第百零四話 黒服の男現る
目の前には箱館奉行所がある
外から見た限りでは簡素な造りで、容易に侵入が出来そうだ
「本当に奴は此処に居るのか?」
原田と神田たちが正面入り口を探る
「なんだこの空気は」
土方の表情が歪む
此処に立った誰もが感じた事だ
重く、どろどろした何かが足元から纏わりつくようだ
息苦しささえ覚える
そして不思議なことに、先ほどまで銃を構え襲ってきた
あの大量の夢魔たちがいない
「夢魔は何処に消えたのだ」
斎藤は周囲を見渡すが、影も気配もなくなっていた
風も吹かない、光も差し込まない
自分達以外の音がしない 不気味だ
瑠璃「夢魔が、いない」
山崎「先ほどまでの夢魔は何処に・・・」
湧くように現れた夢魔が今はいない
確かに斬ったはずなのに その形跡がない
ググググゥ・・・
その音のする方を見ると白虎が唸っている
沖田「おかしい。体がどんどん重くなる」
上から押されるような、地に引っ張られるようにも感じる
そしてどうしても呼吸が浅くなってしまう
土方「おい!油断するな。呼吸をを整えろ。持っていかれるなよ!」
気を抜くと、呼吸が浅く早くなり圧迫感と息苦しさを覚えてしまう
土方が言うように意識して息を気を整えた方がいい
その時、
黒服「思ったより早く侵入出来たようだな」
土方「誰だっ!」
真っ黒な衣装に包まれた男が目の前に降り立った
それは京の薩摩藩邸、会津の飯盛山で見たサキュバの姿だった
瑠璃「サキュバ!」
皆が一斉に戦闘態勢に入る
黒服「ふはははは!残念だが、俺はサキュバ様ではない。あのお方と間違えられるとは光栄だな」
沖田「サキュバではない!?」
黒服「お前たちがサキュバ様と剣を交えることはない」
原田「どういう意味だ」
黒服「私がお前たちを殺してしまうからだ」
土方「お前はあいつの手先なのかっ!」
黒服「サキュバ様の手を汚すまでもない。会津ではサキュバ様の手を煩わせてしまったからな」
会津で見たのはサキュバだったという事なのか
なぜ同じ姿をしているのか、黒服の男を見ると右腕は落ちていない
では会津と今此処にいる男は別人物と言う事なのだろうか
黒服「さあ、誰から遊んでやろうか」
腰に差してあった剣をゆっくりと抜いた
それは刀とは違い、細く長い その剣が斎藤に向けられた
瑠璃「一さんっ!!」
男は瑠璃の方を向いた
黒服「ほう、女か。面白い、お前から遊んでやろう!」
男はあっという間に間合いを詰め
瑠璃の背後から首元に剣を当てた
「瑠璃っ!」
速い!誰もその男の動きを追うことが出来なかった
黒服「はははは!どうだ驚いたか。この女をじっくりといたぶってやる。それが一番の苦痛だろう?さあ、見るがいい。この女が苦しむところをな」
土方「やめろ!」
男は剣を首から離すと、剣先を下に向けた
そして、刃先で瑠璃の膝から太腿にかけて斬り裂いた
瑠璃「ううっ」
真っ赤な血がどくどくと溢れ、地面に滴り落ちる
それを見た斎藤が刀を抜き男に斬りかかった
男は軽々と斎藤の一太刀を受け止め跳ね返す
土方と沖田も応戦した
黒服「小賢しい奴め、はあぁっ!!」
男が叫ぶと空気が一転した
ずんと錘がついたように体が重く動きが取れない
立つことさえも難しく、皆膝をつく
更に圧力がかかったように押され、地面に叩きつけられた
「ぐはっ」
気圧が急激に下がり、心臓・肺が圧迫される
瑠璃の血も圧力の所為か、吹き出すように流れ始めた
意識がだんだんと遠のくのが分かる
そんな中、一人と一体だけは立っていた
黒服「なにっ!貴様っ!何故立っている」
原田「知るかっ!ただ、分かっているのはお前の相手は俺だって事だ!瑠璃を離せ、お前を地獄に叩き落としてやる!!」
土方「左之助っ」
原田は守護神が玄武、そして属性は地である
気圧を操られても彼だけには何の効果もなかったのだ
原田「おらあぁぁ!!」
原田が槍を構え気を高めると、地鳴りがし地が揺れた
ドドドドドー、ピシピシッ、ピシピシッ
地割れが起き、亀裂が男を目掛けて走った
黒服「なんだと!」




