第百零三話 結界の破壊(昇龍)
山崎が前を走る、その後を追うように瑠璃は走った
もうすぐ奉行所が見えてくるはずだ
その時、山崎の動きがぴたりと止まった
続くように瑠璃も止まる
ザッ、ザッ、ザッ・・・
カチャリ、カチャ、カチャ・・・
「山崎くん」
「簡単には行かせてもらえないようですね」
日が上り、辺りが明るくなったというのに薄暗い城内
見れば周りには松の木が植えられている
まるで掌で覆うように広がる枝、隙間なくあの細い松の葉が生い茂る
瑠璃と山崎は互いに背を合わせ、刀を抜いた
赤く光る目と僅かに覗かせる牙
どす黒い肌の色は夢魔に間違いなかった
「夢魔・・・」
「以前のより強い気を放っていますね」
やはり夢魔は潜んでいた、
二人が入ってくるのを待っていたかのように
一斉に銃を構える
瑠璃は迷うことなく自らの気を高める
黄金色の光が放たれると 黄龍が現れた
黄龍は二人を守るように蜷局を巻き夢魔を威嚇する
「瑠璃くん、走ってください。俺が援護します。早く結界を破らなければっ」
「分かりました!」
銃弾が放たれる中、黄龍はそれを弾き返し
山崎が目前の夢魔を斬り倒す
瑠璃はただひたすらに前を目指した
キューン、キンキン・・・ブシュッ グハッ!
一瞬、足が止まる 振り返えろうとした時
「前だけを見るんだ!」
(前だけ見ていろ、直ぐに行く)
斎藤の声が重なって聞こえた気がした
至る所から湧いてくる夢魔を瑠璃は斬った
斬っては走り 走りながら斬った
そして目の前に大きな赤松が現れた
その下に、箱館奉行所が建っていた
「此処なの?」
瑠璃は思わず顔をしかめた、異様な空気が漂っている
異臭がするわけではないが手で口元を抑えたくなるような
どろりと纏わりつくような空気だった
「瑠璃殿!」
「はっ、乾さん!到達しました!」
「承知した!」
乾が瑠璃の到達を知らせると、四方から気が立ち上がる
ゆらゆらと炎が舞い上がるように
そして、それが瑠璃の元へ吸い寄せられるように集まる
「重いっ、くっ・・・」
何度も皆の気を扱ってきた筈なのに
押し潰されそうだった 思わず片膝をつく
「瑠璃くん!」
「ううっ、皆の気が重いのですっ。くぅ!」
瑠璃は片膝をつき、もう片方は震えていた
尚も重さは増しているように見える
このままでは彼女が保たない
「俺になにか出来ることは・・・」
「ふっ、く、大丈夫ですっ、やれますっ」
瑠璃の瞳が黄金色に輝き始めた
髪も金色に変わり、背から後光が指すように光が飛び散った
瑠璃の放つ黄龍が四神獣の気の球を咥えると
天に向かって勢いよく上っていった
内側から結界を突き破ろうとしている
びかっ!と激しく爆発したように結界とぶつかる
めりめりと殻を破るように黄龍が捩じ上げる
そして、地響きと当時に結界が破れた
ひゅーん、ひゅーんと音が聞こえ
それぞれの幻獣が其処から飛び込んて来た
ドサッ、ドサッ、ドサッ、バサッバサッ・・・
青龍、玄武、白虎、朱雀
それに続くように、羅刹天、羅刹女、カルラが舞い降り
最後に黄龍が舞い戻って来た
「はぁ、はぁ、はぁ・・・やった、の?」
瑠璃は手をつき肩で息をしながら辺りを見回す
目を細めると土方、原田、沖田、斎藤の駆け寄る姿が見える
安堵が押し寄せ、気が遠くなりかける
「よくやった、立てるか」
土方が瑠璃の腕を取り引き起こす
瑠璃は立つのがやっとで、足元がまだ覚束ない
斎藤が手を伸ばすと、瑠璃はその手を取った
「少し気を整えた方がいいだろう」
「はい」
見上げると、破ったばかりの結界は閉じられていた




