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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第三章 生と死を操る魔物 
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第六十七話

本日二話目の更新です。

六十六話の方を未だ見ていない方はまずそちらを。

 翌日、僕達は食料を分けてもらうために、近くにあるという村へ向かっていた。

 少し後ろでアルクさんが馬を引いて歩き、その前にブルリンとアマコ、そして僕という形で今日も変わらない旅が続く、そう思っていたのだけど……今日は少し違っていた。


「……っ」

「アマコ殿?」

「どうしたの?」


 突然耳に手を添えるアマコ。

 人間とは一線を画す獣人の耳が何かを捉えたのだろうか。気になった僕も、遠くの声を聞き取ろうと耳に手を添え意識を集中させる。


『――――す――てッ!!』


 女性……いや、女の子の声?

 足を止め、さらに耳を澄ます。すると、木々のざわめきと共に悲鳴に似た声が―――。


『誰か助けて!!』

「ウサト!」

「分かってる!!」


 助けを求める少女の悲鳴が聞こえ、走り出す。

 どういう状況か分からないけど、非常事態な事は確かだ。皆で移動していたら、手遅れになってしまうから足の速い僕が先行して助けに行く。アマコ達は後から来ればいい。

 木々に囲まれた緩やかな斜面を全速力で上ったその先には、複数の人影。遠くを見据えしっかりと目を凝らすと、同い年位の少女がボロボロの服を着ている集団に囲まれているのが見えた。


「いた!!」


 まだ危害は加えられていないように見えるけど、少女の周りの人相を見る限りまともな奴らとは思えない。何せその集団は生気を感じさせない目に青白んだ肌をしているのだ。

 一刻も早く助けなければ、何をしでかすか分からない。


「伏せろ!!」


 走り寄る僕の姿に気づき助けを求めようとする少女に言い放ち、生成した魔力弾を力の限り投げつける。

 真っすぐ飛んだ魔力弾は、少女を取り囲む男に直撃し二人ほど巻き込んで吹っ飛ぶ。

 その隙に集団の元へたどり着いた僕は、少女を抱え一気に後ろへ下がり、彼女の安否を確かめる。


「大丈夫!? 怪我は!?」

「え!?……あの……今、何が……」


 目を点にして、こちらを見上げる少女。

 肩ほどにまで伸ばされたやや茶色がかった髪に、綺麗な琥珀色の目。怯えていたからか、潤んだ瞳に見つめられ、思わず息を呑む。


「……っ」


 どういうことか、見惚れてしまった。

 初対面の女の子に心を奪われそうになるとか一目惚れっていう柄じゃないだろ僕は。変な性格の女性と関わりすぎたから普通の子に対する耐性が無くなっているのか?

 邪な考えを振り払いながら、少女を地面に下ろす。


「後ろにいて。すぐに仲間が来るから……こいつらは僕が」

「は、はい……」


 問題は眼の前の集団。

 身なりからして盗賊ではないし、モンスターの類でもない。

 浮浪者のようにボロボロの衣服と、だらりとたらされた腕。そして前髪の隙間からこちらを見つめるぎょろりとした生気の無い目。

 成程、変態か……。どの世界にもいるものなんだな、変態というやつは。


「どうしてこの子を襲おうとした……」


 対話を試みようとしても無視。

 先程、治癒魔法弾で倒れた奴らも何事もなかったかのように立ち上がりこちらを伺っている。

 ……脅すか。


「あのこいつらは……っ」

「どういう目的でこの子に襲おうとしたか知らないが………それ以上近づけばまず腕を捥ぐ。それが嫌ならなぜこの子を襲おうとした理由を言え、もし企てた奴がいるのなら―――覚悟しろよこのクズ共が」

「……」

「……ん? 今何か」

「な、ななななななんでもないです」


 振り向くと顔を真っ青にして首をぶんぶんと振る少女。

 どうやら目の前の集団ではなく、後ろの少女を脅してしまったようだ。

 反対に目の前の集団は僕の言葉に怯えるどころか、逆にこちらに近づいてきたではないか。


「はぁ……」


 ため息を吐きながらも、あわあわとしている少女を後ろへ下がらせ、静かに治癒魔法を拳に纏わせる。


「うがぁぁぁぁ!!」

「しょうがない……悪く思うなよ!! 君は下がって!!」

「ひ……はぁい!」


 不気味な唸り声と共に襲い掛かってきた変質者の一人に腕を掴むと同時に思い切り引き寄せ、治癒魔法を纏わせた拳をそのどてっ腹に打ち込む。

 そのまま拳を軽く振り切り、五メートルほど先まで殴り飛ばす。地面に体を打ち付けゴロゴロと転がりぐったりと静かになる変質者を見てゆっくりと突き出した拳を構え直す。

 どうだ……? 手加減しての一撃だ。気絶させるには十分な威力があるはず。


「ど、どういうこと……」


 後ろではやけに狼狽した少女がいるが、どうせ僕の拳の威力に驚いているんだろう。

 その反応に慣れてしまったことに少し悲しくなりながらも殴り飛ばした男を見る。

 ……しっかし、やけに硬かったな、鉄板かなんかでも隠していたのか? 言い方は悪いけど、人を殴った感覚ではなかったな。

 拳に違和感を感じながら、残りの奴らに目を向けようとする……が、殴り飛ばした男がのそりとした動きで起きあがるのを見て驚愕する。


「起きた……、頑丈だな、って!?」


 腹部が陥没している!?

 何でだ? そこまでの威力は籠めていなかったはずだ。それに、僕の治癒魔法が効いていないはずがない。

 いや待て、そもそも何で立っていられる!?


「「「うがぁぁぁ!!」」」

「くっ……」


 不気味に佇んでいた不審者共が、数で襲い掛かってくる。

 混乱したまま、治癒魔法を纏わせた拳を振るい応対するも、どいつもこいつも異様に硬く、そして脆い。まるで木の幹を殴っているような感じだ。

 こいつらは魔法が効かないのか? 人間ではなくそういう生物なのか?

 どちらにせよ―――、


「治癒パンチが効かない……」

「うぎゃぁ!?」


 跳びかかってきた一人を治癒パンチで殴り飛ばしながらショックを受ける。

 まさかこんな形で僕の技が封じられるとは……。

 治癒魔法が効かない、それも気絶させることもでできない敵。


「僕は……」

「うぐぅ!?」


 回し蹴りで二体纏めて蹴り飛ばし、横から掴みかかろうとする一体の腕を掴みそのまま振り回し地面へ叩き付ける。


「どうすればいい……」

「あがぁ!?」


 掴んだ腕を離すと同時に掌に生成した魔力弾を背後から襲おうとしているもう一体の顔面にぶつける。新技、治癒目潰し、―――治癒魔法弾を用いた目に優しい目潰しによって視界を潰され、のけぞったところに拳を繰り出し、近くの木に衝突させる。


「……治癒魔法の効果は見られない、か……」


 皆一様にずるずると起き上がるのを見て、今日二度目のため息を吐く。

 治癒パンチ……いや、治癒魔法を伴った攻撃がこうも早く破られるとは。一体、こいつらは何なんだ。そういう種族なのか? どちらにせよ気味が悪い事には変わりはない。


「普通に殴ったらいいだけじゃん!! ウサトはバカなの!?」

「いや、そうなんだけどね……」

「うぎゃうッ」


 跳びかかってきた不審者を手刀で地面に叩き落としながら、息を乱しこちらに叫んだアマコにそう返す。

 別に治癒パンチに拘っている訳じゃないから、やりようはいくらでもあるんだよね。治癒パンチはあくまで、僕が『ある程度の力で殴っても相手が無事なパンチ』だから、相手の事を気遣うなら抑えるなり、叩き落とすなりすればいいだけな話だ。


「また派手にやりましたね……ウサト殿」

「ええ。はぁ―――」


 眼の前の光景を見たアルクさんの困ったような声を聞き、安堵するように息を吐く。

 戦ってみて分かったけど、こいつらは腕力こそ強いがそれ以外は遅い。

 魔族とも人間とも違う。呻いて、暴れて、ただ目の前の獲物に食らいつこうとする猛獣のように思える。


「何者なんですか、この人たち」

「……ウサト殿の治癒魔法が効かず、ボロボロの体、……私も初めてみますが、恐らく彼らは―――」


 傷ついても血も流さず、何度も起き上がる人ならざる者。

 彼らを見据えたアルクさんは、一言、それに当てはまるであろう名前を言い放った。


「ゾンビ」


 その名は僕の元居た世界では、ある意味で有名なモンスターの名前であった。






「ゾンビ、ですか……」

「死してなお動き続ける屍。どんな傷を負っても動き続け、緩慢ながらも人間の限界を超えた腕力を持つ『魔物』です」


 人間ではなく魔物、か。

 この世界のゾンビについては少しだけ知っている。あくまで文面だけの知識だけど、モンスターとしてのゾンビは、死した人間が特定のモンスターによって呼び起こされ、傀儡として操られるという存在だ。

 そこに感染というものが無く、勿論ひっかかれたり噛まれたりしてもゾンビになったりはしない。


「それじゃあ、こいつがゾンビだとして……操っている存在が何処かにいるってことですね?」

「恐らくは」


 どちらにせよ治癒魔法が効かない理由に合点がいった。ゾンビは死した人間を媒介としているから、生きた生物に作用する治癒魔法が効かなくて当然だ。

 四肢に纏わせた治癒魔法を解く。

 これ以上の治癒魔法は必要ない。後は純粋な肉弾戦で沈めていくしかない。


「彼らに有効な攻撃手段はカズキ様の光魔法のような聖なる力の宿った攻撃、そして―――」


 僕の前に出たアルクさんが剣を抜き放つ。

 すると、刃から炎の剣線が走り前に居たゾンビに直撃し、勢いよく燃え上がった。

 炎の系統魔法。剣先に魔力の炎を灯し、それを抜刀と同時に放ったのか……。かっこいい、なんというかスタイリッシュ抜刀ってこういうものを言うんだろうな。

 アルクさんの技に密かに感嘆していると、炎が直撃した個体とその周りにいるゾンビ達が無表情から一転して恐怖に慄くように呻き始めた。


「ぎゃっ、あああ……あぁぁぁ!!」

「彼らは火に弱い。後は私に任せてください」

「……お願いします」


 アルクさんの放つ火にゾンビ達が恐怖に表情を歪ませ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 ゾンビだから火に弱いのか、まあ確かに枯れ木みたいな感触だったから燃えやすいのはしょうがない……のかな?


「ま、とにかく……アマコ、その子は大丈夫?」

「うん……怪我はないと思う」

「グアー」


 後ろを振り向き、彼女を守ってくれていたアマコとブルリンに少女の安否を確かめる。

 というよりアマコ、お前やっぱり僕達以外の人間相手にはフードで顔を隠しているんだな。ま、現状で不要な軋轢を生まないためには、その方が良いか。


「危ないところを助けてもらって……あ、私っ、ネアと申します! えと、その……ありがとうございます!!」

「お、おう……」


 ゾンビ達が居なくなって恐怖が薄れたのか、眩しいくらいの笑顔でぺこりと頭を下げる少女、ネアさん。

 彼女の眩しすぎる笑顔を向けられた僕は思わず視線を逸らしてしまうのだった。






「君は近くの村に住んでいる子なの?」

「はい」


 ゾンビの集団に襲われかけていた少女、ネアさん。

 彼女は近くの村の住民で、薬草を探しに村の外に出た先でゾンビ共と遭遇しあの状況に陥っていたらしく、その時に僕達が運よく彼女を助け、事無きを得たとのこと。

 現在は、僕達に助けてもらったお礼をしたいというので、今は村までの案内をしてもらっている。

 意外だったのはこの子はあまりブルリンを怖がらなかったということだ。ルクヴィスの学生たちはブルリンを見ればこっちが引くほどにビビっていたのに、ネアさんは怖がる素振りを見せず、むしろ笑みをすら浮かべていた。

 ……一人で村の外に赴く豪胆さといい意外と肝が据わっているかもしれないな。


「ウサトさんは凄い魔法をお持ちですね」

「うん? 凄い魔法……?」

「ゾンビを軽々と飛ばしたり、魔力の弾をあれほどまでに早く飛ばせる人は見たことがありません。身体強化系の魔法ですか? それとも風系統で速度を上げているんですか? いえ、まさかまさかの重力系統の希少魔法でしょうか?」


 遠回しに人間離れしていると言われているとみていいのだろうか、これは。


「プッ……」


 アマコ、今笑ったな?

 頭に被ったフードで顔を隠し肩を震わせるアマコを一度睨み付け、キラキラとした目を向けるネアさんにぎこちない笑みを返す。

 その純真さを思わせる笑みは心が汚れている僕に眩しすぎる……ッ。


「い、いや……あの、僕、治癒魔法使いなんだ」

「………は? 治癒、魔法使い……え、でも治癒魔法使いって人を治す魔法では……」

「だから、その……さっきのは普通に格闘だけで解決したので魔法はあまり使ってない」


 そう言うとネアさんは、目を丸くする。まさか使っている魔法が治すこと以外に能がないと言われる治癒魔法だとは思いもしなかったのだろう。


「つ、つまり……先ほどは……」

「全部魔法無しの肉弾戦……驚くのは無理ない。ウサトは脳筋の治癒魔法使いだから」


 我慢しろ僕、ネアさんの前だぞ……ッアマコへのお仕置きは後……ッ。


「ははは、アマコ殿の言う通り型破りな魔法の使い方をする彼ですが、彼のおかげで沢山の命が救われたことは事実です」


 アルクさんの絶妙なフォローに我に返ったネアさんは、自分が僕に対して失礼な態度を取ってしまったと思ったのか、バッとこちらを振り向く。


「いえ! びっくりしただけです。断じてウサトさんをバカにしたとかそういうことではないです!!」

「う、うん。別に気にしてないから」


 必死な面持ちで詰め寄ってくるネアさんに動揺しながらも返事を返す。さっきからもそうだけど、何故か僕はこの子と目を合わせられない。

 犬上先輩のように構ってほしいと言わんばかりの好奇心旺盛なものでもなく、ウルルさんのような快活さを感じられる明るいものでもない。強いて言えば捨てられた子犬を連想させる印象だ。

 よく言えば庇護欲を抱かせる。悪く言えばあざとい。


「ちょ、近い近い」

「っ! す、すいません……」


 息がかかるくらいの距離にまで近づいていたことに気付いたネアさんは、顔を真っ赤にしながら3歩程後ろに下がる。それに合わせて僕の顔にも熱を感じる。

 おいおい、まさかこれって……こ―――。


「フンッ!」

「うぐぉ!? アマコ、いきなり何するんだ!!」

「……ウサトは将来、女に騙される。絶対」

「はぁ!?」


 何そのセリフ!? 他の人に言われたら嫉妬かって思うけど、君に言われたら不安しか抱けないのだけど!? 突然、僕の脛に足刀蹴りをかましてきたアマコの言葉に戦慄を隠せない。


「デレデレしすぎ。見てらんないよ」

「うっさいわ。それより僕が騙されるということが予知かどうかをだな」

「……」


 なんでそこでだんまり!?

 僕とアマコのやり取りを見て、落ち着いたのかネアさんは少しぎこちない笑みを浮かべる。


「私ったら久しぶりに村の皆以外の人達にお会いしたから、少し興奮しているかもしれません」

「久しぶり、ということはあまり村の方に訪れる人は居なかったということですか?」


 アルクさんの言葉にネアさんの表情に影が差す。

 暫しの沈黙の後、口を噤んでいたネアさんは悲痛そうに口を開いた。


「そうですね……。ゾンビが出てくるようになって……そのせいで私達も迷惑しているんです」


 確かにあんな不気味な奴らが近くでうろついている村に寄りたいとは思わないな。でもそれだと商人も寄ってこないから、生活が苦しくなったりするんだろうな。

 よく考えればこんな普通の女の子が一人で薬草を摘みに来る時点で察するべきだった。

 彼女が無謀を承知で薬草を取りに行ったという事を……。


「なぜゾンビが出てきたか、理由は分かる?」

「……いえ、私達も全く知らないんです」


 理由も分からないのか。

 ゾンビを発生させた首魁も分かればいくらでも打つ手はありそうなんだけど。


「……着きました」


 前を向いたネアさんの言葉に我に返る。

 僕も前方を見ると、少し古びた家屋が並んでいる小さな村の入り口が見えた。小さいといっても予想していたよりも大きく、元居た世界での田舎の農村といった感じだ。


「あそこが、私の生まれ育った場所。イアヴァ村です」


 ようやく村に帰ることができたからか、安堵の表情を浮かべたネアさん。

 村の周りをよく見ると、外壁はリングル王国やルクヴィスとは違い、簡易的な木の柵で内と外で区切られているだけであり、建物の方も頑丈そうなつくりではなく、少し古びている木造建築みたいだ。


「ネア!!」


 村の方からネアさんを呼ぶ声と共に年老いた女性がこちらへ走り寄ってきた。多分、ネアさんの関係者だろうと思いながら彼女に視線を向けると、彼女も女性と同じくその場から駆け出した。


「テトラさん」

「良かった……。アンタが村の外へ黙って行ってしまうものだから、とても心配したんだよ……」


 年老いた女性がネアさんを優しく抱きしめる。


「ごめんなさい、でも……薬草が足りなくて……」

「薬なんて大丈夫なのに……。もう少しで村の若い衆で探しに行かせた所だよ。とにかく無事に帰って来てくれて良かった。それで、後ろの方々は……?」

「彼らは私がゾンビに襲われそうになっていたところを助けてくれた人達です。皆さん、こちらはテトラさん。私の……親のような人です」


 女性との抱擁を解いたネアさんは僕達の方に体を向け、紹介してくれる。

 テトラさんは一瞬不審そうに僕達を見ていたが、ネアさんを助けたと聞くと、直ぐに優しげな顔つきに戻り一礼してくれた。


「この娘を助けてくれて本当にありがとう。この娘はそれはもう本当に度胸のありすぎる子で……大変だっただろう。もう、なんとお礼をすればいいか……」

「ちょ、ちょっとテトラさんっ!! 客人の前ですよ、私の話はやめてください!」


 嘆く様にネアさんについて語るテトラさんに、頬を真っ赤にして止めようとする彼女。

 先程の「親のような存在」という言葉に少し気になっていた僕だけど、二人のやり取りを見て気にすることでもないと思った。


「いえ、僕達は当然のことをしたまでです!」


 あ、今のセリフ凄いありきたりな感じする。

 というより、地味に現実で言ってみたいセリフを自然に言えた自分にビックリした。


「と、とりあえず村に入りましょう。話はそれからです!」

「それもそうだね。三人と……馬と、ブルーグリズリーの子供だね? そちらの二頭の方は村の厩舎の方に移動させた方がいいね」


 テトラさんとネアさんと共に村の中へ入る。

 村には二人以外の村人が沢山いて、各々が畑を耕していたり馬や牛の世話をしていた。

 ネアさんの言った通り、ここに訪れる人が珍しいのか村に入った僕達に村人たちが注目する。


「私達は旅の者です。できたら食料などを分けて貰えればそれでいいのですが……」

「遠慮なさんな。長旅で疲れているように見える。一日くらい泊まっていったらどうだい?」

「いえ、急ぎの旅なのでお気持ちだけで結構です。それに、ご迷惑をかけるわけにもいきませんから」


 アルクさんの言葉にテトラさんはゆっくりと首を振る。

 僕達の任は各国への書状を届けること。いくらお礼をといっても一日ご厄介になるわけにはいかない。アルクさんの言う通り、気持ちだけで十分だ。


「休める時に休んだ方が良い。小さい子供もいるじゃないか。肝心な時に倒れて立ち往生するよりも、しっかりとした休養を取り、万全な状態で旅に臨んだ方がいいじゃないか」

「ですが……」

「それに、老い先短いババァの厚意は受け取っておいた方が良い」


 カッカッカと快活に笑うテトラさんに諦めたような笑みを浮かべるアルクさん。

 隣にいるネアさんも苦笑している。

 どこの世界にいっても年の功は強いんだなぁ。


「小さい子供……小さい子供……私、十四歳なのに……」


 密かにショックを受けているアマコ。

 まあ、傍から見れば十四歳には見えない位には小柄だからなぁ。

 ……。


「クックク……」

「……ウサト、今笑った?」

「え、いや、全然笑ってないよ」

「……」


 無言で背中をポコポコと殴りつけるアマコに愉悦。

 僕はいついかなる時でも受けた屈辱は忘れない……ほとんどね! そして返せるときに返す……返せる相手にだけにね!!

 にこやかに笑いながらも内心で嘲笑っていると、アルクさんが話しかけてきた。


「ウサト殿、確かに彼女の言う通り旅の疲れが溜まっていると思うので、一日だけご厄介にならせて貰いましょう」

「……僕の治癒魔法は体の疲れを治せても、精神的なものは治せませんからね」


 地べたで寝るのは慣れたとはいえ、ストレスにならない訳じゃない。

 少し申し訳ない気持ちになるけど、テトラさんとネアさんのご厚意に甘えさせてもらおう。テトラさんに了承の意を示すと、満足そうに頷く。


「よしよし。それじゃあまずは、馬とブルーグリズリーの二頭の寝場所を案内しようか」


 善行を積めば、それだけ良い事もある、ということを聞いたことがあるけどあながち間違いでもないかもしれない。にっこりと優しげな笑みを浮かべたテトラさんを見て、そう思うのだった。







 ブルリンと馬を厩舎に連れて行った後、ネアさんとテトラさんの住む家に招かれた。

 木造の二階建ての少し大きい家、少しばかり広いなあ、と思いながら部屋を案内されると、驚いたことに僕達三人が別々の部屋に割り振られるくらいに、部屋の数に余裕があった。


『ここって二人で住むには少し広すぎるんですよ』


 苦笑交じりでそう言ったネアさんの少し寂しそうな表情が嫌に印象に残った。

 しばらくは案内された個室で一休みし、空が暗くなった頃に部屋を訪れたネアさんに夕食の用意ができたと伝えられた。

 アルクさんとアマコと共に下の階に下りると、6人ほどが座れるテーブルにネアさんとテトラさんが作ってくれたであろう暖かい料理が並べられていた。

 アルクさん、僕、アマコの順で座ると、前に座っているテトラさんが首を傾げながらアマコを見た。未だに耳を隠すようにフードを被っている彼女を―――。


「おや、お嬢ちゃんはどうしてずっとフードを被っているんだい……?」

「……」

「……あ、や……それは……」


 ずっと一緒にいたから完全にアマコが獣人だってことを忘れていた。食卓を前に硬直する僕とアルクさんに怪訝そうに首を傾げるネアさんとテトラさん。

 しかし、アマコは無言のままフードを外してしまう。


「ちょ、アマコお前っ!?」


 艶やかな金髪と狐耳を露わにしたアマコは、驚愕するこちらを見て、心配いらないとばかりに首を横に振る。


「この人たちは大丈夫。見えたから」


 見えたって、予知が?

 慌ててテトラさんとネアさんに視線を移すと、テトラさんは僅かに目を見開き、ネアさんは口を両手で抑えテトラさんよりもさらに大きく目を見開き絶句していた。

 目の前に突然、獣耳の少女が出てきたら誰だって驚くわ! それに君は―――。


「ハッハッハ……これは驚いたね。こんなかわいい子が隠れているとは思わなんだ」

「え、えぇ……」


 快活に笑ったテトラさんに思わず呆けた声を出してしまう。 


「人間も獣人も同じ、尻尾があるかないかの違いだけさ。それをとやかく言うほど心の狭い人間じゃないつもりだし、なによりネアの恩人を邪険にするほど恩知らずじゃあない」


 『でも、他のやつに顔を見せない方がいい。皆、わたしのように偏屈じゃないからね』と、言ったテトラさんの言葉に頷く。

 何かこの人、色々な意味で豪胆な人だな。こういう人を飄々としているというのだろうか。どちらにしろ、ここに居る間はアマコも余計な気を遣わずに過ごせるみたいだ。


「まさか、アマコさんが獣人の方だなんて本当にビックリです」


 ほえー、と感嘆の声と共にアマコを見るネアさん。そこに悪感情は無く、純粋な興味で見ているのが分かる。


「ここに来るとき、ウサトさんとアマコさんってとても仲良しだなーっと思っていましたけど。今見ると、不思議な関係ですね。人間と獣人が一緒に行動するってあまり聞きませんから」

「まあ、珍しいってのは自覚しているよ」


 ルクヴィスで散々変って言われましたからね。

 でも、こちらからすれば貴女達の反応の方が珍しい。まだ僕自身は亜人を嫌う人間を近くでは見てはいないから、どれだけ嫌っているかは分からないけど、二人の友好的な反応が他とは違うのは分かる。


「話は後にして、まずは夕食としようじゃないか。折角作った温かい料理が冷めてしまう」

「それもそうですね。ささっ、どうぞ召し上がってください!」


 二人に勧められて食事に手を延ばす。

 この所、冷たい干し肉と果物くらいしか食べていなかったから、暖かいスープはとても美味しかった。ネアさんが作ってくれたスープだとテトラさんが言ってくれたけど、成程、将来は良いお嫁さんになるな、これは。

 ……って、僕はオヤジかッ!!


「ごちそうさま。とても美味しかったよ」

「え、いえっ、大袈裟ですよ」


 食事を終え、夕食を作ってくれたネアさんにそう言うと、褒められることに慣れていないのかネアさんは頬を朱に染め俯いてしまった。

 ……なんというか、慣れないな。今まで会ってきた女性とは反応も何もかも違う。

 精神力的にも実力的にも強い人ばっかりだったからかな? ローズや先輩やキリハ……カーラさんもいるか。皆、どっかしら強い部分を持っている人達だった。


「あのゾンビの事なんですが……あれは何時からこの近辺に出没するようになったのですか?」

「彼らは……」


 テトラさんが食器の片づけをしている最中、アルクさんがネアさんにそんな事を聞いた。

 ゾンビについて何か気になることでもあったのだろうか?


「ゾンビは自然発生するモンスターではありません。何者かの手によって作られるモンスターであり、その行動も創造主によって定められています」

「アルクさん?」

「……」


 思いつめたように黙り込んでしまったネアさんを、問い詰めるような形で話しかけるアルクさん。僕にはアルクさんが何を言いたいか全くわからないが、彼が女の子相手に厳しく当たるような人ではない。

 ここは彼に任せて静観しておこう。


「本当はご存じなんでしょう? 恐らく、この村の人々全員がゾンビを作り出した存在を知っている」

「……っ」

「ネアさん、私達を巻き込みたくはないお気持ちは分かりますが、聞かせてもらえないでしょうか」


 動揺する彼女に僕はアルクさんがなにを聞き出そうとしていたのか理解した。

 最初、僕がゾンビのことについて聞いた時、彼女は『知らない』と答えた。でもそれは彼女が僕達を気遣ったからの嘘であり、本当はゾンビを作り出した存在も、恐らくその居場所も知っていたのだ。


「……けて……」


 気付けば、俯いたネアさんは途切れ途切れで言葉を紡いでいた。

 多分、僕とアルクさんが本当のことを知ったら、ゾンビを作り出したソイツを倒しにいこうとするかもしれない。……いや、僕ならきっとぶつくさ言いながらもなんやかんやで倒しに行こうとする。

 そうして欲しくないから、ネアさんは―――、


「村を、私達を……助けてください」


 涙声で助けを求める彼女の姿は、隣にいるアマコの姿と重なった。

ウサトの治癒魔法が効かない敵はゾンビでした。

そして治癒魔法を防ぐとかえって危ない事になります。ゾンビさんの耐久力ではビスケット・オリバに殴られた後みたいになります(白目)

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― 新着の感想 ―
回復魔法でダメージとなると...ウサトの場合は.........あぁ、壊れたぁ(粉々の肉片)
アンデッドには回復魔法でダメージを与えられるってTRPGもあったなぁ
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