表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/574

第五十二話

 ルクヴィスの端に位置するあたし達の家。

 そこがあたし達の居場所、人間の目に触れず、留守を狙って荒らされる心配が少ない場所。あたし達姉弟がここにやって来た時、先に此処に来ていた人が案内してくれた。……勿論、その人というのは獣人なんだけどね。


 最初はね、大勢いる人間の中であたし達を受け入れてくれる人も居ると思っていたんだ……。

 何せルクヴィスは大陸中から何万人も集まる大都市だ、その中でもごく少数位は獣人に対して寛容な人たちもいてもおかしくない。そんな淡い希望を抱いた私達は、生まれ故郷である隠れ里を飛び出し、魔法を学ぶためにルクヴィスの門をくぐった。

 一族の皆から才能があるとも言われた魔法も学びたかったし、里の子以外の『誰か』と友だちに成りたかったから。

 でも、そんな希望を抱いた私が馬鹿だったことに気付くのは、すぐのことだった。


 ルクヴィスは表面上は亜人への迫害は禁じられている。その方針により表立ってはそういうことは起こりえないが―――何もされなくても、針の筵に立たされているかのような孤独感には襲われるのだ。


 不信。

 蔑み。

 恐怖。


 他者と友好を結ぶことを許さない環境。

 孤独を強いられる重圧。

 ここで、自分の……獣人のあたしが魔法使いとしての価値が示せるのは交友関係でもなく、権力でもなく、ただ一つ、魔法の強さだった。

 ああ、ルクヴィスは魔法と技能を磨くことでは最高の環境だったよ。そうさ理解させられたよ、人は人と和を成すことができるけど、彼らにとって獣人は『人』ですらなかった。

 上辺だけの人間も、集団に吞まれている人間、ただただ無関心なだけの人間。

 多くの奇異の視線に晒されたあたしは、なんだかとても悲しくなった。

 訪れて来る同族達も、誰とも関わらず一人でいようとした。


 人間と関わらない。

 慣れ合わない。

 誰も信じない。


 彼等は一人でいられないあたしのように心が弱くは無かった。

 誰とも関わらず、ただ魔法を学ぶだけ。警戒心が強い獣のように人間には期待しない、それが彼等だった。


―――あぁ、こうやれば……こうすればよかったんだ―――


 何時からだろうか。

 外を歩くときは注目を集める耳を隠すようになって、ひたすらに魔法の技能を磨くようになったのは……。

『弱ければ此処に居る意味がない』

『人と仲良くするために通っているのではない』

 ―――と姉弟二人だけの寂しい寮の中で自分にそう言い聞かせていた。



 そんな事を何度も何度も繰りかえした頃に一人の獣人の少女がルクヴィスにやってきた。

 あたし達のような隠れ里ではなく、特に人間への憎悪がある本国からやってきた未来を詠む不思議な少女、アマコ。彼女は自分の母親を救うために、遠い遠い本国から治癒魔法使いを探しているという。

 治癒魔法は人間にしか使えない特異な魔法。人間に協力してもらうなんて無理な話だと思った。実際、此処に居る治癒魔法使いには拒否されたらしい。


『キリハ、私は諦めないよ』


 でもあの子は諦めようとはしなかった。母親を助けたいから、例え危険でも足を止めようとはしなかった。

 ここまで来るのも大変だったろうに……危ない事ばっかりだったろうに……、キョウは最後まで止めていたけどあたしには止められなかった。


 あたしはアマコのように頑張っているのだろうか。

 人間を信じようとすることができるのだろうか。

 周りを気にせずに獣人と仲良くしてくれる人間なんて存在するのだろうか。


 その答えは今も分からない。

 ずっと前に答えは出したつもりだったのに、それが答えだとは思えなかった。

 きっと、あたしは今も思っているんだろう。


 何時か―――獣人(わたし)と仲良くしてくれるような人間が居てくれるって―――




 






「……朝か……」


 この都市の朝を告げる鐘の音で目が覚める。

 懐かしい夢を見た……ような気がする。それがどんな夢だったのかほとんど忘れたけど、なんとなく半分は嫌な夢だったと思う。


 硬めのベッドから起き上がりごわごわとした尻尾を撫でつける。

 ある程度毛づくろいができたら、ベッドから立ちあがり朝食の準備をするべく手早く着替えてから自室から出る。

 出た先には直ぐ居間がある……のだが、今日は何時もと違っていた。


「あれ?どうしたのサツキ?こんな朝早くから」


 一年ほど前にあたしとキョウと同じ隠れ里からやってきた獣人、サツキが昨夜私が壊してしまった入り口手前から外を覗き込んでいた。

 サツキは近づいた私に気付くと口に人差し指を当て、シーっと静かにするようなジェスチャーをする。

 ……どうしたんだろう。ちょっと私も何を見ているか覗いてみようかな。

 興味深げに何かを書き込みながら、外を注視しているサツキの後ろから彼女が見ている方向を見てみる。


『アマコが軽すぎて全然訓練にならないッ!!』


『……それは私のせいじゃないよウサト』


「……………」


 何でこんな朝早くから腕立て伏せなんてしているんだこの人間は……アマコもアマコで何食わぬ顔で背に乗ってるし。


「凄いよキリハ、あの人日が出てからずっとやってるのっ。でねっ、全然疲れた様子も見せないのっ。一体、どうなっているの!人とは思えないよ!」


 日が出てからずっと?休まずやっているのならますます普通の人間とは思えない。岩をも砕くあたしの拳を真正面から受け止めるというのがまずおかしいけど。

 弛まぬ鍛錬の成果、それが彼の力っていうことになるのかな?そのたゆまぬ訓練がどれだけ過酷なものかは想像できないけど。

 でもそれより……。


「サツキ……あんた朝からずっとウサトのことを観察していたのか……」


「うん!」


 ……今、目の前で輝かんばかりの笑顔を向けてきたサツキがこれほど興味を示しているのが問題だ。

 この子は人前では物静かなのにふとした切っ掛けで途端に人が変わったように何時も持ち歩いている手帳にその時起こった出来事を書き込むのだ。本人曰く『不可思議な事、不可解な事があったら書く手帳』らしい。

 つまりウサトはサツキにとって不可思議で不可解な存在だということになる。

 何時もは本当に……本当に大人しい子なんだけど、こうなるともう放っておくしかない。昨日ウサトとアマコが来てからもずっと無言だったけど、実際は喋る余裕がない程に二人に興味を示していたんだろうなぁ。


「まあ、ほどほどにね……」


「分かってるって」


 入り口の影にいるサツキを放っておいて調理場の方へ。

 まずは朝食の準備だ。何時もは簡単に済ますのだが、今日はウサトやアマコが居るのだ。ちゃんと作ろう。調理場にある食材を手に取ると、不意に昨日ウサトが食事の際にあたしに言った言葉を思い出す。


「………美味い、か」


 彼は「美味い」と言った、そんな褒め言葉で照れるような初々しい性格はしていないつもりだが、驚いたのは確かだ。

 あの時、キョウにウサトは信用できると言った手前ではあるものの本当はあたし自身がウサトをまだ信じきれていなかった。だから何があっても大丈夫なようにウサトの直ぐ隣に座ったし、彼に自分が……獣人が作った料理も食べさせた。普通の人間は獣人が作った料理を食べようとしないし美味いとも言わないからね。


「本当に口だけだね……あたしは」


 治癒魔法で治ったとはいえ手を切り刻むという大怪我をさせ、酷い事を言った自分を許してくれたウサトを未だに信用できない自分をとても卑しく思う。


「………っ、そうだ、朝食」


 サツキの授業は早い時間帯から行われる。そしてそのサツキを学園まで送りに行くキョウもそろそろ起こさなくてはいけない。

 このままゆっくり作っていたら二人が朝食を抜きにしなくてはならない。今日はちゃんと作るって決めたんだからやらなきゃ……。











 無事朝食の準備を終えたあたしは、サツキ達と遅れて起きたキョウとで朝食を囲んだ。ウサトは少し汗をかいたらしいので、少しだけ遅れてはいたがこんなに賑やかな朝食はとても久しぶりと思えるようなものだった。


「おいお前!姉ちゃんに変なことしたら許さねぇからな!!」


 朝食を食べ終えたキョウは、学園へ行く準備をしながら机で水を飲んでいるウサトに釘をさすようにそう言った。

 あまりにも過保護な弟に苦笑しつつも、あたしは困ったように頬を搔くウサトに助け舟を出すことにした。


「キョウ、そろそろ時間じゃないか?早くサツキを連れて学園の方に行かないと遅刻しちゃうよ」


「え!?もうそんな時間なのか……サツキ!早く行くぞ!!……何時まで書いてんだ!」


「……ちょっともうちょっと観さ―――」


 あたしの言葉で血相を変えたキョウは、のそのそとローブを着ながら未だに手帳にウサトの事を書き留めているサツキの襟首を掴み外へ走り出して行った。

 二人が町の方に消えていくのを見送ったウサトは、彼らを見て疑問を抱いたのか首を傾げながらこちらへ振り向く。


「キリハ、キョウとサツキは同じ場所で魔法を習ってるの?年が違う様に見えるけど」


「あー……」


 それは尤もな疑問だ。

 キョウはあたしと同じ17、サツキは12、そもそもの年齢が違う。キョウとサツキが一緒に出て行ったことと、あたしがまだここにいることに疑問を抱いているのだろう。


「キョウにはサツキを学園まで送って貰っているんだ。サツキもまだ小さいからね……。あたしとキョウは学園では同じクラスなんだけど、あたしは家を出るまでに色々することがあるからね」


 いじめとか何か面倒事に巻き込まれるかもしれないから、キョウに付き添いを頼んでいる。

 あたし達の授業はサツキよりも遅い時間に始まるから色々好都合なんだ。


「それじゃあキリハも少ししたら学園の方に行っちゃうのか……」


「そうなっちゃうね……ウサトとアマコはどうする?此処で待ってる?」


「いや、僕達は城門近くの厩舎の方へ行くよ。ここまで一緒に来た人たちがいるからその人達に会って来る。……アマコもそれでいいよね?」


「うん」


 一緒に来た人たちって、昨夜の夕食の後にウサトが此処に泊まる事を伝えに行った場所に居る人達の事だろうから、あたしも留守の心配をしなくていいか。

 でも二人もずっと街をさまよっている訳じゃないだろうから早めに帰ってこよう。

 今日の夕飯の事を考えながら食器を洗っていると、壁にかけているコートに似た白い服を着たウサトが声をかけてきた。


「そうだ、着替えありがとう。一応、食事前に洗って外に干しておいたけど……大丈夫だよね?」


「気にしなくてもいいのに。ただキョウの服を貸しただけさ、礼を言われるほどじゃないよ」


 と、いいつつも外を横目で見ると綺麗に干されている服を見る。

 意外と几帳面……昨日見た恐ろしい形相をした少年とはえらい違いだ。昨日見た彼は恐ろしかった、確かに人型オーガは言いすぎだと思うけど…………あんな顔をすることはないじゃないか。人の顔を見て気圧されるとは思いもしなかったよ……。


「……顔が青いよ、大丈夫?」


「あ、ああ……だ、大丈夫……うん……大丈夫」


 気付かない内に顔に出てしまっていたからか、アマコに心配されてしまった。

 ウサトの事は昨日彼女に沢山聞いたじゃないか……彼は悪い人じゃないし、アマコが2年間居たリングル王国もあたしが想像できない程良い所だって……。

 未だに震える手を冷水に浸し、落ち着きを取り戻す。ようやく平静に戻った時、居間にいるウサトが調理場の入口から顔を出してきた。


「僕達はそろそろ行くよ」


「行って来るよ、キリハ」


 彼と彼の後ろにいるアマコも白い外套をかぶり、あたしにそう言ってくる。

 あたしの目には、この二人はなんも違和感のない友人同士に見えた。それがどれだけ叶わないと思ってきたものでも、いざ目の前にすると……こう……形容できない想いがこみあげて来る。


「……ははは、いってらっしゃい」


 我ながら覇気のない声でそう言ったあたしはきっと笑みと不安を内包したような表情をしていただろう。ウサトは僅かに首を傾げるだけだったが、アマコには確実に怪しまれただろう。あの子は予知とは関係なしに鋭く、そして聡い子だ。


「――そろそろ、あたしも準備をしようか……」


 会いたかった友達に会えた。

 それでも不思議とあたしの心は晴れない。










「先輩からの伝言?」


「グァ?」


 キリハの居る宿からブルリンと騎士さんたちの居る厩舎の方へ移動し、寝ぼけ顔のブルリンに朝食を上げている僕に騎士さんはそう告げた。

 昨夜に先輩達に僕の事を伝えてくれるように頼んだ騎士さんが、その帰りに犬上先輩達から頼まれたらしい。


「はい、何やらウサト殿が来たら勇者様方の所に来てほしいと」


「と、いうと……宿の方ですね」


 元より行こうとは思ってはいたけど、先輩の反応が地味に怖い。

 あの人、子供っぽいところあるからなぁ……へんな事でむくれたりしていなきゃいいけど。


「急ぎの用かな……先輩の事だから僕が朝に此処に来ることは予想しているから早めに行った方がいいか」


 直接会わないで、勝手に泊まる場所を変えちゃったからそこらへんの説明もちゃんとしなくちゃいけない。


「アマコ、今日もここでブルリンの事を頼める?」


「ん、大丈夫。この子といるのは嫌いじゃないから……」


 しゃがみこんだ彼女は上機嫌に果物を食むブルリンの鼻を撫でつけてそう言った。

 ここならアマコを暇にさせることもないかな、此処には信頼できる騎士さんも居ることだからもしもの事があっても彼らが対処できる。


 アマコと騎士さん達にとりあえずの別れを告げその場から小走りで駆け出す。

 目的地は先輩達の居る学園前の宿、小走りで行けばものの数分で到着する場所。昨日で大体距離感は掴んだし、人ごみに巻き込まれなければかなりスムーズに進めるだろう。

 でも街中を小走りとはいえ駆けていると、リングル王国に居た時の様に重りを持っての走り込みをしてみたいと考えてしまうな。重りを持ってきてないから普通の走り込みしかできないけど、ブルリンを連れまわせるようにできればあるいは……いや、走る以前に此処に居る人達が驚いちゃうから駄目だな……。


「グラディスさんに頼んでみようかな……」


 一応、使い魔というものがあるらしいのでもしかしたら許可を貰えるかもしれない。

 一般的な使い魔というものが僕とブルリンの関係にあてはまるかは分からないが、聞いてお願いする分には試してみる価値はあるな。

 ブルリンは重さ的に丁度良いし、一緒に走れるなら走りたいな…………ん?


「……、ここは……」


 ぼうっとして走っていたからか、気付けば昨日学園の生徒らしき集団が入っていった路地の前に来ていた。普通なら気にも留めないでそのまま走り続けるのだが、路地の向こうに数人の人だかりが居たのが気になり脚を止めた。

 一体どうしたのだろうか、どうみても野次馬のように見えるがその中心に何かあるのかな?

 少し寄り道しようかな、と好奇心に駆られた僕は目の前にある路地に入り込み、その人だかりに近づく。


「また、あいつらか……酷いことしやがる」


「放っといてあげれば良いものをねぇ……」


「でも俺らも巻き込まれたらたまったもんじゃないからな……」


 ……何やら不穏な会話が人だかりから聞こえてきた。

 少し早足になり彼らの居る場所に辿り着き、彼らの会話の中心にいる何かを視界に収めると、驚いた。


「…………!」


 昨日、この路地に入っていった集団の中の一人、煤汚れたローブを着た少年がボロボロの状態で倒れていた。

 咄嗟に近づいた僕は彼を抱き起こし治癒魔法での治療を試みようとすると、少し離れていた所から見ていた野次馬は心配いらないとばかりに声を掛ける。


「どこの誰かは知らないけどそいつは大丈夫だよ、回復魔法の必要もない」


「どうみても怪我をしているじゃないかっ、何処が大丈夫―――」


「そいつは治癒魔法使いだ。見ろ、汚れてはいるがどこにも傷はないだろ?」


「え!?」


 野次馬の学生らしき少年に指さされ、再び少年を見る。

 傍目には傷だらけのボロボロだ。……いや、頬の汚れを拭ったら傷はない。

 本当にこの子が治癒魔法使い……?昨日、僕を睨んでいたこの子が?意味が分からない、一体どういう経緯でこんな事になっているんだ?


「さっきこの子は治癒魔法使いっていいましたよね?何があったんですか?」


「あんた最近来たばかりか?……まあ、知らないのはしょうがないよな、こいつは面倒な奴に目をつけられていてな……毎度毎度、こうやって治癒魔法に託けて、こんなことをやってんのさ」


 面倒な奴に目を付けられてって、治癒魔法は訓練以外でサンドバックにするための魔法じゃないんだぞ。

 まさか興味を持っていたルクヴィスの治癒魔法使いと既に会っていたとは露とも思っていなかった。しかもこの程度まで痛めつけられているのか………。いやこの程度じゃないだろ、ここまでだろ僕。


「直面すると色々複雑な思いになるな……、取りあえず起こすか」


 肩をゆすり彼を起こそうとする。

 一応は無事意識が戻るかどうか安否を確かめたい。傷はなくて目覚めませんでしたーなんてことになったら僕は関係ないのに後味が悪すぎる。


「………う………」


「お……」


 十数秒ほど肩をゆすると、微かな呻き声と共にゆっくりと目を瞬かせた。

 意外と簡単に意識を取り戻した辺り大丈夫そうに見えるな……余計な心配だったかな。


「目が覚めたようだね、気分は―――」


「っ!放せ!!」


「うわっと」


 目を覚まし、僕を視界に収めたその瞬間に肩に置かれた手を払いのけられた。突然の拒絶に少しばかり驚いていた僕だが、少年の方は青く晴れた空を見て何故か焦る。


「時間が……くっ」


「あ、おいちょっと待―――」


 どういうことか少年は僕の声に耳を貸さずにそのまま大通りのある道まで駆け出して行ってしまった。

 あの焦り様は尋常じゃない……何か大事な用でもあるのだろうか。でもまさか拒絶されるとは思わなかった……それほどまでに人間不信になっているのかもしれない……ということなのかな。

 あの様子じゃ二年前のアマコが協力を求めてもそれどころじゃなさそうだ。


「……さて、どうするか」


 リングル王国外の治癒魔法使いに会いたいという思いは叶ったけど、なんというかもどかしい気分だな。いじめを見て見ぬ振りできないほど出来た人間ではないが、無感情という訳にはいられない。

 現状はどうにもできない、というよりどうにかするような力は僕にはない。どちらかというとこの都では治癒魔法使いの僕がどうにかされそうな立場にいるし。


「今は先輩達と合流だな」


 まずは先輩とカズキに相談してみよう。

 僕じゃどうしていいか分からないから二人に意見を貰ったほうが手っ取り早い。

 なら早速二人の所へ―――


『おーい、ウサトくーん』


『ウサトぉー!』


 背後からの聞き覚えのある声に振り返ると、広場から大通りへ通じる路地に二人の美男美女が居るのが鮮明に見える。

 犬上先輩と一樹だ。


「……向かう必要も無かったかな?」


 元気に手を振ってくれている一樹に、心からの笑みを浮かべた僕はそう呟きながら二人の方へ歩を進める。

 案の定、黙って宿泊場所を変えた僕を犬上先輩は不満気に見ていた。

 勿論、カズキは僕と同じく苦笑いだ。


「全く、ウサトくん!アマコの友達の家に泊まるなら私も連れて行ってほしいなっ!」


「鼻息荒くして無茶なことを言わないでくださいよ。僕だって結構大変だったんですから……」


 流石に先輩が来るとキョウの心労が半端無さそうだから……。悪い人じゃないのは分かっているから、ある程度の信用を得るまでは先輩をできるだけ連れて行きたくはない。


「それより先輩達は宿の方にいるんじゃないんですか?」


「先輩がウサトを迎えに行こうって言ったから俺も一緒に来たんだ。でもここで会えたなら手間にならずに済んだ」


「ん?何かあるの?」


 もしかしてもう学園側の返答が決まったり……はないか。

 決定が下るまで結構な時間がかかるって言われてたし……。

 僕の疑問を察してか、何故か得意げな顔の先輩が興奮気に僕に近づいてきた。


「昨日の夜、グラディス学園長から学園を見学していかないか、という誘いがあってねっ。だからウサト君もってっ」


「見学ですか……」


 そういえば昨日、手紙を渡す帰りにそんなことを言われていたな。

 成程、先輩が食いついたのを見てグラディスさんも気をきかせてくれたようだ。好待遇すぎて逆に不安になってくるのは僕が小心者だからかな?


「僕も気になっていたし、行きます」


「ウサト君ならきっとそう言ってくれると思っていたよ。なら早速行こう」


 犬上先輩が僕と一樹の手を掴み、学園のある方へ早足で歩き始める。どれだけ楽しみにしていたのだろう、流石ファンタジーをこよなく愛する(?)先輩だ。


「先輩が楽しそうでなによりです……」


「でもウサトも楽しみだろ?」


「……カズキに隠し事は無理だなぁ……」


 僕の言葉に頷いた一樹の喜色を見た後に、前を歩く先輩を見る。……うん、とても楽しそうだ。当然か……なにせ此処は異世界に存在する魔法使いを育成する学園都市。闇はあれどもそれを上回る程のロマンやファンタジーがごろごろと転がっている。

 僕の話したいことは一先ずは後にしよう。此処に召喚された僕達が……元の世界ではできなかった友だち同士での遊びというものをしてからでも遅くはないはず。



 この度、ライト文芸新人賞にて『佳作』を授賞することとなりました。

 書籍化という事になり未だに衝撃抜けきれない私ですが、皆様の応援の応えられるように更新していきたいと思います。


 読んでくださってくれた読者の皆様、本当にありがとうございます。これからも『治癒魔法の間違った使い方』をよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] なんだろう…表現したい場面はあるんだけど 上手い言い回しが見つからない ⇒「エイヤッ!」で書きあげる ⇒結果、珍妙な言い回しが多数… という、そんな感じの所が散見されました。 推敲に四…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ