第五百三話
三日目、三話目の更新です。
突然ですがお知らせです。
今月10月23日より、コミカライズ版「治癒魔法の間違った使い方」第17巻が発売予定です!!
こちらもどうぞよろしくお願いいたします!
そして新章、第十九章の開始です!
エルフの隠れ里を襲う謎の存在。
フラナさんから送られた文には、かつてカズキが戦った暴食の獣と呼ばれた脅威と似たなにかが隠れ里を襲っていると書かれていたらしい。
その知らせを受け、怖いくらいにスムーズに情報を共有された城内は慌ただしく動きだした。
僕達がロイド様の待つ広間へと招集してから十分もしないうちに、広間にはロイド様、セルジオさんをはじめとした配下、シグルスさん、ウェルシーさん、そしてローズが集まっていた。
「先刻、カズキの元にエルフ族族長の娘、フラナ殿から緊急の知らせが届けられた」
緊迫した空気の中、ロイド様がそう告げる。
「その内容は魔物か悪魔かも定かでない謎の存在が隠れ里を襲っているというもの。この知らせが送られた状況を察するに、事態は急を要する。大臣たちを交えた相談の結果、エルフの隠れ里に救援物資、及び人員の派遣を行うこととなった。皆、異論はないか?」
確認するロイド様に、反対する声はない。
その反応に首肯したロイド様は、近くに控えているセルジオさんを見る。
「セルジオ。物資の方はどれほどで用意できる?」
「食料、医療品など既に用意させております。しかし、エルフの隠れ里は奥深い森林という地形的な関係もあり、まともな手段で物資を運ぶのは非常に難しいでしょう」
「時間もかかる、か。シグルス、おぬしの意見も聞きたい」
ロイド様の声に、一歩前に出たシグルスさんが答える。
「セルジオ様の懸念と同じ、隠れ里という地形上、深い森に囲まれた場所への移動にはかなりの時間を要するでしょう。加えて大量の物資を輸送、馬による移動が必須であることからも猶更かと」
と、そこで僕の隣にいたカズキが前に進み出る。
その場の視線を集める中、少しも臆することなくカズキは堂々と言葉を発する。
「ロイド様、俺が先に隠れ里へ向かいます」
「おぬしがか?」
「俺なら空を飛んで移動できますし、なにより隠れ里への道は覚えております」
カズキなら光魔法をボード状に成型して、空を飛んで移動できる。
彼自身も勇者としての強さを兼ね備えているから、援軍としても適格だ。
でも、カズキ一人だけ行かせるのは不安だ。
「……先輩は向かえませんか?」
小声で隣にいる先輩に聞くと、彼女は「難しいな」と口にする。
「現状、悪魔の脅威がある以上、勇者二人が同時に国を空けるのは危険すぎるからね。多分、ロイド様もそれは分かっている」
「そう、ですよね」
まだ暗躍しているかもしれない悪魔がいる以上、勇者二人が同時に国を空けるわけにはいかない。
「……」
僕……いや、キーラの力を借りれば、さっきセルジオさんとシグルスさんが言っていたことも解決できる。
でもキーラに相談もせずに……いや、そもそもローズに許可をとらずにそんな勝手なことを―――、
「……!」
そこで僕の立っているところとは反対側の壁際で腕を組んでいるローズと目が合う。
僕が悩んだのを察せられているのだろうか、そのまま「さっさと話せ」と言わんばかりに顎でなにかを促される。
「はは、なにもかもお見通しですか」
……キーラには後で謝らなくちゃな。
決心がついた僕はそのまま前へ一歩踏み出し、ロイド様へと声を発する。
「ロイド様。カズキと一緒に僕も行きましょう」
「ウサト!?」
僕の声に驚くロイド様。
その場にいる全員の視線を集めながら、僕は自分の考えを口にする。
「しかし、カズキは空を飛んでいくのだが……」
「僕がキーラと――魔王から預かっている現救命団団員の少女の闇魔法の力を貸りれば空も飛べます」
「なんと……」
「そして、彼女の闇魔法によって、集めた物資を詰め込み運ぶことも可能です」
「「「……」」」
「移動に関しても、魔力を暴発して推進力にすれば、カズキの速度にもついていけるはずです」
そこまで言い切ると、ロイド様を含めて広間にいるほとんどの人から唖然とした目を向けられる。
しかしそれも一瞬、すぐになにかを考えるそぶりを見せたロイド様は、僕からローズへと視線を向ける。
「ローズ、おぬしからはどうだ?」
「元より、ウチからはウサトを寄越す予定でしたので、問題ありません」
いや元から僕を派遣するつもりだったんかい。
この人内心で「なにウダウダ悩んでんだこいつ、ぶん殴られてぇのか」くらいは思ってそうだ……。
いや、今の時点で「言い出すのが遅ぇんだよ」的な視線を向けられている。
「分かった。カズキ、ウサト。早速準備に取り掛かってくれ」
「「はい!」」
「セルジオ、可能な限り、物資の準備を急がせてくれ」
「かしこまりました」
ロイド様のその声で、僕たちは準備のために広間を後にする。
その際に、一旦カズキと分かれた僕と先輩の元に、ローズが近づいて来る。
「団長、僕はすぐに救命団に戻ってキーラに事情を説明してきます」
「その必要はねぇ」
「え?」
呆気にとられる僕にローズは腕を組んだまま続けて口を開く。
「城の前にキーラとフェルムを待機させている」
「え、もうですか?」
しかもフェルムも呼んでくれたのか。
つまり彼女の同化の力も借りるほどの騒ぎだと……。
「大まかな状況は伝えている。もう行く気になってっから変に気を遣わなくてもいい」
「えぇ……」
「は、判断が早いですね……」
え、断片的な知らせを受けた時点でキーラとフェルムの人手が必要な可能性を考えていた?
あまりの判断の早さに僕だけではなく隣の先輩もちょっと引き気味だ。
「集落は襲撃を受けて少なくない負傷者がいるはずだ。お前はその治療と襲撃する謎の生物の撃退を。フェルムと同化し、何人か同行者を募れ。人選はお前の判断に任せる」
「はい」
「分かっていると思うが、イヌカミは待機だ」
「もちろん分かってます」
人選か……それほど時間はないことは確かだ。
しかも同行者というのはフェルムの同化の人数制限を加味したものだから、必然的に二人に絞られる。
……こういう時、ネアがいてくれたらって思うけれど、それだけ彼女に頼りきりになっていたってことなんだよな。
だとしたら真っ先に思い浮かぶのはアマコと先輩が同行者だと心強い……けれど、アマコは救命団員ですらない一般人だし、先輩はそもそも行けないからな。
アマコを誘うとしても、真っ先に候補に挙げることはできない。
そのまま城内でローズと別れ、僕と先輩はキーラとフェルムの待つ城の外へと移動する。
「ローズさんの言った通り、待ってくれているね」
「本当、予知魔法染みた判断力ですね……ん?」
城門の傍には、キーラとフェルムの二人ともう一人、ナギさんの姿もある。
多分、流れで同行して来たのだろう。
そう思いながら3人の下へ近づくと、僕と先輩に気付いたフェルムがため息をつく。
「おい。ネアが出発して半日も経ってないのにどういうことだ」
「いや、真面目に僕のせいじゃないからこれ」
開口一番にフェルムにそんなことを言われてしまったけれど、本当に僕は悪くない。
「ウサト君のフラグ回収能力はもう魔法の領域だからね」
「確かに、ローズさんとは別の意味で予知魔法以上だよね……」
「ナギさんも同意しないでください……」
そんな魔法全然嬉しくないです。
ともかく、三人は詳しい事情を知らないからまずはエルフ族が襲撃されていて、僕がカズキと一緒に向かうことを説明しておこう。
「というわけで、フェルム、キーラ。二人の力を借りることになるけど……大丈夫かな?」
事前に了解はとっていると聞いたけど、一応そう聞くとフェルムは見慣れたムスッとした顔で、キーラは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「もちろんです! エルフの皆さんが困っているんですよね! なら、私が力を貸さない理由はありません!!」
「ま、こっちも今更の話だからな。……それに、ネアがいないとお前がなにをやらかすか分からないから、ボクがついておかないと」
そんなに僕は目が離せないか。
くっ、散々好き放題しているから否定できない。
内心で呻く僕に、ナギさんが声をかけてくる。
「あと二人、フェルムの同化分を連れて行くんだろう? いったい誰を連れて行くのかな?」
「……一人は決めています」
「え、そうなの? ウサト君?」
実のところ一人はなんとなく決めていた。
僕と息が合わせやすく、いざという時頼りになる相棒。
「とりあえず……キーラ、魔法を貸してくれ」
「あ、もしかして……分かりました!」
羽織っていた闇魔法のマントにキーラ自身が吸い込まれるように潜り込む。
それからひとりでに動きだしたマントが僕の肩に覆いかぶさったことを確認し、その場で飛び上がると同時に空へと舞い上がる。
「え、ウサト君!?」
「おいどこに行くんだ!?」
下からの先輩とフェルムの声を耳にしながら一気にリングル王国を見渡せる高さまで飛び上がり、大きく息を吸い込み―――あいつを呼ぶ。
「ブルリィィィィン!!」
力の限りに張り上げた声。
その数秒後に「グルァァァァ!!!」とブルリンの雄たけび返り、僕はまた地上へと戻る。
『やっぱりブルリンを連れて行くんですね!!』
「ああ、相手が暴食の獣なら、こっちは怠惰な獣ってところだね」
それに、ブルリンなら匂いで危険も察知できるし、いざという時戦うこともできる。
以前、魔王領でキーラの弟を探すときも同じようにブルリンを呼んだので、この子もよく覚えているみたいだ。
「す、すごい声だね……びっくりした」
「君って肺活量も人並みはずれているんだね……わぁ」
地味に肺活量には自信があるからね。
伊達に一日中走っているわけではない……じゃなくて、ひとまずブルリンは呼んだのですぐに来てくれるだろう。
後、もう一人だけど、実のところこの場に来てくれたので決まったようなものだ。
「フェルム、ナギさんと同化はできるか?」
「ん? 二人目はカンナギか。まー、試したことはないけどできると思うぞ」
「よし……ではナギさん、同行できますか?」
フェルムに確認してからナギさんに尋ねる。
しかし、予想に反してナギさんは思い悩むような素振りを見せる。
「ナギさん?」
「いや、私はここに残るべきかなって思って。……あ、君の力になりたくないってことじゃなくて、むしろ同行できるなら行きたいところなんだけれど……」
「なにか気になることがあるんですね?」
「……うん。その通りだ」
ナギさんが理由もなく断るとは考えにくいからな。
なんとなくそう察していると、隣の先輩がナギさんへ話しかけようとする。
「やっぱり、今の状況だからかな?」
「そう、だね。私が同行しない……ううん、できないのは、この状況が偶然かどうか分からないから」
「偶然かどうか分からない……?」
僕の言葉にナギさんが頷く。
フェルムもキーラも不思議そうにするが、先輩は「やはりか……」と頷いている。
「ウサト君。カンナギが懸念しているのはエルフの隠れ里への襲撃そのものが、君と勇者、それか私をリングル王国の外に戦力を分散させる企みの可能性があることだ」
「企みって、悪魔のですか?」
僕の言葉にナギさんが頷く。
「これは偶然で片付けることもできるかもしれないけれど……君の頭脳といっても過言ではないネアの留守と立て続けに事態が動けば、そんな状況を想定して動くべきだと思ったんだ」
「なるほど、そういうことでしたか」
確かにこんなことが立て続けに起こった上に、ネアが外出しているタイミングと考えたらその可能性を考えても全然おかしくない。
むしろ、この状況は僕達をリングル王国の外へ誘導する作戦にすら思えてくる。
「でもさー」
納得し、シリアスに頷く僕と先輩、ナギさんにフェルムが少し呆れが入った声をかける。
「これって全部ウサトがシンプルに運がものすごく悪くて巻き込まれただけの不幸な事件ってこともあるんじゃないか?」
それを否定する声はなかった。
ナギさんと先輩はまだしも、キーラすらも言葉に詰まったようにあたふたとする事実に僕は頬が引きつる。
それでも一番早く我に返ったナギさんが僕を見て震えた声を発する。
「いや……さすがにそれは……」
「え、ナギさん?」
ものすごく悩まし気に腕を組んであら、僕を見るナギさん。
そのまま数秒ほど目が合うと、気まずげに目を逸らされる。
「ある……かもぉ?」
「ナギさん!?」
ここで認められると僕の立つ瀬がないんですけど!?
くっ、確かに最初の勇者召喚に巻き込まれた時点で僕の運がお世辞にもよくないことは自覚していますけれども!!
「ま、まあ、とにかく私は念のためにスズネと一緒にここに留まることにする。正直、君とカズキが揃えば大抵の相手はどうとでもできるだろうしね」
むしろ戦うだけならカズキだけでも十分かもしれない。
その時は僕は救命団としての本分をこなせばいいので問題はない。
「だとすれば二人目は……どうしようか」
「アマコだろ」
悩んだ直後にフェルムが僕にそう告げる。
「何に遠慮してんのか知らないけど、ネアがいない今お前の手綱を握れるのはアマコだけだ」
「手綱って言った今?」
あれ? 僕って馬なのかな?
でもいざという時に頭脳面で頼り切りになっていたネアがいない今、僕以外に冷静な判断ができるアマコがいてくれるのは確かに頼もしい。
……いつまでもここにいても何も始まらないな。
まずはアマコのいるサルラさんの果物屋に向かうか。
「グァァァ!!」
「……ちょうどブルリンも来てくれたみたいだしな」
城門から見える城下町の通りの先から砂煙を上げて爆走してくる青いクマの魔物、ブルリンの姿を確認しながら僕はフェルムへと振り返る。
「……分かった。とりあえずアマコのところに行くか。フェルム、同化を頼めるか?」
「ああ」
足元に影のように広げた闇魔法に沈み込んだフェルムはそのまま僕の足を伝うように同化してくる。
肩にキーラが入り込んだ闇魔法のマント、それからフェルムの闇魔法と同化した僕は砂煙を上げながらやってきたブルリンに声をかける。
「よく来てくれたぞ、ブルリン。とりあえず同化できるか?」
「グァァ!! グルァ!!」
返答はバシッ、という足へのクマパンチ。
その反応に満足した僕がマントを広げると、ブルリンが「しょうがねぇなぁ」という素振りで入り込んでくれる。
「ありがとう。ブルリン。……先輩、ナギさん、ひとまず僕たちはアマコのところに行ってきます。もしかしたら準備を終え次第、すぐさま隠れ里に向かうかもしれないので、後のことは頼みます」
「心配せずともここのことは私達に任せておいてくれたまえ!」
「君達も気を付けて」
「はい!!」
二人に頷き、空へと飛びあがる。
そのまま一直線にアマコのいる果物へと降下するように降りていく。
すると、果物屋の前にはアマコがおり、なにやら傍らに荷物のようなものを用意している。
「……ん? どこかに行くのか?」
疑問に思いながら果物屋の前に着地すると、アマコは分かっていたかのように驚きもせずに振り返る。
「ん、サルラさんに許可はもらってきた。私は行けるよ」
「え、もしかして予知した?」
僕の言葉に頷いたアマコは「それと」と言葉を続ける。
「ウサトがブルリンを街中で呼ぶ時点でなにかしら騒ぎに巻き込まれてるかなって」
「えぇ、それだけで?」
「だってウサトだもん」
「僕の名前だけで何かを説明しようとするのやめない?」
そしてフェルムも内側で同意するな。
小さい声で「確かに、ウサトだからな」って言ったの聞こえてるからな?
「これも信頼の証だね」
『流石アマコだな。分かってる』
『すごいですね……』
「嬉しいけど、そんな信頼のされかたは全然嬉しくない……」
フェルムとキーラの反応にげんなりとしている僕を他所に、最早遠慮もなくマントの内側に荷物を放り込んだアマコは、そのまま僕の体へと飛び込み、沈み込むように同化する。
『よし、準備できたね』
「もう遠慮とかないよな君……」
『だってウサトだもん』
「え、定型文?」
もうそれだけで大抵のことは片付けられると思ってないか?
でも……うーん、結果としてアマコは特になにも迷うことなく同行してくれることになってしまったけれど、これって僕が気を遣いすぎなのか?
「それは今考えることじゃないか」
今は目の前のことに集中しよう。
それぞれの準備ができているみたいだが、僕の方は団服や荷物の方は全く用意していないので今から宿舎に戻って取りにいかなくては。
『あ、その必要はないですよ』
「え?」
荷物を取りに行くと伝え、空を飛ぼうとするとキーラが待ったをかける。
すると、闇魔法のマントの裏地から見慣れた鞄と、白色の団服が飛び出してくる。
「出発の前にローズさんに頼まれてトングさんが団服と荷物を用意してくれました。着がえもあるそうです」
「……あ、そう……うん」
鞄の中を見れば、僕の着替えや靴なども丁寧に詰め込まれている。
……というより、あの人、マジで予知魔法持っているんじゃないか?
戦闘以外でも即断即決すぎる上に、それが的確すぎてなんかもう怖い。
同化組はアマコとブルリンになりました。
そして、最初に断片的に情報を聞いただけで、どんな状況か予測していたローズ……。
今回の更新は以上となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




