第百話 山崎の功労に報いを
明治二年三月初旬、新政府軍率いる軍艦が品川沖を出港
三月下旬、青森に到着した
雪解けを待ってついに函館戦争が始まろうとしていた
ここ函館にも間もなく上陸するだろう
榎本武揚率いる旧幕府軍はそれぞれの隊を分け駐屯させている
松前、二股口、弁天台、そして五稜郭
軍艦も保有しているが東北沖では新政府軍の艦隊の撃墜に失敗していた
大阪を出る時に解散したはずの新選組の一部が旧幕府軍として参加
あの上野で軍を引きていた彰義隊や会津の遊撃隊も同じく
土方「新政府軍が腰を上げてきた、ここも近々戦場になる。五稜郭の動きはどうだ」
山崎「町に潜み様子を伺っていますが、これといって・・・」
土方「下手に動くと町が危ないからな」
原田「外に出さないようにしねえとだな」
神田「恐らくだが、結界は破ってもすぐに修復される」
沖田「どういうこと?」
乾 「一時的に破って侵入します。が、すぐに塞がる。サキュバを倒すまでは出られないという事です」
斎藤「逆を言えば、町人たちには被害は及ばない」
瑠璃「人間に被害が及ばなければ、その方が都合がいいのかも」
百合「そうですね」
五稜郭の中だけで戦えるのならその方がいい
この美しい街を戦争だけでなく、悪魔の手で汚したくはない
土方「結界の所為で中の様子が分からねえ、造りがどうなってるのか、何処に彼奴がいるのか。夢魔も潜んでいるのか」
山崎「中の見取り図はなんとか手に入りそうです」
山崎は毎日町に出掛け、様々な人間に鍼治療をした
その中に五稜郭で見張りに立つ者や
建設に関わった者もいた
五稜郭の芸術的な建造物に興味があると話すと
気を良くしたらしく見取り図を譲ってくれるらしい
実は山崎は治療代を貰っていなかったのだ
それの礼も兼ねているのかもしれない
瑠璃「さすが山崎くん、凄いですね」
沖田「山崎くんに褒美をあげないとね」
山崎「俺は別に褒美が欲しくてやっているわけではありませんから」
沖田「いつも他人を治療して癒やしてるんだから、たまには君も癒やされるべきじゃない?」
斎藤「うむ、山崎はよくやっているからな」
原田「けど誰も山崎みたいに鍼とか按摩なんて出来ねえだろ」
沖田「いるでしょ、癒やしの能力を持った娘が」
土方「総司。てめえ何か企んでるだろ」
沖田「酷いなぁ」
瑠璃「・・・で、誰が山崎くんを癒やすんですか」
そう言うと、皆が瑠璃の方を向いた
神田「くだらん、俺達は帰るぞ。その見取り図が手に入ったら知らせてくれ。失礼する」
百合「瑠璃さん、山崎さんの事お願いしますね」
瑠璃「えっ・・・」
私のことだったの?
癒やすって、何?気を送ったらいいのかな?
瑠璃「山崎くん、してあげるよ。遠慮しないで」
山崎「なっ!おっ、俺は・・・」
原田「いいんじゃねえか?やってもらえよ」
斎藤「疲れているのであれば、瑠璃に頼むといい」
瑠璃「うん、この間の鍼のお礼と思って」
沖田は満足そうに笑うと、山崎だけに聞こえるように
「ぎゅうって、してもらいなよ」
「・・・っ」
総司の野郎、完全に山崎で遊んでやがる
なんだあの山崎の顔は、監察が聞いて呆れるぞ
土方は深いため息を吐いた
「山崎、日頃のお前への報いだろうよ。してもらえ」
「土方さん・・・」
なぜか少しの違和感を感じたけれど
山崎くんにはたくさん助けて貰ったから
精一杯お礼をを込めて、疲れを取ってあげないと
夕餉の片付けをしていると、総司がこう言った
「瑠璃、山崎くんだけど。仕上げにぎゅうって、してあげてよ」
「ぎゅうって?何?」
「抱きしめて背中トントンするやつだよ」
「ん?そんなんでいいの」
その後、瑠璃は山崎に気を送り身体のこりや疲れを解していった
「意外と身体こってたね、お疲れ様です」
「いえ、お陰でずいぶん軽くなりました」
「ふふ、よかった。じゃあ仕上げに」
瑠璃は山崎を正面から抱き寄せ、背中をトン、トンとたたく
これからの戦いで倒れないようにと願いを込めて
「・・・おっ、こ、これはっ」
「はい、お終い。これで大丈夫かな」
山崎は初めて瑠璃に触れられた
皆が言うように、身体だけではなく心がじんわりと温まる
強張った神経がいい具合に解れた気がした
彼女はこの先も皆に必要な存在だ
俺の使命は彼女を支える事
そして、己の命に変えても守るのだと




