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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第四章 祈りの国サマリアール
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第九十四話

2週間もお待たせしまって申し訳ありません。


第九十四話です。

 フェグニスさんを倒し、城の中を進んでいた僕はその道中でフクロウの姿に化けていた使い魔、ネアのことをルーカス様とエヴァに説明していた。

 ネアが吸血鬼とネクロマンサーのハーフだと説明すると、ルーカス様はとても驚いていた。

 一方でエヴァは、フクロウから人へ変身したネアに興味津々のようだ。


「それでネア、呪いの正確な場所は分かっているんだよね?」

「勿論よ。だからこうやって私が先導してあげているんでしょう?」


 黒髪赤目の少女の姿で前を歩くネア。

 魔道具の明かりのみで照らされている城内には僕達の足音が響いている。


「ウサト、分かっていると思うけど確認しておくわね?」

「ん?」

「後ろにいる二人も聞いておきなさい」


 前を向いたままネアが声をかけてきた。


「呪いを相手にするのは私とウサトよ。貴方達二人は後ろで見ているだけでいいの」

「……そうだね。正直、ただの王でしかない僕には見届けることしかできない」

「分かっているなら結構。それじゃあ、次に呪いの破壊を失敗した時の話をするわね?」

「おい、ネア……」


 その言葉にルーカス様が強張ったのを見て、ネアを戒める。

 しかし、彼女は睨み付けるように僕を見る。


「呪いを確実に破壊できる保証はないの。だから最悪の可能性も覚悟してもらわないといけないのよ」

「―――でも」

「大丈夫だ、ウサト。……続けてくれ」


 真剣な表情を浮かべたルーカス様。

 そんな彼に、ネアは静かに口を開いた。


「……魔力の供給源だった鐘を壊したことで、呪いは消滅に向かっているわ。消滅すること自体は悪い事ではないわ。囚われた魂も、これからサマリアールの王族が呪われることも無い。だけどエヴァ、貴女の取られた存在と魂は永遠に失われるわ」

「……そう、なんですか。ということは、私はあまり長くは生きられなくなるってことですよね……」


 彼女の命はかなり削られてしまっているから、最悪一年も生きられないかもしれない。

 苦しげにそう呟くエヴァに歯がゆい気持ちになる。


「ま、そうさせない為にこのお人好しが呪いを破壊しようって息巻いているのだけどね。だけど、もしそれが失敗した時……例えば、呪いを破壊することが困難な場合や、ウサトが危なくなった場合は呪いの破壊を諦めるわよ」


 呪いをどうすることでもできない状況に陥ってしまったら引くしかない、か。


「元より危険が大きすぎるのよ。彼女の魂と存在を取り戻すためには、エヴァに近くにいてもらわなくちゃならない。でも私の耐性の呪術はウサトかエヴァのどちらかにしか施すことができない。それでもし、呪いに明確な意思があったら、必ず無防備になってしまうエヴァが狙われてしまう。……いくらウサトでも何百の呪いを圧倒できる訳じゃないでしょ?」

「……ああ」

「……そんな納得できないって顔しないでよ。私だって好きでこんなこと言っている訳じゃないんだから。……助けるからには全力でやるわよ」


 気まずげに前を向いてそう言ったネアに、しかめっ面だった僕もクスリと笑みを漏らしてしまう。

 ついこの前は敵同士だったけど、知り合ってみればかなり人間味のある子だ。

 微笑ましげに前を歩くネアを見ていた僕に、エヴァはどことなく嬉しそうに話しかけて来た。


「ウサトさんとネアちゃんは、とても仲良しなんですね」

「仲良しとはちょっと違うね。なんというか、信頼しているって感じの方が正しいかもしれない」

「フフフ……」


 小さく微笑むエヴァだけど、その微笑みには力が無い。

 多分、体にうまく力が入らないのだろう。このまま彼女の存在と命を取り戻さなければ、彼女は満足に動くこともできないまま、短い生を生きるしかない。


「どうしましたか……?」


 無言になってしまった僕を心配そうに見るエヴァにぎこちない笑みを向ける。

 失敗した後のことは考えたくもない。

 だけど、百パーセント成功する保証なんてどこにもない。

 ネアの言う通り、最悪の可能性を考えて僕は呪いを破壊しに行かなければならない。


「着いたわよ」


 思考に耽っていると、ネアが大きな扉の前で足を止める。

 彼女が立ち止まったのは……!


「この扉は……」


 魔道具の明かりで照らされた扉を見たルーカス様は目を見開き驚愕する。


「まさか……ここがそうなのか……!?」

「ええ。見つけるのはとても簡単だったわ。なにせ、当時の王は自己顕示欲が強かったみたいだったからね」


 そこは―――玉座。

 僕がこの城へ招かれた時、最初にルーカス様と出会った場所がサマリアールの王族を蝕んできた呪いが隠されていた場所だった。


「こんなに近くにあったのに……僕は、僕達は気付くことができなかったのか……」


 玉座がある広間に足を踏み入れたネアは、迷いなく玉座が置かれている後ろの壁に歩いて行く。思案げに壁を手で触れた彼女は一つ頷くと、こちらを見て口を開く。


「ウサト、この壁をぶっ壊してくれない?」

「僕が壁をぶっ壊せて当然みたいに言わないでほしいんだけど。……まあ、やってみるけどさ」


 ガッチガチに固められた壁に見えるけど、簡単に壊せるのだろうか?

 自分に壊せるか、少し心配になりつつ助走をつけ直蹴りを固そうな壁に叩きこむと、予想よりも簡単に足が壁に突き刺さりそのまま崩れていく。

 崩れた壁の先には奥へ続く螺旋階段とどんよりとした不気味な風が吹いてくる。


「意外と簡単に壊れたのは壁の奥にこんな空間があったからか……」


 勇者を縛り付けるように指示したのは当時の王だから、身近な場所にその呪いの本体を置くのは当然か。

 道理で簡単に壊せたわけ―――


「いや、そんなに簡単に壊れるような壁じゃないんだけど……」

「わぁ、ウサトさん凄いですねー……」

「……」


 後ろの二人の反応にどことないデジャブが……。

 ルクヴィスで的をぶち抜いた時の状況を思い出すのは何故だろうか。

 ……いやいや、気持ちを切り替えよう。


「よし。ネア、フクロウに変身してくれ。ルーカス様は僕の後ろでエヴァを放さないようにしてください」

「はーい」


 ポンッと変身したネアが僕の肩に乗る。

 ルーカス様も緊張するようにエヴァを持ち直して、僕の後ろへ下がる。


「さてと、この下に呪いの大本がいるわ。気を引き締めなさいよ、ウサト」

「ああ、全力で叩く」


 拳を強く握りしめ、そう言葉にした僕は足を踏み外さないように階段を下り始めた。


 ●


 玉座の裏に隠された隠し部屋。

 その中の螺旋階段へ足を踏み入れた僕達は、緊張の面持ちで階段を下りていく。

 ネアが何時の間にか城の中からくすねてきた魔道具の光で足元を照らして、階段を下りて行ったその先には暗闇の中で目立つ緑色の光が見える。

 その光を目前にして、今一度深く深呼吸をした僕は意を決して光が漏れ出している空間に足を踏み入れる。


「……! ここが……」


 光が漏れ出していた空間は、祭壇のような場所だった。

 全体的に埃にまみれてはいるけど、人が何十人も入れそうな広さがあり、奥の祭壇には何かを祀るように緑色の光を放つ水晶玉が置かれていた。

 恐らく、あれが呪いの核だ。

 ネアが言わなくても分かる。魔術のような文様が水晶の中で混ざり合うように動いているのが見えるし、なによりヤバそうな雰囲気がビリビリと伝わってくる。

 そして―――、


「……ウサト」

「ああ、いる。しかも、昨日の比じゃない程の数だ」


 昨夜、呪いと相対したからこそ分かる。

 ザラザラとした気持ち悪い感じと、僕達へ向けられる沢山の視線のようなもの。

 言うなれば、ここは呪いの胃の中って感じか。


「……っ」

「エヴァ、大丈夫か?」


 エヴァも僕と同じものを感じ取ったのか、息を呑んでいる。

 ルーカス様が心配して、声をかけるとエヴァは振り絞るように僕に声を投げかけてくる。


「ウサトさん……私、この感じを……知っています」

「知っている?」


 後ろを振り向かずエヴァにそう訊くと、彼女は怯えたように声を震わせる。


「夢と、同じです。私に恨みの言葉を投げかけていた人たちと……」

「無理に話さなくても良い。言いたいことは大体分かった」

「……はい」


 つまり、彼女に悪夢を見せていたのも呪いの仕業ってことか。

 サマリアールの民の恨みは相当なものだと思ってはいたけど、夢の中でも追い詰めようとするなんてよくやるよ。


「……待てよ。そしたら……」


 その呪いの見せたであろう夢の中で彼女を護った人達ってのは誰だ?

 王族に恨みのあるサマリアールの民がエヴァを庇うはずがない。

 もしかして―――、


「ウサト! 私の予想通り、呪いには核があるわ! 呪いが本格的に動き出す前にぶっ壊すわよ!」

「……っ、ああ」


 祭壇にある水晶を見たネアが興奮気味にパタパタと翼を動かしながらそう言ってくる。


「ぶん殴るだけで壊せるのか? 解呪は必要ないのか?」

「使う事も考えていたけど、必要ないわ。あの水晶はいわばこの世に魂を縛り付ける楔。魔術と違って人によって作られたものだから、あれさえ壊してしまえば繋ぎ止められていた魂は解放される……はず」


 はずって、ちょっと不安だけど、彼女がそういうのなら従おう。

 だけどなぁ、最後は拳で壊すとはなんとも僕らしいというか……。


「ぶっ壊すぶっ壊す言っていた僕だけど、結局最後は力技か……!」

「力技しかできないのに、今更何言ってんのよ……」


 失礼な。僕だって結構考えて殴っているんだよ?

 まあ、あれこれ考える必要が無いので手っ取り早い。何も考えずに目の前の水晶をぶっ壊せばいい。

 こちらの目的を察したのか、広間の至る場所から昨夜とは比べ物にならないほどの骸骨達が姿を現す。


『―――ァア』

『ゆ、ぅ……』

『く、ぁ』

「わらわら集まってきたな……! ネア、一瞬で片をつける! タイミングを合わせて耐性の呪術を僕に付け替えてくれ! ルーカス様、少しの間エヴァが無防備になります! 危なくなったら僕を呼んでください!」

「分かったよ。君も気を付けてくれ!」

「はい!」


 肩の上のネアが頷いたのを確認した僕はルーカス様に抱き上げられているエヴァの肩に軽く触れる。

 僕に耐性の呪術が備わっている状態なら、骸骨達の妨害も無視し最短距離で呪いを破壊しに行ける。その分、エヴァが無防備になってしまう可能性があるけど、そうなる前に破壊してやる……!


「今よ!」

「シッ!」


 ネアの解呪が発動し、エヴァの体を覆う耐性の呪術が弾けると同時に思い切り前へ飛び出す。


「行くぞネアァ!」

「分かっているわ!」


 そして、体には耐性の呪術、両手には拘束の呪術が纏われる。

 突然飛び出した僕の行動に骸骨達は動き出すけど、その動きは遅い。

 地面から手を延ばしてくる骸骨も―――、

 天井から襲い掛かってくる骸骨も―――、

 全て僕の速さには追いつけない。


「フゥンッ!!」

「ギ、ァ……!?」


 前方に浮遊する邪魔な骸骨も難なく治癒拘束拳で対処し、さらに加速をした僕は右腕を思い切り引き絞り拳を固く握りしめる。

 祭壇への距離は目前へと迫っている。

 後はこの拳を直接叩き込むだけだ……!


「これで終わりだァ!!」


 強く握りしめた拳を祭壇目掛けて振り下ろす。

 しかし、うまくいっていたのはそこまでだった。


「ァ、アァァァ」

「グ、キィィ」

「な!?」


 ジャラジャラ!! と、複数の鎖の音が聞こえたその後に拳と水晶の間に割り込む様に凄まじい速さで数体の骸骨が壁になるように割って入ってきた。

 水晶に直撃するはずだった拳は幾重にも重なるように壁になった骸骨に阻まれて、方向をずらされてしまう。


「ッ、なんだ!? 骸骨達が壁に繋がった鎖に引っ張られるように……!?」

「どういうこと!? 今、明らかにこいつらの意思とは関係無しに鎖が動いたわ! ウサト、一旦下がって! もしかして、私はとんでもない勘違いを―――」

「引いてもしょうがない! もう一度殴る! オラァ!!」

「聞きなさいよ!?」


 止められたなら、止められないようにすればいい。

 再び拳を掲げ、振り下ろそうとするとさっきと同じように骸骨共が割って入るが、今度は阻まれても問題ないように両腕でぶっ壊れるまで叩き込んでやる!

 ネアの制止を無視して右拳を突き出そうとすると―――、


「ヤ、メテ」

「ッ!!」


 小さな、子供くらいの大きさの骸骨。それが拳の前ではなく僕の顔の前に引っ張り出される。悲鳴ではなく、懇願するような言葉に動揺して拳が止まってしまう。

 こんな手まで使ってくるのかよ……!

 突き出しかけた拳を引いて、その場から下がると焦燥したネアがこちらを向く。


「これは流石に想定外だわ。意思があるだけなら良かった。だけどこれは……明らかに開放を求める骸骨とは別の意思を持った何者かが私達の邪魔をしているわ!」

「骸骨とは別のって……くっ」


 周囲から襲い掛かってくる骸骨共を避けながら、目の前で祭壇を護るように―――いや、護らされている骸骨達を見やる。

 あの首輪に繋がれている鎖。あれが天井・壁からのびて骸骨達を無理やり動かしている。まるで奴隷のように強制的に祭壇の前に引っ張られている彼らに、僕は言い様の無い怒りを抱く。


「ふざけやがって……!」


 これはつまりあれか? 呪いに魂を縛られて苦しんでいるサマリアールの民の人達を利用している存在がいるってことか?

 それが本当にいると考えて、祭壇を壊されることを阻止することができたら次にどうする?

 現状、何十、何百と骸骨達をけしかけようがネアの魔術によって守られた僕を止めることはできない。

 僕に隙を見せさせるための手段、それは―――


「ウサト、こっちに呪いが!!」

「―――エヴァ!!」


 背後から焦ったルーカス様の声が聞こえると同時に、後ろを振り向く。

 振り向いた先には多数の骸骨達に取り囲まれているエヴァと彼女を守るように抱きしめているルーカス様の姿。


「今行きます……っ、う!?」


 助けに向かおうとするも、突如として足の動きが阻害され転びそうになる。

 足を見れば、いつのまにか骸骨に繋がっていた鎖が巻き付けられていた。


「くっ、お前!!」


 あくまで耐性の呪術は『呪い』に効力を限定しているからそれ以外は防げない。

 すぐに鎖を解くことはできるが、そうしている間にエヴァが危ない。

 しかも、こちらにも足止めの為か数えきれないくらいの骸骨達が向かっている。

 ……迷っている時間はない!


「ネア、僕にかけられた魔術を解除しろ!!」

「はぁ!? ふざけんじゃないわよ!! こんなところで貴方を護っている魔術を解除したらどうなるか分かっているでしょう!?」

「頼む!」

「……あー! もう、分かったわよ!! なんでこんなお人好しの使い魔になんてなっちゃったのかなー! もー!! 絶対に死なないでよね!?」


 僕に施された耐性の魔術が解かれ、呪いに対して無防備な状態になる。

 それに構わず僕は、むんずっと肩の上にいるネアを掴む。


「今のうちに謝っておく!! ごめん!!」

「え!? なんで私を持って振りかぶって……ねぇ!? これってまさか―――」


 エヴァとルーカス様を頼むぞぉ!!

 軽く持ったネアを勢いよく、エヴァとルーカス様の方へ投げつける。ひゃ~~!? と、絶叫したネアだがすぐに変身を解いて元の吸血鬼の姿に戻り、二人の近くに着地する。

 涙目でこちらを睨み付けた彼女は、目を丸くしているエヴァとルーカス様に手を振れると魔術を発動させ呪いを遠ざける。


「……ッ!?」


 安堵する間もなく、足に鎖を絡みつかせている骸骨が僕の足に噛みつき昨夜と同じ頭痛が襲う。

 即座に足元の骸骨を踏みつぶし、四方八方から襲い掛かってくる骸骨に拳を振るい撃ち落としていく。


―――カ、カカ


 足元に砕け散った骸骨の破片が山のように増える毎に、嘲りを帯びた掠れた笑い声が聞こえてくる。


―――カカカ


 昨夜と比べ数も、再生速度も段違いに早い。

 手数が間に合わず、僕の背と足には二体の骸骨が取りつき、歯を突き立てている。


「―――か、は……! こんなもので、同じ痛みで僕が止まるかよぉ!!」

―――カ!?


 体に絡みついた骸骨を振りほどき、回し蹴りで粉砕した僕は手ごろな骸骨を鷲掴みにし、数体纏めて地面に叩きつけ粉々にする。


―――まともな方法では無理か、なら相応の数と手段を以て主の魂を壊させてもらおう。

「……ッ、誰だ!」


 嘲笑とは違う、頭に響く声。

 その声の主を探そうとするが、次の瞬間、周りに自身の首に繋がった鎖を握った骸骨達が一斉にその鎖を僕目掛けて投げつけてきた。


「く、こんなもの……!」


 前後左右から生き物のような動きで飛んでくる鎖に、四肢を拘束され一瞬だけ身動きができなくなった僕の隙を見計らったかのように先程まで打ち落とした骸骨達が全身に噛みついてくる。


「が、あぐぁぁ……」


 両腕で絡みつき噛みついてくる骸骨達。

 昨夜とは比べ物にならないほどの尋常じゃない痛みにまともに立っていられず膝をついてしまう。


「ウサトさん!」


 誰とも知らない嘲笑。

 僕の名を呼ぶエヴァの声。

 襲い掛かる骸骨達に視界を埋め尽くされた僕が、次に骸骨達に見せられた光景は文字通り死の光景であった。


邪魔が入っていなければ、呪いは普通に壊せていました。

次話は、ウサトの精神耐性訓れ……ではなく精神攻撃についてと、少しだけ前代勇者についての話を予定しております。

呪いとの戦いはそれほど派手ではないかもしれません。


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