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第五百一話

お待たせしてしまい申し訳ありません。


第五百一話です。

 ローズに合格をもらったからといって、今日までやってきた訓練が大きく変わるわけでもない。

 多少の頻度は下がるだろうが、これまでやってきた訓練に実戦訓練が組み込まれるだけだ。

 そして、ミリアとベルさんが救命団を発ってから三日後、今度はネアが故郷のイアヴァ村へと出発することになった。


「それじゃあ、私がいない間になにもやらかさないでね」

「だから君はいったい僕をなんだと思っているのかな」


 事前に話は聞いていたので僕と先輩、フェルムの3人が軽い見送りに来たわけだが、相変わらず彼女は僕が何かをやらかすことを疑っているようだ。


「ふふ、冗談よ」

「なんだ冗談か」

「あんまり言うと貴方も拗ねちゃうからね」

「いや、拗ねはしないけれど……」


 悪戯っ子っぽく笑うネアは頬をかく。

 さすがにこう何回も言われると、もうなにか起こりそうな気がしてくるんだよなぁ。

 それに―――、


「あんまり口酸っぱく言われると、むしろ何かやらかしてやろうかなって気分になるんだよな」

「あ、本当にごめんなさい。だからやめてね……?」

「今思いついたけれど、瞬時に三つの残像を作り出す新技とかどう? こんな風に」

「ぎゃああああ!?」


 軽くステップを踏み、三つの魔力弾から生成した魔力の残像が、ブゥン、という音と共に作り出される。

 それを目の当たりにして女の子にあるまじき悲鳴を上げるネアにフェルムは呆れた視線を向ける。


「お前、散々からかうからだろ」

「くっ、なにも言い返せない……!! 引き際を見誤ったわね……!!」

「その言い方もどうかと思うんだけど」


 そもそもこの技、新技とはいいつつも普通の残像拳とそんなに変わらないし。

 魔力弾回しでステップと同時にものすごく速く分身を作っているだけなので、そこまで大したものでもない。


「ねえねえウサト君、その技のやり方あとで私にも教えて」

「いいですよ」

「やったっ」


 先輩の雷獣モードなら電撃の残像とか普通に作り出せるし、なにより僕以上に使いこなせそう。

 先輩とそんな軽い会話を交わしていると、立ち直った様子のネアにフェルムが続けて話しかける。


「で、お前はどのくらいの間ここを留守にするつもりなんだ?」

「んー、そこらへんは未定ね。でも一週間もしないうちに帰ってくると思うわ」

「故郷なんだろ? 長居してくればいいだろ」


 フェルムの言葉にネアは苦笑して首を横に振る。


「様子を見るだけよ。あの村は故郷ではあるけれど、私の家はないもの」

「そう、なのか」

「文字通りに焼き払っちゃった意味でも家は残ってないわね!」

「なんでわざわざ燃やした……?」


 あっけらかんに言い放つネアに、ちょっと引くフェルム。

 当時のネアの心境としては、邪龍を目覚めさせたことで大事にしていた村を危険に晒してしまった自分は、村に住む資格がないって考えたからこその行動とも言えるけど……。


「下手に家が残っている方が未練が残っちゃうからねー。それに、直前の邪龍との戦いで館もボロボロになってたし」

「あぁ、そういう理由もあったのか」


 確かに地下から邪龍が飛び出したり、僕が館に叩きつけられたりと結構な勢いで破壊されてたな。

 あそこを修理するのも手間だったと思うし、そういうことも含めてネアは館を手放そうと考えたのか。


「だから、すぐに帰ってくるから心配しなくても大丈夫よ」

「いや、心配はしてないけど」

「そこはちゃんとしておきなさいよ」


 あっけらかんに言い放つフェルムにネアがツッコむ。


「スズネも私が留守の間は色々と頼んだわよ」

「ああ、任せてくれ。君に言われた通り、フェルムの世話は私がしよう」

「は? え? ネア、お前まさか……!!」

「いや、普通に頼んでないんだけど!?」


 憤慨するフェルムと本気で困惑するネアに、先輩は自信満々に指を立てる。


「フッ、言葉にせずとも伝わるさ。フェルムの私生活のことは私に任せてほしい」

「……あー、そういうことなら頼むわ」

「おい!! 諦めるなよ!!」

「いえだって、私生活に関してはスズネはまともではあるし」


 逆に先輩に任されてしまうフェルムはどれだけなんだ。

 朝が弱いってことだけは知っているけど……いや、これ以上のことを尋ねるのはアウトだな。

 なのでできるだけ言葉を挟まないように努めていると先輩が僕の腕を軽く突ついてくる。


「ねえ、ウサト君。もしかして私生活以外はまともじゃないって思われてる? 私?」

「……。先輩は先輩じゃないですか。今更なにを悩む必要があるんですか」

「誤魔化しが下手すぎないかな!? 意味深な沈黙の後に言葉を濁したよね!?」

「じゃあ、日頃の行いと積み重ねっすかね」

「清濁の比率が極端すぎる……!! もっと私を慮った感じで優しく指摘して……!!」


 注文が多いな……。

 ネアが言っているよりかはまとも寄りな人物なのは確かだけれど、時折顔を出すテンションを振り切ったムーブの印象が強すぎてそう見えてしまうんだろうな。

 そういう意味でも日頃の行いってやつなんだと思う。


「はぁぁ、貴方達と話していると出発するタイミングを見失いそうだから、そろそろ行くわよ」


 頃合いを見たのか、ネアがため息の後にそう言った。

 よく見れば、ネアの荷物はほとんどなく、小さな鞄くらいしか持っていないように見える。


「荷物少なくない?」

「フクロウの姿に変身して飛んでいくからよ。その姿で木の上で休めばいいから、この中には食べ物くらいしか入っていないわ」


 ぽん、と音を立ててフクロウに変身したネアの背には、先ほどまで肩にかけていた小さな鞄が背負われている。

 本人もそれほど滞在するつもりはないっているし、この荷物の少なさでも大丈夫なんだな。


「じゃ、行くわー」

「ああ、いってらっしゃい」

「道中気を付けるんだよー」

「変なもの食うなよー」

「食べないわよ!?」


 最後のフェルムの覇気のない声に、ツッコミを返しながらネアは空へと羽ばたいていく。

 その姿を見送りながら、僕は少しだけ複雑な気持ちになっていることに気付く。


「どうしたの、ウサト君?」

「いえ、なんというか、こうやってネアと別行動するのは久しぶりだなって思いまして」

「前回は……確か、四王国会談だっけか? ボクとネアが救命団に置いて行かれた時」


 人聞きが悪いな……。

 あれは特殊な魔物であるネアは会談に連れていけないって事情があったからって話であって、いじわるで置いていったわけじゃないんだけどなぁ。


「使い魔とその主って関係上、基本的に行動を共にしていましたからね。いざこうやって別行動ってなると、不思議な気持ちになってしまいますよ」

「口ではなんと言おうとも、ネアはウサト君を助けてくれていたからね。気持ちは分かるよ」


 だからこそ、ある意味でこれもいい機会かもしれないな。


「本人の前では恥ずくて言えませんけれど、頼もしいやつですよ。なんだかんだで僕の無茶ぶりに付き合ってくれているのも、申し訳ないと思いつつ感謝してます」

「あいつが聞いたら調子乗りそうだな」


 そういう意味でも言えなくもあるな。

 フェルムの言葉に苦笑いを浮かべていると、先輩も腕を組んで小さく笑みを零す。


「フッ、やはりネアが私のライバルだったか」

「因みに聞くけど、なんのライバル?」

「使い魔としての」

「お前人間じゃないのか?」


 また頓珍漢なことを言い出した先輩にドン引きするフェルム。

 僕はネアがもう見えなくなった青空を見上げながら、一つの決心を固める。


「……それに、ネアが心配する気持ちも分かりますからね。彼女がいない間は、僕も大人しく暮らしていこうと思いますよ」

「「……」」

「別にフラグでもなんでもないですからね?」


 僕はそんなに信用ならんのか。

 微妙そうな様子で二人に顔を背けられた僕は頬を引きつらせると、不意に頭上から鳥の羽ばたきと―――、


「言質は取ったわよー!!」


 ついさっき見送りをしたはずの使い魔の声が聞こえる。

 すぐに見上げると、頭上には上機嫌な様子で僕たちを見下ろしているフクロウ姿のネアがいた。


「頼もしい!! 感謝してる!! ぐふふ!! まさかそんなことを思っていただなんてねー!」

「お前まだ行ってなかったのか!?」

「私のことを話しているのがちょっと聞こえてこっそり戻って来たのよー。でも、良いことが聞けたから、気分良く出発できるわー、ホッホホォーウ!!」


 かつてみないほどの上機嫌で空へと羽ばたいていくネア。

 くっ、恥ずかしいことを聞かれてしまった!! これは帰った後もさんざんからかわれそうだ!!


「まあいいじゃないか。ネアも喜んでいたみたいだし」

「でもあいつ調子乗るだろうなー……」


 でも、見送りそのものは終えることができた。

 3人でその場を離れ、一旦宿舎に戻るために帰路を歩いていく。


「ウサト、お前は午後の訓練はどうするんだ?」

「僕は城の方でカズキとの手合わせ。それが終わったらいつものメニューをやる感じ」


 手合わせは主な目的ではあるけど、どちらかと言えばカズキのところに遊びに行くような感覚だ。

 カズキにも息抜きをする時間が必要……ということをシグルスさんやセリア様から聞いて、それなら、という理由で定期的にカズキを訓練に誘っている。


「ローズに合格もらったのに、まだ手合わせやるのか?」

「だからこそだよ。いくら合格をもらっても完全に身に付いたわけじゃないからね。何度も反復して、身体に覚えさせないと」


 こういう反射とか感覚に委ねる動きを身につけることの近道はないので、地道に反復していくしかない。


「ウサト君、私も同行してもいいかな?」

「ええ、構いませんよ」


 特に断る理由もないので頷くと、先輩は「フッ」と意味深な笑みを浮かべる。


「フッ、定期的に3人で集まらないと、私たち3人が幼馴染だという認識が薄れちゃうからね」

「カズキを巻き込まないでください」


 最近、過去を捏造しようとしてくるなこの人。

 しかし、ネアはすぐに戻ってくるとはいえ、救命団から一気に3人も減ったから少し寂しい気分になってしまうな。

ついに出て行ってしまったネア。

そして、次話くらいで第十八章は終わりとなります。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
ネアが居ないのは新鮮ですね。 書籍をR含めて全て買いました。書籍だと、自由に日本と行き来が出来るのが、新鮮でした。そういう作品は少ないし、日本に居るからこその生活があるので……。 Rの2巻の内容だと…
ギャグパートが終わってしまうのか このタイミングってことはネア不在になるのか、はたまたネアがトラブるのか
ネアはストッパーですからね。 居なくなったウサトがどこまではっちゃけるか、楽しみです。
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