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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第一章 召喚、リングル王国
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第三十一話

お待たせいたしました。


今回は第三者視点です。

 運ばれてくる怪我人をウサト達が治している頃。

 始まって間もない戦場では、目まぐるしく状況が動いていた。


 開始早々に放たれた王国軍からの魔法攻撃。それは魔王軍の戦力を削ぐには十分な威力があった。

 しかし、直撃したかに思えた魔王軍への攻撃は失敗。直撃寸前に魔王軍の軍勢が霞のように消え失せたのだ。

 その光景を遠目で目撃した、騎士団長シグルスは歯噛みする。

 幻術魔法。対象者に幻覚を見せる魔法、だがこの規模はあまりにも規格外すぎる。「流石は魔族といった所か」とシグルスは苦しげにつぶやきながら、魔法攻撃で巻き上がった粉塵から、幻術ではない本物の魔王軍がやって来る姿を見据えながら、自軍に指示を出すのであった。


 王国軍の魔法による初撃は失敗、戦況は王国軍と魔王軍の消耗戦に移行する。

 剣に弓と魔法を用いて戦う王国軍と魔王軍。人間と魔族、種族的、肉体的に差がある王国軍兵士は魔王軍の攻撃に次々と倒れてゆく。加えて最前線では魔造モンスター『バジリナク』と『黒騎士』が王国軍を蹂躙している。

 魔王軍兵士は確信する。


『この戦いは勝てる』


 橋を壊され、士気が下がっていた魔族達だが、自軍の優位性を知り士気を高め一層王国軍への攻撃を苛烈にさせる。


 しかし、彼らの進軍を妨げるように二人の人間が立ち塞がる。

 異世界から召喚された勇者、カズキと犬上の二人。光と雷撃を纏う二人の男女、外見は10代の二人だが、内包する魔力と戦闘力は、王国軍の中では群を抜いていた。

 勇者の存在を知らない魔族達は彼らの圧倒的な魔法と戦闘力に恐怖する。

 しかし、たった二人の働きでは形勢が逆転するはずがなく、未だに戦況は魔王軍に有利。


 このまま戦況を維持すれば、王国軍の敗北が確実なものとなっていく。





 有利に戦いを運ぶ魔王軍。

 戦争開始から少し経った頃だろうか……魔王軍所属の一人の兵士がある異変に気付く。混戦の最中で起こった戦場では決してありえない異変。

 若き魔王軍兵士は剣を持った手をだらりと下げ、呆然と周囲を見回す。

 ない。戦場で必ずと言っていいほどできるモノがこの周辺には存在しない。


「死体が……」


 死体がない。いや、地面に倒れ伏している同胞がいる。だが肝心の人間はいない。兵士がいくら周りを見回しても熾烈な戦いを繰り広げている人間と魔族の姿しかない。

 転がっているのは同胞のみで、敵である人間の躯が転がってはいない始末。

 あまりにも異常。地面に赤い血痕が染みている事により一層、兵士は恐怖する。

 次第に彼の仲間もその異常さに気付くと彼と同じように表情を硬直させる。


「な、何だよ……俺達は人間のおかしな魔法でもかかっちまったのかよ……」


 そう言いたい気持ちも分かるが、敵である人間は待ってはくれない。

 戸惑っている時でも人間はおかまいなしに襲ってくる。人間側はこの異常な事態を全く意に介してはいない。

 これはこの事態を完全に把握していると見て良いだろう。

 彼は強い憤りを覚えた。生粋の魔族主義者である彼は、訳も分からず人間に出し抜かれた事が何より屈辱だった。

 眼を血走らせ、襲い掛かって来た王国軍兵士の剣を乱暴に弾き返す。


「く、何をした蛮族ッ!!」

「答える謂れなど……ッ」


 怒声を上げて王国兵に斬りかかる。

 怒りに任せた一撃は安々と躱され、体勢を崩したところを剣で狙われる。王国兵とて種族差があれど侮っていい敵ではない。

 その事を頭の中から忘却していた男性魔族は死を覚悟する。

 しかし、死を覚悟した彼と王国軍兵士の間に、一人の魔族が割って入った。


「馬鹿者が……」


 魔王軍兵士の命を刈り取らんばかりに振り降ろされた剣は、彼の所属する部隊の隊長によって防がれ、一瞬の内に王国兵を切り伏せる。

 隊長は、ぎろりと男性悪魔を睨みつけると額にビキリと青筋を浮かべ、戦闘の最中にも拘らず怒鳴り声を上げる。


「何をやっているバカ者!貴様、ベルグレッド軍団長の忠告を忘れたのか!!!」

「忠……告?」

「ふん、やはり新兵は気にもしていなかったか……我が部下ながら情けないものだ。種族の優劣はここまで兵の目を曇らせるか……」


 ベルグレッド軍団長のご忠告?

 訳が分からずにそのまま尻餅をついていると、先ほど隊長が斬り捨てた王国兵がピクリと動くのを見た。胸からわき腹に懸けて深い裂傷が刻まれている。時間が経てば確実に死ぬのは新兵である彼にだってわかり切った事だった。


「いいか、ベルグレッド様は『人攫いの連中に警戒しろ』と言ったのだ。そしてあわよくば……――――ッ!」


 瞬間、何かを感じ取った隊長が、剣を横薙ぎに振るう。

 僅かに視界の端に映った、黒い影。風のように近くを通って行った存在に思わず疑問の声が上がる。


「何を……」

「やられたッ……止めを刺すべきだった……」


 そう口に出しかけた時、目の前で苦しんでいた王国兵の姿が忽然と消えている事に気付く。


「チッ、奴らは本当に人間か?」

「なん……ですか、今の……さっき倒した人間は……それに今、影のようなものが……」

「化物だ、隙あらば殺せ。そして間違えるな、決して我が軍は絶対的に優勢ではないことを……」


 先程、隊長は『人攫い』と呼んだ。

 ベルグレッド第3軍団長からは、戦闘の最中眼にも止まらぬ速さで怪我をした敵兵を運び出し治す……自軍にとっては最悪な敵だと言われていた。

 人間よりも優れた魔族の目にも止まらぬスピードで動く人間がいるはずがない。

 種族差で優劣を決めていた彼は、神妙に語る彼女の話を信じていなかった。

 だが、実際にいる。姿は見えなく、敵兵の死体がないという現実がそこにあるのだ。


 続々と襲い掛かって来る人間、その数は衰える気配はない。まるで湧き水のように後方から無限に沸いてくる。

 心なしか、彼は恐怖した……人間という種族に……。


「……確かに、化物だ」










 王国軍兵士は、何かに揺さぶられる感覚と共に目を覚ます。

 彼は魔族の振るった剣を避け、隙を突いて攻撃したはずだが──訳も分からず別の魔族に切り伏せられた。傷は深く回復魔法だけでは助かる見込みがない事は明白だった。だが今の状況から察するに、どうやら生きているようだ。

 さすがに駄目だと思っていたが、生きている。

 恐らく、救命団の人が自分を救ってくれたからだろう。

 現に自分を肩で背負い走っている小太りの男も救命団の団員。

 礼を云わなければ……そう思い、自分を担いでいる男に顔を向ける。


「あ、……ありが――――」

「ん!?目が覚めたようだなあ!!」

「ヒッ……ごめんなさい……」


 グルリとこちらに顔を向けた小太りの男、ミル。

 礼を言うはずなのに、即座に謝ってしまった。だがこれは仕方のない事……だと心に言い聞かせながら傷口に手を当てる。


「痛ッ」

「動くんじゃねえぞッバカ野郎!!テメエはそのままじっとしてればいいんだよ!!死にてえのか!!」

「……はい」


 口上が完全に盗賊そのものだが、兵士の身を気遣っているのが分かる。

 血は止められている。恐らく回復魔法を掛け続け、応急での手当をしてくれたのだろう。


「……よっと!!」

「……ぁ……きゃ」


 自分を担いでいる男が、ヒョイと1人の女性兵士を反対側の腕に担ぎ上げる。それも走りながらである。一瞬の出来事に額から血を流していた女性兵士は苦しげに呻きながら自分の状況に気付き、小太りの男の顔を見ると―――


「死後の世界……?」


 錯乱しているようだ。

 少し放っておこう、これは治癒魔法使いの本分に違いない。

 流石に二人も背負えば、少しスピードも落ちると思っていたが、全く勢いが衰えない。戦場を縦横無尽に走り、時には跳ねる。周りの景色が流れるように移り変わっていく。

 戦う事に夢中の魔王軍は高速で戦場を駆ける彼らの存在に気付けないのも当然だろう。


「――――そろそろ戻るぜェ!!」


 兵士の方を一瞥してから、ギュンッとスピードを上げるミル。

 向かう先は、治癒魔法使いがいる本陣近くに設置したテント。そこまで行けば、傷の治療をし、また戦いに出られる。


「……ッ!!」

「どう……したんですか?」


 何かを見つけたのか、足を止めるミル。その視線の先には、倒れ伏す沢山の王国軍兵士。まだ息をしているところから、まだ助かる。……が、彼らを救っている間に、今担いでいる兵士の体力が限界を迎え、最悪死んでしまうだろう。

 非情な選択をしなければならないこの状況、しかしミルは冷静だった。視界の端に仲間の姿を捉えたからだ。


「アレクゥ!!」

「ああん!?」


 3人の怪我人を担ぎテントの方に向かってゆくアレクに予告もなく、肩に担いだ兵士と女性兵士を放り投げる。


「……えぇ!?」

「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 いきなり宙に放り投げられた怪我人二人は、あんまりな扱いに声も出ない。グルグルと回転する視界の中、ふわりと危なげなく二人をアレクが片腕で受け止める。二人分の重量による反動を受け流すように、くるりとその場で一回りしたアレクは、怪我人を投げたミルの方に顔を向ける。


「怪我人投げんじゃねえ!!ボケがッ!」

「二人、頼んだぜぇ!」

「……貸し一だぜ!」

「ハンッ、そん時はたらふく俺の料理食わせてやるぜ!!」


 怪我人を放り投げるという暴挙に出たミルは、ニヤァと口角を歪めると、沢山の怪我人が居る方向に走り出す。

 アレクもミルと同じような笑みを浮かべ、5人を担ぎ直す。


「へっ、いらねーよ。テメエの料理なんてよ……さーてお助けお助け」


 口をパクパクとさせ、呆然としている兵士達の安否を確かめ、ローズがいるテントへと走る。慌ただしく動く兵士の間を抜け、テントに辿り着き中に入る。

 中には、怪我人の治療に勤しんでいる治癒魔法持ちの4人。


「連れてきたかアレク!」

「ウサトか、早く治してやりな。こんな所で死なれちゃあ迷惑だからよぉ」

「おい!兵士さんが白目剥いてるじゃないか!?」

「文句はミルに言えや。俺は関係ねえ」

「はぁ──ッ、まあいいや……空いたベッドに怪我人を寝かせてくれ。慎重にな」


 つい数か月前、アレク達を目の前にして怯えていた男がここまで生意気に成長するとは。当時の彼を思い出しアレクはさもおかしいように笑みを浮かべながら、空いているベッドに怪我人を寝かせる。


「……ふ」

「何がおかしいんだよ」

「いやあ、随分とまあ生意気なガキになったってなあ」

「ほっとけ。早く兵士さん助けてこい」

「へいへい」


 額に汗を滲ませ兵士に治癒魔法を掛けているウサトに背を向け、アレクは戦場に飛び出す。

 激化する戦場に5人の団員。その現状を知るものは「圧倒的に人手が足りない」と思う事だろう。実際その通り……最小限に被害を留められても死傷者は少なからず出るし、救えない命もある。

 だが、彼らはそれを悲観しない。

 割り切っている事もあるが、救えなかった分の命だけ、命を救おうとしているからである。


「へっ……」


 トング、ミル、アレク、ゴムル、グルドの5人は戦場を駆け、兵を攫う。

 「とっておきの二人」が出陣するまで――――


 

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