第十話 労咳は治るんです
「うっ、ん?瑠璃ちゃん!」
沖田の上に重なるように瑠璃が倒れていた。
慌てた沖田の声に斎藤が気づく。
「総司大丈夫か」
「瑠璃ちゃん!」
「ううん、まだ終わってない。総司、うご・・ない、で」
「僕はもう大丈夫だから。一くん!瑠璃ちゃんが」
「うむ、恐らく体力を消耗したのだろう、総司の前に平助の傷を治した故」
斎藤は瑠璃を抱えて部屋を出た。
沖田の体は随分と軽くなっていた。
「瑠璃ちゃん・・・」
翌朝、沖田は瑠璃の部屋へ向かった。
まだ眠ったままだと聞いていたがやはり心配で一目見たら戻ろうと考えていた。
部屋の奥で、瑠璃はすやすやと眠っていた。
「瑠璃ちゃん・・・ありがと」
顔にかかった髪をそっと払うと、まぶたが動いた。
「あれっ、総司」
「うん、気が付いた?おはよう」
「おはよう、えっ!私寝てたの?まだ治療途中だったのに?」
「はは、僕ならもう大丈夫。ほら、出動前より軽くなったし」
「そう?ううん、まだ終わってないの。」
「え?でも傷ももう無くなっているし、どこが終わってないの?」
「肺」
「肺?」
「総司気づいてるでしょう?ずっと咳が出ていたんじゃない?発作みたいに日に何度か強いの来たことあったでしょう」
「何言ってるの?あれ風邪だから、土方家の薬飲んで治ったし。もしかして、あれがいけなかったのかなぁ」
沖田は惚けてみせる。
「そうじゃなくて、私は知ってるの。それは風邪じゃない」
「なんだ、お見通しか。でも、これ治らないでしょ?不治の病って言われている。でも、皆には言わないで、言ったら斬るから」
「だから治療の途中って言ったじゃない!半分は消えているの!その結核菌!」
「結核菌?」
「そう、なんだっけこっちの時代では、労咳?未来では薬で治るの。でもここには薬が無い。だけど、私なら治せる!お願い治療させて?」
「でも、それの所為でこんな風になったんじゃないの?」
「それは!一度に二人の重傷患者を治療しようとしたからっ。私なんて寝たら回復するんだから、ね?」
「ならいいんだけど。寿命が縮んでるなんて事、ないよね」
「まさか!」
「そう、わかった」
「よかった。完全に体力回復したら退治するあら、後日あらためて時間くださいね」
「はい、はい」
「はいは一回でいいって言われなかった?」
「土方さんみたいなこと言わないでくれる?」
瑠璃はなんとしても沖田の病を治したかった。
歴史が歪んでしまうかもしれない。
しかしそんな事は頭になかった。
彼の未来、新選組の未来はもっと違ったものであって欲しい。
そう思い始めていたからかもしれない。
「あれ、一さん」
「もういいのか?」
「はい、寝たら回復しました。私って簡単でしょう」
「ふっ、」
わぁ、一さんが笑った。
一さんといると不思議と心が落ち着く。
池田屋のあの極限の場面でも、一さんが一緒に居てくれたから。
「一さんって、不思議ですね」
「なにが、だ」
「一さんと居ると心が落ち着くし、池田屋でも恐怖感が和らいだから。」
「そ、そうか。全く、あんたは」
「え?」
「何でもない」
また、言葉の途中で止めてしまった一さん。
でも今日は少し顔が赤い。
最近、喜怒哀楽が顔に出ていますよ?
気づいていますか?




