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第百五十二話

あけましておめでとうございます。

2018年も治癒魔法の間違った使い方をよろしくお願いします。


新作の方が一章のみ、書き終えましたので投稿いたしました。

詳細は、活動報告と後書きにてお知らせいたします。

 私達の前に現れたウサト君に、フラナは唖然とした様子で立ち尽くしていた。

 当の彼は、救命団の同僚たちに先に行くように促してから、フェルムを乗せたブルリンを地面に下ろし、今一度私とアマコに向かい合った。


「ごめんね。訓練の邪魔をしちゃって……」

「いえ、それは大丈夫ですけど。……アマコはともかく、先輩はどうしてここに?」

「君を探していたんだよ」

「僕を?」


 未だに惚けているフラナの肩を叩き、正気に戻らせてから自己紹介をするように促す。


「え、ええ、私の名はフラナ。今はフードを被っていて分かりにくいけど、エルフよ」

「エルフ……? あ、カズキが旅の途中で知り合ったっていう……。はじめまして、ウサト・ケンです。こっちのフクロウは僕の使い魔のネア」


 ウサトの肩の上で、無言を貫いていたフクロウはじろりとフラナのつま先から頭のてっぺんまで眺める。まるでフラナを観察しているような仕草だが、そんな動きもとても愛くるしいのは、可愛いものの特権、というやつだろう。

 後でもふもふさせてくれないかな。

 邪な思いが漏れてしまったのか、毛を総毛立たせたネアが、私から隠れるようにウサト君の逆の肩に移動してしまう。

 地味にショックを受けていると、ウサト君の普通な応対にフラナは少しだけ驚いた様子を見せていた。


「敬語は必要ないよ。多分、人間の年齢的にも同い年くらいだと思うし」

「え、そうか……それじゃあ、改めてよろしく」


 ……ハッ!? これはウサト君の私に対しての敬語を外させる好機ではないんじゃないか?

 ここはがっつきすぎずに、さりげなく切り出してみよう。


「ウサト君、私にも敬語はいらないよ。むしろ、遠慮なく呼び捨てにしても構わない。さらに、すずたんってあだ名で呼んでも構わないのであるよ!」

「それは無理です」

「なんで!?」

「だって、先輩は先輩ですから」


 流れるように拒否された!?

 思いっきり動揺する私に苦笑した彼は、周囲を見回した。


「ここじゃ少し目立っちゃいますね。端の方で話しませんか?」

「それなら、店の隣に座るところがあるよ」


 アマコに促され、木箱の置いてある場所に腰を下ろす。

 その際、店番を代わってもらったアマコがいつの間にかウサト君の隣の席を確保していた。

 私が違和感すら抱けなかったのも然もありなん、と思えるほどの自然な動きであった。


「ウサト、どうしてブルリンの背中にこの人が?」


 アマコがブルリンの背にいる魔族の少女、フェルムについてウサト君にそう訊いた。


「走っている途中で倒れたんだ。この子の立場上、置いていくわけにもいかないから、ブルリンに括りつけて運んでた」

「ふーん」


 ウサト君の話を聞いて、フェルムに一瞬だけ鋭い視線を向けるアマコ。

 なにか彼女にあるのだろうか? と首を傾げていると、アマコがやや声色を低くしてウサトに話しかけた。


「でも、いいの? その人、もう目が覚めてるよ」

「っ!」


 アマコの言葉に、ビクゥッ! と体を震わせるフェルム。

 しかし、一方でウサト君はにこやかな笑みを浮かべるだけであった。


「ははは。勿論気づいているよ。この後に、気絶していた分を走らせる予定なんだ」

「……ッ!?」

「そうなんだ。でも、ちょっと意外だね。ウサトが怒らないなんて」

「いやぁ、正直な話、この子が率先して僕達の訓練に参加したいっていうとは思わなかったんだ。だから、僕としても、フェルムが救命団の訓練に参加してくれるのは嬉しいからね。つい訓練に力が入っているのかもしれないな」


 悪意の欠片も感じられない笑顔。

 しかし、ブルリンの背にいるフェルムはふるふると首を横に振って、拒否の意思を示しているが、ウサト君はそれに気づかずに、アマコと会話している。


「さっき僕達についてこようとして無理をしちゃったから今は休ませて、その後に治癒魔法使いとしての僕がしっかりと補助して、走らせるんだ」

「え、それって大丈夫なの?」

「大丈夫。気絶なんてさせないから」


 笑顔でそう言い放ったウサト君にフェルムが震える。

 一切悪意のない親切心。しかし、それが救命団基準となると、悪意とか善意とかを超越したような凄まじさがある。


「どうしよう。スズネ、なにが大丈夫なのか理解できなかった」

「安心してくれ。私もだ」


 面と向かって言われれば、ときめいてしまうであろう言葉も、状況が違えば全く羨ましくない。

 ……いや、ちょっとだけ羨ましくはあるけども。

 内心で葛藤していると、隣に座っているフラナがウサト君に話しかけていた。


「あ、あの、どうしてブルーグリズリーを背負って走っているの?」

「鍛えるためってのが一番の理由だね。救命団での僕の役割は、戦いの場で傷ついている人を安全な場所へ移動させ、癒すことだから、肝心な時に疲れて動けなくならないようにこうして訓練しているんだ」

「そ、そうなんだ……」


 見た目こそは衝撃的だけど、ウサト君の訓練はしっかりと目的が定められている。

 闇雲に体を鍛えるわけではなく、ちゃんと意義を理解して訓練ができるのは、ローズさんの手腕ともいえるかもしれないな。


「邪龍についても聞きたいんだけど、いいかな?」

「あー、邪龍か。全然構わないよ」


 アマコとネアに目配せしてから、頷くウサト君。

 彼にとっては、アマコもネアも邪龍との戦いにおいて関係者だから確認を取ったのだろうか?


「まず……貴方って、本当に邪龍を倒したの?」

「僕だけで倒したわけではないけど……そうだね。結果だけ言えば邪龍は僕達が倒したようなものだよ」

「……どんな相手だったの?」

「全身傷だらけの龍の屍……かな? それでも強大な力に猛毒、そして生半可な攻撃を通さない鱗を持っていたよ。僕も試しに殴りかかってみたけど、てんで通じなくてビビったなぁ」

「殴った!? 邪龍を!?」


 まさかの殴りかかった発言に驚くフラナだが、反対にアマコは、ウサト君の言葉に同意するように頷く。


「あの時は私もびっくりした。ウサト、普通に殴りにいくんだもの」

「確かめるにはそれが手っ取り早いからね」


 互いに懐かしむように言葉を交わす、アマコとウサト君。

 会話の内容はとてもシュールなことになっているのは、あまり気にしないでおこう。

 ……正直、事前にウサト君から邪龍の話を聞いていなかったら、フラナと同じ反応をしていたと思う。


「君は、本当に治癒魔法使いなの?」

「え? それってどういう意味で……?」

「普通の治癒魔法使いはブルーグリズリーを背負ったり、邪龍に殴りかかったりしないから、その……人間離れしすぎていると思って」

「……へ、へぇ……」


 笑みを引き攣らせるウサト君を横目で見て笑いを堪えているアマコに、じろりと睨みつけた彼は、一度咳払いしてから口を開く。


「確かに、僕は普通の治癒魔法使いとは少しだけ違うけれど、それでも僕は治癒魔法を扱う者に変わりない。……あれだよ、僕はちょっと鍛えすぎちゃった治癒魔法使いだよ。それ以外に特別な能力もなにもない」

「ちょっと? ちょっとじゃなくて、凄くでしょ? 駄目だよ。ウサト。嘘ついちゃ」

「んー、その減らない口はここかなー?」


 デコピンの構えを取るウサト君に、慌てて額を隠したアマコ。

 彼の身体能力は、血の滲むような努力の末に得たもの。

 何の気なしに話した彼の言葉が、どれだけの苦難と言葉にできない苛烈な経験を経て発せられたものなのか、私にはきっと想像もできないだろう。


「……カズキ以外に、こんな人間もいるんだ。なんだか、自分がどれだけ世間知らずかを思い知らされた気分だよ……」


 そこは世間知らずと表現していいものか……。

 ウサト君とローズさんのような治癒魔法使いの存在は、むしろ常識から外れた存在として扱った方がいい気がする。


「今度は僕から聞いていいかな?」

「え、ええ。何かな?」

「カズキが戦った『暴食の怪物』と『邪龍』ってなにか関連性があるのかな?」


 ウサト君からの質問に、フラナは数秒ほど間をおいてから口を開く。


「それは……私には分からない。お婆様の占いでは、大陸を蝕む三つの災厄、としか言われていないの。でも、似通った点があるとすれば、どちらも先代の勇者によって封印された存在ということね」

「……勇者に封印された、ね。邪龍が目覚めてしまったのは意図しないものだったけれど、暴食の怪物が目覚めたのが意図的なものだとしたら……」


 大陸を蝕む三つの災厄。

 私もその中の一体、人を食らう雷獣は倒したけれど、あれは突然変異した化け物にすぎない。

 だけど、ウサト君とカズキ君の戦った存在は、その発生の根幹の原因は同じだ。

 どちらも“封印が解かれた”ということだ。

 多分、ウサト君はそのことについて、疑問に思っているのだろう。


「ウサト君は、暴食の怪物が目覚めたのは先代勇者の仕業って考えているの?」

「分かりません。もうこの世にいない人ですから……。先代勇者本人が生きている、という可能性も考えましたが、それはあまりにも荒唐無稽すぎて……」

「確かにそうだね」


 普通の人間は数百年も生きてはいられない。

 先代勇者ならもしかして、という考えもなくもないが、そう結論付けるにはあまりにも判断材料が足りなさすぎる。


「一番ありえそうなのは、自分たちを利用した人々への復讐なんですけど、それがどうして数百年も未来の人にってのが分からないんですよねぇ」

「復讐なら、自分を理不尽な目に遭わせた当時の人々に向けるはずだもんね」


 思い返せば、私達の知る先代勇者とはなんだろうか。

 魔王の脅威から人類を救った英雄?

 人間に利用されつくした悲劇の人?

 華々しい言い伝えと武勇伝に隠れてはいるが、当時の戦いはきっと美談とはかけ離れた凄惨なものだったはずだ。

 その現実を垣間見て、戦い抜いた先代勇者はなにを為そうとしたのか。


「そんなこと考えてもしょうがないんじゃない?」


 思い悩む私とウサト君に、今まで無言だったネアがそんなことを口にした。

 隣で「え……?」と今日何度目か分からない驚愕の表情を浮かべる、フラナ。


「それもそうだね。僕は細かいことを考えるよりも、なにも考えずに体を動かしていた方が性に合う。アマコ、先輩、フラナさん、僕達はそろそろ訓練に戻るよ」


 そう言って立ち上がったウサト君は、ブルリンの背中にいるフェルムに視線を移す。

 彼女はさきほどと変わらず、気絶したふりをしていたが、ウサトに名前を呼ばれ動揺するように肩を大きく震わせた。


「よし、フェルム。そろそろ立て。今から走るぞ」

「……ぼ、ボクに構わずに、お前は自分の訓練をしろよ」

「はぁ。フェルム……君は僕をそんな薄情な奴だと思っていたのか?」


 呆れたように肩を竦めたウサト君は、フェルムの襟を片腕で持ち上げて、立たせてから、真剣な表情で語りかける。


「安心しろ、僕は君がどんなにへばっていようが、倒れようが見捨てない。立ち上がらせて、その背中を押して走らせてやる」

「あ、う、うん……。いや、待て! それってどんなことがあっても無理やり走らせるってことだろ!? ボクはもう限界なんだよぉ!」

「弱音を吐く元気があるならまだまだいけるさ! 本当の限界ってのは、記憶に残らないからね! まだ限界って言えるうちは大丈夫だ!」

「こいつ全然人の話聞かないんだけどぉ!?」

「諦めなさい。多分、聞いている上で無視しているから」


 何かのスイッチが入り熱血モードになってしまったウサト君に、元黒騎士は半泣きになる。

 そんなウサト君の反応に、どこか遠い目をするネア。

 アマコに至っては、見慣れた光景なのかスルーしている始末。


「よし、ブルリン! ルクヴィスでやったあれをやるぞ! 僕の背に乗れ!」

「グルァ!」

「そしてネアは、僕に拘束の呪術を!」

「はいはい……」


 ノリにノッたウサト君が、ブルリンを背負う。

 ネアの魔術によって全身に薄っすらと魔術の文様を展開させたウサト君は、後ずさりしているフェルムをロックオンし——、猛牛と見間違うかのような勢いで走り出した。

 あまりにも異様なウサト君の走りに、恐怖に顔をゆがませたフェルムは逃げ出すようにその場を走り出す。


「意味わかんない、意味わかんない!? なんで追いかけてくるのぉ!?」

「難しいことは何もない! ただ走れ! 心配するな! ナックも通った道だ! フハハハハ!」

「う、うわあああああ!?」


 王国中に響きそうなくらいの悲鳴と、笑い声を響かせながら、あっという間に姿が見えなくなるウサト君とフェルム。

 城下町の人々は、そんな彼らを見送ると、すぐに先ほどと同じ元の日常へと戻っていく。

 そんな彼らと同じく、隣にいたアマコは小さく欠伸をしながら、こちらを見上げた。


「それじゃ、私も店番に戻るね」

「え……ああ、頑張って……」

「うん」


 とことこと店の中に戻っていくアマコ。

 全然動じていない彼女に、少しばかり尊敬の念を抱きながら、未だに呆然としているフラナに話しかける。


「いやぁ、流石はウサト君だね。まるで嵐のようだったね」

「……」

「ん、フラナ?」

「今……」


 ぽつりと何かを呟いたフラナに耳を傾ける。


「……今、あのフクロウ……喋ったよね?」

「あ、そういえば言ってなかったね。ウサト君の使い魔って吸血鬼なんだ。フクロウの姿も可愛いけど、本当の姿もすごく可愛いんだ」

「……」

「ん? どうしたんだい、そんな怒ったような顔をしてこっちに近づいて……ふむぅ!?」


 突然、こちらににじり寄ってきたフラナが私の両頬を押さえ込んだ。

 唐突なことに驚きのあまり間抜けな声が出てしまう。


「……すーずーねー!!」

「ぬぁ、ぬぁにするのふぁ!?」

「なんでそういうことをもっと先に言わないの! というより、常識外れにも程があるよ! 異世界人って皆、ああなの!? それとも彼だけがおかしいの!?」


 とりあえずはウサト君のことは知ってもらえたようだけど、彼との邂逅はフラナにとって色々と衝撃的なものだったようだ。

 それはそうとして、そろそろ頬から手を離してもらわないと、私の勇者としてのかっこいいイメージが崩れてしまう……って、あれ、意外と力が強い。


「ふぬぅぅっく」

「まだ何か隠しているのなら今すぐ言って……! とんでもない武器を隠し持っているとか、魔法の使い方も異常だとか、邪龍以上に大変な敵と戦って生き延びているとか……! 今すぐに吐きなさい……! そうしないと……そうしないと、常識が分からなくなっちゃうから!」


 どうしよう、その全てが当てはまっているという事実。

 頬を弄ばれながら表情を引き攣らせた私は、この後どうフラナに説明するべきか、小一時間悩むことになった。


訓練になると普段よりイキイキしているウサト君でした。


活動報告にも書きましたが、新年に際しまして新作を投稿いたしました。


題名は『対毒スキルの間違った使われ方~ポーション強化で限界突破~』


ウサトが訓練に訓練を重ねて殴りに行く主人公なら、こちらは強化に強化を重ねて殴るタイプの主人公ですね。

内容は、ちょっとズレたクラス転移となっております。


午後18時に1話ずつの毎日更新を予定。

現在、第8話まで更新されております。

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