第四百七十六話
二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。
ヒナとの話を終えた後、救命団員とアマコに加えた面々で、二人を歓迎する食事会のようなものが開かれた。
ミリアが別に救命団員になるわけではないので厳密には歓迎会とかそういうのではないのだろうが、トング達も僕も可愛がっているナックの家族ということで、ローズに許可ももらって開くことができた。
食事会のはじめは救命団員の面々に気圧され気味のミリアであったが、そんな中で自然体でいるナックの姿を見て心なしか安堵しているように見えた。
『お前の兄貴は大した奴だぜぇ』
『こんな小せぇのに頑張ってんだからなぁ』
『ああ、若いのにガッツがあるぜ』
『最初は頼りなかったが今では見違えるほどだぜ』
いつものいかつい顔でナックを褒めちぎるトング達に、当のナックは笑みを隠しきれずに照れていたが———、
『へ、へぇ、そうなんですかぁ……ふえぇ……』
ミリアはちょっと引いてしまっていた。
しかし、僕としてもナックがすごくよく頑張っているのはよく分かっているので、うんうん、と頷いておいた。
●
リングル王国に戻ってきた翌日、僕は先輩と共にオルガさんのいる診療所へと向かっていた。
救命団に戻ったからには訓練をしようかな、と考えていたのだけどローズから直々に身体を休めるように言いつけられてしまったので今日はおとなしく訓練は休みだ。
「ネアもフェルムも来ると思っていたんだけどねぇ」
「二人は休めるときに休みたいって性分ですからね」
フェルムは久しぶりに救命団のベッドで眠っているからか、まだ眠っていたらしい。
ネアは大人数で行くのも迷惑がかかるという理由で遠慮していたけれど……。
「ネアの方は多分、カームへリオから持ってきた本を読みたいだけでしょう」
「彼女は読書家でもあるからね。私も今度、読ませてもらう予定」
「……僕も頼もうかな」
カームへリオの蔵書は僕もちょっと興味がある。
でもカームへリオの本と言えばあれだな……。
「そういえば先輩は買った本は全部読んだんですか?」
「……フッ。あれは我が人生を賭け読み解くものだからね」
「古文書かなにかですか?」
僕と先輩が題材にされている小説をしっかりと持ち帰っているはずだが、まだ読み終わってないようだ。
ここまで来ると内容を知りたくなってくるのだけれど、それはそれで怖くもあるんだよな。
「ウサト君、私は見方を変えたんだ」
「見方?」
「あれは私のメンタルを……否、スキルアップさせるアイテムだということを……!!」
「むしろ弱体化しかしない気が……」
今までの反応を見る限り、そうとしか思えないのですが。
「とりあえず部屋に全巻並べて満足しておいた」
「満足しちゃってるじゃないですか」
話にしっかりとオチがついたところで話を元に戻そう。
城下町を進みながら、僕は続けて先輩に話しかける。
「ウルルさんはまだ診療所に住んでいるんですよね?」
「そうだね。少しずつ荷物を移しているようだから、近いうちに私たちのところに住むことになると思うよ」
「先輩達のところもにぎやかになりそうですね」
「ふふ、そうだね」
ウルルさんも世話好きっぽいからフェルムとキーラを構い倒しそうだ。
先輩と共に城下町を進んでいき、昨日と同じく果物屋の前で店番をしているアマコを見かける。
あちらも僕達に気づいたようで、軽く手を振ってくれる。
「おはよう、ウサト、スズネ。走ってないところを見るに今日は休み?」
「おはよう。今からオルガさんのところに挨拶にいくところ」
「おはよっ、アマコ」
まるで休み以外は常に走っているみたいな認識をされている……。
もっとこう……訓練着じゃないとかって特徴はないのかな?
「診療所に君も来る?」
「……んー」
僕の提案にアマコは少し微妙な表情をする。
「店番があるから、ちょっと難しいかも」
「あー、そっか。無理を言ってごめん」
ここの店番があるなら仕方ないな。
「あ、でももう少しでキリハ達がルクヴィスに帰っちゃうからその前に会いに行けない?」
「……そういえばもうすぐ帰るって話なんだな」
ルクヴィスに戻ってしまう前に会っておきたい。
もしかしたら、キリハとかもナックの妹のことも気になるかもしれないし。
すると、話を聞いていた先輩が軽く手を挙げる。
「それなら、診療所に行った後にアマコを迎えに行ってから、キリハとハルファの様子を見に行かない?」
「うん、私はそれでいいよ」
「分かった。じゃあ、後で迎えに行くよ」
約束をしてから一旦アマコと別れようとすると、おもむろにアマコが傍らにあるちょっと大きめの籠……バスケットを持ち上げて、それを僕に差し出してきた。
籠の中にはリングル王国で見慣れた果物が詰め合わされている。
「ウサト、これをオルガさん達に」
「アマコ、これは?」
「お祝いの品。昨日、スズネがウルルに診療所に行くって言ってたから準備してたの。診療所にはサルラさんもお世話になっているし、ウサトから渡してもらってもいい?」
「そういうことなら任せてくれ」
バスケットを受け取り、アマコと別れた僕と先輩は診療所へと再び歩き出す。
城の方に向かっていくにつれて、人の通りが多くなっていきそれに合わせて、すれ違うリングルの人々が僕達に声をかけてくれる。
『あ、スズネ様! ウサト様! おかえりなさい!!』
『ウサト様、今日は走ってないんですかい?』
『帰っていらしたんですね!』
『歩いているだなんて珍しいな……』
ここでは顔が知れてしまっているので僕と先輩も道行く人に挨拶されるけれど、僕だけ普通に歩いていることに驚かれてしまっていた。
もうこの反応に慣れきってしまった。
「やっぱりカームへリオとは違った賑やかさだね、リングル王国は」
「僕としては、未だに様付けは慣れないんですけどね……」
「それは私もさ。元の世界では生徒会長とお姉様くらいとしか呼ばれたことはない」
「お姉様って呼ばれていたんですか……?」
現実にそう呼ばれることってあるんだ……。
生徒会長だった先輩が呼ばれるのはそれほど違和感がないのがすごいな。
●
道行く人々にたくさん声をかけられながら僕と先輩は診療所へと到着した。
昨日のうちに訪ねることはウルルさんに伝えておいたので、僕達はそのまま診療所の奥の客間へと通された。
「昨日帰ってきたばかりなのにすまないね」
「いえいえ、むしろこちらこそ押しかけてしまって申し訳ないです」
客間のテーブルには僕と先輩、そして向かいにはオルガさんと、黒よりのブロンドの髪をおさげにした優し気な雰囲気の女性、シャルンさんが座っている。
このような形で魔王軍との戦いの時に助けにきてくれたシャルンさんと会うことになるとは思いもしていなかったので、こちらも自然と背筋を伸ばしてしまう。
「お久しぶりです。ウサトさん、スズネ様。この度はお祝いに来てくださり、どうもありがとうございます」
「敬称はつけなくていいさ。今の私は救命団の一員。むしろ勇者より、こっちの方がメインみたいなものだからね」
「ふふふ、ではスズネさんで」
「うんうん」
先輩の言葉に柔らかく微笑むシャルンさん。
渡すならこのタイミングかな、と思い僕はアマコから渡されたバスケットを差し出す。
「これ果物屋にいるアマコから届けてほしいと言われたものです」
「ええっ、こんないいものを……」
さすがに時間がなくて今回は持ってこれなかったけれど、折を見て僕もお祝いの品を渡しに来よう。
喜ぶオルガさんとシャルンさんを見て改めてそう考えていると、台所のある部屋から戻ってきたウルルさんがお菓子と紅茶を出してくれる。
「わわっ、美味しそうな果物……もしかしてサルラさんのところのやつかな?」
「うん、ウサト君が届けてくれたんだ」
果物の詰め合わせにウルルさんも好感触のようだ。
斜めの席にウルルさんが座ったところで、一旦紅茶を口にし一息ついていると、向かいのオルガさんが話しかけてくれる。
「カームへリオでは大変だったようだね」
「ははは、とんでもない目にあいましたよ」
お祭りとか悪魔関連とかシア関連とか諸々。
ここにはシャルンさんがいるので、あまり詳しいことは話せないけれど。
「私もサンダーラからリングルに向かう時に、お祭りの影響ですごく人の移動が活発化していましたから……ものすごく大きな催しだったのですね」
「私も勇者として参加させてもらったが、お祭りそのものは中々に有意義な時間を過ごせたね。ウサト君とのコンビネーションで活躍したり」
「えー、活躍ってどういうの?」
先輩の言葉にウルルさんが興味を示した。
それに対して先輩は話題を広げるように、カームへリオで行われた試練について話し始める。
内容的に濃密すぎるので簡単に話しているようだったけれど、それでも話を聞いていた三人は微笑ましい笑顔から一転して、困惑の表情を浮かべる。
「おんぶして会場を駆けまわった……?」
「おんぶして謎解き……?」
「他の国の勇者に訓練を……?」
おかしいな。
簡潔に説明しただけなのにピンポイントで僕のやらかしが正確に伝わってしまっているぞ?
他にもインパクトのある話があったはずなのに。
「……魔王軍との戦いに治癒魔法使いとして参加させていただいた時から思っていましたが、ウサトさんは……その、思いも寄らない行動をするお方なんですね」
かなり気遣いを感じさせる言い方をされてしまった。
どこか懐かしむような様子でそう呟いたシャルンさんに、僕は慌てて手を横に振って否定する。
「いやいや、魔王軍との戦いの時はそこまでは……」
「全然違くないよ、ウサト君。あの時の戦いでもものすごい動き回ってたし、すごく心配してたんだから」
「確かに……ウルルのいう通り、拠点にいる身としては生きた心地がしなかったよ」
———うっ、思い返してみれば、あの時の僕はコーガ、アーミラさん、ハンナさんの軍団長級の三人それぞれと相対した上に、ネロさんという今でも格上の相手と戦っていたんだよな……。
本当によく生きてたな、僕。
実際にローズが来てくれなきゃ死んでた可能性もあったわけだし。
……あ、そういえば、オルガさんとシャルンさんが会ったのってあの戦争の時だったか。
「あの時の話と言えば……二人の馴れ初めって戦争の際に援軍に来てくれた時ですか?」
そういえば、と思って聞いてみるとオルガさんとシャルンさんは顔を見合わせる。
オルガさんは困ったように笑い、シャルンさんは頬を紅潮させながら小さく頷く。
「はい、たくさんの怪我人を癒すオルガさんの姿に、その……支えてあげたいって」
「ははは、僕としては後先考えずに無茶をしていただけなんだけれどね……」
それでたくさんの騎士さん達の命が助かったんだから凄いことじゃないですか。
というより、もうアツアツじゃないですか。
二人の様子に感嘆の声を漏らす僕の隣の先輩と、斜めのウルルさんが同時に手元の紅茶を口にする。
「いい苦さだね、ウルル……」
「うん。そうだね、これぐらい苦くなくちゃね……」
ん? 苦いの?
気になってもう一度紅茶を口に含んでも特別苦い感じはしない。
手元の紅茶を覗き込んで不思議に思いながらも、シャルンさんの話に耳を傾ける。
「それで別れ際に、そのフーバードの契約を相互に行って……それから文を交わすように……」
「おお……」
僕もフーバードの契約をハヤテさんと交わしているけれど、なるほど、そういう形で契約することもできるんだなぁ。
色々と気になるし、迷惑にならない程度に質問してみようか。
「一緒に住もうと提案したのはどちらからなんですか?」
「う、ウサト君、それは……」
「オルガさんからです……」
「シャ、シャルン!?」
オルガさんも大胆だなぁ。
両手で頬を押さえてそう口にしたシャルンさんに、オルガさんが慌てふためく。
僕は心配いらないとばかりに掌を見せ、オルガさんを落ち着かせようと声をかける。
「オルガさん、安心してください。———この情報は後にトング達と共有させてもらいます」
「安心とは!?」
「でっかい祝いの品を楽しみにしてください」
「ウサトくぅん!?」
トング達とは日々喧嘩する仲ではあるが、いざという時に結束するのが僕達だ。
それが同僚であり、仲間であるオルガさんの祝い事であれば全力を出さない理由がない。
「ウルル、どうしよう胸が苦しい」
「スズネ、私はこれが毎日だよ?」
「こ、こんなの耐えられないよ……! 空気の甘さに溺れちゃう……!!」
そして先輩はウルルさんとなにかを話して胸を押さえて苦しんでいる。
先輩はいつもの発作みたいなものだろうけど、ウルルさんの方はなんか……表情は笑顔のままだけれど、なぜか鬼気迫ったなにかを感じるな……。
悟りの境地に至っているウルルと、スリップダメージを受け続ける先輩でした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




