第四百八十七話
先日、治癒魔法の間違った使い方の更新開始から11年目を迎えました。
1年の空白期間を除けばほぼ10年目みたいなものですね。
引き続きウサト達の物語は続いていきますので、これからもよろしくお願いいたします。
そして、お待たせいたしました。
第四百八十七話です。
フレミア王国からアウーラさん達がやってきた。
まさかの追放という衝撃の形でリングル王国に身を寄せることになった彼女たちだったが、最終的にはウェルシーさんの元で働くということで話は落ち着いた。
とりあえずの住む場所については一時的に城に住み込みということになったらしく、今後ちゃんと住むところも決めていくとのこと。
「で、お前はまた今からボコスカ殴られに行くのか?」
「言い方悪すぎじゃない?」
朝食を終えた後、宿舎の前で模擬戦前の準備運動の倒立片腕立てを行っている僕の近くで、呆れたようにそんなことを言ってくるフェルムに苦笑しながらそう返す。
「傍から見たら間違ってないだろ。ローズにはぶっ飛ばされて、カンナギにもぶっ飛ばされて。あれ、初めて見ると本当にびっくりするんだからな?」
「君もびっくりしてたもんね」
「うるさい」
フェルムが救命団に放り込まれて間もない頃に、僕とローズのぶん殴り回避訓練を目の当たりにして驚いていたもんなぁ。
確かに初見だと僕がピンボールみたいな挙動で樹に激突しながら吹っ飛ばされているのを見るのは割と恐怖ではある。
「しかしフェルム、人間は適応する生き物って知っているかな?」
「お前のは適応云々じゃなくてもっと恐ろしいものだと思ってる」
君は僕をなんだと思っているのかな?
腕を深く曲げ、また伸ばしながら倒立を続けると、フェルムがじとーっとした目で僕を見てくる。
「カンナギも驚いてたぞ。何度も思わされるけれど、ウサトは人間なのに自分と渡り合うなんてどんな身体の作りをしているんだろうって。それに対してボクはこう答えた」
「なんて答えたの?」
「訓練バカヒトモドキだから人じゃない、って」
「過去一番に酷いこと言ってない?」
しかもモドキってなんだモドキって!!
僕はれっきとした人間だぞ!!
「スズネとカンナギ、キーラはさすがに可哀想だよって言ってたな」
「先輩……! ナギさん……! キーラ……!」
「ミリアとベルは苦笑いしていたけど否定はしなかった」
「ミリア? ベルさん?」
「ネアは爆笑してた」
「ネアァ……!!」
しかし、ネアなら爆笑しても全然不思議じゃない。
この恨みをフェルム共々後で返しておかねば……!!
というより、この後普通に合流する予定だからその時に問い詰めるか。
「はぁぁぁ。……よいしょっと」
右腕に力を一気に力を籠め、倒立したまま腕力のみで垂直に跳ね上がる。
そのまま左腕に切り替え、衝撃を受け止め再度倒立片腕立て伏せを再開させる。
「そういえば、ミリアとベルさんはそっちでうまくやれてる?」
「もうお前の滅茶苦茶な挙動に見慣れてしまったことが怖い。……あの二人は普通にやれてると思うぞ」
ベルさんはともかくミリアは異国での初めての暮らしっぽいからな。
気遣いができるネアがいるとはいえ、なにかあってもおかしくはないと思っていたが、フェルムの反応を見る限り、その心配は杞憂だったようだ。
「ベルの方はさすがの貴族の侍女だな。料理も中々だった」
「美味しかったんだ」
「……別に食い意地が張ってるわけじゃないからな?」
そこまで言ってないよ。
むしろ救命団に所属するならよく食べる方が向いている。
「でも、こういうのは癪だがスズネのが一番美味い。……本当に癪だが」
「二回も言ったな……」
「密かにベルもショックを受けて、ミリアが慰めてた」
先輩は本当になんでもできるな。
僕も御馳走してもらったことは何度もあるけど、本当に美味しいもんなぁ。
でも完璧ではあるけど、それだけじゃないってのが先輩の良いところだと思う。
「……ウサト」
「ん?」
フェルムに名を呼ばれて、そちらを見る。
そこにはなぜか不満そうに僕を見るフェルム。
「それで、ボクは今日どうして呼ばれてるんだ?」
「あ、ネアから伝えられてなかった?」
「あいつに朝起こされて、外に出たらお前がヘンテコな訓練やってるところに出くわしたんだよ」
そういえばそうだった。
倒立をやめ、もう一度腕力のみで跳ね上がりちゃんと両足で着地する。
手の砂を払いながら、僕はフェルムを呼んだ理由を説明することにする。
「今日はシグルスさんが模擬戦してくださることになってね」
「は? シグルスってここの騎士団長の? 偉いやつ?」
「ものすごく偉い人だ」
リングル王国の騎士団の一番上にいる人だし、何より先輩とカズキの剣の師匠。
戦争の時も騎士の皆さんの指揮もしていたし、軍略もこなせる凄い人だ。
「それでなんでボクとネア? 模擬戦ならお前だけでもできるだろ。……いや、別に嫌ってわけじゃないんだけれど」
「シグルスさんって炎の魔法を使う剣士だから、怪我をする危険とか考えてフェルムの闇魔法とネアの耐性の魔術を使ってほしいって頼まれたんだ」
「あー……」
炎の魔法とくれば、火傷とかの危険がつき纏うからな。
「僕は別に平気って言ったんだけれどね」
「お前は平気でも見てるやつはそうでもないだろ。……ボクはお前なら炎どころか溶岩も平気だと思うけど」
「君は僕を人の枠を超えた何かだと思ってない?」
フェルムの中で僕はいったいどんな超生物だと思われているんだ。
でも治癒魔法があるから平気ではあるが、相手をするシグルスさんが遠慮なく僕に魔法を放てるようにするって理由もあるから、彼との訓練にはフェルムとネアの補助を借りることになった。
「そういうことなら……まあ、納得した」
「ごめんね? 訓練があるのに」
「むしろ合法的に訓練サボれるからな。それに、お前の無茶に付き合わされるのにも慣れた」
無茶に関してはなにも言えねぇ……。
カームへリオではかなりお世話になってしまったし。
「ふぅー、掃除終わったわよー」
———と、ここで宿舎の入り口からネアが出てくる。
手を拭きながら出てきた彼女に座っていたフェルムが立ち上がる。
「おう、遅いぞ」
「そういうのなら手伝いなさいよ」
フェルムと軽口を交わした後に、ネアはこちらを見る。
「こっちは準備はできたわよ」
「よし、なら早速城に行くか。フェルム」
「おーう」
とぷん、とフェルムの姿が足元に作り出した影に沈み込み、地面を伝って僕と同化する。
その後にネアが慣れた様子で僕に触れ、そのまま沈み込むように僕の体に入り込む。
「フェルム、ネア。ちょうどいいから拘束モードを頼む」
『『えー』』
「そんな嫌そうな声で言わなくても」
しかし、声とは裏腹に僕の体に拘束の呪術と闇魔法のラインが張り巡らされ、動きが制限される。
強烈な負荷が体にかかったことに、笑みを浮かべながら軽く流すように走り出す。
『なんでこいつこんなに気に入ってるんだろ。恥ずかしくないのか?』
『でもこの姿にももうリングルの民は見慣れちゃったのよね』
『やっぱりおかしいだろこの国』
シグルスさんとの模擬戦か。
どんな指導をしてもらえるのか、楽しみだな。
●
以前ほど城下町の人たちに驚かれずに城に到着した。
やっぱりリングル王国の人たちは順応するのが早いなぁと感心しながら、拘束モードを解除し城に入るとすぐに僕は城の裏手にある訓練場へ通される。
そこには訓練用の軽装の鎧と訓練着に身を包んだシグルスさんと、ウェルシーさんを筆頭とした助手の方々がいた。
その中には彼女の助手になったアウーラさん、イマさん、エリンさんもいる。
「ウサト殿、おはようございます」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
シグルスさんに挨拶を返しながら、ネアとフェルムがいることを教えるために闇魔法で包み込み、且つ魔術を纏わせた右手を掲げて見せる。
それにシグルスさんは驚いた顔を見せるが、すぐにその表情を笑みに浮かべる。
「事前に聞かされていても驚かされてしまいますね」
「ええ、だから今のうちにお見せしておこうと思いまして」
「ははは」
でもシグルスさんならすぐに慣れてしまいそうな感じはするな。
そんなことを考えていると、なにやら記録用の書類に目を通していたウェルシーさんとアウーラさんがこちらにやってくる。
とりあえず彼女たちに挨拶をしていると、まずはウェルシーさんが話しかけてくる。
「本日はシグルスさんとウサト様が模擬戦をするとお聞きしましたので、観戦させていただくことになりました。ウサト様にご迷惑でなければよろしいでしょうか?」
「全然構いませんよ。むしろ研究に役立てていただけたらと」
「ありがとうございます!」
むしろ見てくれていた方が僕としても技の改善点とか分かるしね。
「アウーラさんも早速ですね」
「ええ! こんなに早く研究に携われるなんて……! リングル王国に来て本当によかったです……! ウサトさんの技術も間近で見れるし、本当に最高です!」
「そ、そうですか……」
なんかもう熱量が凄いな。
フレミア王国に所属していた頃よりもテンションが高いし、なんかもう充実しているって感じがする。
……ん? でもアウーラさん、なにか大きな手帳のようなものを大事そうに抱えているな。資料とは違うみたいだし、なんなんだろうか。
「アウ―ラさん、どうしたんですか? その手帳」
「これですか? ふふふ、研究内容をまとめるノートです。普段の研究とは別の私見マシマシのものですが、こういうのをまとめるのが学生の時からの習慣でしたので」
へぇ、研究ノートかぁ。
リングルで新しく買ったのか、僕にも見覚えのあるメモ帳を嬉しそうに持つ彼女にウェルシーさんも懐かしそうに微笑む。
「アウーラは学生の頃から変わりませんね。あの頃から、なにか疑問に思ったことや分からないことを知らずにはいられない子でした」
「もう私にとっては日記みたいなものですよ」
……なんかいいな、確かにふとした時にそういうものを書き記せるように手帳とかがあれば便利そうだ。
新しい訓練法とか、思いついた技とか……。
『日記? ウッ、頭が……』
『初めて日記を正しい意味で使っている人を見た気がする……ん? 正しい、わよね?』
内側のフェルムとネアの会話を耳にしていると、その間にシグルスさんと何かを話していたウェルシーさんが今度は僕の方に話しかけてきてくれる。
「シグルスさんにもご相談しましたが、これから暫くの間、ウサト様の訓練を見学させていただいても構いませんか?」
「え、それは今日だけではなく?」
「はい。待ちに待った優秀な研究員が来てくださったので、私たちも本腰をいれてウサト様の技術の研究に取り組めます」
別に訓練を見てもらうくらいさっきも言ったけど、全然問題ない。
僕の技術が解明されていけば系統劣化———アルクさんやオルガさんのように生まれながら系統強化並みの魔力を持って苦しんでいる人たちの助けにもなれるかもしれないからな。
受ける理由はあれど、断る理由は全くない。
「構いませんよ」
「ありがとうございます! もちろん訓練の邪魔にならないようにしますし、ローズさんにも許可をいただいて救命団の方に通わせていただきます!」
嬉しそう、というか燃えているというか。
アウーラさんという後輩でもある頼もしい研究員が来てくれたことにより、ウェルシーさん自身のモチベーションも上がっているように見える。
そのやる気に満ち溢れたまま僕たちから距離を取る二人を見送った後に、軽く深呼吸をした後にシグルスさんへと向き直る。
「ははは、ウェルシー殿も熱意に満ち溢れていましたな」
「ええ、頼もしい限りです」
「全くです」
軽く言葉を交わした後に、自然と向かい合うように訓練場に立つ。
僕もシグルスさんももう準備はできている。
「では、早速はじめましょう」
「手合わせ、よろしくお願いします!」
僕が構えを取ると同時にシグルスさんが、木剣を持つ右手とは反対の左手に火球を浮かべる。
相手は魔王軍との戦いを幾度も経験した歴戦の戦士であり、リングル王国最強の剣士だ。
当然、胸を借りるつもりで挑まなければ……!!
ウサトの前で日記を取り出してしまったアウーラさんでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




