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第四百九十八話

更新が遅れてしまい申し訳ありません!

少し作業などがあって更新が遅れてしまいました。


第四百九十八話です。

 ミリアとベルさんが近いうちに家に帰ってしまうという話が救命団員が集う夕食の席で明かされた。

 元より、ベルさんからの相談でミリア自身がここに長く滞在していることを気づくまで静観するという話だったけれど、今日気づいてしまったようだ。

 今の今まで気づかなかったとすると、それだけここの生活が彼女にとって楽しいものだったということなのだろう。

 ……それか、彼女にとって貴族として生きる実家こそが本当の自分を出すことができない息苦しいところなのか……。


「ナック、僕でよかったの?」

「はい。もちろんです」


 夕食の席でミリアが家へ帰ると明かした翌日の午後。

 ナックの相談を受けた僕は彼と共にリングルの城下町を歩いていた。


「むしろ貴重なお時間を使わせてしまってすみません」

「そこは気にしなくてもいいよ。訓練はいつでもできるけど、君からのこういうお願いは滅多にないからね」


 訓練に付き合ってほしいというお願いは何度かあるけど、ナック個人のお願いはほとんどない。

 僕としてもナックの相談の内容もなんとなく察しがついていたので、多少訓練を休んでもいいと判断した。


「ミリアとベルさんへの贈り物だったよね?」

「はい。正直、俺はあまり贈り物とかに縁がなくてどれを選んでいいか……」

「まあ、僕もそこまで慣れてるってわけでもないけどね」


 贈り物……贈り物かー。

 城下町に並ぶ店を眺めながら考えを巡らせる。


「なにか贈り物に条件とかあるかい?」

「できれば長く残るものがいいなって思ってます。あとは……贈ったのが俺だって分からないことですね」

「……それは、君の両親にバレたくないから?」


 僕の言葉にナックが苦笑する。


「きっとあの人たちは俺をいない者として扱いたいだろうから……贈り物が俺からのものって分かれば、処分するかもしれませんから」

「なら、巧妙に隠せるものがいいな。うーむ」


 こういう話はすぐに切り替えることが大事だということを、これまでの経験から学んだ。


「形に残るものとすれば、栞でもいいな。でも小さいから失くしやすいか? 他には……羽ペンとか?」

「あ、いいですね。それなら全然違和感もないと思います」


 ナックと二人で悩みながら町を歩いていく。

 羽ペンでもよさそう、と考えを固めていくと不意に視界に馴染みの雑貨屋が映り込む。

 そこには僕にとって馴染み深いものが売られていた。


「ナック、手帳はどう?」

「手帳?」


 僕が最初にローズからもらったものであり、後に僕がナックにもあげたもの。

 いずれも日記帳として使われたけれど、実用性と長く残る贈り物としては中々にいい線を言っているんじゃないか?


「君にもフェルムにも渡して日記帳に使ったものだね。持ち歩いても違和感もないし、長持ちもする」

「……」


 雑貨屋を見て悩むそぶりを見せるナック。

 僕としては案の一つなので、それほど難しく考える必要はないんだけれど……。


「よし。手帳にします」

「え、いいの?」


 あっさりと決めたナックに驚くと、彼は立ち寄った店に並ぶ手帳を手に取り笑みを見せる。


「俺にとって手帳は多くの意味で印象が強いものですから。楽しいことも、辛いことも苦しいことも泣きそうなことも怒ったこともたくさん……それはもうたくさん書き込みましたから」

「なんか負の感情多くない?」

「冗談です。二割くらい」

「じゃあ、八割本当じゃん」


 そもそも、リングル王国に来て最初にローズから与えられたものが日記帳だったからな。

 でも、贈られるミリアからすれば本来の意味で使われるものになりそうだ。

 ……いや、日記帳として使うのは全然いいと思うんだけど。


「よく考えると、僕も結構手帳を渡すことがあったな。皆、訓練を施した覚えがある」

「俺以外にもひが……たくさんいるんですね……」

「今、被害者って言いかけた?」

「さて、どれにしようかなぁ」

「ナック?」


 僕の追及をスルーして手帳を選ぶナック。

 それからしっかりとした作りの手帳を二つ選んで買い、店の前で待っている僕の元へ戻ってくる。


「黒と茶色の二つか。渋い色を選んだね」

「派手だと目立ってしまいますからね」


 可愛らしい色だとそれこそ贈り物だってバレバレだからか。

 そこらへんもなぁ、ナックも両親関係なしに妹に気軽に祝いの品でも送れるようになればいいんだけどなぁ。


「あとは手紙ですね」

「手紙? ミリアへの? それとも両親へ?」

「今更両親に言うべき言葉はありませんよ。……送るのはミーナへ向けてです」


 ん? ミーナ? 今、ルクヴィスにいる彼女にどうして? ナックとしても因縁が深い子だと思うんだけど。

 ここでミーナの名前が出てくることに首を傾げる。


「あいつに、ミリアの助けになってもらうように頼もうと思うんです」

「あの子にか……」

「まあ、そんな顔になるのも分かります。……でも、家に帰れない俺よりも、ミーナの方がミリアにずっと近いですから」


 小さい頃はミーナはナックを連れ出してよく遊んでいた幼馴染……ということは以前聞いていた。

 だとすればミリアとも仲が良くても不思議じゃない、か。

 それに彼女は貴族だし、遠く離れたナックと違ってミリアに会いやすいって感じかな。


「君としてはどうなの? ミーナに頼むのは」

「そりゃ後が怖いですよ。あいつプライド高いから『この私を安く使おうだなんてぶっ飛ばすわよ!』とか烈火の如く怒るのが目に見えてます」


 ……そんなこともないんじゃないかな?

 以前、四王国会談の時に顔を合わせたミーナは、ナックと戦った時よりも大人しく……いや、我に返っていたように見えていた。


「あいつ、ミリアのことを妹のように可愛がっていましたからね。俺はともかくミリアのためとなれば多少なりとも助けてくれるでしょう」

「ああ、そうだね」


 ミーナもナックへしたことに負い目を感じているからミリアに対して頭が上がらないからな。

 そもそもナックにした仕打ちを正直に話している時点で、ミーナもミリアに対しては正直であろうと努めているのかもしれない。


「ま、未来で俺がミーナにキレられるでしょうけど、その時は未来の俺に任せます」

「大丈夫なの?」

「ははは、なんとかしますよ。未来の俺が」


 他人任せならぬ未来の自分任せってやつだな……。

 でもミーナに頼むくらい、ナックもミリアを大事にしているということだ。


「まあ、その時に俺が大人しくやられるとは限りませんけどね」

「ははは、その意気だ」

「でもあいつ才能自体は本当にやばいからその時戦ったらぶっ飛ばされそう」

「一瞬で後ろ向きにならないでね?」


 一瞬で顔を青ざめさせて震えるナックに苦笑する。

 ナックは時折、打たれ強いのかそうじゃないのか分からない時があるなぁ。



 昼間はナックに付き合ってミリアとベルさんへの贈り物を選ぶのを手伝った後、午後の訓練をこなしいつも通り一日の訓練を終わらせた。

 それからも変わらず救命団員全員集まってから夕食を食べ、風呂に入ったりしてから僕は自室の机の上で、ハヤテさんに出す手紙を書いていた。


「……ナックは大丈夫かな?」


 夕食の後にミリアとベルさんに贈り物を渡すと聞いたけれど。


「ま、大丈夫か」


 最初に会った時はナックもミリアもぎこちない雰囲気こそはあったが、この二週間で数年顔を会わせなかったであろうその距離感も元のそれに戻っている。

 僕が心配するだけお節介ってやつだろう。


「……よし」


 ハヤテさんへ送る手紙を書く手を止める。

 内容は、まずはリズ達とランザスさんとレインがヒノモトに到着したかということ。

 ランザスさんに関してはまだミアラークでファルガ様に体を診てもらっている最中かもしれないな。僕としてもいくら大丈夫とは言われていても、ランザスさんの体に起こっている『魔力の大部分を喪失』している状態は前例のないことなので、ちょっと心配なところもある。


「ファルガ様に診てもらっているんだから心配ないか。んー」


 背もたれに体を預けて体を伸ばす。

 手紙を書くのに慣れてきたとはいえ、文章を沢山書くのは疲れるな。


「さっきからブツブツ独り言が多いなオメェはよ」


 背伸びをしている僕に部屋の中で声をかけてくるのは、スキンヘッドの強面男のトング。

 同室で自分のベッドで横になって本を読んでいた彼は、訝し気な様子でこちらを睨んでくる。


「ああ、悪い。うるさかったな」

「気にするほどでもねぇが、変に機密とか口走りそうで怖くはあるぜ」

「思いっきりミアラークの機密話してたわ」

「お前マジでふざけんなよ?」

「冗談だよ」


 ファルガ様のことはもう秘匿されてないしな。

 それに、救命団員内なら情報を漏らすことなんて絶対にないだろうし、その辺は信頼してる。


「それに、お前ら見た目に反して真面目だから吹聴したりしないだろ」

「見た目は余計だバカ野郎。この俺様のどこをどう見たら見た目に反してんだ? どっからどう見ても聖人君子だろうが」

「見た目は悪逆非道ではある」

「テメェの方が見た目通りだろうが」

「なんだとこの野郎」


 ぎろり、とトングとにらみ合う。

 しかしすぐに数秒ほどして、ため息をついてクールダウンする。


「オメェまた手紙書いてんのか」

「ん、ああ。獣人の国の族長のハヤテさんにちょっとね」

「一国の長と連絡取り合うことがちょっとなわけねぇだろ」


 呆れた様子のトングに僕も『まあ確かに』と苦笑する。

 でも、僕としてはハヤテさんは族長というより、友人という感じの認識で接している。それこそ一国の長という認識ならルーカス様とかだな。

 魔王? あれは例外。


「僕がカームへリオで治療した人が向かうかもしれないからね」

「ほーん。テメェのことだから中途半端な治療はしねぇのは分かってるが、そいつは大丈夫だったのか?」

「治癒魔法云々でなんとかなる状態ではなかったけれど、色々と状況が積み重なって改善はされたかな。どちらかというと、その人のいた国に見つからないように獣人の国に匿ってもらってる感じ」

「人間がおいそれと入れねぇ領域か。人間を隠すならもってこいの場所ってわけだな」


 ミアラークでも安全は確保されているが、外も出歩けるようになるならヒノモトが安全だ。

 それに自然に囲まれた場所だからのびのびとした気分で療養できるだろうしね。

 そんなことを考えていると、不意に大きなため息を零したトングが頭に手を置いてベッドへと倒れる。


「あー嫌だ嫌だ。一年前はぴーぴー泣いてるクソガキだったのに、今やとんだ様変わりしちまったなぁ」

「泣いてねぇわ。泣いてたとしてもそれはお前らに泣かされたんじゃなくて、団長に泣かされたんだからな?」

「嘘つくんじゃねぇ。俺らと顔合わせした時泣いてたじゃねぇか」

「あれはまだ僕がいたいけな学生だった時の話だ」


 あの頃の僕はまだ普通だったから。

 それから数日で色々と常識とかいろんなものがぶっ壊されたけど。


「それが今じゃ副団長様か。随分と成りあがったもんだな」

「気に入らないなら下剋上しにきてもいいんだぞ?」

「んな面倒なことしねぇわ。今の肩書の方が自由にやれて楽だぜ。むしろ、あっさり副団長の座を明け渡しでもしたら姉御にぶっ殺されるぞ?」

「うっ……」


 それはそうだ。

 実際、トング達くらいの立場の方が自由にやれてはいるんだよな。

 でも僕は副団長以外にも色々と背負っているからな、おいそれと投げ出すわけにもいかないし、するつもりもない。

 トングが肩を竦めていると、不意に僕達のいる部屋の扉が叩かれる。


『おーい、ウサトー』

「グルドか? ウサト、呼んでるぜ」

「ああ、今開ける」


 グルドの声に僕は扉を開ける。


「どうした? グルド」

「おう。お前に客だぜ、ナックの妹の侍女とイヌカミの二人だ」

「え、こんな時間に?」


 まだ寝る時間には早いとはいえこんな時間になんの用だろう?


「伝えてくれてありがとう。ベルさんと先輩は宿舎の前に?」

「ああ? 常識的に考えてこんな夜に外で待たせるわけねぇだろ。客間で待たせてる」

「うん。ありがとう」

「さっさと話しにいってやれ。俺は寝る」


 グルドの言葉に納得した僕は、彼にお礼を言ってから扉を出る。

 先輩はともかくベルさんは僕になんの用だろう? 彼女の話的にナックとミリアのことだろうか?

たまにはトングと仲良く? 話をさせたいと思いこのような話となりました。

強面メンツは自分以外の強面とウサト以外にはものすごく親切です。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
被害者って自覚あったんだなぁ…
物理的にも言葉的にも殴り合ってるけど仲良しってのが伝わるのよなw
ナックくん、二割ってちょうど「楽しいこと」だけ無くなっちゃうね……。
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