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第四百七十四話

明日、10月25日にてコミカライズ版「治癒魔法の間違った使い方」第十五巻が発売いたします!!

どうぞよろしくお願いいたします!!


そして、第四百七十四話です!!

 カームへリオで起こった大体のことはネアが、ミリアとベルさんが宿舎に泊まる許可をもらうついでにローズに前もって話してくれたらしい。

 「貴方も何度も同じことを話すのも手間だし、私の方が簡潔に説明できるでしょ?」と、口にしながら部屋に戻っていく彼女にお礼を言った後に僕はローズの待っている団長室へと向かった。


「ウサトです」

『おう、入れ』


 扉をノックし、許可をいただいてから入室すると、ローズはいつものように団長室の椅子に腰かけ、机の上にある書類に目を通していた。


「ただいま、カームへリオから帰還しました」

「大体のことはネアから聞いた。どこにいっても騒ぎに巻き込まれてんな、お前は」

「ははは……まあ、もうここまでくるとそういう星の下にあるんだなって思うようにしてます」


 そもそも元より事件に巻き込まれる可能性も考えていた。

 予想外だったのが、その事件が別物で規模が僕が想像していたより大きなものだったってことかな。


「ナックの妹と、彼女の従者についてはどうでしたか?」

「許可した。特に反対する理由もねぇしな。……強いて言うなら、騒ぎを起こすなってくらいだが……その心配はねぇだろ」

「人柄を見た限り、僕も大丈夫だと思います」


 見た目不相応に大人びた子だったからな。

 なんだかミリアを見ていると、ヒノモトで会ったハヤテさんの娘のリンカを思い出すけれど、あの子はあの子でアマコと同い年のはずなのに幼い感じがする。


「またアウルと交戦したらしいな?」

「ええ、アウルさんは魔術によって、部下の皆さんのそれぞれ六つの魔法を埋め込まれていました」

「魔法が多く使えりゃ強ぇとでも勘違いしてんのか?」

「……あー、多分、そうでしょうね」


 アウルさんは僕とローズへのカウンター、みたいなことをシアが言っていたけれど、魔法を彼女一人に集めた理由もそんなもんなんだろう。

 あいつ、言動が意味深に聞こえるが結構深く考えずに行き当たりばったりなところがあるし。


「ああ、それと」

「ん?」

「アウルさんは団長を避けてます。気まずいとか、顔向けできないとかそういう理由で」

「はぁぁー」


 とりあえず、アウルさんのことをチクるとローズは大きなため息をついた。

 この人がため息をつくことは割かし珍しいことなので、ちょっとびっくりしながら続きを話す。


「僕としては最初はあの人をとっ捕まえようとはしたのですが、状況が変わりました」

「お前が追っている奴か?」

「はい。シア・ガーミオ……だと僕達が思っていた人格、ミオのことを彼女に頼みました」


 依然としてアウルさんは、シアが本気になれば意のままに操れる状態にあるが、ミオは精神的な面で不安定なところがあるのでルーネと合わせて助けてくれれば……と考えている。


「現場にいたお前が最適だと判断したってことなら、その判断にとやかく言うつもりはねぇ」

「最適かどうかは分かりませんが、最善は尽くせたらな……とは思っています」

「少なくとも私の知るあいつは、ぐちぐちと文句を垂れる甘ったれだが……やるべきことは理解しているからな。うまくやるだろうよ」


 口では辛辣だが、その口ぶりにはアウルさんへの信頼があるのが分かる。

 ……僕自身もこれからも成長していかないとな。

 これから悪魔がどのような動きをするか分からないし、今のうちにやれることは全部やっておきたい。


「団長、また稽古をつけてもらっても構わないでしょうか?」

「ん? ……稽古か」

「無理そうですか……?」


 なにか忙しいのだろうか?

 僕の頼みに悩むそぶりを見せるローズにちょっと不安になる。

 十秒ほどの思考の後に、なにかを決めたのかこちらを見たローズは口を開いた。


「いい加減、教えておくか」

「え、なにをですか?」

「お前に必要になるであろう戦い方ってやつだよ」

「!」


 ローズから学んだのは治癒魔法の使い方と走り方、攻撃のよけ方がほとんどだ。

 いつもの手合わせだって経験で培ってきた僕の戦い方をぶつけているだけで、本当の意味で戦い方というものは教わったことはない。


「いつかは教えるつもりだったが、お前もあれが可能な段階に至っているようだしな」

「段階……?」


 それは、僕がその戦い方を教わる力量を持ったということなのか?

 いったいどういう技術なのか、戸惑う僕を見たローズはなぜか、二ィ、と笑みを浮かべる。


「よし、触りだけでもやっておくか?」

「え?」


 不意に立ち上がるローズに悪寒を抱く。

 ……。

 まさか、今この場で!? 団長室で!? 訓練を!?

 肩を回しながら、僕から二メートルほどの距離で立ち止まったローズは、見慣れた獰猛な笑みを浮かべ僕を睨みつける。


「今から殴る、防いでみろ」

「はは、ご冗談を……」

「……」


 やべぇ、この人本気だ……!?

 この理不尽さに不覚にも懐かしいと思ってしまったが、その理不尽を受け入れられるとは思ってない!!


「あの、ちょ、待っ———」

「構えろ」


 相変わらず僕の意思はどこかにフライアウェイですかぁ!?

 突然の屋内で殴り掛かられるという異常事態に、背筋が凍る感覚に苛まれる。

 そして、その次に直立状態で2メートルほど離れていたローズが、瞬きした瞬間に消え、目の前に拳が迫る。


「っっ!!?」


 何度もその身に受けた治癒魔法が纏われた(・・・・・・・・・)右拳。

 鉄塊を受けるような、身体の芯にまで響き、衝撃が貫通する威力に僕は割と本気の命の危険を抱きながら、その拳を右腕で防御するように構え———、


「これだ」

「……え?」


 ———たが、当たったのは右拳ではなく、その逆の左拳が僕の顎に添えられた。

 コツン、と当てる程度に当てられた瞬間、ゼロ距離で打撃を叩き込まれ視界が反転する。


「がっっ……!?」


 顎に衝撃が走り、床に倒れた僕はかろうじて意識を保ちながらローズを見上げる。


「いや、軽く当てるだけでいいのになぜさらに追撃を?」

「当てた方が覚えるだろ」


 僕じゃなきゃ記憶を失いかねない衝撃だったんですけれど。

 というより、今、なにをされた?

 ローズの拳にしこたまぶん殴られまくった僕が反応できなかった? 左拳自体は早くなかったはずなのに……? 当てられるまで気づけなかった。

 自分に起きた状況が理解できない僕に、ローズは握った左拳を見せながら口を開いた。


「次、お前に教えんのはこの技術……いや、意識だな」

「意識……」

「お前が最も得意とする技が必ずしも、その状況での最適の技とは限らねぇってことだよ」


 僕を見下ろしたローズは右拳を掲げ、いつもの獰猛な笑みを浮かべる。


「本格的な訓練を始めるときは、今の程度じゃ済まさねぇが、どうする? それでもやるか?」

「……はは」


 ああ、懐かしい。

 回避訓練でローズにしこたまぶん殴られた時のことを思いだす。

 自然と僕も笑みを浮かべながら、ローズを睨みつけるように見上げる。


「確認してくれるなんて随分とお優しくなりましたね。……やるに決まってるじゃないですか」

「ハッ、成長してもクソ生意気なガキなのは変わらねぇな」


 僕の啖呵にローズは上機嫌になりながら、腕を組む。

 僕も首元に当てていた治癒魔法を解いて立ち上がる。


「訓練は三日後だ」

「了解しました」

「話は終わりだ。下がっていいぞ」


 失礼します、と言葉にしてから団長室を退出する。

 扉を閉め、緊張を解くように軽く息を吐きながら、自分の掌を見る。


「……まだまだ教わることは多いな」


 依然として僕は未熟だ。

 どれだけ技術を身に着けても、まだまだ覚えることが多い。

 だけど逆に言うならば、まだそれだけ僕に成長する余地が多いってことだ。



 お兄様が所属している組織、救命団の宿舎に泊まる許可をいただくことができた。

 本当にイヌカミさんとウサトさんにはお世話になりっぱなしだけれど、私としてはお兄様が過ごしている環境に身を置けるというのは中々にない経験なので、少しだけわくわくしている。


「よいしょ、と」


 二つあるうちの一つの宿舎、その一室に案内された私はベッドに腰掛け軽く一息つく。


「お疲れですか?」

「今日は色々なことがありすぎてちょっと、ね」


 傍で荷物を整理してくれていた侍女のベルの言葉に頷く。

 救命団の個性的? な団員達。

 魔族の女の子と怒鳴り合うお兄様。

 そして、再会。

 正直、こんなにあっさりリングル王国でお兄様に会えるとは思いもしていなかったから、ここまで順調すぎて逆に現実味がないくらい。


「お兄様も立派に……たくましく? ……なっていて驚いた」

「ええ。救命団という環境は坊ちゃまにいい影響を与えているように見えます」

「あ、与えてるかな……いい影響……」


 性格まで変えることをいい影響というのだろうか。

 頬を引きつらせる私に、ベルはにこり、と微笑む。


「お屋敷にいらっしゃった時の坊ちゃまは、自分の考えを表に出すことができない状況にありました。恐らく、それはルクヴィスでも……」

「……」

「ですが、ここでは坊ちゃまは年相応に感情を発露させ、思うがままに生きることができています。過去の坊ちゃまを知る身として、とても喜ばしいことです」


 ……そうね。

 お兄様はここで自由に生きている。

 今日、それを見てよく分かった。


「ベル、そういえば貴女、ウサトさんとイヌカミさんのことを知っていたみたいだけど、どうして?」

「お二人……いえ、彼らの活躍は有名ですから」

「……うーん」


 父にリングル王国関連の情報を制限されていた私が無知なだけ、ってこともあるだろうけれど、なんだかこの時だけベルの言葉に歯切れの悪さのようなものがあるのはなぜだろう?


「何で知ったの?」

「……。小説で知りました」

「へぇ……小説なんてあるんだ。持っているなら今度、見せてもらってもいい?」

「いえ、お嬢様にはまだお早いかと」

「え? そ、そう?」


 一応、年不相応に難しい本も読めるのだけど、それでもまだ早いんだ。

 なんだろう、複雑な本なのかな? そう言われると余計に気になってしまうのだけれど。


「その本は———」


 どのようなお話なのですか? と訪ねようとしたその時、私とベルのいる部屋をノックする音が聞こえる。

 どうぞ、と返した声に応えて扉を開けた綺麗な黒髪が特徴的な女性、イヌカミさんが入ってくる。


「お取込み中すまないね。ベル、君の部屋の整理が終わったから荷物を運び込むといい」

「ありがとうございます」


 どうやら、私の隣の部屋の整理が終わったみたい。


「では、お嬢様はこちらもすぐに準備を済ませますので……」

「そこまで急がなくても大丈夫よ。別に今日ここから出かけるわけじゃないから」


 ベルにはずっと世話をかけさせてしまったので、こういう時は手を休めてもらいたい。


「ですが……」

「ずっと私に付きっ切りで疲れたでしょう? 私はイヌカミさんと下で待ってるから、心配ないわ」

「……かしこまりました」


 ぺこり、といつものようにお辞儀をした彼女は荷物を引いて部屋へと向かっていく。

 その姿を見送った私は、傍にいるイヌカミさんに話しかける。


「ということで、下に行きましょうか」

「そうだね。ここに住んでいる子達も紹介したかったところだし」


 イヌカミさんについていき、宿舎の二階かた一階へと降りていく。

 一階は基本的に皆で食事をするところになっているみたいで、並べられたテーブルには既にここに住んでいる人たちが座っていた。

 フェルムさんにネアさん、そしてもう一人の魔族の女の子、獣人の女性に女の子、そして金髪の少女の6人。

 なんというか、屋敷に住んでいるだけじゃ絶対に遭遇することのないであろう面々だ……。


「皆、連れてきたよー」


 イヌカミさんの声で、全員の視線がこちらへ向けられる。

 その視線にちょっと気圧されてしまっていると、イヌカミさんが優しく背中を押して椅子に座るように促してくれる。


「とりあえず、座るといい」

「あ、ありがとうございます」


 座って、深呼吸をして心を落ち着けてから、ひとまず自己紹介をしておく。


「あの、ミリア・アーガレスです。少しの間ですがお世話になります」

「うんうん。それじゃあこちらも挨拶がてら自己紹介をさせてもらおう。……では、もう知っているだろうけれど、私から」


 私の隣に座ったイヌカミさんが自身の胸に手を当てる。


「私はイヌカミ・スズネ。リングル王国の勇者であり、今は救命団の団員さ」


 勇者、それも魔王を倒した人たちの一員だった人がここにいるだなんて普通に驚きだ。

 自己紹介をしたイヌカミさんは、次に頬杖をついているフェルムさんに「はい、次!!」と指名する。

 それに対して、びくり、と驚いたフェルムさんは、しょうがないという素振りを見せながらこちらへ視線を向ける。


「フェルムだ。あー、ボクは……魔王軍の戦争の時にウサトに倒されて捕虜にされて、なんやかんやで……救命団員になった」

「……え?」


 魔王軍との戦争のさなかに捕虜にされたって、元は敵対していたの!?

 それがなんやかんやでそうなったって、いったいどういう経緯でそうなった!?


「ネアよ。私も一応、団員だけれど、ウサトの使い魔よ。使い魔になった経緯は、ウサトに無理やり使い魔契約させただけよ」


 こっちもこっちでまた意味分からないことを言っているんですけれど!?

 質問をする余地を与えずに、すぐにネアさんの隣にいる小柄な狐の獣人の女の子が自己紹介をはじめてしまう。


「ん、私はアマコ、見ての通り狐の獣人。救命団員じゃないけれど、よろしくね」

「あ、ハイ、よろしくお願いします……」

「まだまだ序の口だから、頑張ってね」


 ……なにがですか???

 ものすごく不穏なことを口にしたアマコさんの言葉が気になっていると、彼女の隣にいる魔族の女の子が次に自己紹介をしてくれる。

 この方は、お兄様と怒鳴り合っていた子……だよね?


「キーラです。私は最近救命団員になったばかりなんですけれど、入った経緯は魔王様から救命団に行くようにお願いされて、それで元からウサトさんのいる救命団に入りたかったので、入団しました」


 い、今さらっと魔王って言いませんでしたか?

 なぜお兄様とそう変わらない年頃の女の子に魔王が? 実は見た目以上にとんでもない秘密でもあったりするのだろうか……?


「それじゃ、次は私だね。私はウルル、近いうちにここに住むことになってる救命団の一員だよ! いつもは診療所で働いていて、時折君のお兄さんも手伝いにきてくれているんだ!!」

「そ、そうなんですか……」


 ものすごく明るい人だけれど、なんだか逆に安心してしまった。

 今までの衝撃が強すぎて、なんだかものすごく疲れた気分になっていると、最後の一人———アマコさんと似た獣人の方が遠慮気味に手を挙げる。


「あー、カンナギだ、私もアマコと同じ狐の獣人で一応、義理の姉妹のようなものだ。私も最近入った団員で……まあ、うんそれだ———」


 混乱する私を見て、遠慮気味に自己紹介をしてくれたカンナギさんの身体が不自然に震える。

 数秒くらいして瞳の色が紫に変わったカンナギさんが言葉を発する。


「私はカンナギのもう一つの人格、ヒナだ。本来この身体は数百年も前に生まれたもので、最近まで遺跡で封印されていたが、ウサトに封印を解いてもらってこの時代を生きている」

「???」

「よろしく頼む」


 ……なにこの人!?

 二重人格に、数百年前の人で、最近まで封印されていた!?

 い、言っていることが滅茶苦茶なんですけれど!? そしてたびたび自己紹介にウサトさんの名前が出てくるのはなぜ!?

 というより、よく考えてみれば獣人、魔族、魔物、人間の方が同じ屋根の下に集まっていること自体がものすごく異常なことでは!?

本当は寸止めで止めるつもりでしたが、殴りぬいた方がローズらしいと思ったので殴り抜きました(?)


今回の更新は以上となります。


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― 新着の感想 ―
あとは魔族とエルフのハーフと悪魔と人間のハーフ入れて生きた死体入れたら完成だね
ふーん?今さらミスディレクションですかねぇ。意識の隙間に滑り込ませる一撃…確かに強力ではありますね。ウサト氏ほどの初見殺しがどうなるかは少し興味があります。今はカンナギ嬢を封印したヒサゴ氏が、魂に魔法…
ローズ実は寸止めするつもりだったけど「ウサトだしいいや」で殴り抜いた説を推したい。
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