第四百五十一話
昨日、3月14日でこの「治癒魔法の間違った使い方」がはじめて更新されて10周年を迎えることができました!
10周年を経ても、これからもウサト達の物語は続いていきます! 今後とも本作をよろしくお願いいたします<(_ _)>
そして今夜24時30分より、TVアニメ「治癒魔法の間違った使い方」第11話が放送・配信開始となります!!
第11話はウサトと黒騎士との戦い! そしてついに黒騎士(???)の正体が……!
こちらもどうぞよろしくお願いいたします!!
今日も今までと変わらずレイン達へ指導をする。
悪魔が暗躍していたとしても、訓練に関しては信頼して任されたことなのでやめることはない。
「さて、と」
『スゥ……スゥ……』
「完全に寝てるな」
キーラの時と同じように闇魔法使いのルーネを気にかけてくれていたからな、寝かせてあげよう。
そんなことを考えていると、訓練場の扉が開く音がする。
「ん? 早いな」
いつもの時間より早いけれど、レインとロアかな?
扉の方を見ると、予想していた二人……ではなく、ここ数日で見慣れた集団がぞろぞろと入ってくる。
「リヴァルと……彼の従者たち、だよな?」
もう訓練を施す期間は終わったはずなんだけれど、どうしてまたここに? しかも皆訓練着を着ているし。
疑問に思いながら彼らに近づくと、先頭にいたリヴァルもこちらに気づく。
「やっぱりいたか。こんな時間からやってるとかどんな生活してんだよ」
「そういう君こそどうしたの? こんな朝早くから」
「……俺は、こいつらに急かされたんだよ」
こいつらって従者の皆にってこと?
リヴァルに言われ訓練着を着ている彼らに視線を送ると、皆やる気に満ちたような笑みを返してくれる。
「第二の試練こそ終わりましたが、俺達はまだまだやる気です!」
「たった三日ですけど、もう日常みたいなものですし!!」
「身体を動かすって楽しいですねぇ!! ええ!!」
お前ら……!!
やっぱり短期間で成長を実感できるとやる気がでるもんなんだな。
感動している僕にリヴァルが頬を引きつらせている。
「おい、ウサト。これどうしてくれんだ。俺の従者が訓練バカと化したぞ」
「リヴァル、ここにいる時点で君もそうだと思う」
「冷静に返してくんな俺は違う!! お、おおお俺はまともだ!!」
そこまで言うか。
そんなリヴァルを見た彼らの従者たちがまた口を開いた。
「でもリヴァル様あまり抵抗しませんでした」
「しょうがねぇ感が出てましたけど、既に着替えてました」
「そういうところがリヴァル様です」
従者の皆はこう言っているけど……。
「そうなの?」
「お前ら余計なこと言うな! ウサトもニヤニヤするんじゃねぇ!!」
やっぱり嫌じゃないんじゃないか。
リヴァルの反応ににこやかな気持ちになった後に、一呼吸いれてから彼ら全員に聞こえるように声を発する。
「それじゃ、まずは準備運動から! それから訓練を始めよう!」
「「「はいっ」」」
「くそぉ……」
賑やかになるのはいいことだ。
予期せぬ訓練参加者に僕も笑顔になってしまうのであった。
●
準備運動の後、リヴァル達のペースに合わせて軽く走る。
この三日間である程度は慣れた彼らは列を乱さずに走るくらいには鍛えられており、このまま精神的な強さが伴えばより高負荷の訓練もできるかもしれない。
……まあ、さすがにそこまでするとお祭りに支障をきたすし、悪魔にも意識を割けなくなるからやらないけど。
「お前、治癒魔法を放出しっぱなしで大丈夫かよ」
「ん?」
走ってる最中、隣を並んで走るリヴァルが不意にそんなことを聞いてくる。
系統劣化を使っているから大丈夫……ってのは知っているだろうから、これは純粋に僕を気遣ってくれての言葉なのかもしれない。
「問題ないよ。これも魔力操作の練習にもなるしね」
「……」
「リヴァル?」
悩まし気な顔になるリヴァルに怪訝に思う。
数秒ほどの短い沈黙の後に、彼はこちらに視線を向ける。
「こういうのはあまり口に出して聞くもんじゃねぇが……今は走っているし、従者の足音と声で聞こえねぇはずだ」
「なにか聞きたいことでも?」
「ウサト、お前さ。ここに来たのは祭りのためじゃないだろ」
「!」
リヴァルの言葉に目を見開く。
どうして分かった、という言葉がのど元にまで出かかったが、それよりも先にリヴァルが制すように掌を向けてくる。
「短い間だが、お前が名誉とかそういうののために率先して動く奴じゃねぇってことを知ったからな。むしろ他の国の勇者のお節介をしてるお人よしだな」
「ハハハ……」
「まあ、そのお節介の一番の世話になったのは俺なんだけどな……はぁ、情けねぇ」
実際、ここに来てからの僕の行動を振り返ると、はちゃめちゃだったことは自覚している。
それでも、彼が僕のことにここまで察せられるのはすごいことだと思う。
「……なんだかさ、君の従者達がどうして君が勇者になった時、普通に受け入れられたのか、理由が分かった気がするよ」
「はぁ?」
勇者に必要な素質は力と知恵、そして勇気だけじゃない。
リヴァルは誰よりも周りを見ることができて、それを理解することができる人なんだな。
「なんだよそれ」
「ここは内緒にしておこう。気になるなら君の従者たちに聞くといい」
「おい、今後ろで満面の笑みを浮かべている顔がうるさい連中のことか……?」
後ろの列の笑顔からして僕の思い浮かんだ理由は近いものなんだろうな。
後ろをひと睨みした後に、また大きなため息をついた彼はまたこちらを見る。
「なんか力になれることがあったら言え」
「うん?」
「散々世話になったんだ。役に立つか分からないが、受けた恩を返さないような情けない男にはなりたくない」
この一週間以内の交流でここまで立ち直……いいや、成長してみせたリヴァルの言葉に僕は嬉しく思いながら頷く。
「今は僕がカームへリオに来た本当の目的を言うことができない。……君たちを危険に巻き込みたくないから」
「……ああ」
「だけど、もしその時がきたら力を貸してほしい」
僕の言葉に今度は無言で頷く。
数日前のリヴァルだったら悪魔にとって格好の獲物だったけど、今の成長した彼は信頼のおける人だ。
そこで会話を切り上げ、また走り込みに集中———しようとするが、視界の端でゆっくりと開かれた扉から入ってくる小柄な少年、レインの姿を見つける。
「……。リヴァル、一旦離れる」
「ああ」
少し俯いた彼の様子に疑問を覚えながらも僕はリヴァルに断りをいれて、レインの元へ向かう。
「レイン、おはよう」
「あっ、お、おはようございます……」
僕が近づいたことに気づいていない?
昨夜、ルーネから聞いたランザスさんに関しての話を思い出し、嫌な予感を抱いた僕はレインの肩に手を置き魔力感知と魔力回しの合わせ技———治癒同調を行い、彼が悪魔の魔力の影響を受けてないか確かめる。
「う、ウサトさん?」
「……異常はなしか。ごめん、いきなり」
身体の中に悪魔の魔力はない。
しかし、今のレインはどう見てもなにかあったようにしか見えない。
明るく礼儀正しいこの子が今は陰鬱な気配を纏って、なにかに絶望したように俯いてしまっている。
「ウサトさん、今日の訓練ですが……」
「レイン、単刀直入に聞く。ランザスさんとなにかあった?」
「っ、どうして、そんなことを……」
なにかあったんだな。
昨日は二人仲良く楽しそうに問題を解いていたから、喧嘩とかそういう可能性は低い。
考えられるとすれば、なにかに気づいたか。
僕は改めて訓練場を見回し周囲を確認する。
僕とレイン、そして今走っているリヴァルとその従者達以外に人はいない。
「……」
それでも、ここは静かすぎる。
もしレインの身に起こったことに悪魔が関係していたとして、僕達の会話を他の誰かが聞き、もしそれが悪魔に気づかれればレインが危ない。
「……あ、あの、実は———」
「よし! レイン!!」
「え、あ、はいっ」
「僕の背中に乗れ!」
「……。……はい?」
彼に背中を見せてしゃがむ。
なにを言われたのか理解できなかったのか、十秒ほど硬直していたレインは、意味も分からずに僕の背中に乗る。
「今日は君が背負われながら治癒魔法を練る訓練だ。ちょっと揺らしていくから集中力を乱さないように頑張ろう」
「わ、分かりました」
レインを背負い、そのまま走り出した僕は、そのままずっと走っていたリヴァル達の列に入る。
「あ? また背負って走る訓練をしてんのか?」
「リヴァル、今からするレインとの会話を外部に漏らしたくない。掛け声を頼めるか」
並走するリヴァルに話すと、彼は目を丸くしてから表情を真剣なものにさせる。
「訳ありか。……よーし、分かった。お前ら気合いれて声張り上げろ!!」
「「「はい!!」」」
後でリヴァル達にお礼を言おう。
そう心に決めてから僕は列の最後尾に移動し、背負っているレインにだけ聞こえる声量で語り掛ける。
「これで周りに声は聞かれない。……話していいよ」
「で、でもウサトさん……っ」
「ランザスさんになにかがとりついている、とか?」
「……っ!? 知っているんですかっ」
この反応は正解っぽいなぁ……。
それならレインのこの憔悴も分かってしまう。
「ら、ランザス様になにが……」
「彼にとりついているのは悪魔だ。この国にもぐりこんでなにか悪事を働こうとしているらしい」
だけど、ようやく尻尾を出したな。
ランザスさんにいつとりついたのかは分からないけど、いったいなにをしようとしているのか。
「僕、昨日……夜にお水を飲もうとして部屋を出たら———」
自分一人で抱えてしまっていたレインは、堰を切るように昨夜に起こったことを話し出した。
「鏡と向き合ったランザス様が一人で誰かと喋っていて、まるでそいつはランザス様の身体を使って話していたんです」
「ランザスさんは操られていたってこと?」
「……いいえ」
自分から望んで悪魔と協力していたのか。
対価は……痛みに苦しまない健康な体、か。
「……悪魔はウサトさんにものすごく怒ってました」
「え、なんで?」
まだ悪魔になにもしてないと思うけど。
割と素で驚いてしまっていると、レインがそのことについて説明してくれる。
「悪魔はこのお祭りで勇者の皆さんを操るつもりだった、みたいなんです」
「各国の実力者である勇者を操り戦力にしようとしていたのか」
もしかして、僕が各国の勇者と従者を集めてここで好き勝手に訓練していたせいで、逆に悪魔が自由に動きにくかったとかそういう感じ?
それからレインの話を聞いてみれば、なんとリヴァルやアウーラさん、第二の試練ではレオナさんまで狙っていたという。
よく考えてみれば、前のリヴァルは精神的に追い詰められていて悪魔の格好の獲物だったから本当に危うかったんだな。
「……フッ、悪魔め。僕の策略にまんまと踊らされたみたいだな」
「そうだったんですか……!? すごい……」
まさかこの訓練場で好き勝手にやってたら、悪魔の目論見全部潰してたとは思わなかった。
でも結果オーライだぜ、ざまーみろ。
面と向かって顔を合わせた時、全て計算通りって体で煽ってやろう。
「……ランザス様が僕をウサトさんに預けたのは悪魔が自由に動くためだって……っ。でも、分かるんですっ。ランザス様は自分がいなくなって、僕に迷惑がかからないように居場所を用意しようとしてくれたって……!!」
「レイン……」
「ランザス様は生きる意思がなかったんじゃない、生きたいから、もう苦しみたくないから悪魔に協力してしまった……それに気づけなかった自分が悔しい……!」
涙ながらにそう語るレイン。
だけど僕はようやく納得できた。
ランザスさんがどうしてあんなにレインに治癒魔法の技術を覚えてほしかったのかを。
「僕達に任せろ」
「ウサト、さん」
「戦うべき敵が分かった。助けるべき人も分かった。なら、これからすることは簡単だ」
恐らく、ランザスさんの命は悪魔に握られている。
契約で対等な関係を結んでいたとしても、悪魔はどこまでも悪魔だ。
どこかしらでランザスさんに対して理不尽ななにかをしているはずだ。
「……僕以上に悪魔に詳しいやつにまた会う必要があるな」
契約上助けるはずだったランザスさんが悪魔に協力している時点で、もう四の五の言っていられない。
悪魔を引きはがせる唯一の存在———シアに僕はもう一度会わなければならない。
悪魔に対してのイライラゲージを溜めるウサトでした。
今回の更新は以上となります。




