閑話 ジンヤの責任
報告が遅れてしまい申し訳ありませんでした!!
この度、TVアニメ「治癒魔法の間違った使い方」第2期の制作が決定いたしました!!
これもこの作品を応援していただいた皆様のおかげです!!
本当にありがとうございました!!!
詳しい内容についてはTVアニメ「治癒魔法」公式HP、Xなどをご覧ください。
そして、お待たせいたしました。
今回は獣人族の長、ハヤテさん視点の閑話です。
獣人の国、ヒノモトの長の任はとても大変だ。
獣人の国各地で生活する集落の民との情報共有はいわずもがな、彼らの声を長として聞き適切な判断を下していかなければならない。
元々、長の側近的な立場にあった僕としては分かっていたことだけれど、立場が変わるだけで全く違ってくる。
「ふぅ」
長としての仕事場である屋敷の一室で、筆を置いた僕は軽く一息つく。
時代は変わった。
魔王が人間族———いや、ウサト達に敗北を認めたことは、我々獣人族にも少なくない影響を与えた。
「まさか、今こうなるとは……」
獣人族は過去の人間族からの扱いを経て、この時代まで深い森の奥で独自の文化を築いてきた。
人間のみならず、それ以外の存在からの干渉をも拒絶してきた我々は安息の日々を過ごすことができた。それもカンナギ殿の姉である初代時詠みの姫と、先代勇者様の功績あってのことだろう。
しかし、その安寧の日々も永遠のものとはならない。
かつて、前の族長のジンヤが予知魔法を手に入れたことで増長し、魔王軍と手を組み人間族に戦争を仕掛けようとしていた。
その企みは、反対派であった僕達とウサト達の助けもあって阻止することができたけれど、その騒動もあって我々の中で「獣人族は今のままで大丈夫なのか?」という不安が生じた。
「皮肉にも、ジンヤの思惑とは逆方向に働いてしまったな」
でも急ぎ足に人間族と交流するのも危険すぎるということも分かっている。
人間がすべてウサト達のように良い人達とは限らないんだ。
僕の役目は同胞が勇み足にならないように抑えて、時間をかけて信頼できる場所と獣人族の文化が交流できるように働きかけていくことだ。
「……先は長そうだけど」
僕にはジンヤを族長の任から退かせてしまった責任がある。
分不相応だとは今でも思っていても、僕を信頼してくれている皆がいるなら、僕はその信頼に応えるように頑張っていかなければならない。
「お父さーん!」
「わっ」
今一度、そう思い自分を叱咤していると、背後の襖からリンカが勢いよく入ってきた。
もうすぐ15歳になるのに未だに落ち着きのない娘をちょっと心配しながら、振り返るとリンカに手を握られたアマコの母親、カノコもなぜかそこにいた。
「え、どうして君もいるんだい?」
「お父さんのところに行こうと思ったら、ふらふらーっと歩いているカノコさんがいたから、一緒に連れてきたの!!」
「ふふふ、お散歩をしている間にリンカちゃんに会っちゃったの」
「……リンカ、よくやった」
なんだかんだでちゃんと帰ってくるのは分かっているけれど、ふとした瞬間にいなくなるのは僕にとっても屋敷の者にとっても怖すぎるので本当に控えてほしい。
思わずため息をついていると、リンカの手に一通の手紙があることに気づく。
「リンカ、その手紙は?」
「ウサトからの手紙だって! 屋敷の前にフーバードが来てたから代わりに受け取っておいた!!」
「おお。ありがとう」
先日、フーバードがウサトに呼ばれて向かって行ったけれど、いったいどうしたのかな?
定期的に近況報告と世間話程度は交わしているけど……。
リンカから手紙を受け取り、早速開いてみる。
「どれどれ……」
ーーー
お世話になっております。
救命団 副団長 ウサト・ケンです。
急なご連絡になったこと、申し訳ありません。
この度、ハヤテさんにお願いしたいことがあり文をお送りしました。
ーーー
最初の文面からして真面目な話を察した僕は、意識を切り替えながら続きの文面に目を通す。
内容は、カームへリオ王国で行われていたお祭り「勇者集傑祭」にて、悪魔に関係する事件が起こり、その重要人物、ランザスさんという男性が自国であるミルヴァ王国に裏切られ身を隠さなければならない状況にあるということ。
生まれつき保有していた膨大な魔力を失ったランザスさんと、その彼の従者であった治癒魔法使いのレイン君を、獣人の国に匿ってくれないか、というのがウサトの頼みのようだ。
「ねえねえ、ウサトはなんだって?」
「ウサト君からねぇ。アマコとはどうしているかしら?」
ウサトのことということもあって興味を持ったリンカとカノコに、僕は答えるか少し悩んでから口にする。
「ん? ああ、少しこちらで匿ってほしいひとがいるって話かな?」
「へー」
「ということなら、また人助けしているって話かしらねぇ」
カノコもアマコからの文でよく聞いているのか、納得したような顔だ。
ランザスさんのことなら、ウサトが信頼している人物なので性格面とかは心配ないだろう。
しかし、これは僕だけで判断していいことではないので、今日行われる会議で皆に相談する必要があるな。
……でもまあ、全然大丈夫だろう。
ミアラークを経由することからファルガ様も認めていることだし。
「お父さん、もう一枚あるよ」
「え、あ、本当だ」
もう一枚、続きの手紙があったのでこちらも目を通す。
「ん?」
……。
……、……。
「はああああああああああああ!?」
「お父さん!?」
「あら?」
「「「長!?」」」
普段絶対に上げることのない大声に、リンカとカノコだけじゃなく警備の者達も驚きの声で部屋に駆けこんでくる。
手紙を読み、思わずしりもちをついてしまいながら、僕は驚きの事実を反芻するように口にする。
「ジンヤに……娘が、いた?」
「「「ええええええ!?」」」
ウサトが出会ったクマの獣人、リズ。
僕とカノコとほぼ同年代のジンヤなら、年齢的におかしな話ではない。
おかしくはないのだが、あのジンヤに娘がいたという事実自体初耳すぎたのだ。
「お、長はご存じでしたのか!?」
「いや、知らないよ!? あのジンヤに伴侶どころか娘がいただなんて!?」
「なら娘を騙る者ということも……」
「クマの獣人で、しかもジンヤの名が刻まれた小刀を持っていたらしい。ウサト曰く、本人も父親のジンヤと会ったことはなく、幼い頃に川を流され人間の領域に流れ着いたらしい」
「なんと壮絶な……」
しかも他国の勇者になっているだなんて、色々ありすぎるだろう!!
むしろどうやってそんな子に会ったのウサト!? どういう縁を持っているんだい!?
「あらあら、私とハヤテ君とジンヤ君、幼馴染全員が娘持ちなんて面白いわねぇ」
「友達になれるかなぁ?」
「ええ、きっとなれるわ」
そしてリンカとカノコは普通に受け入れているし。
「笑いごとじゃないよ!? なんでそんなに平常なんだい!?」
「娘が二人いる母ですもの。このくらい驚くには値しないわ」
「根拠になってないし、君の実の娘はアマコ一人だけだよ……?」
まさかカンナギ殿が二人目になってる?
冗談だろうけど、昔から変わらない凄い胆力だな……。
「とにかく、今からジンヤに話を聞きに行く!! リンカはカノコがほっつき歩かないように一緒にいてくれ」
「了解!!」
「リンカちゃん、今から夜ご飯の準備をしようと思うのだけど一緒にお買い物にいかないかしら?」
「うん、行く!!」
「リンカ!? お父さんの話を聞いて!?」
了解ってちゃんと言ったのに!!
いや、でも一緒に行動していれば大丈夫か!! カノコのことはいつも通りなので、ここはジンヤのことを優先しよう!!
●
ヒノモトにある罪人を閉じ込める牢。
地下牢とは異なり、一定の生活が保障されるその牢にジンヤはいた。
牢にいれた当時は予知魔法を失った影響で錯乱していたが、最近では発作も鳴りを潜めていた。
「ジンヤ」
「ここに来るとは珍しいな、ハヤテ。長の役目に音を上げでもしたか?」
牢の中心、こちらに背を向けて胡坐で座り込んでいたジンヤが、こちらを振り返りもせずに答えた。
以前とは違い、険しさが若干とれたジンヤだが、その口ぶりは若干の皮肉を孕んでいた。
「音ならいつだって上げているさ。だが、ここに来たのはそんな目的じゃあない」
「ふぅん。それでは、なんだ」
ジンヤが傍らに置かれた湯気が立ちのぼる湯飲みを手に取る。
僕もあまりこういうことを追及したくないのだが、こればかりはジンヤ本人から聞くしかない。
「お前、娘がいたのか?」
「……」
ぴたり、ジンヤの身体が止まる。
そこはかとなく、肩幅の広いジンヤの背中が小さくなっていくように思えていると、若干声を震わせたジンヤが答える。
「……いない、はずだ」
「心当たりは?」
「……」
「あるんだな」
堅物で控え目に言っても口調も態度も厳しかったジンヤに、まさか子供がいたとは。
あまり下世話な話はしたくないので、これ以上の追及は今はやめておこう。
「なぜ、このような話を?」
「ウサトが知らせてくれたんだ」
「ウグッ、またあの小僧か……」
ジンヤからしてみれば、ウサトにはかなりしてやられたようなものだからなぁ。
僕としては数少ない気が合う友達なんだけれど。
一先ず、ジンヤの娘かもしれない子がヒノモトに来ることを希望していることをジンヤに伝える。
「……名は」
「リズ、というらしい」
「……今更、父親面はできん」
「だろうな。というか、絶対にするな」
そこらへんの分別はできているようで安心はした。
これ以上、友を見損なうようなことになりたくはないしな。
「俺は、獄中で死んだと伝えておけ」
「……なぜ?」
「その方がいいだろう」
「いいや、よくない。絶対ダメだろ」
確かにジンヤの娘という話が大きく出回れば、少し面倒なことが起こるかもしれない。
でも、リズは別の国の勇者としての立場があるので、彼女はここに帰って来るのではなく訪れるといってもいいのだ。
それに、文にはこうも書いてあった。
「君の娘は、自分の過去に納得が欲しいからここに来るらしい」
「納得……か」
「ああ。だからジンヤ、責任から逃げるな。お前にはこのリズという少女に会わなければならない責任があるんだ」
控え目に言ってもジンヤは父親としては失格の部類だ。
しかし、それでも償いたいという気持ちがあるなら、リズの要望を叶えてあげるべきだ。
……まあ、その結果ぶん殴られることになるかもしれないけれど、それもしょうがないことではある。
「……分かった。会おう」
重く、呟くようにジンヤが答えた。
その答えに頷いた僕は、牢をあとにするべく立ち上がる。
「しかし……」
だが、僕が牢を退出する前にジンヤが言葉を発する。
「なぜあの小僧と関わりが……?」
「それは……僕にもよく分からないな」
真面目に考えて、ジンヤの娘と顔を合わすなんてどういう確率なんだろうか。
それもジンヤにとって因縁の深いウサトだなんて。
でも……。
「彼だからこそ、なんだからじゃないかな?」
「……意味の分からないことを言うな」
「ははは」
理由も何もない。
彼だからこそ、縁も、騒ぎも、色々なものが集まっていく。
そう考えると、なぜか納得しちゃうんだよな。不思議なことに。
さすがに責任を感じるジンヤでした。
なお、混沌という意味でリズを会わせていけないのはカノコという罠。
アニメ第2期制作決定に関しての活動報告について書かせていただきました。
詳しい内容についてはそちらをご覧をください。
今回の更新は以上となります。




