第四百五十六話
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そして、第四百五十六話です!
申し訳ありません。
今回はリヴァル視点、ウサト視点、エンヴァ―視点と、視点が移り変わります。
ウサトから悪魔の存在を聞かされた時、困惑よりも納得の方が大きかった。
あんなお節介でお人好しなあいつが名誉欲しさに祭りに参加することよりも、そういう感じの事件に自分から首を突っ込んでいくことの方がらしいって思えてしまったからだ。
「避難を優先させろ!! 手が空いてるやつは突風で吹き飛ばされる物から民間人を守れ!!」
「「「ハイッ!」」」
悪魔に憑りつかれた勇者ランザスにより引き起こされた人為的な災害。
それはカームへリオの都市上空の天候を乱し、竜巻を発生させるというデタラメなもの。
第一の試練で俺が無謀をやらかした時とは比べ物にならない強大な魔法により発生させられた竜巻は、天空から竜が尻尾を伸ばすように都市へと降り注ごうとしていた。
「リヴァル、ちょうどよかった!」
「勇者イヌカミ!? ウサトはどうした!?」
「ウサト君はランザスから悪魔を切り離そうと奮闘中だよ! 私はレインを悪魔に狙われない安全な場所に避難させてるところ!!」
ということはレインじゃ勇者ランザスを元に戻すことができなかったのか。
それなら、と思い俺はレインを小脇で抱えた勇者イヌカミに話しかける。
「勇者イヌカミ、その子は俺達に任せてくれ。貴女は貴女にしかできないことをやってくれ」
「……フッ、それじゃあこの子を頼むよ」
一瞬驚きの表情を浮かべた勇者イヌカミがレインを俺達に任せてくれる。
意識はあるのか、それでも落ち込んだ様子のレインを受け止めると……俺達がいるすぐ近くの建物が強烈な風で煽られる。
「っ、やばい!!」
建物のガラスが砕け散り、破片が地面へと降り注ぐ。
すぐさま動き出そうとしたその時、強烈な光が迸り、次の瞬間には降り注ごうとしたガラスの破片が雷と見間違うほどの電撃で消し飛ばされた。
「———ふぅっ、危機一髪!」
今の一瞬で、周りに被害を出すこともなくガラスの破片を消し去った……のか?
地面に焦げ跡を残しながら元の位置に戻った勇者イヌカミを見て、改めてリングルの勇者の規格外さを認識させられる。
「それじゃ、リヴァル、ここは君に任せた!」
「あ、ああ!」
返事をした次の瞬間、また眩い電撃に包まれた彼女は瞬時にその場を移動してしまう。
———呆然としちゃいられないな。
俺も、戦力的には力にはなれないが、それでも勇者という肩書を持つ者としてできることをしなきゃならない。
「そんくらいでもしなきゃ、ウサトに笑われるからな」
散々恥を晒してきた身だ。
今更、誰に笑われても別に気にしない……が、あいつにだけは笑われるのは我慢できない。
レインを小脇に抱えたまま俺はその場を軽く走り出す。
「レイン、まずはお前を安全なところまで避難させる」
「……いえ、僕は大丈夫です!」
「は? 大丈夫っつっても……」
お前、まだガキだろうが、と口にする前にレインが首を横に振る。
「僕は、治癒魔法使いなんです! 今、ウサトさんがランザス様のために戦ってるなら、僕もただ守られて、なにもできないままでいるのは嫌なんです!! だから———」
抱えたレインがこちらを見上げる。
涙が浮かんだその瞳には、先ほどまで感じられなかった覚悟のようなものが見えた。
「僕も手伝います!! 力仕事は無理ですけど、傷ついた人は癒せます!!」
……立派だよ、お前。俺なんかよりもな。
この状況に腐らず、誰かのために動ける奴をどうして子供扱いできる。
その熱意に感化されてしまった俺は、レインを下ろし、後ろの部下たちへと振り返る。
「聞いたか、お前ら!! 怪我人を見つけたらこの子に任せるんだ!!」
「「「応!!」」」
やることは……はは、まるであいつのいる救命団みてぇだな。
同じ、だなんて思い上がりはしないが、ウサトに鍛えられた俺達があいつの所属していたところと似たことをするなんて、なんとも奇妙な話だ。
「レイン、肝心のウサトは、ランザスと戦ってんだよな?」
「はいっ、まだこの都市で戦って———」
その時、バァン!!!! という何かが爆発する音が鳴り響く。
その音に驚きながら空を見上げると、ここからそう遠くない上空で見覚えのありすぎる白い服を着た人影が黒い炎を纏いながら空へと舞い上がっていく光景が視界に映りこんだ。
「「は?」」
遠目で判断できないが、あんなことをする非常識な奴は一人しか知らない。
その白い人影は嵐を纏うもう一つの人影目掛け、爆発しながら弾けるように飛び回り———時にはなぜかジグザグに動き回りながら激突を繰り返し……いや、なんかもう俺の知らない生物の動きをしていた。
●
爆発の加速による移動自体は初めてのことじゃなかった。
まず僕自身が扱う治癒加速拳によるものと、フェルムと同化している時のもの。
そして、魔物の領域内でキーラとルーネの闇魔法により行った加速。
今行っていることは、方向が一直線のただぶっ飛ぶだけの加速に過ぎないので、速さに慣れてさえいれば飛ぶことはそう難しくはない。
「フェルム、飛行形態!!」
『無茶な指示出すな!? やるけど!』
黒炎治癒爆裂波により、勢いよく吹っ飛ばされ地上へと落ちていくエンヴァー。
その姿を視界に映した僕は、空中を蹴るように足元で青い炎を爆発させてロケットのように加速し、同時にフェルムの闇魔法により背中に翼が形成される。
『フェルム、滑空するから翼は大きくしなくていいわ!! あとついでに空気抵抗に対する耐性も付与しとくわ!』
『おおお、景色がはやいぞー!』
せわしなく指示を出すネアに、同化している内から見える景色に驚くルーネ。
大きく広げられた翼がコンパクトに折りたたまれ、紙飛行機のような鋭角なものへと変化する。
「ねぇ、ウサト! 今どういう状況!? なんかものすごい横向きなのは分かるけど!?」
背中のシアの叫びに近い声。
その声に僕は、背中の闇魔法の彼女の頭がある位置を開き外の景色を見せる。
「今、ぶっ飛ばした悪魔を追っているところだ!!」
「説明されて余計意味不明なことある!? というより、なんで飛んでる!? 今、フェルムと同化してるよねぇ君!?」
「飛んでない! 普通に滑空しながら落ちてるだけだ!」
「じゃあ、駄目じゃん!?」
実際、加速しながら滑空して落ちて行っているだけだ。
でも地上に落ちたエンヴァーを追うにはそれだけで十分。
「……でも、これで都市から離せたな」
突き進むような加速と滑空を行い都市の外まで突っ切ったところで、両手・脚から衝撃波を放ち加速を緩めながら、地面に叩きつけられたエンヴァーの前に着地する。
「お前ぇぇぇ……!!」
「都市を襲う魔法は、勇者の皆がなんとかしてくれる。僕はお前に集中する」
エンヴァーが憑依したランザスさんの魔法は、もう発動してしまった。
例え、こいつをなんとかしたとしても魔法を止められるわけじゃない……けど、そこに関しては不安は一切ない。
なにせ、僕の後方にあるカームヘリオを守るのは、凄腕の勇者たちだからだ。
「ランザスさんの身体を、取り戻す」
「できるわけないだろうが!!」
奴はバカの一つ覚えのようにまた風で浮き上がる。
今のところエンヴァーがやってくるのは夥しい魔力によるゴリ押しのみ。
「———」
背中で魔力の暴発による加速を行い、エンヴァーへ肉薄する。
そのまま拳を繰り出すが、直撃する寸前に奴の身体に纏われた風の鎧で防がれる。
「風の鎧か」
『ネロ・アージェンスや魔王と同じものね』
『でもアレより雑だ』
フェルムの言う通りだ。
魔力に任せた風の鎧は確かに堅牢そのものだが、明らかにネロさんや魔王には及ばない。
僕は魔力を纏わせながら、拳を繰り出す———残像を放ち、わざと風の鎧で防御させる。
「ッ、な!?」
「治癒残像拳」
拳による魔力の残滓を実体と間違え防いでしまったところで、おざなりになった側面から放たれた僕の拳がエンヴァーのわき腹へ突き刺さる。
「所詮は借り物の力。魔法は強力だけど、それだけだ」
「て、テメェ!!」
「治癒残像拳」
近距離で雑に放たれた竜巻を残像拳で躱しながら、軽く後ろへ下がる。
それに対し、奴は守りよりも攻める方が有効と判断したのか、風を伴って襲い掛かってくる。
「お前、サマリアールの呪いを解き放ったって話だったよなぁ!!」
「……」
また戦闘中に能書きを垂れるつもりか?
迫る風の刃をいなしながら、殴り返しているとそれでも尚、奴は嗤った。
「はは、ははは!! 俺があのクソ勇者を絶望させたんだ!!」
「……なんだって?」
サマリアール、いや……まさか、ヒサゴさんのことか?
訝し気な視線を向ける僕に、奴は口の端を歪める。
「当時のサマリアールの王と魔術師を誑かしたのは俺だ!!」
『こいつが当時の王に甘言を吹き込み、先代勇者……ヒサゴを……』
構えた拳を止める。
そうか、こいつが。
こいつがエヴァから母親、ルーカス様の奥さんを奪った根本の原因か。
「俺がちょぉぉっと囁いただけであの王も魔術師も簡単に動いてくれたよ!!」
「逃げたんだろ」
「———は?」
僕の一言にエンヴァーの笑みが固まる。
確かに、ヒサゴさんにした仕打ちの元凶がこいつだったことは許せないことではあるが、そもそも当時のサマリアール王と魔術師の行いは失敗に終わっている。
その時点で、こいつの言っていることは挑発ではなく、負け惜しみでしかない。
「計画通り? 違うな。お前は本気でヒサゴさんを罠にかけようとして、失敗して慌てて逃げ出した」
「はッ、なにを適当に」
「どうせ、封印される間際に同じことをヒサゴさんに言ったんだろ?」
「……ッ」
図星だな。
負け惜しみに、ヒサゴさんの心の傷を抉ろうとしたんだろう。
それでこいつがヒサゴさんに消滅されず、みっともなくここにいるということは……。
「折角の負け惜しみも相手にもされなかったってか? それでみっともなく何百年も封印されて……本当に恥知らずなのはどっちだ?」
「黙れ」
「挙句の果てに計画がうまくいかなくて癇癪を起こして暴れる。……ああ、それは僕のせいか?」
先に挑発してきたのはお前だ。
なので、僕もそれ以上の煽りで返してやる。
「特に意図してなかったけど、普通に訓練してたら君の計画ご破算にしちゃった。ごめんね?」
「殺す!!」
挑発するつもりが逆にキレて突っ込んでくるエンヴァー。
怒りに任せて突撃してくる奴に治癒飛拳を構え、一定の距離に近づいたところでそれを放つ。
「そんな攻撃無駄なんだよ!!」
放った治癒飛拳は予想通りに奴の纏う風の鎧で斜めに弾かれる。
構わず魔力弾を操作する意識を保ちながら引き絞った拳をエンヴァーの胴体へ放つ。
瞬間、数秒前に斜めに弾かれた治癒飛拳が直角に軌道を変え、エンヴァーの無警戒の横っ面に叩き込まれ、動揺で風の鎧が解かれた直後に僕の拳が胴体へ綺麗に入る。
「治癒変則拳」
「がっ……!?」
『は? ウサト、貴方また変な技を……』
この程度の風の鎧、ネロさんにも魔王にも及ばない。
拳をめり込ませたまま踏み込んだ足に力を籠め、黒炎と治癒の魔力の暴発を密着させた状態で叩き込む。
「ガァァァァ!?」
黒炎・治癒連撃拳。
拳からの爆発に吹き飛ばされたエンヴァーは煙を噴き出しながら地面を転がる。
「大方、僕を怒らせて冷静さを奪おうって魂胆なんだろうが……」
地面に叩きつけられ、もだえ苦しむエンヴァーを睨みながら髪をかき上げる。
「こっちはな、ランザスさんが利用されている時点で怒り心頭なんだよ」
「ッ」
今更冷静さを奪おうとしても無駄だ。
以前、それこそヒノモトで戦った頃、我を忘れて戦う己の未熟さを痛感し、怒りに任せ冷静な判断を損なうことのないように誓ったんだ。
それに———、
『仮にこいつがキレてもボク達もいるしな』
『というかウサトに対してだけの挑発の時点で意味ないわね』
『いまの技、なんだ? びっくりしたー』
僕には同化して一緒に戦う仲間がいる。
例え、我を失ったとしても、その声が聞こえてくる限り僕の心が乱されることはない。
●
こいつはいったいなんなんだ。
これだけの風を、天災すらも退ける嵐の魔法を前にしても奴は一切揺るがない。
戦っていて、あまりにもつまらない。
こいつは俺の魔法に怯えるどころか、一歩たりとも引かない。
嵐を前にしても吹き飛ばされず、鉄塊のようにその場に居座り俺を不快にさせる。
「治しても意味がないんだよ!! さっきから無駄だって分からないのか!!」
ひたすらに俺に無意味な攻撃を繰り返すウサト。
奴からしてみれば、俺に攻撃しても意味がないってことは分かっているはずなのに!
奴は攻撃の手を一切緩めない!! それも、意味不明に治癒魔法を俺に施しながらだ!! これでは俺自身も回復し、無意味なはずだ!!
「風よ!!」
「っ!」
奴は俺が放った竜巻を真正面から受ける。
普通なら身体ごと吹っ飛ばされるほどの力を前に、奴は吹き飛ばされるどころか脚すらも地面から離れない。
———重い……!!
まるで、動き回る要塞を相手にしているような錯覚に苛まれる。
「ふんっ!!」
腕をクロスさせて風を受け止めた奴の背後から真っ黒い炎が爆発し、こちらへぶっ飛んでくる。
原理もなにもかもが不明な挙動で迫る奴に、咄嗟に距離を取ろうとする———が、させない、とばかりに俺の腕に奴が伸ばした真っ黒な腕が絡みつく。
「フェルム、引き寄せろ!!」
「クソが!!」
こいつ相手に近接戦は分が悪すぎる。
だが、それでもこっちには不死身というアドバンテージがある!
引き寄せられながらも、右手に風を纏わせウサトに叩きつける。
「治癒崩し」
「ぎ!?」
———ッ、なんだ!?
攻撃じゃない! これは治癒魔法の魔力を叩きつけられた!? そのはずがない。こいつは魔術を持つ使い魔を連れている。なにかしら仕掛けられ———、
「ふんっ!!」
「がぁぁ!?」
正体不明の技に思考の渦に飲み込まれた一瞬で、俺の胴体に拳が二撃叩き込まれる。
その次の瞬間には、身体になんらかの魔術が発動し、呻いている間に勝手に砕け散る。
「……これは駄目か」
「なにをしやが——」
「治癒目潰し」
風の魔法を発動する前に視界が衝撃と共に緑に染まり、今度は胴体に強烈な蹴りが叩き込まれる。
「ふざけんな!!」
目から涙を零しながら視界を確保して眼前を風で薙ぎ払おうとしても——捉えたのは奴の魔力の残滓だけ。
「どこだ!!」
「こっちだよ」
すぐ隣から声。
振り向くと同時に、いつのまにか俺のわき腹に手を添えていた奴が、技を繰り出した。
「ッ、ふんっ!!」
「———ッッッ!!」
———身体の中の魔力全体を無理やりかき混ぜられたような衝撃が走る。
その衝撃はランザスの魂との融合を果たした俺という魂の枠組みを揺るがし、分かれさせようとする。
この不快な感覚は俺の魔法を止めていた技か!? 駄目だ……これは、俺にとって食らってはいけない技だ!!
動揺を顔に出さずに、嘲りの笑みを浮かべて俺は揚々と叫ぶ。
「何度やろうとっ、無駄だ!! 不死身の悪魔になにをしようと勝てないんだよお前は!!」
「……?」
クソが、無視して殴り掛かってくるんじゃねぇ!!
俺は悪魔だぞ!! 悪魔なのに、どうしてこいつは恐れない!!
この身体だって、お前なんぞの治癒魔法とチンケな魔力とは比較にならねぇほどの性能差があるんだぞ!!
「さっきからバカみてぇに不死身を連呼しているが」
「あぐ!?」
不意の直蹴りを風の鎧越しで受けながら、奴が呆れたようにそう言い放った。
「僕にはそんな宣言なんの意味もないってことを理解しろよ。あぁ? 不死身だからどうした?」
悪魔は不死身だ。
傷は負うが時間が経てば癒え、死なない。
意味が分からず激昂しかける俺の首を奴は掴み取り、物理的に黙らされる。
「そもそもランザスさんを殺すつもりはないから、お前が不死身だろうが関係ねぇんだよ」
「……ッ」
「お前、まさか自分が死なないから負けないとでも思ってんのか? いいや、不死身でいてくれているから、ランザスさんを助けられる可能性があって、僕も思い切り戦えるんだよ」
呆気にとられた瞬間に奴の掌底がみぞおちに突き刺さる。
息が止まり、内臓がひっくり返るような痛みに苛まれる———が、それ以上に胸に突き刺さった刀を中心にして、俺の魂が吹っ飛ばされそうな衝撃が走る。
「ぐぅぅ……」
やばい、やっぱり、この一撃はマズい。
俺は確かにランザスの魂と融合するという捨て身の行動をした。
その代償として、俺とランザスは二度と元には戻れず、身につけた魔術も扱えなくなるというリスクを背負うことになった。
だが、ランザスという化け物が持つ規格外の魔力を意のままに操ることができるようになった。
この力さえあれば、一国すらも簡単に崩壊できるはずだったのに……!!
「クソッ、クソォぉ!! こんな刀ァァ!!」
これさえなければ、俺は完全なのに!!
この胸に突き刺さった忌々しい勇者の刀のせいで、魂の融合が阻害されてしまっている!! だが、それだけじゃ俺とランザスを引き剥がすことはできなかった!!
胸に突き刺さったままの刀の柄を掴み、引き抜こうとしても特殊な系統強化により突き刺さった刀はびくともしない。
「……」
胸を押さえ呻く俺を、奴は無言で見下ろす。
まるで観察するように見る奴に腸が煮えくり返るような衝動に任せ、掌に隠し圧縮していた風の刃を放つ。
超圧縮した刃はあらゆるものを両断する威力を内包し———、
「治癒流し」
ているはずが、奴は埃を払うように掌で軽く払う。
「は?」と呆気にとられた声が漏れ出かけた瞬間、さっきの無言が嘘のように奴の手刀が肩に叩きつけられる。
再度、魂に響く謎の衝撃。
「がっ!!?」
「……」
「ぎ、がぁぁ!?」
奴の拳が普通の打撃から、こっちの魔力を阻害する意味不明なものへと変わる。
一瞬の接触だけじゃ魔力そのものを乱すだけで、魔法を封じられたわけじゃないが、奴は淡々と掌底と拳を織り交ぜて打撃を加えていく。
「やめろぉ!!」
問答無用で叩き込まれる連撃に、俺は堪らず叫ん———だ、その瞬間、嵐のように繰り出された攻撃が不意に止まる。
「やめろ?」
その代わりに発せられたのは奴の、底冷えするような声。
自身の叫びが不用意なものだったと後悔したその次の瞬間、迷いのない掌底が胴体へ叩きつけられた。
「が……!?」
「治癒振動拳」
体内の魔力を震わせる強烈な衝撃が、ランザスの身体に憑りついた俺という存在を揺れ動かす。
全身の魔力が乱され、とてつもない吐き気に苛まれる。
明らかに先ほどよりも強い衝撃に、俺はランザスの肉体から飛び出した。
『がぁぁぁ!?』
「……うっ……」
飛び出した俺の悲鳴と、その場に残されたランザスの呻く声が二重に響き、そしてまた身体に戻る。
息を乱しながら奴を見て、ここに来て初めて目の前の治癒魔法使いを見て背筋に寒気が走る。
「なるほど」
浮かべられたのは笑み。
先ほどの観察するようなものとは異なる、見る者を威圧させる獰猛なもの。
「お前、治癒妨害で引き剝がせるな?」
「ひっ!?」
———こ、こいつ!
試してやがったのか!! 殴りながら!!
あれだけ無駄だと言ったのに、それを耳にもしないで確かめてきやがった……!!
悪魔視点の怖すぎるウサト。
次回:シア、ウサトに振り回されて泣く。
今回の更新は以上となります。
次話はなるべく早く更新できたらと思います。




