第四百九十六話
お待たせしてしまい申し訳ありません。
第四百九十六話です。
魔力弾回しも少しずつではあるけど、うまく扱えるようになった気がする。
少し前はまだぎこちなさが残っていたけれど、手合わせという実戦を通してその都度動きを最適化させてきたことで、背中を通って四肢に魔力弾を自由に送り込められるようになった。
でも状況によって技を使い分けることが重要なので、こればっかりはいつも頭脳を担ってくれるネアではなく、僕自身の判断能力を鍛えていかなくちゃならない。
「君の成長が恐ろしいよ」
先ほどまで手合わせをしていたナギさんが苦笑いしながら僕にそう言ってきた。
「いやいや、ナギさんだって木剣で滅多打ちにしてきたじゃないですか」
「うっ、そうなんだけれど、なんか打ち込んだ剣のいくつかが妙な弾力が返ってきたから……」
部分的な弾力付与による防御を手数で破ってきたのは正直びっくりした。
「私からすればどっちも化け物よ、化け物」
僕とナギさんのやり取りを見ていたネアが呆れたように言い放った。
彼女の言葉に隣にいるアマコも、うんうん、と頷く。
「私もどっちもどっちだと思う」
「化け物はひどくないかな……?」
ナギさんがショックを受ける。
今日は果物屋が休みということなのでアマコが救命団に顔を出しに来てくれたようだが……ネアは休憩中なのかな?
「スズネは動きが速すぎて意味が分からないけれど、ウサトとカンナギの手合わせは比較的目で追える分、高速で動き石像がぶつかりあっているようなものよ」
「打撃音も人が戦ってる音じゃないもんね。ばきぃーん、がごぉ、ぎゃりぃぃって感じで」
「ネア、アマコ。私、女の子なんだけど」
せ、石像呼ばわり……。
結構な例え方にナギさんも呻くが、そんな彼女にアマコが続けて言葉を投げかける。
「カンナギから見て今のウサトの戦い方はどう?」
「仮に……戦場で戦うことがあるとしたら……極力相手をしたくないくらい厄介さがあるね」
それって褒めてますか?
ナギさんの好評にネアが同意するように頷く。
「倒れにくい治癒魔法使いが得体のしれない妙な技を身に着けて、さらに倒れなくなったようなものよね。絶対足止めされるし、なんなら逆に意識を奪ってくるのがもう厄介」
「好き放題言いすぎだろ」
「好き放題している貴方に言われたくないわ」
ぐうの音も出ないとはこのことか。
怯む僕と勝ち誇るネアを見て、ナギさんが苦笑いしながら言葉を発する。
「魔力弾回しって技術は、単純ながらに恐ろしいものだと思う」
「恐ろしいって……」
「魔力感知で相手の攻撃を先読みして防御する。多少のズレはあるようだけれど、感覚としては予知魔法を使った防御に似ている錯覚してしまったよ」
……そういう考えは意識していなかったな。
でも感知して防御を間に合わせることと、予知して防御しているじゃ意味合いが違うので同じとは限らないだろう。
「でも、そこは予知魔法での先読みでの防御の方が強いでしょう?」
「それはそうだね。……まあ、アマコがフェルムの魔法でウサトと同化すれば……この前聞いた治癒同調? 魔力感知を共有する技とアマコの予知魔法でより高度な防御ができてよさそうだなって」
「なるほど……」
アマコとの同化状態ならさらに余裕をもって魔力弾回しによる防御をすることができるのか。
いや、治癒滑りで、あたかも魔力弾が僕を素通りしていうようにも見せかけて相手の動揺を誘うことも……?
「フッ、アマコとのコンビネーション防御。予知による治癒パーフェクトディフェンスだな」
「その防御力、今のウサトに必要? もう邪龍に投げ飛ばされても無傷でいそうだけど」
ちょっとあきれた様子のアマコに僕は自嘲気味な笑みを零す。
「団長の拳の前じゃ形無しだからな。普通に意識が飛ばされる」
「ローズさんはなんかもう基準にすることが間違っていると思う」
「魔力回しを習得して絶賛成長しているってんだからやばい」
「やば……」
思わず語彙力がなくなるアマコ。
あの人、模擬戦するたびに魔力回しに磨きがかかってきているからな。
予知魔法顔負けの直感と状況判断能力が群を抜いてやばいと思う。
我が師匠ながら凄まじい人だな、と思っていると、不意にネアがこちらに話しかけてくる。
「あ、ウサト。そういえばちょっと相談……というか、話があるんだけど」
「ん? どうしたの?」
なんかネアがこんな話の切り方をするのは珍しいな。
ちょっと驚きながら話を聞くために、ナギさんと共にネアとアマコの元へと移動する。
「私が貴方に会ってあら大体一年が経ったわよね?」
「あー……一年か」
確かに、ちょっと過ぎているけれど一年か。
この世界に召喚されて救命団に入って書状渡しの旅をして邪龍と戦って魔王と戦って、悪魔と戦って……。
「なんか密度が凄すぎてもう何年にも感じるな」
密度凄すぎるだろ僕の一年。
死線潜り抜けすぎてびっくりだ。
「それはまあ……確かにね」
「本当にそう」
「私もヒナも見てきたけど濃厚すぎるよね……」
ネアだけではなく、アマコもナギさんも思わず頷いてしまっている。
「私もそれなりに長く生きているけど、こんなに一年を長く感じたことはなかったわー」
「無駄に長生きだもんね」
「うるさいわよアマコ。年月で言うならカンナギの方が上よ」
「うっ!?」
急に刺されて胸を押さえ崩れ落ちるナギさん。
いや、ナギさんはむしろコールドスリープみたいな感じだったから全然違うだろ。
「それで、急に一年とかどうしたの?」
「ん、話が脱線しちゃったわね。実はちょっとイアヴァ村を見にいこうかなって思って」
「イアヴァ村って、ネアがいたところだよね?」
「ええ」
書状渡しの旅の最中に僕たちが立ち寄った村であり、ネアが支配していた場所。
そこで旅人を操って話し相手にして暇潰しをしていたというそこそこ悪いことをしていたが、その村に住む人々を大事にしていたことは確かな事実だった。
「なるほど、一年経ったから様子を見に行こうって話?」
「ええ、そうね。今更取り繕うのも面倒くさいから素直に言うけれど……心配になってきたのよ」
僕たちが訪れた時はネアの親代わりをしていた女性、テトラさん。
ネアの言葉にアマコも彼女のことを思い浮かんだのか、心配するような声色を発する。
「テトラさん、一人暮らしだもんね」
「ええ。まあ、昔から強い子だから生活に関しては心配してないけど、私がいなくなった後の村の周りがどうなっているのかも確認しなきゃなって」
あの辺はいわばネアが支配していた縄張りみたいなものだから、なにかしらの変化が起こってもおかしくないってことか?
「そういうことなら全然構わないよ」
「まあ、貴方のことだから止めないのは分かっているから一応の確認みたいなものね」
一年ってところもちょうどいいからな。
ネアにとっては帰郷ってことにもなるし、止める理由はない。
「それじゃあ、いつイアヴァ村に行く?」
「え?」
「え?」
なぜかネアに驚かれてしまう。
数秒ほどして、なにがおかしいのか彼女はくすくすと笑いだした。
「ふふふ、別に一緒に行かなくていいわよ。私一人でも大丈夫」
「え、そう?」
「貴方も今はもうそれなりの立場にいるんだから、私の勝手で連れまわすつもりなんてないわよ」
連れまわすだなんて……。
確かに僕がリングル王国の外に出かける際はある程度の許可が必要になるのは事実だけれど。
「でもちょっと心配だな。君ちょっとうっかりなところがあるから……」
「貴方普段私のことどういう風に見てるのかしら……?」
「分かる」
「アマコも分からないでくれない?」
状況判断も適切で、頭が切れるいつでも頼れる仲間ではあるのだけど、ちょっと抜けているところがあるのでそこのところが心配でもある。
「大体、こっちとしては貴方を一人にする方が怖いわよ」
「心配じゃなくて怖いなのか」
「貴方に振り回される周りの方が心配よ」
「ものすごく分かる」
また頷くアマコ。
思わずナギさんへ振り向くと、彼女は誤魔化すように視線を斜め下にずらして愛想笑いを浮かべる。
「い、いや、君は少し目を離すととんでもない方向に突き進むことがあるから……ね? それに周りが適応する前に立て続けに成長するから……」
「くっ……」
「あ、で、でも私は大丈夫だから!? 君の常識はずれな動きにもすぐに対応できるし!!」
「ナギさん……!!」
実際、訓練に付き合ってくれているナギさんには感謝してもしたりないくらいだ。
彼女との手合わせは自分の動きを見つめなおせるし、動きを修正することもできる。
「こいつ適応されたら、変に成長するのが厄介なのよね」
「変な悪循環に嵌ってそうではある」
言いたい放題だね君たちは。
「近いうちに一人でイアヴァ村に言ってくるわ。さっきローズに許可ももらってきたし」
「だからこの時間にここにいたのか。団長の反応はどうだった?」
「普通に許可してくれたわよ。……というより、彼女は訓練は厳しい人ではあるけれど、それ以外は結構寛容だしね」
それは分かる。
ローズは訓練に厳しく、救命団内の規律を重んじてはいるが、なんだかんだで食事会とかで羽目を外すときは許してくれるからな。
でも、ちゃんと許可をもらってくるあたり行動が速いな。
「じゃあ、結構休みをとる感じ?」
「いえ? 行って軽く見て帰ってくるからすぐに戻るわよ」
「? 少しくらい滞在したらいいじゃないか。一年ぶりとはいえ故郷みたいなものだろう?」
すぐ帰るというネアにそう言ってみると、彼女は首を横に振る。
「もうあそこには私の帰る家はないわ。実際焼き払ってしまったし、村の人たちの記憶からも私のことは消し去ってしまったから」
「……」
「故郷って言うなら、今ここにいる場所がそうよ」
自分のせいで大切にしていた村を危険に晒してしまったから、もう自分はあの村にいる資格はない。
まだ、ネアはそう思っているのだろうか? 多分、彼女はもう割り切っているだろうが……いや、このことに関しては僕が変に口を出すべきじゃないんだろうな。
ネアはちゃんと前を向いて、今ここにいるんだから。
「……出発前にまたしつこいぐらいに言うけど、私がいない間になにかやらかさないことね」
「フッ、ネア。それを言って僕がなにもやらかさなかった試しがあるか?」
「開き直るなおバカ!!」
もう変に約束するより開き直った方が楽なことをようやく学んだぜ。
自信満々な顔をする僕にわなわなと震えるネアを、ナギさんが慌てて諫めようとする。
「まあまあ、たった数日だろう? その程度ならいくらウサトでもそこまでおかしなことはしないさ。君もそう思うよね、アマコ?」
「うんうん。ネアもウサトを信じられないの?」
「カンナギはともかく、アマコはもう確信犯でしょ!? こいつ自分から近づかなくても厄介ごとが寄ってくるのよ!?」
「それはもう僕は悪くないのでは?」
そこまでいくと僕じゃなくて運命が悪いくらいだと思う。
でも、なんだかんだで遠出するときは一緒に行動していたから、一時的とはいえネアと離れるのは結構久しぶりな気がするな。
まるで十年くらいに感じた一年でした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




