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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第一章 召喚、リングル王国
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第二十八話

前半がオルガ視点


後半が魔王軍です。


 現在、僕達救命団は馬車に乗り平原地帯に向かっていた。

 馬車を動かしているのはローズさんとウサトくん、ウサト君も嫌々言う割にはきちんとローズさんとの信頼関係が築けているようで少し安心した。


 馬車の外には武装した多くの兵士達。魔王軍との戦いの為に修練を重ねた約1500人にも上る騎士達だ。


 魔王軍の大勢を占める魔族は、身体能力・魔力と共に人間の比じゃない力を持っている。報告上では数では勝っていても油断はできない。それは戦場に向かう全ての人々が理解している。


 僕達だけが何故馬車に乗っているかという点については、話は簡単。戦場で重要な役割を担う僕達に疲労を溜めない為。ローズさんはその話を断ると思っていたけど……体の弱い僕に気を使ってもらった結果かもしれない。


 馬車の中には、妹のウルルとトング達5人の7人が座っている。

 中は意外と広く、窮屈な思いをせずに済む……はずなんだけど。


『久しぶりの実戦だぜェ』

『へへへ、血が滾るぜ』


「……」

「お兄ちゃーん?」


 妹よ、君はこの空間の異様さに気付かないのかい?

 前回もそうだったが、戦闘前になると必ずトング達は薄ら笑いを浮かべながら己の士気を上げるように同僚と話し出すのだ。


「そういえばさー、さっきからトング達は何を話しているの?」

「え、えっと……それは……」


 一番、進行方向側に座っている妹にはトング達の会話は馬車の音にかき消されているせいか聞こえないようだ。これを幸いと言っていいのか、言わないのか。


『全くよォ、魔王軍なんぞに俺たちが捕まえられるかってんだよォ』

『ゲハハハ!違えねえな!!アイツら顔がいかつい癖にてんで迫力がねえからなぁ!』

『おうよ!それに姉御が居るからには、怖いもんはねえぜ!』

『奴らも不幸だなァ!オイッ』


「………魔王軍なんかに僕達は負けないって言ってるよ」

「ふーん、他には?」


 まだ聞くと言うのか……時々我が妹の純粋さに辟易する。


『おい、競争しねえか?誰が一番怪我人を攫ってこられるかよォ』

『ああん!?テメエ、アレク。これは遊びじゃねえんだぞッ』

『んな事言われなくても分かってんだよボケッ!モチベーションっつーもんがあるだろうがよォ!!』

『……確かにモチベーションは大事だな……ハッ、いいだろう乗ってやろうじゃねえか!誰が一番攫ってこられるか勝負してやろうじゃねえかよォ!』


「………怪我人は絶対助けるって言ってるよ」

「似合わない事言ってるねー」


 分かってるなら聞かないでよ……。

 それに、アレク。怪我人は攫ってくるものじゃないよ、連れてくるものだよ。……といっても無駄だろうけどね。

 でも彼らの活躍は計り知れない。瞬く間に恐怖の声をあげる負傷者を拠点に放り込み、次の獲も……怪我人を見つけに戦場へ走り出すのだ。彼らの姿はまさしく烈士……ある意味での最強の兵士だろう。

 ふと視線を妹の方へ向けてみると、何やら壁に耳を着けて何かを聞いている妹。


「何を聞いているんだい?」

「しっ!聞こえないでしょ!」

「……」


 教えてくれてもいいと思うんだけど……妹に倣い、僕も耳を澄ますと前から微かな声が聞こえる。恐らくローズさんとウサト君の声だ。


「……盗み聞きは良くないよ?」

「うー、分かってるんだけどさー。なんだか気になっちゃって」


 気持ちはわかるけど、そういうのはあまりよくないと思うんだ。


「ローズさんとウサト君が「そういう関係」になるという可能性は皆無なんだ。ほら、余計な好奇心は身を滅ぼすよ」

「お兄ちゃん乙女心を全く分かってなーい」

「乙……女?」

「………」


 う、年頃の妹に乙女心というものが有った事に驚いたが、その驚きを気取られジト目で睨まれてしまった。まずい、機嫌を損ねてしまった。戦争前だってのに……。


「折角、緊張を紛らそうとしてたのに……お兄ちゃんてホント鈍いねー」

「ご、ごめん……」

「そんなんじゃいざとなった時、動けなくなっちゃうよ!」


 確かに……僕は予想外の事態を前にすると体が動かなくなってしまう。前に魔王軍が攻めてきたときもそうだった。流れ込むように運ばれてくる怪我人を前に脚を震わせ怯えていた。治せるのは自分一人、そんな使命感と重責のみで折れそうになる心を支えながら、必死に自分の仕事を全うした。

 今度は、その重荷を妹に背負わせてしまう事に自分の不甲斐なさを感じてしまう……でもそれと同時に一人ではない事に安心してしまった。


「どうしたの?いきなり黙りこんで……」

「……はは、なんでもないよ」


 綺麗事ばかりじゃ自分は保てない。

 一人はつらい、それは誰もが思う気持ち。僕がそうであったように……あの人もそう。だからあの人はあの子を求めた。


「ウサト君、君が……」


 いや、これは僕が不用意に関わっていい事じゃない。

 僕は―――成り損ないだからね。















 橋を壊されてから三日が経った。

 完成間近だった橋はいとも簡単に壊され、また一から作り直さなければならない事態となってしまった。

 予想だにしない事態にアーミラは歯噛みする。


「チッ……どのくらいで出来上がる!!」

『明日の夜明けには……』

「急がせろ!」


 力のない部下の言葉に、ふつふつと涌いてくる怒りが彼女の身を焦がす。次第に自嘲的な笑みを浮かべながら、自らを嘲るように独り言を発し始める。

 それほどの失態を犯した事を自覚していた。対岸をしっかり見張っておけば橋が壊されるのも防げたはず、そんな簡単な対策を立てなかった自身に絶望していた。


「折角の士気も下がり……進軍も大分遅れてしまった……私は第三軍団長失格だな」

「すいませーん、もう帰っていいですかー疲れちゃったんですけど」

「黙れ、今貴様に構っている暇はないんだ……」


 愚痴を零しながら近くに寄って来た黒色の鎧を持つ騎士に、力なく拒絶の言葉を投げつける。

 どう見ても落ち込んでいる彼女を前にしても、依然として態度を崩さない黒騎士は鬱陶しそうにその場に座り込む。


「あのさぁ、こんな所で待たされる身にもなってくれないかなあ……ボクだって、第二軍団長の命令じゃなければとっくに帰ってるところだよ」

「誰が悲しくてお前のような無礼な奴を部下にする。第一お前らの第二軍団長が精鋭中の精鋭であるお前を送り込んだのが原因だろうが」


 黒騎士はアーミラの軍団の部下ではなく、第二軍団から送り込まれた兵士。

 送り込まれた理由は「経験を積ませる為」、それがあくまで建前なのは見え見えであるが、断る理由がない事もあり、参入を認めてしまったが―――。


「ふん、無駄な戦闘を繰り返しても経験なんて積み重なるはずがないのに……まあ、この進軍が終わったら休みを沢山くれるっていうから別にいいんだけど」

「あのサボり魔が……ッ部下に休みを与える暇があるなら自分が働けば良いものを……ッ」


 この部下有ってあの上司有り。

 アーミラの知っている第二軍団長は仕事も碌にしないボンクラ魔人。同じ軍団長として情けない奴。

 だが、そんな奴の部下でも有能な事には違いない。こんな奴でも部隊では敵無しと言われるほどの実力と稀有な魔法を持っているのだ。


「……はぁ、もういい。明日、橋が完成次第進軍を開始する。お前には、『バジリナク』と共に敵を薙ぎ払ってもらう。下がりきった士気を上げる役割……担ってもらうぞ」

「はーい」

「返事くらいしっかりしろ」


 これ以上の会話を拒むかのように、アーミラ自ら黒騎士の傍から離れ、橋の建設の指揮に向かう。

 その背を地面に座ったまま眺めていた黒騎士は、依然としてやる気の欠片も感じさせない挙動と共に地面に倒れ込む。


「……くだらない。戦いなんて勝手に攻撃して勝手に終わるだけじゃないか……こんなお飾りの剣も―――」


 カランと腰に差した剣を地面に放り投げる。

 剣士の誇りとも言っていい剣を乱雑に扱う愚行、この場にアーミラが居たのならば激昂していたのかもしれないが、生憎この場には彼女の姿はない。


「何時だってつまらない、ああ憂鬱だ……敵を薙ぎ払うなんていい笑い草だ」


 黒騎士を覆う鎧がゆらりと陽炎のように揺らめく。まるで鎧ではないかのように生物的に流動するそれを纏った人物は、自らの両手を眺めながら甲冑から剥き出しとなった口に薄らと笑みを浮かべる。


「ボクには敵を薙ぎ払う力なんてないのに……バカだよね、魔王も軍団長も魔族も人間も皆、皆……あは、あははははははははははははははは」


 露わになった端正な口元から、気が触れたかのような笑い声を上げる。

 その姿はお世辞にも騎士と呼べる姿ではなく。その異様に揺らめく真っ黒なヘドロのような物を纏う姿はまるで――――


「ボクには、なーんにも効かないのに」


 悪魔のような姿だった。 

一応のボスキャラです。

何故か少し病んでますが……。

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― 新着の感想 ―
この魔族、のちにローズに真人間ならぬ真魔族にされかけるほどしごかれます。御愁傷様。
[良い点] ファムの今とのギャップ [気になる点] 登場時ほぼ全員病んでる闇魔法使い [一言] 病の消えた闇魔法使いが常識人&ギャグ要人ヘジョブチェンジ
[一言] ボスキャラ?ギャグ要員の間違い?
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