閑話 八つ当たり
今夜24時30分より、アニメ『治癒魔法の間違った使い方』第九話が放送・配信開始です!!
第九話では過去のローズとネロの激闘など、WEB版では描かれなかった過去話となります!!
こちらもどうぞよろしくお願いいたします!!
そしてお待たせいたしました。
閑話、レイン視点でお送りいたします。
今日の第二の試練は楽しかった。
途中でランザス様と離れてしまって焦ったけれど、最後は色々な国の勇者の皆さんと謎解きをして協力し合って楽しい気持ちで終わることができた。
「今日は楽しかったですね」
「うん。そうだね」
夜、夕食の後にランザス様に治癒魔法をかけながら、いつものように他愛のない雑談をする。
「第一の試練の時は危なかったけど、今回はレインも楽しめたようでよかった」
「ランザス様も僕も一問も当てられませんでしたけど」
「そ、それは言わないでくれ……」
でもそれでもよかった。
だって今日みたいにランザス様と何かを楽しむなんてことはあまりないから。
そういう意味では、今回の勇者集傑祭に参加してよかった。
「レインは、最初お祭りに参加することを反対していたな」
「その気持ちは今でも変わっていません。僕は、貴方に無理をしてほしくありませんから」
「本当に、ごめん」
「謝るくらいなら無茶しないでください」
ちょっと厳しい言い方になってしまった。
でも、それくらい今日は背筋が凍る思いだったんだから。
「ははは……なんだかここに来てから変わったよね」
「え? そうでしょうか?」
「前はこんなに強く言われることはなかったから……」
「あ、も、申し訳ありません……」
「いいんだ。今くらい遠慮がない方が嬉しいから」
確かに以前はこんな風にランザス様に強く言うことはなかったかもしれない。
「なんというか、ここでは治癒魔法使いとしての僕を蔑む人もいませんし……なにより同じ治癒魔法使いであるウサトさんの影響を受けていると、思います」
ミルヴァ王国で僕とランザス様に関わってくる人は怯えていたり、治癒魔法使いの僕を軽視するような人ばかりで同じ目線で話す友人も同年代の子供もいなかった。
だから、ランザス様以外で真摯に話してくれる人たちとの関りは、小さくない変化を僕に与えてくれたと思っている。
「でも、ウサトさんが訓練をしている時はものすごい罵声を響かせていました。走れイモムシー! その程度かゴミー! って、あとは……」
「やめなさい」
「えっ」
やや震えた声で注意されてしまった。
「でも」
「汚い言葉は駄目」
「……でももっとすごいのが……」
「もっとすごいの……!?」
一番びっくりしたのがウサトさんと行動を共にするイヌカミさんが微塵も驚いていなかったことだけど。
聞けばあれが日常らしい。
……日常ってなんだっけ?
「———ッ」
「っ、ランザス様?」
唐突な疑問に思考が真っ白になっていると、不意にランザス様が顔を顰めながら額に手を置く。
咄嗟に治癒魔法を強めてランザス様を気遣う。
「平気だ。少し眩暈がしただけだから。はは、今日の疲れが出たみたいだ」
「なら今日は休みましょうか」
「いや、もうちょっと話そう。聞きたいことがあるし」
聞きたいこと?
なんだかランザス様が僕にそういうことを尋ねてくるのは珍しいな。
「ウサトの治癒魔法ってどういうものなんだい? 私から見ると、熟達した治癒魔法使いって感じだったけれど……」
「……あー」
これってどう言葉にしたらいいんだろう。
「ウサトさんの治癒魔法は……えぇと、全身をびりびりさせたり、拳が飛んだり直角に曲がったり……」
「は?」
「系統劣化という技術を使って魔力の濃度を薄めることもできるみたいです」
「は?」
僕がウサトさんの奇妙な技術を挙げていくと、ランザス様の表情が強張っていく。
正直なところ口に出している僕自身もウサトさんの用いる技が治癒魔法なのかすら分からない。
「僕が知る限り、これくらいですね」
「治癒魔法ってなんなんだろうね……」
「いずれ僕も……」
「やめようね」
また注意されてしまった。
これ以上の夜更かしはランザス様のお身体に悪いのでそこで話を切り上げて、彼に休んでもらうことにした。
●
ランザス様に就寝の挨拶をした後になっても僕は明かりを消した部屋の中で、治癒魔法の訓練を行っていた。
「……できるように、なってきたかな」
掌に浮かぶ淡い緑の光を見てそう呟く。
本当は僕も休むべきなのは分かっている。
でもここでウサトさんの指導を受けている間、今この時間を無駄にせずに少しでも治癒魔法をうまく扱えるようにならなくちゃならない。
「ウサトさんは無理しちゃ駄目っていうけど」
ウサトさんに師事できるのは今だけ。
このお祭りが終わったら、この期間以上の急激な成長はできないし、なによりランザス様に生きる希望を見せることもできない。
「……そろそろ休もう」
でも、明日もウサトさんの指導があるから過度な無理もできない。
ちょうどいいところで切り上げて、一息ついた僕は喉が渇いたのでお水を飲みに部屋を出ることにした。
「……ん?」
割り振られた部屋を出てリビングを通っていると、誰かの話す声が聞こえてくる。
ここに泊まっているのは僕とランザス様の二人だけなので、必然的にこの声はランザス様なのだけだ。
「っ、まさか発作が……」
いつもは就寝前に治癒魔法を施せば、夜に痛みにうなされることはほとんどなかったはず……だけれど、今日のこともあって焦った僕は、そのままランザス様の部屋の扉へ手をかける。
「ランザスさ———」
『君は本当に役に立たないなぁ!!』
ランザス様の荒々しい声に僅かに開けた扉を止める。
こ、声は同じでもランザス様じゃない……?
「っ」
扉の隙間から恐る恐る覗き込む。
月明かりが窓から差し込む部屋の端、燭台に取り付けられた鏡の前に立っているランザス様がいた。
鏡に僅かに移りこんだランザス様のお顔は、いつもの優し気なものとはかけ離れた悪魔のような形相に変わってしまっていた。
『どうして命令通りに動けない? そういう契約だろ?』
「……すまない」
ランザス様の声がいつものように戻るが、その声色は重苦しく懺悔するようなもの。
でもすぐにその声は先ほどのねばっこい荒々しいものに変わる。
『はぁ?』
「駄目だ……私には、これ以上無理だ」
『ねぇ、無理じゃないんだよ? どれだけ苦労してここまで計画したか分かっているのかな?』
い、いったい、なにが……? 計画? 命令? 今すぐランザス様の元に駆け寄りたいが、常軌を逸した状況とランザス様の口を通して意思を表している“何か”が恐ろしくて前に踏み出せない。
『君と俺はここに来る前からの計画だったよね? 君には君の目的、俺には俺の目的。お互いに利害が一致して今協力し合っているんだ』
「それは……」
『契約は絶対だよ。もし反故にしたら相応の報いを受けさせる。君にとっての報いといったら……分かるよねぇ』
「……っ」
ここに来る前……からランザス様は得体の知れない何かと関わりがあった!?
一番近くにいたのに分からなかったなんて……。
『ああ、ここまでうまくいかないのは、あの治癒魔法使いが悉く邪魔して……!!』
「……ウサトかい?」
『本当に目障りな……!! こうなるんだったら、変に干渉するんじゃなかった!! 近づけば魔力感知だとかいう意味不明な技術で気づかれる危険もあるし、おまけのようについている使い魔の吸血鬼も面倒くさいしさぁ!』
「……」
『だから、あの治癒魔法使いがお前の腰巾着のガキに治癒魔法を教えている間にこっちは隙だらけの勇者を支配下に置くはずだったのにさぁ!!』
腰巾着のガキって、僕……?
僕がウサトさんに治癒魔法を教えてもらうのを頼んだってまさか、ウサトさんの動きを制限するためだった?
『なんであいつは一番堕とせそうなガルガ王国のガキを……!! あぁ、脇の甘そうなフレミア王国の女も……クソ!! クソクソクソォ!! 今頃、俺の傀儡だったのに!!』
「……」
『大体、なんで三日間も部屋に帰らないんだ!! 祭りになにしにきているんだ!! 常識がないのか!!』
「……」
怒り心頭で、八つ当たりをするように怒鳴り散らす誰か。
ランザス様は無言のまま耐えるようにしている。
『第二の試練の時もだ!! 問題に俺の魔力をしみこませて惑わしてやろうと思ったら、あいつがいたせいでそれもご破算だ!!』
「……」
『肝心のお前が動かなかったせいで、意味不明な方法でまた奴が来た!! 悉く邪魔しまくってなんなんだあの治癒魔法使いはぁぁ!!』
今日のアレも逸れたんじゃなくて、ランザス様が自分で……。
それに洗脳って……聞くだけでも恐ろしいことをしでかそうとする誰かに背筋が凍る思いに駆られる。
『そもそも、君、なんで今日躊躇したの?』
「それは……」
『俺がフーバードの監視から逃れさせている間に、ミアラークの勇者を俺の魔力で惑わすはずだったのにさぁ。まさか、今頃申し訳なくなって来ちゃった?』
「……」
『ねぇ、君がしたいことはなに? 願いはなんだっけ?』
その問いかけにランザス様は苦しそうな面持ちで口を閉じるだけ。
彼の反応に気分をよくしたランザス様の身体にとりついている誰かは、ゆっくりと言葉を発し始める。
『お前は、健康な身体が欲しいんだろう?』
『痛みも感じずに眠りたいのだろう?』
『哀れに思われたくないんだろう?』
『普通に生きたいんだろう?』
———そういう、ことだったんですね。
お身体を尋常じゃない魔力で傷つけられて、常に痛みと共に生きなくてはならないランザス様が辛くないわけがない。
その上、心無い人々から避けられ、怪物扱いされているんだ。
そう願ってしまうのも無理はない。
駄目なのは、そんなランザス様の深い苦しみに気づくことができなか———、
『自分のせいでレインの人生を縛りたくないんだろう?』
「……っ」
続けて告げられたその言葉に頭が真っ白になる。
沈痛な面持ちだったランザス様が、その言葉で目を見開き動揺し……諦めたように肩を落としたところで、僕は衝動的に扉を離れ、おぼつかない足取りで部屋に逃げてしまった。
「———僕のせいだ」
ランザス様がよからぬなにかに手を貸してしまったのは。
思えば、ここに来てからランザス様の行動は全部、彼がいなくなってしまった後の僕のことを考えているようなものだった。
生きる気力がないんじゃない。
自分のせいで僕の行き場所がなくならないようにしていたんだ。
普通に訓練しているだけで悪魔の計画を無茶苦茶にしていたウサトでした。
悪魔視点だと本当に意味不明なことばっかりしてます。
今回の更新は以上となります。




