刀に集まり徐々に形が変わる
それは神しか持つことが許されない聖剣へと生まれ変わったのだ
斎藤「瑠璃!それを放てっ!」
瑠璃は跳躍し聖剣を手に取ると、槍を投げるように力を籠め悪魔に向けて投げた
それは悪魔に向かって一直線に進む
「おのれっ!」
インキュバスとサキュバは両手の剣で空を斬り
空砲を飛ばしてくる しかし、聖剣は弾き返しその軌道は保たれたままだ
「なにをぉぉぉ!!!」
悪魔の心臓にずさりと突き刺さった
「ぐぅぅぅ、こんな事で我らが死ぬと持っているのか!」
刺さった剣が少しずつ押し戻され始めた
土方「そうはさせるかっ!」
土方と原田が同時に聖剣の柄を握り締め、深く押し込む
原田「お前らの好きにはさせねえ!」
聖剣はぐいぐいと二人の手によって深く刺さって行く
それが心臓に届いた時
「うあぁぁぁぁ!ぐおおぉぉぉl!」
土方「左之助、もっと深くだ!背まで突きぬくっ」
原田「ああ!」
ブズッ・・・聖剣は悪魔の心臓を貫き、更に背まで突き抜いた
それと同時に沖田は悪魔の背後に回り
キーン、ザザッ、ザザッ・・・・ドサ、ドサッ
二つの頭を斬り落とした
一瞬時が止まったかのように、辺りが静まり返る
「・・・」
暫くすると地面が揺れ始め、壁・柱・階段が崩壊しはじめた
逃げる間もなく、激しい音と土埃で何も見えなくなった
ダダダダダー ドドドドドー ゴゴゴゴゴー
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どれくらい時が流れたのだろう
気が付くと先程まであった宮殿は跡形もなく消え去り
目の前には突入する時に見た箱館奉行所が建っていた
松の木の枝から、僅かに日の光が差し込む
時折、澄んだ風が頬を撫でる
土方「終わった、のか?」
すると向こうから誰かがこちらに走ってくるのが見えた
神田たちだ
百合「みなさん、大丈夫ですか!」
原田「お前たち無事だったか!」
神田「容易い事だと言っただろう」
乾 「夢魔たちは人の姿に戻りました」
夢魔が人の姿に戻ったということは、確かに悪魔を倒したという事だった
終に悪魔を葬ったのだ 安堵感と脱力感が体を襲う
山崎「早く此処を出ましょう、二股口が落ちたらここにも新政府軍が進軍して来ますっ」
土方「そうだな、まだ人間たちは戦争の最中だ」
悪魔は葬ったが人々の戦争は終わっていない
近々、新政府軍の総攻撃が始まるだろう
沖田「瑠璃は?一くんは何処っ!」
全員が瑠璃と斎藤を探す、辺りを一通り巡察すると
後ろに大きな赤松が立っている
その根元にふたつの影を見つけた
沖田「瑠璃!」
二人の元へ駆け寄ると瑠璃は苦しそうに背で息をしていた
瑠璃「はぁ、はぁ、はぁ」
沖田「瑠璃、終わったよ。・・・瑠璃?」
瑠璃「総司っ。くぅっ・・うぅ」
沖田「瑠璃っ!?」
瑠璃が大量の血を吐いたのだ
沖田がゆっくりと瑠璃の向こうに居る斎藤を見る
沖田は息を飲んだ
「はっ・・・」
土方「総司、何があったんだ。瑠璃はっ・・・斎藤・・・」
土方は瑠璃を抱える沖田とその向こうに座る斎藤を見て
茫然と立ち尽くす
原田「おい、どうしたんだ。・・・っ!」
山崎「どうしたんですかっ!・・・瑠璃くん!、斎藤さんっ!」
山崎が駆けより、何か此方に向かって叫んでいる
何を言っているのか分からない、聞こえない
いや、皆頭が働かなかったのだ
百合「きゃっ!瑠璃さんっ」
神田「こ、これは・・・」
乾 「・・・」
沖田に抱きかかえられた瑠璃はぐったりとしており
口からは血を吐いた後がある 胸元は吐血のせいか真っ赤だった
その向こうに俯いた状態で座る斎藤は
心臓の僅か下、腹部に近い場所から斜め上に向って
杭のようなものが刺さっていた
そして、その赤松の根元に張り付けられた状態だった
神田「悪魔の杭」
あの時インキュバスが投げた物はこの悪魔の杭だったのだ
斎藤は瑠璃を庇って自分がこの杭を体に受けたのだろう
その光景を目前にして、体が思考が動かない
絶望という波がじわじわと押し寄せていた




